ゼラニウムに捧ぐ
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言葉にするなら“辛勝”。終わってみれば中宮南高校を相手に主力2人を温存した上での勝利だったけれど、本当にヒヤヒヤとした。だけど、勝った。その結果に心から安堵する。
帰途につくチームの最後尾を歩きながら 両サイドにいる先輩の顔を交互に見やれば、私の視線に気が付いた木吉さんと目が合った。
「ん?」
「あ、いえ、頬ももう大丈夫そうで良かったです」
試合中に披露されたリコさんの華麗なるビンタと、その産物に選手の頬に刻まれた真っ赤なもみじを思い出して苦笑いでそう言えば、木吉さんと、反対側にいる伊月さんも同じような表情を浮かべた。
「日向もカントクじゃなくて、せめて七瀬に頼んでくれりゃ良かったのに」
「でも、私も力自慢ですよ?重たい荷物もへっちゃらです」
恨み言のようにボヤいた伊月さんの言葉に むむ、と力こぶを作るように曲げて見せた右腕を、木吉さんがジャージの袖の上から ふに、と摘む。きょとんと首を傾げた私の視線の先で、彼はふっと優しく笑った。
「いいや、柔らかいな」
「ぜいにく…!」
「違えだろ、七瀬が男と同じ硬さだったら やだよ」
笑顔で放たれた木吉さんの言葉でショックを受ける私に、伊月さんはカラカラと笑いながら私の頭を撫でた。分かってますよ、なんて笑って返す私は 今この瞬間を楽しんでいる。今日の勝利で気を抜いているわけではないけれど、試合後のわずかな瞬間ぐらいは緊張感から解き放たれてもいいと思う。
先輩たちと笑い合っていたその時、お腹辺りに何かが触れ、強い力で身体が後方に引かれて足が地面から浮いた。驚きに振り返った先にいたのは、バスケ選手のなかでも一際大きな身体をした人。
「え、あつし…?」
「ちょっと七瀬ちん借りてくねー」
「おい!」
それだけ言い残した敦は私を小脇に抱えるように、どこかへ向かって歩き始めた。木吉さんと伊月さんの声で振り返ったチームメイトたちの視線が向けられるけれど、どんどん遠くなっていく。敦の腕から逃れようと足をバタつかせてみても、想像通り効果なんてなかった。「1人で帰れるから大丈夫です、お疲れ様でした!」気にせず先に帰ってくれという意味を込めてそんな言葉を発して、私は諦めてこの連行を受け入れるのだ。
◇
連れて来られたのは無人の陽泉控え室で、心臓辺りでざわりと何かが揺れた。言葉で表現するなら、きっとそれは“嫌な予感”。
浮いていた足が床に下ろされ、敦の顔を振り返り見上げる。そこに浮かぶ表情は 不機嫌、なんていう可愛らしいものじゃ済まなくて、半ば反射的に 逃げるように後退るけれど 腕を掴まれて阻まれた。
「さっきのあれ、なに」
「あれ、って…?」
「男相手にヘラヘラ笑って 簡単に触らせて、バカじゃないの」
「な、…!」
随分な言われようだ。敦が指しているのはきっと、伊月さんと木吉さんとじゃれていたことだろう。確かに時と場合によっては敦の言い分は間違っていないかもしれないけれど、少なくともあの瞬間、彼らに邪な感情など無かったと分かるはずだ。親しい間柄である部の先輩と冗談を言って笑うことも、そんな彼らとあの程度のスキンシップは許容範囲だ何だと騒ぐ以前の問題だと思う私は、きっと何も間違ってない。
「部活の先輩を相手に、変に意識する方が不自然でしょ」
「……そういうところが イライラするんだよ」
不愉快そうに顔を歪めた敦に掴まれていた腕を引かれたかと思えば、気が付いた時には長椅子の上に組み敷かれていた。覆い被さるように私の上に跨がる敦を見上げるけれど、向けられる視線は氷のように冷たい。嫌な拍動を始めた心臓に気付かないふりをして、退いて、と彼の両肩を強く押すけれど その手はすぐに捕まり、頭上で束ねるように 左手一つで押さえ込まれてしまった。
「七瀬ちん見てると、本当にイライラする」
「なに…、っ!」
