ゼラニウムに捧ぐ
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逃げるように視線を逸らした私の額に、赤司くんの唇が触れた。そのことに対する驚きはない。なんとなく、予測できていたから。
すぐに額から離れた唇は、目尻、鼻先、頬と順番に降りてきて、私の唇を掠め取るように ほんの一瞬、触れるだけのキスをする。それに対して私は何かを言うわけでもなく、逸らしていた視線を彼に戻し、ジッとその目を見つめた。視線の先の赤司くんは僅かに表情を緩めて、そして今度は、容赦なく私に噛み付いた。
「…っ、」
スマートな彼らしくないその性急な行為は予想外で、抗議の意味を込めて赤司くんの肩を押してみるけれど、効果などあるはずもない。
なす術もなく翻弄され 吐息混じりの甘ったるい声が漏れたところで、ひとつ、ふたつと、ルームウェアの胸元のボタンが片手で器用に解かれていることに気が付いた。その瞬間に私は突き飛ばすように赤司くんの体を押して、わずかに彼が離れた隙に ボタンを解かれた胸元を、或いは全身を隠すように自分の両肩を抱きしめてずるずるとその場に座り込んだ。
「まって、私、こんな格好…!」
突然の彼の訪問でいっぱいいっぱいになっていて、完全に失念していた。入浴を終え、あとは寝るだけだと思っていた私が身に付けているのは ルームウェアに他ならなくて、客人の、しかも異性の前に出て良い格好ではない。肌触りが良くて、分厚すぎない生地なのに暖かいからお気に入りだとか、そんな事は関係ないのだ。
自分の服装に気が付いてしまえば恥ずかしくて、もう赤司くんを直視することができず 隠すように自身を抱きしめながら うずくまる。
「似合っているんだから構わないだろう」
「そう、じゃなくて…!こんな格好、人様に…」
「僕の所為かな」
「え…?」
「服装さえ忘れるほど 僕が七瀬の思考を支配したのなら、僕にとっては喜ばしいことだ」
どこか満足気な表情で私を追うように床に膝をついた赤司くんの手が、ゆっくりとこちらに伸ばされる。自分の両肩を抱きしめていた私の手首を掴み、身体を隠していた腕がゆるりと解かれた。まったく強い力ではなかったのに、抗えなかったのはどうしてだろう。真っ直ぐに私を見る赤司くんは至って普段通りなのに、なぜだか知らない人みたいで少し怖くなる。
「あかし、くん」
「どうすれば七瀬を僕の元に繋ぎ止めておけるのかと、いつも考えるんだ」
「…?」
「僕のものだと宣言しても、例えこうして“しるし”を付けても」
「え…、っ」
服のボタンを解かれたことで緩んだ胸元に顔を寄せた赤司くんの唇が、鎖骨の間に触れた。ちゅ、と微かな音と同時にチクリと痛みが走って眉を寄せる。その一度きりで彼の顔は離れていくけれど、触れられた場所にはくっきりと紅い痕が残されていた。それから赤司くんは、まだ私の肩口に残る噛み痕を指先で撫でて 眉を寄せる。
「僕のいない間に他の男が七瀬に触れているのかと思うと、腸が煮えくり返りそうだ」
「…そんなの、」
「どうして七瀬も京都に連れて行かなかったのかと 後悔ばかりでね」
少し寂しそうに笑って眉を下げたその表情はきっと嘲笑で、それは赤司くんではなくて昔の彼のようで なんだか泣きたくなった。赤司くんは勝手だよ。俯いて先日と同じ言葉を発すれば、赤司くんは困ったように笑って ゆるりと私の頬を撫でる。
「そう言われるのは二度目だな」
「私に黙って京都に行くことを決めたくせに、今更そんなこと」
「だからこそ今、七瀬に触れたいと思う」
「……本当に、勝手だよ」
「ははっ、三度目だ」
頬に触れていた手がするすると滑り 顎を掬い上げられる。ほんの一瞬、触れるだけのキスが一度。それから次に触れた時には何度も啄むように唇を食まれ、そのくすぐったさに、気恥ずかしさに、ぎゅっと瞼を強く閉じた。
私の身体に力が入ったことに気が付いたのか、ふっと柔らかい息をこぼした赤司くんが 私の額にキスを落とす。七瀬と 彼の穏やかな声が私を呼ぶ。たったそれだけの事で、全身の血が沸き立つような感覚がした。私の名を呼ぶ、その声が好きだ。穏やかさの中に 他では見せないとびきりの優しさが含まれているような気がして。
包むように私の両頬に触れた赤司くんの手が、やんわりと顔を持ち上げる。視線の先にある彼の目は真っ直ぐに私を見ていて、ああ、赤司くんだと思う。
「…赤司くんのばか。私を置いていかないでよ」
それはきっと、1年前に言いたかった言葉。一筋の涙と一緒に零れ落ちた言葉に 赤司くんは一瞬だけ驚いたように目を見開いて、すまない、と そう言いながら 涙を拭うように親指で私の目元を撫でる。
私に触れる彼の手はいつも変わらず優しくて、その事がどうしようもなく嬉しくて、どうしようもなく悲しかった。
「どんなに離れても、放す気なんて毛頭ないさ」
「そんなの、置いて行く側の傲慢でしかない」
「…それなら今ここで、本気だと証明しよう」
わずかに私の顔を引き寄せた彼が、再び容赦なく噛み付く。先刻と同じように、だけどもっと荒々しくて、今の彼に余裕などないのだと 思い知らされるような気がした。酸素を求めた口端から 甘ったるい吐息が漏れる。
