ゼラニウムに捧ぐ
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80対81―――テツ君のブザービーターで再々逆転という結末で試合を制する。あまりにも劇的な幕切れに、そして海常相手に激戦を制した感動に、私を含めたチーム全体が興奮していた。それは控え室に引き上げてきてからも変わらなくて、嬉しくて、誇らしくて。だけど私の中でずっと気掛かりがあったのもまた事実なのだ。
「行ってきてもいいわよ」
「! リコさん…」
「気になるんでしょ」
そんな態度が出てしまっていたのだろうか。賑わう控え室の隅で佇む私の隣にそっと立ったリコさんが、穏やかな笑顔で私にそう耳打ちをした。
その気遣いに 大丈夫だと断る余裕もないほどに、私の気は逸れていたのだ。最大限の感謝の意を伝えるためリコさんに頭を下げ、盛り上がっているチームに水を差してしまわないように気をつけながら 静かにチームを離れた。
◇
急げ、急げばまだ間に合う。そんな思いで廊下を小走りで進んで目的の場所に近付いた時、探していたジャージの集団が目に止まった。
控え室に向かうチームから数歩離れて最後尾を歩く背中に駆け寄り、彼の腕を引く。驚いたように振り向いた涼太と視線が合うより早く ジャージの襟元を両手で掴んで その整った顔を引き寄せて、踵を浮かせて一瞬だけ唇を重ねた。触れ合っていたのは1秒にも満たない。けれど、きっとそれで充分に伝わるだろう。
すぐに離れた距離に ようやく絡んだ視線の先で 見開かれた瞳は僅かに揺れて、私はただ、泣き笑いのような表情を浮かべた。
「格好良かったよ」
「―――っ」
息を呑んだ涼太が、側にあった通路の陰に私を引き込む。隠れるように、あるいは壁を背にする私に覆い被さるように腕をついて塞がれた唇から伝わるのは、溶けるような熱。
りょうた。呼びたかった名は声にならなかったけれど、甘い情熱を受け止めながら、両腕をその広い背中に回して服を握りしめる。私はここにいるよと 伝えたかった。
「…、は」
「――なんで来たんスか」
「涼太のところに行きたかったから」
深い口付けから解放され、湿った吐息が甘ったるく漏れる。私の頬を撫でながら問うた涼太は眉を寄せて、苦しそうな 切なそうな そんな表情をしていた。
そんな顔しないでよ。そう笑って答えた言葉は、質問の返答としては正しくはなかったのかもしれないけれど、他の答えなんて存在していないのだから仕方がない。私は、涼太の傍に行きたいと思った。
ゆっくりと息を吐いた彼は、ぎゅっと私を抱きしめる。
「あーもー、今すぐどこかに連れ込んで めちゃくちゃにしたい」
「えっ!?」
「ウソ…じゃないけど、そんな事しねーよ。傷付けたくないし、怖がらせたくもないっスから」
冗談だとでも言うようにクツクツと笑いながら、額、目尻、頬と 涼太は何度もキスを降らせる。ただただ、私が愛しくて大切で仕方がないのだと その行為から痛いほどに伝わってくる。
本当なら 足は大丈夫なのかと、確認すべきだったのかもしれない。けれど私がそれを聞いたところで、実際のところとは関係なく“大丈夫”以外の答えが返ってくるとは思えないし、それなら聞いたところで意味なんて無いだろう。
そんな私の心中を察しているのか、それともまったく違う意味だったのか。大丈夫っスよ、と私を安心させるように言った涼太は、また私の唇を塞ぐ。
涼太のキスはいつも甘くて、切実で、全てを溶かされそうでクラクラする。私を必要としてくれているのだと、たしかに心が満たされるのだ。
もっと、もっと深く。貪欲に求めてられ息も絶え絶えになりながら なんとか応えたいと思う、けれど。
「りょ、た…もう、時間、」
「うん…でも ごめん。ちょっと今は、放してあげられない」
余裕のない、熱の混じった吐息。脚の間に割り入れられた涼太の膝が、顎を掴む手が、有無を言わさず塞がれる口が、逃さないと明確な意志を伝えている。
「…ん、」
「――好きだよ、七瀬」
湿っぽい吐息と共に紡がれた言葉に、ぎゅう、と 心臓が音を立てて軋んだ。涼太の心はいつだって真っ直ぐで、温かくて、鋭利なほどに澄んでいて美しい。その綺麗な感情が自分1人に向けられるということが、どれほど幸せなのだろうかと考える。涼太。彼の名を紡いだ声は、小さく震えていた。
「オレは、七瀬が好きだよ」
「うん、知ってる……ずっと前から、ちゃんと知ってるよ」
偽りのないこの好意に、全く同じものを返せない私を許してほしい。優柔不断で、どっち付かず。私が一番分かっている。
だけど今この瞬間だけは他の誰でもなく、確かに君に寄り添っていたいと思うことが 嘘ではないのだと知ってほしい。
どうすれば、どんな言葉を選べば伝えられるだろうかと考えながら、そっと涼太の頬に触れる。
