ゼラニウムに捧ぐ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
終盤までの試合展開や、涼太のオーバーワーク。不安が大きい試合だったけれど、最終的にはなんとか海常が勝利したことに安堵した。
祥吾が憎いわけではない。中学時代、途中までだったとはいえ共に戦った仲間であったことに違いはないのだ。友情と呼べるほど美しいものではないだろうけど、情ぐらいはある。だけどこの大会に向けて、どちらがより真摯にバスケと向き合ってきたかということは考えるまでもなく明白で、だからこそ涼太に勝ってほしいと思うのは自然なことだろう。
海常の勝利に安堵した、けれど試合終了直後の祥吾の表情が気になって仕方がない。観覧席から見えたそれは、ただの見間違いかもしれない。私の考えすぎであってほしいと思いながら、リコさんがこの場での解散を告げてすぐに 私はチームを離れて嫌な予感がする方へと急ぎ足で向かった。
◇
どうして嫌な予感ほど当たってしまうのだろう。いないで欲しいという淡い願いは打ち砕かれ、予想通りの場所に予想通りの背中を見つけて ぐっと奥歯を噛み締めた。
「祥吾!」
「…あ?」
その背中に呼びかければ 苛立たしげな声が返ってきて、あぁ私の予感は当たってしまっているのだと確信する。「とりあえずお疲れ様」と 形ばかりの労いの言葉をかけて、それからキッと表情を引き締めて、真っ直ぐに彼を見据えた。
「でも、涼太に復讐とか考えないでよ」
「……何しようがオレの勝手だろ」
「バスケでルール内だったらね」
試合の中でルールに則った行動なら、勝つためにどんな手を使ってもそれは“戦略”でしかなくて、第三者が口を出すことではないと思う。けれど、これから祥吾がやろうとしていることは きっとただの暴力行為なのだろう。そんなこと、絶対に許さない。
睨むような視線を向けたまま彼を非難した私に祥吾は苛立ったように眉を顰め、けれどすぐに何かを思いついたように口端を持ち上げた。私があまり好きになれない笑い方だ。
「だったら手伝えよ」
「え…っ、ちょ、なに!?」
身体を引かれたかと思うと、気が付いた時には背中に壁が触れていて、逃げ道を塞ぐような祥吾の腕に閉じ込められていた。
嫌な予感しかしない。背中を嫌な汗が滲むのを感じながら、何の用だと視線で訴える。
「リョータには何もしねーよ―――お前が大人しくしてればな」
「な…っ」
乱暴に顎を掴まれたかと思った直後に口を塞がれる。何に、ということを考えるより先に 口内に舌が割り入ってきてビクリと肩が跳ねた。
顔を逸らそうにも顎を掴まれているし、身を引こうにも背後は壁で それも許されない。離れろという意思表示に両手でグイグイと祥吾の胸元を押し返すけれど、手首を掴まれ壁に押さえつけられ 抵抗も意味を成さない。
好き放題に蠢く舌を噛んでやろうと思ったところで また私の思考を読んだようなタイミングで離れるから、目一杯の敵意を込めて 私を押さえ込む男の顔を睨みつけた。
「怖い顔すんなって。黙ってりゃいい女なんだからよ」
「うるさい、離して!触らないで!」
祥吾は顎から耳元へ私の輪郭をなぞるように舌先を這わせながら、壁に押さえつけていた両手を頭上で束ね、左手一つで容易く固定してしまう。自由になった彼の右手が腰から背中を撫で上げて、そのくすぐったさに身を捩るけれど、逃げる事は許されない。
「良くしてやるから、任せとけって」
「っ!」
言葉も態度も一方的なくせに、私への触れ方は最初から一貫して妙に優しい。私を使って仕返しをしようという考えは いつかの花宮さんと同じはずなのに、全然違う。その事に違和感を覚えていたけれど、今はっきりと分かった。祥吾の目的はあくまでも「涼太を傷付けること」なのだ。私を傷付けたかった花宮さんとは違って、無理やりでは意味がない。私自身の意志で“受け入れさせたい”のだと悟れば、まるで好意を抱かれてるかのような優しい触れ方にも納得がいった。
