ゼラニウムに捧ぐ
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激戦を終えロッカーで眠ってしまっていた選手たちが目を覚ました後、ようやく帰途につこうとしたその時に「祝勝会しよう」と言い出したのは小金井さんだった。できるわけがないと却下する先輩たちを余所に 祝勝会に賛成したのは意外にもリコさんで、けれどそうなると場所の問題がある。栄養価が偏る外食を避けられ、なおかつこの人数が入れるそう遠くない場所。
候補が思い浮かばず思案している最中、火神が声を発する。オレん家 こっから近いけど、と。
そうしてチーム全員で買い出しの後にやって来た火神の家はとても広々としていて、先輩たちが驚いたように騒ぎ始めた。必要最低限の家具しか置かれていない部屋はあまり生活感がないけれど、バスケの雑誌はいくつか見られて彼らしいと思った。ラックの前にしゃがみ込み、置かれていた雑誌を一つ手に取り パラパラと中身を眺める。あ、この選手知ってる。
「七瀬!七瀬は何してる!」
「あ、はい、ここに居ます」
「ここに居ますじゃねーよ!」
「早く!今すぐキッチンへ行ってくれ!!」
突然叫ぶように名前を呼ばれて振り返れば、鬼の形相で迫ってくる日向さんと伊月さん。その勢いに一瞬 気圧されながらも、彼らの言葉の意味を察した。リコさん1人に料理を作らせるな、と そういう意味だろう。その言葉に苦笑いを返すことしかできない。
「手伝いますって言ったんですけど…断られちゃって」
「断られたって諦めんなよ!」
「じゃ、じゃあ日向さんはリコさんを口で押し切れますか!?」
私だって頑張って押したつもりだ。けれどリコさんを言いくるめようと思うのが間違いで、結局は私が退くほかなかった。本当に、私なりに折れるわけにはいかないと頑張ったと思う。けれどこうなっている事に対する悔しさを噛み殺すように ぎゅっと唇を噛んで日向さんに詰め寄れば、うっ、と彼がたじろいだ。そう、リコさんに勝てる人間など この部に1人として存在していない。
「できたわ!栄養満点!特性ちゃんこ鍋よ!!」
その時、室内に高らかな声が響いて全員が固まってしまう。テーブルに置かれた鍋はいたって普通のちゃんこ鍋にしか見えず、まさかそんなはずはと戦慄した。
結局、具材に丸ごとのバナナやイチゴが入っているというハプニングはあったものの、味は問題なく美味しく出来上がっていた。その事に戸惑いながらも 合宿などの経験が彼女のスキルを上げたのだと信じることにする。全て食べ終えてからは、用意はリコさんにお任せしたので後片付けは私が買って出た。洗い物を済ませ、ガヤガヤと賑わうみんなの元に戻ろうとキッチンを出たところで ぐらりと視界が揺れた。
「あ、れ…?」
「七瀬?おい、大丈夫か!?」
バランスを保てなくなって崩れ落ちそうになった私の体を、伊月さんが咄嗟に抱きとめてくれた。すみません、と そう言いたいのに 声が出ない。七瀬w、と 私を呼ぶ伊月さんの声と、異変に気付いたみんなが心配そうに集まってくる音は聞こえるのに、全身に力が入らなくて 意識が遠退いて行く。これって、もしかして。そう思ったところで私の意識は途切れた。
◇
結局、私の後に全員が倒れたようだけど30分ほどで目が覚めた。リコさんのレベルアップした料理は遅効性のダメージを与えるのだと分かったけれど、それは言葉にしないことにする。気を取り直して解散しようと準備をしていると、トイレに行ったはずの小金井さんが、パニック状態で逃げるようにリビングに駆け込んできた。その後に姿を表したのは、下着姿のセクシーな金髪美女で私は完全にフリーズしてしまう。これは一体、どういう状況だろう。
話を聞けば彼女は火神と氷室さんの師匠に当たる人らしい。彼らは彼女――アレックスさんにバスケを教わったのだと。コーヒーを淹れて、服を着たアレックスさんの前にマグカップを置く。そのまま隣に腰をおろした。
「どうして日本に…?」
「あっ!! 待て七瀬、あんまその人に近付くと…」
「なんだなんだ、キュートな女子もいるじゃんか〜」
「え?」
火神が焦ったような声を出したのと、アレックスさんの腕が首にまわされ 彼女の綺麗な顔が近付いたのはほとんど同時だった。待って、この距離感はおかしい。止まらずに近付く顔の距離に違和感を抱いた瞬間、何かに口を塞がれ 後ろに強く引かれた。気が付いた時には火神に後ろから抱きしめられるように彼の胸元にもたれ掛かっていて、その右手は守るように私の口を塞いでいる。火神が私をアレックスさんから引き離したのだと理解した直後に げんなりとした火神の声が聞こえた。
「アレックスはキス魔だから…」
「こらタイガ、邪魔するな!」
「誰かれ構わずそーゆーことすんなよ!」
ギャーギャーと騒がしい目の前の2人を見ながら、こんな美人さんとキスしそうになってしまった、とドキドキ騒ぐ心臓を落ち着かせるように手を胸に当てる。大丈夫か、と 横から心配そうに声をかけてくれた木吉さんには 苦笑いで頷いて答えた。
