ゼラニウムに捧ぐ
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人目を避けるような建物の陰を時折吹き抜ける夜風は肌寒いものであるはずなのに、体の芯は燃えるように熱くて 思考なんてドロドロに溶けてしまっている。露天風呂の方からだろうか、複数人の賑やかな声がガヤガヤと聞こえているけれど、随分と遠く感じて意識の中には留まらない。風に揺れる葉の音も、虫の鳴き声も、全部ぜんぶ遠く聞こえる。それなのに響く水音がやけにリアルで、生々しくて、だけど思考が溶けて機能していない頭じゃ もう何も考えられない。
両頬を挟むように私の顔を捕まえている大輝の顔が間近に見えて、その瞳の奥で荒ぶる熱にゾクリとする。熱っぽい吐息が、同時に漏れた。それを合図にするみたいに もう何度目になるか分からない深いキスが始まって、私は縋るように 彼の背中のシャツを掴んだ。酸素が、たりない。すでに自分で立っていられなくて壁に背中を預けている状態だったのに、ついには重力にも負けるようにカクンと膝が折れた。ずるずると崩落を始めた私を、それでも大輝は解放しない。深い深い口付けを止めず、地面に座り込んだ私を追いかけるように彼も地べたに両膝をつく。貪欲に、執拗に、喰らい尽くすように求められてクラクラする。
ようやく解放された口唇で大きく空気を吸い込み肩で息をする私の視界は、いつの間にか浮かんだ涙で滲んでいた。
「根性ねーな」
「う、る さい…!」
私の顔を見下ろして意地悪く笑った大輝をキッと睨むけれど、きっと意味などなかったのだろう。クツクツと喉奥で笑う大輝が、私の額に唇を寄せる。それから目尻、鼻先、頬とキスが降ってきて くすぐったさに目を伏せた。あんな風に 貪るようにぶつかって来たくせに、次の瞬間には まるで愛おしむみたいに優しく触れる。大輝が、分からない。彼は一体 なにを思って私に触れるのだろう。「おい、七瀬」そんなことを考えていた私の頭上から 低い声が降って来て、間近に見える大輝の顔を見上げ 首を傾げることで返答する。
「お前はオレのだって 忘れんなよ」
「は?」
「“全部寄越せ”って言っただろ」
「……言われたけど、了承してない」
「決定権はオレだ。お前じゃない」
なんとも独裁的な物言いに、むっと眉を寄せて不満を露にする。そんな私は無視をして こちらに手を伸ばした大輝が、さらりと撫でるように私の耳元の髪を掻き上げた。その仕草にただ戸惑うばかりだ。口を吐くのは横暴な言葉ばかりで、それなのに触れる手はこんなにも優しい。本当に、今日の大輝はどうしたのだろう。窺うように見上げた先の大輝が僅かに目を細める。その眼差しが彼のものではないみたいに穏やかで ぎゅっと心臓が甘く軋んだ。
「お前の周りは油断ならねぇヤツが多そうだからな」
「…?よく分からないけど、その筆頭みたいなのは大輝でしょ」
「はっ、違いねぇ」
不敵に笑ってみせた大輝は いつになく機嫌が良さそうに見える。私が、そう思い込みたいだけなのかもしれないけれど。大輝。確認するように彼の名前を呼べば、私に目を向けた大輝が口の端を持ち上げる。
「精々、オレの前で気を抜かねーように気を付けるんだな」
「気を付けるって、」
「…ま、関係ねーけど」
私の言葉を遮った大輝は、強引に私の後頭部を引き寄せて 有無を言わさず咬み付いた。こんな猛獣、気をつけようがないじゃないか。
◇
大輝の後に続くように 旅館の中へと戻る。全身の熱は、まだ完全には引いてくれてはいない。先ほど自販機で買ったポカリを手に 私の数歩前を歩く大輝との距離は付かず離れずで、私に歩調を合わせてくれているのだろうと思うと なんだか くすぐったい感じがした。けれど館内の廊下を歩いていると、急に大輝の歩調が速まる。ぐんぐん開く距離に 彼が向かう先に視線を向ければ、自販機の横に設置されているベンチに誰かが寝転んでいるのが見えた。あれは、もしかして…?