この男は、既成事実を作ろうとしているのだ。
そう察した瞬間に血の気が引くような感覚がして、それとほぼ同時にスカートの裾から中に入り込んだ手に内腿を撫でられ身を固くした。
「やっ…や、ぁ」
「そうだ、もっとイイ声出せよ」
「―――っ」
楽しそうにクツクツと喉で笑いながら、生暖かい舌が首筋を這う。怖い、と 思った。声にならない声を噛み殺しながら、誰か助けてと 祈るように固く目を閉じる。
「そのへんで やめとけよ」
聞き慣れた、低い声。それが耳に届いた瞬間、全てから逃げるように閉ざしていた瞼も パッと弾かれるように開いた。だいき。祥吾の向こう側に見えたその人の名前を呼んだのは、私も祥吾もほとんど同時だったと思う。
大輝は、怒っている。バスケに真剣な涼太やテツ君の戦いに、バスケではないやり方で水を差すような真似をしようとしていることに。
「七瀬は関係ねーだろ。巻き込むな」
「随分と甘ェこと言うじゃねーか、ダイキ」
「くだらねぇマネするなっつってんだよ」
祥吾の意識は完全に大輝へと向かったのだろう、私を押さえ込んでいた手を離し、身体を大輝の方へと向き直して睨み合う。私は解放された安堵からか全身の力が抜けて、ずるずるとその場に座り込んでしまった。
「やめて欲しけりゃ 力ずくでやってみろよ」
挑発するように笑いながら殴りかかった祥吾に 私が制止の声をあげるよりも先に、たった一発で彼を殴り倒したのは大輝の方だった。目の前で起きた光景に、目を瞬かせる事しかできない。
「じゃあ そうさせてもらうわ」
大会に出場していないとは言え現役の選手が 人の殴るなど何を考えているんだ、と 大輝に怒鳴るのが正解だったのだろうと思う。けれどその時の私には、ただ彼が助けてくれたのだという事実しか目に入っていなかった。
祥吾が憎いわけではない。中学時代、途中までだったとはいえ共に戦った仲間であったことに違いはないのだ。友情と呼べるほど美しいものではないだろうけど、情ぐらいはある。だけどこの大会に向けて、どちらがより真摯にバスケと向き合ってきたかということは考えるまでもなく明白で、だからこそ涼太に勝ってほしいと思うのは自然なことだろう。
海常の勝利に安堵した、けれど試合終了直後の祥吾の表情が気になって仕方がない。観覧席から見えたそれは、ただの見間違いかもしれない。私の考えすぎであってほしいと思いながら、リコさんがこの場での解散を告げてすぐに 私はチームを離れて嫌な予感がする方へと急ぎ足で向かった。
◇
どうして嫌な予感ほど当たってしまうのだろう。いないで欲しいという淡い願いは打ち砕かれ、予想通りの場所に予想通りの背中を見つけて ぐっと奥歯を噛み締めた。
「祥吾!」
「…あ?」
その背中に呼びかければ 苛立たしげな声が返ってきて、あぁ私の予感は当たってしまっているのだと確信する。「とりあえずお疲れ様」と 形ばかりの労いの言葉をかけて、それからキッと表情を引き締めて、真っ直ぐに彼を見据えた。
「でも、涼太に復讐とか考えないでよ」
「……何しようがオレの勝手だろ」
「バスケでルール内だったらね」
試合の中でルールに則った行動なら、勝つためにどんな手を使ってもそれは“戦略”でしかなくて、第三者が口を出すことではないと思う。けれど、これから祥吾がやろうとしていることは きっとただの暴力行為なのだろう。そんなこと、絶対に許さない。
睨むような視線を向けたまま彼を非難した私に祥吾は苛立ったように眉を顰め、けれどすぐに何かを思いついたように口端を持ち上げた。私があまり好きになれない笑い方だ。
