ゼラニウムに捧ぐ
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ウィンターカップ4日目。三回戦の森園北戦は苦しみながらも終盤に逆転してなんとか勝利し、誠凛高校は準々決勝進出を果たした。そしてその後、陽泉高校も勝利したことで準々決勝の相手が決定した。敦と氷室さんがいる、陽泉高校。
試合会場からチームメイト全員で大我の家に直行し、リコさんが入手してくれたビデオを見て対陽泉の対策を練ってから帰宅した。入浴を済ませ、髪を乾かしながら明日に控えた試合へと思考を巡らせる。
一番恐ろしいと思うのは、私自身が“キセキの世代”と呼ばれる彼らが負ける姿を想像できないと言うことだろう。勝利するイメージが沸かないわけではない、けれど、敦が負ける姿が想像できない。試合終了の瞬間を想像したところで、敗戦した姿が思い浮かぶわけでもなく、かと言って勝利し喜ぶ姿も浮かんでこない。試合後のイメージが沸かないことが、怖いと思った。
だけどそんな思考を振り払うように、頭を左右に振る。これまで“キセキの世代”を相手に、海常にも、秀徳にも、あの桐皇にさえも勝利してきたのだ。みんなならきっと大丈夫。そう思ってドライヤーを止めて バスタオルを洗濯機に放り込んだところで、インターホンが鳴った。こんな時間に、誰だ。
「え……?」
警戒しながらインターホンのモニターを見て、思わず間抜けな声が漏れて固まってしまった。数秒後にハッと我に返り、慌てて玄関へと駆けたのである。
玄関のドアを少し押し開けただけで、ひんやりと冷たい空気が流れ込んできた。だけど私はそんな事は気にも止めず、訪問者の姿が確認できるようしっかりと扉を開く。そしてそこに立っていたのは間違いなく先ほどモニターに映っていたその人で、幻覚などでは無かったのだと思い知る。
「あ、赤司くん…?」
「夜分に突然すまない」
「…とりあえず、中にどうぞ。寒いでしょ」
なんて事のない風を装って彼を室内に招き入れるけれど、私は混乱していた。どうして、赤司くんが。彼が東京にいる理由なら分かっている。けれど、なぜ今、こんな時間に、私の家に。慣れた様子で廊下を進む赤司くんの一歩後ろを歩きながら、思考はフル回転していた。リビングに入り 彼が脱いだコートを受け取りソファの背もたれにかける。それからやっぱり平静を装って、なんてことのないように赤司くんに問う。
「こんな時間に どうかした?」
「七瀬と話がしたくてね」
「大丈夫なの?」
「ああ、問題ない。監督にも許可は取ってある」
「許可…あ、外出の」
「いや、外泊かな」
「がい、は く…?」
彼の言う言葉の意味が一瞬では理解できなくて、随分と間抜けな反応をしてしまったと思う。目を瞬かせて赤司くんの顔を凝視する私に 彼はふっと僅かに表情を緩め、そして私の腕を引いたかと思えば、気が付いた時には私の背は壁に触れていた。
「今夜はここに泊まろうかと思ってね」
「ま、待って、お客様用の布団の用意なんてないよ!」
「ああ、突然押し掛けたんだから気にしないでくれ。ソファで充分だ」
なんて事のないように赤司くんは澄ましてそう言うけれど、私だってバスケ部のマネージャーなのだ。たとえ自チームではないとは言え、全国大会の最中のプレーヤーをソファで寝かせるなんてできるわけがない。風邪を引かせてしまったら。身体を痛めてしまったら。あるいは、疲労が回復しきれなかった事が翌日の怪我に繋がったら―――。スポーツ選手は身体が資本だと言われるぐらいなのだから、ソファで寝かせるなんて認められない。
噛み付くようにそう言えば、赤司くんは不敵に笑う。まるで私がそう言うことを見越していたかのように。
「仕方がない。七瀬のベッドにお邪魔するよ」
「は……え!?」
「それなら問題ないだろ?」
「も、問題しかないよ!だったら私がソファで寝るからベッドは赤司くんが」
「“征と結婚する”と言ってたのに、何を今更」
「それいつの話よ!」
恥ずかしくて泣きたくなって、俯いて顔を隠す。確かにそんな事を言った過去はあるけれど、もう何年も何年も前の話だ。私も忘れていた過去を、今ここで掘り起こさなくてもいいじゃないか。
だけど それよりも、赤司くんの本心が読めない。私の反応を見て面白がっているというのが1番なのは分かるけれど、発言のどこまでが本気なのだろう。本当に泊まるつもり?それとも、それさえも私の反応を見るための戯言に過ぎないのだろうか。
怒ればいいのか、恥じらえばいいのか、それとも真意を問い詰めればいいのか。顔を隠すように俯いたまま、そんな事を思案した。
「七瀬」
先ほどまでの笑いを含んだものではない、静かで心地良い声が私の名前を呼ぶ。その声で呼ばれれば 私は何かを考えるよりも先に、隠したかったはずの顔を上げていた。真っ直ぐに向けられる瞳と視線が絡む。逃げる事を赦さない、強い眼だと思う。だけど、不思議と威圧感のようなものはない。
