ゼラニウムに捧ぐ
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涼太に手を引かれてやってきたのは体育館裏で、そこにはさすがにファンの女の子たちの姿もなかった。足を止めた涼太はこちらに向き直り、やっと手を放したかと思うと また当然のように私の体を抱きしめた。こんなに抱きつき癖あったかな、など 過去の記憶を遡りながら、宥めるように背中をぽんぽんと叩く。それから 離れることを促すように肩を押した。
私が加えた力に従うようにすんなりと離れた涼太は ひどく悲しそうな顔をしていて、私の方が苦しくなりそうだ。
「涼太…?」
「…オレって、七瀬っちにフラれてるんスか?」
「なにそれ。フラれるも何も、私は涼太に告白されたことないよ?」
「………え、ちょっと待って」
私の言葉を聞いた涼太は驚いたように目を見開いて、そりゃ確かに直接は言ってないけど、だのなんだの言いながら 分かりやすく困惑し始めた。今の会話のどこにそんなにも困るような箇所があったのだろうか。
疑問しか浮かばず首を傾げれば、涼太は恐る恐る、私の様子を窺うように口を開く。
「まさかとは思うけど、オレが七瀬っちを好きなのは知ってる?」
「…?そりゃそうでしょ。涼太は私もさつきも仲間と思ってくれてたでしょ?」
「いや、そうっスけど!そうだけど違うんスよ…え、そこから!?」
涼太は心底驚いたような、落胆したような、動転したような――なんとも表現しがたい複雑な表情で、だけど慌てふためいているということだけは何となく確信できた。
嘘だろまさかそこから?いや普通は分かるっしょ…。しゃがみこんで俯いて両手で頭を抱える涼太の表情は私からは見えない。だけどブツブツと所々聞こえてくる独り言は、独り言というよりもぼやきと言った方が適切だ。あれ、なんだか私が責められてる?耳に届いて拾えた内容から推察するに、どうやらそういうことのような気がしてきた。
何か悪いことをしたなら謝った方がいいのだろうか。そう思って声を掛けようとしたとき、顔を上げた涼太と目が合った。俯く前の表情とは打って変わって、刺さるほどに凪いだ瞳の奥で、チリチリと熱が灯っているのが見えた気がした。
「ねぇ、七瀬っち」
「は、はい…」
私の名前を呼ぶと同時に立ち上がった涼太は、見たことがないほど静かで、張り詰めたようなその雰囲気に気圧される。返事をする声も上ずり、ほぼ無意識のうちに後退った私の背中に体育館の外壁が触れた。
あ、と思うと同時に顔の両横に手が伸びてきて、壁と涼太に閉じ込められる。間近に迫った涼太の表情からは何の感情も読み取れず、ただ瞳の中で熱が燃えている。
「桃っちも好きっスけど、同じじゃない」
「どう、いうこと…?」
「聞くけど、オレが桃っちに抱きついてるの 見たことある?」
「…っ、いいえ」
「それがどういう事か 分かんないっスか?」
「そ、れは…」
「オレ、七瀬には欲情するよ」
「――っ!」
あまりにも直接的な言い方に、羞恥で顔に熱が集まるのが自分でも分かって 俯くことで顔を隠した。それと同時に、いつもと少し違う呼び方をされただけで、自分の名前がこんなにも熱を帯びるのかと恐ろしくなる。
「ま、待って、そんなの、いつから」
「最初からっス。最初から、ずっと」
「う、そ」
「オレはずっと好意伝えてアピールしてるつもりだったのに、まさか空振りしてたなんて」
「だ、だって、涼太は人懐っこいから、その延長なのかなって」
「うん、ちゃんと言ってこなかったオレも悪いっス」
ドクドクと爆発しそうに脈打つ心臓がうるさい。視線は足元に落としたままで、涼太の顔が見れない。
最初から?最初っていつ?中学2年で同じクラス、隣の席になった時。あの時からずっとだと言うのだろうか。嘘だ、だって涼太はそんな素振りを全然見せていなかった―――いいや、違う。彼は最初からいつだって真っ直ぐで全力で、私に好意を向けてくれていたのではないか。それを厚意としてしか受け取らず、直接的な言葉がないことに甘えて気付かないふりをしていたのは、きっと私の方だ。
私の後頭部に手が触れて、グッと無理矢理に上を向かされる。燃えるような熱を孕んだ眼差しに捕らわれてしまえば、もう、全ての感情から目を逸らせない。気付かないふりも、なかったことにもできない。