普段より一段低い声が聞こえた直後、上着に羽織っていたジャージ諸共 シャツの襟元が引き下げられ、露わになった肩口に 敦は容赦なく歯を立てた。小さな悲鳴が漏れて痛みに泣きたくなるけれど、泣いてる場合じゃない。なんとなく、今の敦の雰囲気は危ない気がする。ただ必死に抵抗しなくてはと、それだけを考えた。
手がダメなら足で。左膝を折り曲げ自分と敦の体の間に入れ、下腿で力一杯に敦の上体を押し返す。僅かに敦の体か離れ 光明を見出したような気がした瞬間「七瀬ちんは全然分かってないね」不満そうな声で言われ 、彼の右手が私の膝に触れた。必死に敦の上体を押していたはずの私の脚は、いとも簡単に体の外側に押し出されてしまう。
「主導権はオレでしょ」
「やだ…、離して」
「だめ」
軽い調子で否定の言葉を紡いだ敦は、私の膝を持ったまま 内腿に口元を寄せた。素肌に触れられたくすぐったさと、その直後に走った刺すような痛みに、堪らず声が漏れる。そんな私の反応を見た敦は心底楽しそうな表情で、内腿に滲んだ赤に舌を這わせた。
「や、あっ…」
「こんなにイラついたの久しぶりだし、責任取ってよね」
私を責めるようにそう言った敦は、今度は鎖骨に愛おしむように口付けて、それからもう一度 歯を立てた。痛い、と涙混じりに訴えたところで敦の顔色は僅かだって変わりはしない。
彼は責任と言うけれど、一体何に対してこんなにも怒っているのか私には全く分からない。ギュッと強く目を閉じれば、ポロポロと幾つかの涙が目尻から流れ落ちた。その直後に何度も目元に触れた暖かいものが敦の唇だと すぐに理解する。
「いいね、その顔。かわいい」
「な、に…?」
「あーあ、そんなに可愛い顔見せられたら 止められないねー」
ゆるい口調と裏腹に、言動はどこまでも支配的だ。それまでと打って変わって楽しそうに笑った敦に、冷たいものが背筋を走る。どうして今、そんな顔で笑うの。言葉も出ずに彼の顔を見遣ることしか出来ない私を見下ろす敦は、ペロリと己の唇を舐めた。獣だ、と 思う。この圧倒的な力を前に、逃げ出そうという気も、助けてという願いも、抱くことさえ許されない気がした。
帰途につくチームの最後尾を歩きながら 両サイドにいる先輩の顔を交互に見やれば、私の視線に気が付いた木吉さんと目が合った。
「ん?」
「あ、いえ、頬ももう大丈夫そうで良かったです」
試合中に披露されたリコさんの華麗なるビンタと、その産物に選手の頬に刻まれた真っ赤なもみじを思い出して苦笑いでそう言えば、木吉さんと、反対側にいる伊月さんも同じような表情を浮かべた。
「日向もカントクじゃなくて、せめて七瀬に頼んでくれりゃ良かったのに」
「でも、私も力自慢ですよ?重たい荷物もへっちゃらです」
恨み言のようにボヤいた伊月さんの言葉に むむ、と力こぶを作るように曲げて見せた右腕を、木吉さんがジャージの袖の上から ふに、と摘む。きょとんと首を傾げた私の視線の先で、彼はふっと優しく笑った。
「いいや、柔らかいな」
「ぜいにく…!」
「違えだろ、七瀬が男と同じ硬さだったら やだよ」
笑顔で放たれた木吉さんの言葉でショックを受ける私に、伊月さんはカラカラと笑いながら私の頭を撫でた。分かってますよ、なんて笑って返す私は 今この瞬間を楽しんでいる。今日の勝利で気を抜いているわけではないけれど、試合後のわずかな瞬間ぐらいは緊張感から解き放たれてもいいと思う。
先輩たちと笑い合っていたその時、お腹辺りに何かが触れ、強い力で身体が後方に引かれて足が地面から浮いた。驚きに振り返った先にいたのは、バスケ選手のなかでも一際大きな身体をした人。
「え、あつし…?」
「ちょっと七瀬ちん借りてくねー」
「おい!」
それだけ言い残した敦は私を小脇に抱えるように、どこかへ向かって歩き始めた。木吉さんと伊月さんの声で振り返ったチームメイトたちの視線が向けられるけれど、どんどん遠くなっていく。敦の腕から逃れようと足をバタつかせてみても、想像通り効果なんてなかった。「1人で帰れるから大丈夫です、お疲れ様でした!」気にせず先に帰ってくれという意味を込めてそんな言葉を発して、私は諦めてこの連行を受け入れるのだ。