「だったら手伝えよ」
「え…っ、ちょ、なに!?」
身体を引かれたかと思うと、気が付いた時には背中に壁が触れていて、逃げ道を塞ぐような祥吾の腕に閉じ込められていた。
嫌な予感しかしない。背中を嫌な汗が滲むのを感じながら、何の用だと視線で訴える。
「リョータには何もしねーよ―――お前が大人しくしてればな」
「な…っ」
乱暴に顎を掴まれたかと思った直後に口を塞がれる。何に、ということを考えるより先に 口内に舌が割り入ってきてビクリと肩が跳ねた。
顔を逸らそうにも顎を掴まれているし、身を引こうにも背後は壁で それも許されない。離れろという意思表示に両手でグイグイと祥吾の胸元を押し返すけれど、手首を掴まれ壁に押さえつけられ 抵抗も意味を成さない。
好き放題に蠢く舌を噛んでやろうと思ったところで また私の思考を読んだようなタイミングで離れるから、目一杯の敵意を込めて 私を押さえ込む男の顔を睨みつけた。
「怖い顔すんなって。黙ってりゃいい女なんだからよ」
「うるさい、離して!触らないで!」
祥吾は顎から耳元へ私の輪郭をなぞるように舌先を這わせながら、壁に押さえつけていた両手を頭上で束ね、左手一つで容易く固定してしまう。自由になった彼の右手が腰から背中を撫で上げて、そのくすぐったさに身を捩るけれど、逃げる事は許されない。
「良くしてやるから、任せとけって」
「っ!」
言葉も態度も一方的なくせに、私への触れ方は最初から一貫して妙に優しい。私を使って仕返しをしようという考えは いつかの花宮さんと同じはずなのに、全然違う。その事に違和感を覚えていたけれど、今はっきりと分かった。祥吾の目的はあくまでも「涼太を傷付けること」なのだ。私を傷付けたかった花宮さんとは違って、無理やりでは意味がない。私自身の意志で“受け入れさせたい”のだと悟れば、まるで好意を抱かれてるかのような優しい触れ方にも納得がいった。
この男は、既成事実を作ろうとしているのだ。
そう察した瞬間に血の気が引くような感覚がして、それとほぼ同時にスカートの裾から中に入り込んだ手に内腿を撫でられ身を固くした。
「やっ…や、ぁ」
「そうだ、もっとイイ声出せよ」
「―――っ」
楽しそうにクツクツと喉で笑いながら、生暖かい舌が首筋を這う。怖い、と 思った。声にならない声を噛み殺しながら、誰か助けてと 祈るように固く目を閉じる。
「そのへんで やめとけよ」
聞き慣れた、低い声。それが耳に届いた瞬間、全てから逃げるように閉ざしていた瞼も パッと弾かれるように開いた。だいき。祥吾の向こう側に見えたその人の名前を呼んだのは、私も祥吾もほとんど同時だったと思う。
大輝は、怒っている。バスケに真剣な涼太やテツ君の戦いに、バスケではないやり方で水を差すような真似をしようとしていることに。
「七瀬は関係ねーだろ。巻き込むな」
「随分と甘ェこと言うじゃねーか、ダイキ」
「くだらねぇマネするなっつってんだよ」
祥吾の意識は完全に大輝へと向かったのだろう、私を押さえ込んでいた手を離し、身体を大輝の方へと向き直して睨み合う。私は解放された安堵からか全身の力が抜けて、ずるずるとその場に座り込んでしまった。
「やめて欲しけりゃ 力ずくでやってみろよ」
挑発するように笑いながら殴りかかった祥吾に 私が制止の声をあげるよりも先に、たった一発で彼を殴り倒したのは大輝の方だった。目の前で起きた光景に、目を瞬かせる事しかできない。
「じゃあ そうさせてもらうわ」
大会に出場していないとは言え現役の選手が 人の殴るなど何を考えているんだ、と 大輝に怒鳴るのが正解だったのだろうと思う。けれどその時の私には、ただ彼が助けてくれたのだという事実しか目に入っていなかった。