言い訳なんてない。私は今こうして触れられる距離に彼がいることに、心の奥底から歓喜しているのだ。ぽろぽろとこぼれる涙の意味も分からずに、彼の背中に腕を回した。
すぐに額から離れた唇は、目尻、鼻先、頬と順番に降りてきて、私の唇を掠め取るように ほんの一瞬、触れるだけのキスをする。それに対して私は何かを言うわけでもなく、逸らしていた視線を彼に戻し、ジッとその目を見つめた。視線の先の赤司くんは僅かに表情を緩めて、そして今度は、容赦なく私に噛み付いた。
「…っ、」
スマートな彼らしくないその性急な行為は予想外で、抗議の意味を込めて赤司くんの肩を押してみるけれど、効果などあるはずもない。
なす術もなく翻弄され 吐息混じりの甘ったるい声が漏れたところで、ひとつ、ふたつと、ルームウェアの胸元のボタンが片手で器用に解かれていることに気が付いた。その瞬間に私は突き飛ばすように赤司くんの体を押して、わずかに彼が離れた隙に ボタンを解かれた胸元を、或いは全身を隠すように自分の両肩を抱きしめてずるずるとその場に座り込んだ。
「まって、私、こんな格好…!」
突然の彼の訪問でいっぱいいっぱいになっていて、完全に失念していた。入浴を終え、あとは寝るだけだと思っていた私が身に付けているのは ルームウェアに他ならなくて、客人の、しかも異性の前に出て良い格好ではない。肌触りが良くて、分厚すぎない生地なのに暖かいからお気に入りだとか、そんな事は関係ないのだ。
自分の服装に気が付いてしまえば恥ずかしくて、もう赤司くんを直視することができず 隠すように自身を抱きしめながら うずくまる。
「似合っているんだから構わないだろう」
「そう、じゃなくて…!こんな格好、人様に…」
「僕の所為かな」
「え…?」
「服装さえ忘れるほど 僕が七瀬の思考を支配したのなら、僕にとっては喜ばしいことだ」
どこか満足気な表情で私を追うように床に膝をついた赤司くんの手が、ゆっくりとこちらに伸ばされる。自分の両肩を抱きしめていた私の手首を掴み、身体を隠していた腕がゆるりと解かれた。まったく強い力ではなかったのに、抗えなかったのはどうしてだろう。真っ直ぐに私を見る赤司くんは至って普段通りなのに、なぜだか知らない人みたいで少し怖くなる。
「あかし、くん」
「どうすれば七瀬を僕の元に繋ぎ止めておけるのかと、いつも考えるんだ」
「…?」
「僕のものだと宣言しても、例えこうして“しるし”を付けても」
「え…、っ」
服のボタンを解かれたことで緩んだ胸元に顔を寄せた赤司くんの唇が、鎖骨の間に触れた。ちゅ、と微かな音と同時にチクリと痛みが走って眉を寄せる。その一度きりで彼の顔は離れていくけれど、触れられた場所にはくっきりと紅い痕が残されていた。それから赤司くんは、まだ私の肩口に残る噛み痕を指先で撫でて 眉を寄せる。
「僕のいない間に他の男が七瀬に触れているのかと思うと、腸が煮えくり返りそうだ」
「…そんなの、」
「どうして七瀬も京都に連れて行かなかったのかと 後悔ばかりでね」
少し寂しそうに笑って眉を下げたその表情はきっと嘲笑で、それは赤司くんではなくて昔の彼のようで なんだか泣きたくなった。赤司くんは勝手だよ。俯いて先日と同じ言葉を発すれば、赤司くんは困ったように笑って ゆるりと私の頬を撫でる。
「そう言われるのは二度目だな」
「私に黙って京都に行くことを決めたくせに、今更そんなこと」
「だからこそ今、七瀬に触れたいと思う」
「……本当に、勝手だよ」
「ははっ、三度目だ」
頬に触れていた手がするすると滑り 顎を掬い上げられる。ほんの一瞬、触れるだけのキスが一度。それから次に触れた時には何度も啄むように唇を食まれ、そのくすぐったさに、気恥ずかしさに、ぎゅっと瞼を強く閉じた。
私の身体に力が入ったことに気が付いたのか、ふっと柔らかい息をこぼした赤司くんが 私の額にキスを落とす。七瀬と 彼の穏やかな声が私を呼ぶ。たったそれだけの事で、全身の血が沸き立つような感覚がした。私の名を呼ぶ、その声が好きだ。穏やかさの中に 他では見せないとびきりの優しさが含まれているような気がして。
包むように私の両頬に触れた赤司くんの手が、やんわりと顔を持ち上げる。視線の先にある彼の目は真っ直ぐに私を見ていて、ああ、赤司くんだと思う。
「…赤司くんのばか。私を置いていかないでよ」
それはきっと、1年前に言いたかった言葉。一筋の涙と一緒に零れ落ちた言葉に 赤司くんは一瞬だけ驚いたように目を見開いて、すまない、と そう言いながら 涙を拭うように親指で私の目元を撫でる。
私に触れる彼の手はいつも変わらず優しくて、その事がどうしようもなく嬉しくて、どうしようもなく悲しかった。
「どんなに離れても、放す気なんて毛頭ないさ」
「そんなの、置いて行く側の傲慢でしかない」
「…それなら今ここで、本気だと証明しよう」
わずかに私の顔を引き寄せた彼が、再び容赦なく噛み付く。先刻と同じように、だけどもっと荒々しくて、今の彼に余裕などないのだと 思い知らされるような気がした。酸素を求めた口端から 甘ったるい吐息が漏れる。
言い訳なんてない。私は今こうして触れられる距離に彼がいることに、心の奥底から歓喜しているのだ。ぽろぽろとこぼれる涙の意味も分からずに、彼の背中に腕を回した。