◇
連れて来られたのは無人の陽泉控え室で、心臓辺りでざわりと何かが揺れた。言葉で表現するなら、きっとそれは“嫌な予感”。
浮いていた足が床に下ろされ、敦の顔を振り返り見上げる。そこに浮かぶ表情は 不機嫌、なんていう可愛らしいものじゃ済まなくて、半ば反射的に 逃げるように後退るけれど 腕を掴まれて阻まれた。
「さっきのあれ、なに」
「あれ、って…?」
「男相手にヘラヘラ笑って 簡単に触らせて、バカじゃないの」
「な、…!」
随分な言われようだ。敦が指しているのはきっと、伊月さんと木吉さんとじゃれていたことだろう。確かに時と場合によっては敦の言い分は間違っていないかもしれないけれど、少なくともあの瞬間、彼らに邪な感情など無かったと分かるはずだ。親しい間柄である部の先輩と冗談を言って笑うことも、そんな彼らとあの程度のスキンシップは許容範囲だ何だと騒ぐ以前の問題だと思う私は、きっと何も間違ってない。
「部活の先輩を相手に、変に意識する方が不自然でしょ」
「……そういうところが イライラするんだよ」
不愉快そうに顔を歪めた敦に掴まれていた腕を引かれたかと思えば、気が付いた時には長椅子の上に組み敷かれていた。覆い被さるように私の上に跨がる敦を見上げるけれど、向けられる視線は氷のように冷たい。嫌な拍動を始めた心臓に気付かないふりをして、退いて、と彼の両肩を強く押すけれど その手はすぐに捕まり、頭上で束ねるように 左手一つで押さえ込まれてしまった。
「七瀬ちん見てると、本当にイライラする」
「なに…、っ!」
普段より一段低い声が聞こえた直後、上着に羽織っていたジャージ諸共 シャツの襟元が引き下げられ、露わになった肩口に 敦は容赦なく歯を立てた。小さな悲鳴が漏れて痛みに泣きたくなるけれど、泣いてる場合じゃない。なんとなく、今の敦の雰囲気は危ない気がする。ただ必死に抵抗しなくてはと、それだけを考えた。
手がダメなら足で。左膝を折り曲げ自分と敦の体の間に入れ、下腿で力一杯に敦の上体を押し返す。僅かに敦の体か離れ 光明を見出したような気がした瞬間「七瀬ちんは全然分かってないね」不満そうな声で言われ 、彼の右手が私の膝に触れた。必死に敦の上体を押していたはずの私の脚は、いとも簡単に体の外側に押し出されてしまう。
「主導権はオレでしょ」
「やだ…、離して」
「だめ」
軽い調子で否定の言葉を紡いだ敦は、私の膝を持ったまま 内腿に口元を寄せた。素肌に触れられたくすぐったさと、その直後に走った刺すような痛みに、堪らず声が漏れる。そんな私の反応を見た敦は心底楽しそうな表情で、内腿に滲んだ赤に舌を這わせた。
「や、あっ…」
「こんなにイラついたの久しぶりだし、責任取ってよね」
私を責めるようにそう言った敦は、今度は鎖骨に愛おしむように口付けて、それからもう一度 歯を立てた。痛い、と涙混じりに訴えたところで敦の顔色は僅かだって変わりはしない。
彼は責任と言うけれど、一体何に対してこんなにも怒っているのか私には全く分からない。ギュッと強く目を閉じれば、ポロポロと幾つかの涙が目尻から流れ落ちた。その直後に何度も目元に触れた暖かいものが敦の唇だと すぐに理解する。
「いいね、その顔。かわいい」
「な、に…?」
「あーあ、そんなに可愛い顔見せられたら 止められないねー」
ゆるい口調と裏腹に、言動はどこまでも支配的だ。それまでと打って変わって楽しそうに笑った敦に、冷たいものが背筋を走る。どうして今、そんな顔で笑うの。言葉も出ずに彼の顔を見遣ることしか出来ない私を見下ろす敦は、ペロリと己の唇を舐めた。獣だ、と 思う。この圧倒的な力を前に、逃げ出そうという気も、助けてという願いも、抱くことさえ許されない気がした。