ベンチに近付いた大輝が、その人の顔の近くに持っていたポカリを置く。それを見て驚いたように起き上がったのは思い浮かべていた通りの人物で、言葉を交わす2人のもとに 私も慌てて駆け寄った。
「テツ君!どうしたの?大丈夫?」
「!佐倉さん……少しのぼせただけです」
大丈夫だと言って表情を緩めたテツ君にホッと安堵の息を吐く。けれど、そんな安堵感はすぐにどこかへ姿を消した。新しく書い直したジュースを飲む大輝と、足元に視線を落としてベンチに座るテツ君との間に流れる沈黙は何だか重苦しくて、居た堪れなくなる。どうして良いかも分からず 私もテツ君の隣に腰を下ろそうかと、そんな事を考えた時に沈黙を破ったのは大輝だった。
「…試合見たぜ」
先日の霧崎第一戦。大輝が言いたいのは テツ君の新技の話で、私は彼らの会話に口を出さないことを決めた。それは大輝たち“キセキの世代”と戦うために生み出されたものだと 挑むように視線を向けて言い切るテツ君に、大輝は軽く笑って一蹴する。
「ウィンターカップで勝つのは」
「…オレ達だ!」
「! 火神」
大輝の背後から肩を組むように現れた火神が、彼の言葉に被せて宣戦布告とも取れる言葉を発する。肩に回された腕を不満そうに払いのける大輝の態度を大して気にする様子もなく、大輝から離れた火神と視線が合って、その瞬間に彼は何かに気付いたように僅かに目を見開いた。
「佐倉、オマエ顔 少し赤くねーか?大丈夫かよ」
「え…?」
心配そうに一歩 踏み出した火神が 私の顔を覗き込むより先に、強い力に身体を引かれた。気が付いた時には私の肩に大輝の右腕が回されていて、背後から片腕で抱きしめられるような形になっている。
「おいおい、野暮なこと言ってんじゃねーよ」
「な…!」
「…あぁ?」
耳元で意味深に発せられた言葉に 頬が熱を持った気がした。それと同時に、普段より一段低い火神の声も聞こえてドキリとする。変なことを言わないでと そんな意味を込めて大輝の腕から抜け出そうとしたけれど、私の肩を抱く力が強くて それは叶わない。その事に僅かに眉を寄せた時「いい事 教えてやるよ」と徐に切り出された大輝の声を不思議に思いながら耳を傾けた。
「ウィンターカップ初戦の相手は、オレ達だ」
大輝の腕に囚われたまま、ただ驚きに目を見開いて背後の彼を見上げることしかできなかった。
両頬を挟むように私の顔を捕まえている大輝の顔が間近に見えて、その瞳の奥で荒ぶる熱にゾクリとする。熱っぽい吐息が、同時に漏れた。それを合図にするみたいに もう何度目になるか分からない深いキスが始まって、私は縋るように 彼の背中のシャツを掴んだ。酸素が、たりない。すでに自分で立っていられなくて壁に背中を預けている状態だったのに、ついには重力にも負けるようにカクンと膝が折れた。ずるずると崩落を始めた私を、それでも大輝は解放しない。深い深い口付けを止めず、地面に座り込んだ私を追いかけるように彼も地べたに両膝をつく。貪欲に、執拗に、喰らい尽くすように求められてクラクラする。
ようやく解放された口唇で大きく空気を吸い込み肩で息をする私の視界は、いつの間にか浮かんだ涙で滲んでいた。
「根性ねーな」
「う、る さい…!」
私の顔を見下ろして意地悪く笑った大輝をキッと睨むけれど、きっと意味などなかったのだろう。クツクツと喉奥で笑う大輝が、私の額に唇を寄せる。それから目尻、鼻先、頬とキスが降ってきて くすぐったさに目を伏せた。あんな風に 貪るようにぶつかって来たくせに、次の瞬間には まるで愛おしむみたいに優しく触れる。大輝が、分からない。彼は一体 なにを思って私に触れるのだろう。「おい、七瀬」そんなことを考えていた私の頭上から 低い声が降って来て、間近に見える大輝の顔を見上げ 首を傾げることで返答する。
「お前はオレのだって 忘れんなよ」
「は?」
「“全部寄越せ”って言っただろ」
「……言われたけど、了承してない」
「決定権はオレだ。お前じゃない」