ただ、絶対的に分かっている事がある。私は、赤司くんから逃げられない。
「今は七瀬と一緒にいたい」
「…赤司くんは、ずるいね」
逃げるように視線を逸らした私の頬を、赤司くんの手が撫でた。
試合会場からチームメイト全員で大我の家に直行し、リコさんが入手してくれたビデオを見て対陽泉の対策を練ってから帰宅した。入浴を済ませ、髪を乾かしながら明日に控えた試合へと思考を巡らせる。
一番恐ろしいと思うのは、私自身が“キセキの世代”と呼ばれる彼らが負ける姿を想像できないと言うことだろう。勝利するイメージが沸かないわけではない、けれど、敦が負ける姿が想像できない。試合終了の瞬間を想像したところで、敗戦した姿が思い浮かぶわけでもなく、かと言って勝利し喜ぶ姿も浮かんでこない。試合後のイメージが沸かないことが、怖いと思った。
だけどそんな思考を振り払うように、頭を左右に振る。これまで“キセキの世代”を相手に、海常にも、秀徳にも、あの桐皇にさえも勝利してきたのだ。みんなならきっと大丈夫。そう思ってドライヤーを止めて バスタオルを洗濯機に放り込んだところで、インターホンが鳴った。こんな時間に、誰だ。
「え……?」
警戒しながらインターホンのモニターを見て、思わず間抜けな声が漏れて固まってしまった。数秒後にハッと我に返り、慌てて玄関へと駆けたのである。
玄関のドアを少し押し開けただけで、ひんやりと冷たい空気が流れ込んできた。だけど私はそんな事は気にも止めず、訪問者の姿が確認できるようしっかりと扉を開く。そしてそこに立っていたのは間違いなく先ほどモニターに映っていたその人で、幻覚などでは無かったのだと思い知る。
「あ、赤司くん…?」
「夜分に突然すまない」
「…とりあえず、中にどうぞ。寒いでしょ」
なんて事のない風を装って彼を室内に招き入れるけれど、私は混乱していた。どうして、赤司くんが。彼が東京にいる理由なら分かっている。けれど、なぜ今、こんな時間に、私の家に。慣れた様子で廊下を進む赤司くんの一歩後ろを歩きながら、思考はフル回転していた。リビングに入り 彼が脱いだコートを受け取りソファの背もたれにかける。それからやっぱり平静を装って、なんてことのないように赤司くんに問う。
「こんな時間に どうかした?」
「七瀬と話がしたくてね」
「大丈夫なの?」
「ああ、問題ない。監督にも許可は取ってある」
「許可…あ、外出の」
「いや、外泊かな」
「がい、は く…?」
彼の言う言葉の意味が一瞬では理解できなくて、随分と間抜けな反応をしてしまったと思う。目を瞬かせて赤司くんの顔を凝視する私に 彼はふっと僅かに表情を緩め、そして私の腕を引いたかと思えば、気が付いた時には私の背は壁に触れていた。
「今夜はここに泊まろうかと思ってね」
「ま、待って、お客様用の布団の用意なんてないよ!」
「ああ、突然押し掛けたんだから気にしないでくれ。ソファで充分だ」
なんて事のないように赤司くんは澄ましてそう言うけれど、私だってバスケ部のマネージャーなのだ。たとえ自チームではないとは言え、全国大会の最中のプレーヤーをソファで寝かせるなんてできるわけがない。風邪を引かせてしまったら。身体を痛めてしまったら。あるいは、疲労が回復しきれなかった事が翌日の怪我に繋がったら―――。スポーツ選手は身体が資本だと言われるぐらいなのだから、ソファで寝かせるなんて認められない。
噛み付くようにそう言えば、赤司くんは不敵に笑う。まるで私がそう言うことを見越していたかのように。
「仕方がない。七瀬のベッドにお邪魔するよ」
「は……え!?」
「それなら問題ないだろ?」
「も、問題しかないよ!だったら私がソファで寝るからベッドは赤司くんが」
「“征と結婚する”と言ってたのに、何を今更」
「それいつの話よ!」
恥ずかしくて泣きたくなって、俯いて顔を隠す。確かにそんな事を言った過去はあるけれど、もう何年も何年も前の話だ。私も忘れていた過去を、今ここで掘り起こさなくてもいいじゃないか。
だけど それよりも、赤司くんの本心が読めない。私の反応を見て面白がっているというのが1番なのは分かるけれど、発言のどこまでが本気なのだろう。本当に泊まるつもり?それとも、それさえも私の反応を見るための戯言に過ぎないのだろうか。
怒ればいいのか、恥じらえばいいのか、それとも真意を問い詰めればいいのか。顔を隠すように俯いたまま、そんな事を思案した。
「七瀬」
先ほどまでの笑いを含んだものではない、静かで心地良い声が私の名前を呼ぶ。その声で呼ばれれば 私は何かを考えるよりも先に、隠したかったはずの顔を上げていた。真っ直ぐに向けられる瞳と視線が絡む。逃げる事を赦さない、強い眼だと思う。だけど、不思議と威圧感のようなものはない。
ただ、絶対的に分かっている事がある。私は、赤司くんから逃げられない。
「今は七瀬と一緒にいたい」
「…赤司くんは、ずるいね」
逃げるように視線を逸らした私の頬を、赤司くんの手が撫でた。