「今すぐオレを選んでなんて言わないからさ」
「…?」
「今は…今だけは、オレのことだけ考えて」
真っ直ぐで切実な想いと もう何度目かも分からない喰らうような口付けを、受け止めたくて涼太の身体を抱きしめた。
「行ってきてもいいわよ」
「! リコさん…」
「気になるんでしょ」
そんな態度が出てしまっていたのだろうか。賑わう控え室の隅で佇む私の隣にそっと立ったリコさんが、穏やかな笑顔で私にそう耳打ちをした。
その気遣いに 大丈夫だと断る余裕もないほどに、私の気は逸れていたのだ。最大限の感謝の意を伝えるためリコさんに頭を下げ、盛り上がっているチームに水を差してしまわないように気をつけながら 静かにチームを離れた。
◇
急げ、急げばまだ間に合う。そんな思いで廊下を小走りで進んで目的の場所に近付いた時、探していたジャージの集団が目に止まった。
控え室に向かうチームから数歩離れて最後尾を歩く背中に駆け寄り、彼の腕を引く。驚いたように振り向いた涼太と視線が合うより早く ジャージの襟元を両手で掴んで その整った顔を引き寄せて、踵を浮かせて一瞬だけ唇を重ねた。触れ合っていたのは1秒にも満たない。けれど、きっとそれで充分に伝わるだろう。
すぐに離れた距離に ようやく絡んだ視線の先で 見開かれた瞳は僅かに揺れて、私はただ、泣き笑いのような表情を浮かべた。
「格好良かったよ」
「―――っ」
息を呑んだ涼太が、側にあった通路の陰に私を引き込む。隠れるように、あるいは壁を背にする私に覆い被さるように腕をついて塞がれた唇から伝わるのは、溶けるような熱。
りょうた。呼びたかった名は声にならなかったけれど、甘い情熱を受け止めながら、両腕をその広い背中に回して服を握りしめる。私はここにいるよと 伝えたかった。
「…、は」
「――なんで来たんスか」
「涼太のところに行きたかったから」
深い口付けから解放され、湿った吐息が甘ったるく漏れる。私の頬を撫でながら問うた涼太は眉を寄せて、苦しそうな 切なそうな そんな表情をしていた。
そんな顔しないでよ。そう笑って答えた言葉は、質問の返答としては正しくはなかったのかもしれないけれど、他の答えなんて存在していないのだから仕方がない。私は、涼太の傍に行きたいと思った。
ゆっくりと息を吐いた彼は、ぎゅっと私を抱きしめる。
「あーもー、今すぐどこかに連れ込んで めちゃくちゃにしたい」
「えっ!?」
「ウソ…じゃないけど、そんな事しねーよ。傷付けたくないし、怖がらせたくもないっスから」
冗談だとでも言うようにクツクツと笑いながら、額、目尻、頬と 涼太は何度もキスを降らせる。ただただ、私が愛しくて大切で仕方がないのだと その行為から痛いほどに伝わってくる。
本当なら 足は大丈夫なのかと、確認すべきだったのかもしれない。けれど私がそれを聞いたところで、実際のところとは関係なく“大丈夫”以外の答えが返ってくるとは思えないし、それなら聞いたところで意味なんて無いだろう。
そんな私の心中を察しているのか、それともまったく違う意味だったのか。大丈夫っスよ、と私を安心させるように言った涼太は、また私の唇を塞ぐ。
涼太のキスはいつも甘くて、切実で、全てを溶かされそうでクラクラする。私を必要としてくれているのだと、たしかに心が満たされるのだ。
もっと、もっと深く。貪欲に求めてられ息も絶え絶えになりながら なんとか応えたいと思う、けれど。
「りょ、た…もう、時間、」
「うん…でも ごめん。ちょっと今は、放してあげられない」
余裕のない、熱の混じった吐息。脚の間に割り入れられた涼太の膝が、顎を掴む手が、有無を言わさず塞がれる口が、逃さないと明確な意志を伝えている。
「…ん、」
「――好きだよ、七瀬」
湿っぽい吐息と共に紡がれた言葉に、ぎゅう、と 心臓が音を立てて軋んだ。涼太の心はいつだって真っ直ぐで、温かくて、鋭利なほどに澄んでいて美しい。その綺麗な感情が自分1人に向けられるということが、どれほど幸せなのだろうかと考える。涼太。彼の名を紡いだ声は、小さく震えていた。
「オレは、七瀬が好きだよ」
「うん、知ってる……ずっと前から、ちゃんと知ってるよ」
偽りのないこの好意に、全く同じものを返せない私を許してほしい。優柔不断で、どっち付かず。私が一番分かっている。
だけど今この瞬間だけは他の誰でもなく、確かに君に寄り添っていたいと思うことが 嘘ではないのだと知ってほしい。
どうすれば、どんな言葉を選べば伝えられるだろうかと考えながら、そっと涼太の頬に触れる。
「今すぐオレを選んでなんて言わないからさ」
「…?」
「今は…今だけは、オレのことだけ考えて」
真っ直ぐで切実な想いと もう何度目かも分からない喰らうような口付けを、受け止めたくて涼太の身体を抱きしめた。