ほんの少し前まで解散しようとしていたはずなのに そんな雰囲気は無くなって、また騒がしくなった室内がなんだか微笑ましい。アレックスさんと話すみんなの様子を眺めながら、 自然と笑みがこぼれた。
候補が思い浮かばず思案している最中、火神が声を発する。オレん家 こっから近いけど、と。
そうしてチーム全員で買い出しの後にやって来た火神の家はとても広々としていて、先輩たちが驚いたように騒ぎ始めた。必要最低限の家具しか置かれていない部屋はあまり生活感がないけれど、バスケの雑誌はいくつか見られて彼らしいと思った。ラックの前にしゃがみ込み、置かれていた雑誌を一つ手に取り パラパラと中身を眺める。あ、この選手知ってる。
「七瀬!七瀬は何してる!」
「あ、はい、ここに居ます」
「ここに居ますじゃねーよ!」
「早く!今すぐキッチンへ行ってくれ!!」
突然叫ぶように名前を呼ばれて振り返れば、鬼の形相で迫ってくる日向さんと伊月さん。その勢いに一瞬 気圧されながらも、彼らの言葉の意味を察した。リコさん1人に料理を作らせるな、と そういう意味だろう。その言葉に苦笑いを返すことしかできない。
「手伝いますって言ったんですけど…断られちゃって」
「断られたって諦めんなよ!」
「じゃ、じゃあ日向さんはリコさんを口で押し切れますか!?」
私だって頑張って押したつもりだ。けれどリコさんを言いくるめようと思うのが間違いで、結局は私が退くほかなかった。本当に、私なりに折れるわけにはいかないと頑張ったと思う。けれどこうなっている事に対する悔しさを噛み殺すように ぎゅっと唇を噛んで日向さんに詰め寄れば、うっ、と彼がたじろいだ。そう、リコさんに勝てる人間など この部に1人として存在していない。
「できたわ!栄養満点!特性ちゃんこ鍋よ!!」
その時、室内に高らかな声が響いて全員が固まってしまう。テーブルに置かれた鍋はいたって普通のちゃんこ鍋にしか見えず、まさかそんなはずはと戦慄した。
結局、具材に丸ごとのバナナやイチゴが入っているというハプニングはあったものの、味は問題なく美味しく出来上がっていた。その事に戸惑いながらも 合宿などの経験が彼女のスキルを上げたのだと信じることにする。全て食べ終えてからは、用意はリコさんにお任せしたので後片付けは私が買って出た。洗い物を済ませ、ガヤガヤと賑わうみんなの元に戻ろうとキッチンを出たところで ぐらりと視界が揺れた。
「あ、れ…?」
「七瀬?おい、大丈夫か!?」
バランスを保てなくなって崩れ落ちそうになった私の体を、伊月さんが咄嗟に抱きとめてくれた。すみません、と そう言いたいのに 声が出ない。七瀬w、と 私を呼ぶ伊月さんの声と、異変に気付いたみんなが心配そうに集まってくる音は聞こえるのに、全身に力が入らなくて 意識が遠退いて行く。これって、もしかして。そう思ったところで私の意識は途切れた。
◇
結局、私の後に全員が倒れたようだけど30分ほどで目が覚めた。リコさんのレベルアップした料理は遅効性のダメージを与えるのだと分かったけれど、それは言葉にしないことにする。気を取り直して解散しようと準備をしていると、トイレに行ったはずの小金井さんが、パニック状態で逃げるようにリビングに駆け込んできた。その後に姿を表したのは、下着姿のセクシーな金髪美女で私は完全にフリーズしてしまう。これは一体、どういう状況だろう。
話を聞けば彼女は火神と氷室さんの師匠に当たる人らしい。彼らは彼女――アレックスさんにバスケを教わったのだと。コーヒーを淹れて、服を着たアレックスさんの前にマグカップを置く。そのまま隣に腰をおろした。
「どうして日本に…?」
「あっ!! 待て七瀬、あんまその人に近付くと…」
「なんだなんだ、キュートな女子もいるじゃんか〜」
「え?」
火神が焦ったような声を出したのと、アレックスさんの腕が首にまわされ 彼女の綺麗な顔が近付いたのはほとんど同時だった。待って、この距離感はおかしい。止まらずに近付く顔の距離に違和感を抱いた瞬間、何かに口を塞がれ 後ろに強く引かれた。気が付いた時には火神に後ろから抱きしめられるように彼の胸元にもたれ掛かっていて、その右手は守るように私の口を塞いでいる。火神が私をアレックスさんから引き離したのだと理解した直後に げんなりとした火神の声が聞こえた。
「アレックスはキス魔だから…」
「こらタイガ、邪魔するな!」
「誰かれ構わずそーゆーことすんなよ!」
ギャーギャーと騒がしい目の前の2人を見ながら、こんな美人さんとキスしそうになってしまった、とドキドキ騒ぐ心臓を落ち着かせるように手を胸に当てる。大丈夫か、と 横から心配そうに声をかけてくれた木吉さんには 苦笑いで頷いて答えた。
ほんの少し前まで解散しようとしていたはずなのに そんな雰囲気は無くなって、また騒がしくなった室内がなんだか微笑ましい。アレックスさんと話すみんなの様子を眺めながら、 自然と笑みがこぼれた。