ゼラニウムに捧ぐ
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温泉旅館の後の合宿から元日本代表選手であるというリコさんの父・景虎さんを臨時トレーナーに迎え、ウィンターカップ本番までの追い込みが始まる。その最初に私がリコさんから言いつけられた仕事は、 “キセキの世代”の視察だった。とは言え もちろん全員ではなくて、関東にいる涼太、真ちゃん、大輝の中でも 先日戦った秀徳以外の2校だろう。
昨日見に行った桐皇では相変わらず練習に大輝の姿はなかったけれど、それにしてもIHから更に成長したチームのとしてのレベルの高さが見て取れた。これが、ウィンターカップ初戦の相手。身の引き締まるような思いと同時に 確かな昂揚を覚えたのもまた事実だった。
そして今日は神奈川へ。目先の一戦一戦を軽んじて その先を見ているわけではない。けれど、事前に知っておいてもいい情報はあると思う。だから私は1人、チームを離れて電車に揺られていた。
◇
たどり着いた海常高校の体育館には 涼太のファンの子たちだろうか、何人もの女の子たちが群がるように体育館の中を覗いていて、彼女たちは様々な学校の制服 あるいは私服を身にまとっている。私が今日ここに着て来る服については、少し悩んで私服にしていた。制服で来ると誠凛の生徒だと主張することになってしまうから、涼太のファンに紛れるためにと思ったけれど 間違っていなかったようで安堵する。彼女たちに紛れるように出入り口に近付き、目立たないように最前列へは行かないで、だけど館内はしっかり見える場所に立つ。そして そこで行われている練習の様子を食い入るように見つめた。
◇
選手と鉢合わせることのないように、練習が終わる少し前には体育館を離れた。帰途につくため校門へと足を進めながら、先ほどまで見ていた風景を思い出す。涼太だけじゃなく、チームとしての力も確実に上がっている。キセキの世代がいるチームだけに注視すべきではないけれど、それでも……。
思考を巡らせながら歩いていると、突然 腕を引かれ 校舎の陰に引き込まれた。驚いて見上げた先にあるのは、キラキラと明るい髪色。
「りょ…っ!」
反射的に名前を呼ぼうとした私の口を、涼太の大きな手が塞ぐ。背中に触れた校舎の外壁がひんやりとした。しー、と 人差し指を口元に立てた涼太は 少し困ったように眉を下げて笑う。
「…他の子たちに見つかりたくないんスよね」
その言葉の意味を理解して、了承の意を示すために首を縦に振れば 涼太はニコリと微笑んで私の口元を解放した。そしてその手で撫でるように頬に触れ、確かめるように注がれる視線はどこまでも優しくて 少し戸惑いながら首を傾げた私は、すぐに彼の腕の中に閉じ込められた。
「あの、涼太…?」
「本物の七瀬っちだ」
ぎゅうっと私の身体を抱きしめて囁くように溢れた涼太の声は 少し震えていたような気がして、胸が締め付けられるような感覚がした。うん、私だよ。そう言って なだめるように彼の背中を撫でれば、私を捕まえる腕の力が僅かに強まる。こういう風に涼太に触れるのは久しぶりかもしれない。そんな事を考えたけれど、それよりも。偵察に来ている私が こうも易々と相手選手に見つかるのは問題ではないだろうか。ふと我に返った私はその現実に冷たい汗が浮かび、恐る恐ると涼太を見上げた。
「…私がいること、分かってたの?」
「当然。ああ、でも他のみんなは気付いてないから大丈夫っスよ」
「え?」
「たとえ髪型や服装変えてド派手な化粧しても、オレ、七瀬っちなら見つけられるから」
「どうして…」
「それだけ好きってこと」
こつんと額を合わせ、間近で恥ずかしげ 気もなく言われた言葉に カッと頬に熱が集まる。何言ってんの、と 誤魔化すように視線を逸らして 両手で彼の胸元を押した。意外にも涼太の身体はすんなりと私から離れて、自分がしたことなのに驚いて彼の顔を見上げれば ただ真っ直ぐに私を見下ろす凪いだ瞳に囚われる。涼太の、この目は。ドキリと身体を硬くした私を気にも溜めず、両腕を壁についた涼太が 逃げ道を断つようにその中に私を囲い込む。
「オレは本気だって、前に言ったよね」
「言った けど…!」
「オレが我慢してる間に他の誰かに掻っ攫われるなんて絶対に御免だし」
「誰か、って」
「色々いるっしょ?…最近は熱出してたり試合中だったりで我慢したけどさ」
「っ、」
ぐっと顔を寄せられて目前に迫った涼太の瞳は静かで、だけど確か熱を宿していて呼吸が止まるような感覚がした。もう分かっている、私はこの目から逃れられない。
「今は いいっスよね?」
「いい、って なにが」
「我慢しないから」
そんな涼太の声が耳に届いたのと、身体を引き寄せられたのは ほとんど同時だった。掴まれた肩に感じる強い力と、顔を上向けるように後頭部を持ち上げる大きな手。それから、唇に触れた熱。最初は食むように優しく触れていたそれは次第に深まり、薄く開いていた唇から熱が割り入ってくる。粘膜を撫で 舌を絡め取られ、思考も、呼吸さえも私から奪って行った。
ようやく解放されると同時に 湿った吐息が口から漏れる。七瀬、と 間近で私を呼ぶ涼太の甘い声にクラクラした。