なんとも独裁的な物言いに、むっと眉を寄せて不満を露にする。そんな私は無視をして こちらに手を伸ばした大輝が、さらりと撫でるように私の耳元の髪を掻き上げた。その仕草にただ戸惑うばかりだ。口を吐くのは横暴な言葉ばかりで、それなのに触れる手はこんなにも優しい。本当に、今日の大輝はどうしたのだろう。窺うように見上げた先の大輝が僅かに目を細める。その眼差しが彼のものではないみたいに穏やかで ぎゅっと心臓が甘く軋んだ。
「お前の周りは油断ならねぇヤツが多そうだからな」
「…?よく分からないけど、その筆頭みたいなのは大輝でしょ」
「はっ、違いねぇ」
不敵に笑ってみせた大輝は いつになく機嫌が良さそうに見える。私が、そう思い込みたいだけなのかもしれないけれど。大輝。確認するように彼の名前を呼べば、私に目を向けた大輝が口の端を持ち上げる。
「精々、オレの前で気を抜かねーように気を付けるんだな」
「気を付けるって、」
「…ま、関係ねーけど」
私の言葉を遮った大輝は、強引に私の後頭部を引き寄せて 有無を言わさず咬み付いた。こんな猛獣、気をつけようがないじゃないか。
◇
大輝の後に続くように 旅館の中へと戻る。全身の熱は、まだ完全には引いてくれてはいない。先ほど自販機で買ったポカリを手に 私の数歩前を歩く大輝との距離は付かず離れずで、私に歩調を合わせてくれているのだろうと思うと なんだか くすぐったい感じがした。けれど館内の廊下を歩いていると、急に大輝の歩調が速まる。ぐんぐん開く距離に 彼が向かう先に視線を向ければ、自販機の横に設置されているベンチに誰かが寝転んでいるのが見えた。あれは、もしかして…?
ベンチに近付いた大輝が、その人の顔の近くに持っていたポカリを置く。それを見て驚いたように起き上がったのは思い浮かべていた通りの人物で、言葉を交わす2人のもとに 私も慌てて駆け寄った。
「テツ君!どうしたの?大丈夫?」
「!佐倉さん……少しのぼせただけです」
大丈夫だと言って表情を緩めたテツ君にホッと安堵の息を吐く。けれど、そんな安堵感はすぐにどこかへ姿を消した。新しく書い直したジュースを飲む大輝と、足元に視線を落としてベンチに座るテツ君との間に流れる沈黙は何だか重苦しくて、居た堪れなくなる。どうして良いかも分からず 私もテツ君の隣に腰を下ろそうかと、そんな事を考えた時に沈黙を破ったのは大輝だった。
「…試合見たぜ」
先日の霧崎第一戦。大輝が言いたいのは テツ君の新技の話で、私は彼らの会話に口を出さないことを決めた。それは大輝たち“キセキの世代”と戦うために生み出されたものだと 挑むように視線を向けて言い切るテツ君に、大輝は軽く笑って一蹴する。
「ウィンターカップで勝つのは」
「…オレ達だ!」
「! 火神」
大輝の背後から肩を組むように現れた火神が、彼の言葉に被せて宣戦布告とも取れる言葉を発する。肩に回された腕を不満そうに払いのける大輝の態度を大して気にする様子もなく、大輝から離れた火神と視線が合って、その瞬間に彼は何かに気付いたように僅かに目を見開いた。
「佐倉、オマエ顔 少し赤くねーか?大丈夫かよ」
「え…?」
心配そうに一歩 踏み出した火神が 私の顔を覗き込むより先に、強い力に身体を引かれた。気が付いた時には私の肩に大輝の右腕が回されていて、背後から片腕で抱きしめられるような形になっている。
「おいおい、野暮なこと言ってんじゃねーよ」
「な…!」
「…あぁ?」
耳元で意味深に発せられた言葉に 頬が熱を持った気がした。それと同時に、普段より一段低い火神の声も聞こえてドキリとする。変なことを言わないでと そんな意味を込めて大輝の腕から抜け出そうとしたけれど、私の肩を抱く力が強くて それは叶わない。その事に僅かに眉を寄せた時「いい事 教えてやるよ」と徐に切り出された大輝の声を不思議に思いながら耳を傾けた。
「ウィンターカップ初戦の相手は、オレ達だ」
大輝の腕に囚われたまま、ただ驚きに目を見開いて背後の彼を見上げることしかできなかった。