「ねぇ、オレを見て」
祈るように、或いは請うように。切ないほどの甘さを孕んだ掠れた声に、もう何も考えないで溺れてしまいたいと思った。思考することを放棄するように目を伏せれば、私の全てを求める熱が再び降り注いだ。
昨日見に行った桐皇では相変わらず練習に大輝の姿はなかったけれど、それにしてもIHから更に成長したチームのとしてのレベルの高さが見て取れた。これが、ウィンターカップ初戦の相手。身の引き締まるような思いと同時に 確かな昂揚を覚えたのもまた事実だった。
そして今日は神奈川へ。目先の一戦一戦を軽んじて その先を見ているわけではない。けれど、事前に知っておいてもいい情報はあると思う。だから私は1人、チームを離れて電車に揺られていた。
◇
たどり着いた海常高校の体育館には 涼太のファンの子たちだろうか、何人もの女の子たちが群がるように体育館の中を覗いていて、彼女たちは様々な学校の制服 あるいは私服を身にまとっている。私が今日ここに着て来る服については、少し悩んで私服にしていた。制服で来ると誠凛の生徒だと主張することになってしまうから、涼太のファンに紛れるためにと思ったけれど 間違っていなかったようで安堵する。彼女たちに紛れるように出入り口に近付き、目立たないように最前列へは行かないで、だけど館内はしっかり見える場所に立つ。そして そこで行われている練習の様子を食い入るように見つめた。
◇
選手と鉢合わせることのないように、練習が終わる少し前には体育館を離れた。帰途につくため校門へと足を進めながら、先ほどまで見ていた風景を思い出す。涼太だけじゃなく、チームとしての力も確実に上がっている。キセキの世代がいるチームだけに注視すべきではないけれど、それでも……。
思考を巡らせながら歩いていると、突然 腕を引かれ 校舎の陰に引き込まれた。驚いて見上げた先にあるのは、キラキラと明るい髪色。
「りょ…っ!」
反射的に名前を呼ぼうとした私の口を、涼太の大きな手が塞ぐ。背中に触れた校舎の外壁がひんやりとした。しー、と 人差し指を口元に立てた涼太は 少し困ったように眉を下げて笑う。
「…他の子たちに見つかりたくないんスよね」
その言葉の意味を理解して、了承の意を示すために首を縦に振れば 涼太はニコリと微笑んで私の口元を解放した。そしてその手で撫でるように頬に触れ、確かめるように注がれる視線はどこまでも優しくて 少し戸惑いながら首を傾げた私は、すぐに彼の腕の中に閉じ込められた。
「あの、涼太…?」
「本物の七瀬っちだ」
ぎゅうっと私の身体を抱きしめて囁くように溢れた涼太の声は 少し震えていたような気がして、胸が締め付けられるような感覚がした。うん、私だよ。そう言って なだめるように彼の背中を撫でれば、私を捕まえる腕の力が僅かに強まる。こういう風に涼太に触れるのは久しぶりかもしれない。そんな事を考えたけれど、それよりも。偵察に来ている私が こうも易々と相手選手に見つかるのは問題ではないだろうか。ふと我に返った私はその現実に冷たい汗が浮かび、恐る恐ると涼太を見上げた。
「…私がいること、分かってたの?」
「当然。ああ、でも他のみんなは気付いてないから大丈夫っスよ」
「え?」
「たとえ髪型や服装変えてド派手な化粧しても、オレ、七瀬っちなら見つけられるから」
「どうして…」
「それだけ好きってこと」
こつんと額を合わせ、間近で恥ずかしげ 気もなく言われた言葉に カッと頬に熱が集まる。何言ってんの、と 誤魔化すように視線を逸らして 両手で彼の胸元を押した。意外にも涼太の身体はすんなりと私から離れて、自分がしたことなのに驚いて彼の顔を見上げれば ただ真っ直ぐに私を見下ろす凪いだ瞳に囚われる。涼太の、この目は。ドキリと身体を硬くした私を気にも溜めず、両腕を壁についた涼太が 逃げ道を断つようにその中に私を囲い込む。
「オレは本気だって、前に言ったよね」
「言った けど…!」
「オレが我慢してる間に他の誰かに掻っ攫われるなんて絶対に御免だし」
「誰か、って」
「色々いるっしょ?…最近は熱出してたり試合中だったりで我慢したけどさ」
「っ、」
ぐっと顔を寄せられて目前に迫った涼太の瞳は静かで、だけど確か熱を宿していて呼吸が止まるような感覚がした。もう分かっている、私はこの目から逃れられない。
「今は いいっスよね?」
「いい、って なにが」
「我慢しないから」
そんな涼太の声が耳に届いたのと、身体を引き寄せられたのは ほとんど同時だった。掴まれた肩に感じる強い力と、顔を上向けるように後頭部を持ち上げる大きな手。それから、唇に触れた熱。最初は食むように優しく触れていたそれは次第に深まり、薄く開いていた唇から熱が割り入ってくる。粘膜を撫で 舌を絡め取られ、思考も、呼吸さえも私から奪って行った。
ようやく解放されると同時に 湿った吐息が口から漏れる。七瀬、と 間近で私を呼ぶ涼太の甘い声にクラクラした。
「ねぇ、オレを見て」
祈るように、或いは請うように。切ないほどの甘さを孕んだ掠れた声に、もう何も考えないで溺れてしまいたいと思った。思考することを放棄するように目を伏せれば、私の全てを求める熱が再び降り注いだ。