「でも、七瀬も悪い。―――思い知って」
涼太、と 名前を呼ぶことさえ許されずに口を塞がれる。反射的に胸を押し返すけれどビクともせず、腰を抱き寄せられることで余計に体が密着する。
ただ愛おしむように、全てを奪うように。荒々しさは微塵も感じさせないのに、どこまでも貪欲に。息苦しさに 縋るように涼太のシャツを掴めば、わずかに唇が離される。私が酸素を吸い込んだ瞬間に また深く深く求められ、私は為す術もなくそれを受け入れることしかできなかった。
どれだけの時間そうしていたのだろう。ようやく離れた涼太は私と目を合わせて、困ったようにギュッと眉を寄せる。それからもう一度 小さな音を立てて触れるだけの軽いキスをした。
「悪ぃけど、オレ 本気っスから。…それだけは、忘れないで」
くしゃくしゃと私の頭を撫でる涼太の手がとても優しくて、少し困惑する。それ以上は何も言わずに立ち去る背中を 何の言葉を発することもできずにただ見送った私は、しばらく呆然とその場に立ち尽くしていた。
私が加えた力に従うようにすんなりと離れた涼太は ひどく悲しそうな顔をしていて、私の方が苦しくなりそうだ。
「涼太…?」
「…オレって、七瀬っちにフラれてるんスか?」
「なにそれ。フラれるも何も、私は涼太に告白されたことないよ?」
「………え、ちょっと待って」
私の言葉を聞いた涼太は驚いたように目を見開いて、そりゃ確かに直接は言ってないけど、だのなんだの言いながら 分かりやすく困惑し始めた。今の会話のどこにそんなにも困るような箇所があったのだろうか。
疑問しか浮かばず首を傾げれば、涼太は恐る恐る、私の様子を窺うように口を開く。
「まさかとは思うけど、オレが七瀬っちを好きなのは知ってる?」
「…?そりゃそうでしょ。涼太は私もさつきも仲間と思ってくれてたでしょ?」
「いや、そうっスけど!そうだけど違うんスよ…え、そこから!?」
涼太は心底驚いたような、落胆したような、動転したような――なんとも表現しがたい複雑な表情で、だけど慌てふためいているということだけは何となく確信できた。
嘘だろまさかそこから?いや普通は分かるっしょ…。しゃがみこんで俯いて両手で頭を抱える涼太の表情は私からは見えない。だけどブツブツと所々聞こえてくる独り言は、独り言というよりもぼやきと言った方が適切だ。あれ、なんだか私が責められてる?耳に届いて拾えた内容から推察するに、どうやらそういうことのような気がしてきた。
何か悪いことをしたなら謝った方がいいのだろうか。そう思って声を掛けようとしたとき、顔を上げた涼太と目が合った。俯く前の表情とは打って変わって、刺さるほどに凪いだ瞳の奥で、チリチリと熱が灯っているのが見えた気がした。
「ねぇ、七瀬っち」
「は、はい…」
私の名前を呼ぶと同時に立ち上がった涼太は、見たことがないほど静かで、張り詰めたようなその雰囲気に気圧される。返事をする声も上ずり、ほぼ無意識のうちに後退った私の背中に体育館の外壁が触れた。
あ、と思うと同時に顔の両横に手が伸びてきて、壁と涼太に閉じ込められる。間近に迫った涼太の表情からは何の感情も読み取れず、ただ瞳の中で熱が燃えている。
「桃っちも好きっスけど、同じじゃない」
「どう、いうこと…?」
「聞くけど、オレが桃っちに抱きついてるの 見たことある?」
「…っ、いいえ」
「それがどういう事か 分かんないっスか?」
「そ、れは…」
「オレ、七瀬には欲情するよ」
「――っ!」
あまりにも直接的な言い方に、羞恥で顔に熱が集まるのが自分でも分かって 俯くことで顔を隠した。それと同時に、いつもと少し違う呼び方をされただけで、自分の名前がこんなにも熱を帯びるのかと恐ろしくなる。
「ま、待って、そんなの、いつから」
「最初からっス。最初から、ずっと」
「う、そ」
「オレはずっと好意伝えてアピールしてるつもりだったのに、まさか空振りしてたなんて」
「だ、だって、涼太は人懐っこいから、その延長なのかなって」
「うん、ちゃんと言ってこなかったオレも悪いっス」
ドクドクと爆発しそうに脈打つ心臓がうるさい。視線は足元に落としたままで、涼太の顔が見れない。
最初から?最初っていつ?中学2年で同じクラス、隣の席になった時。あの時からずっとだと言うのだろうか。嘘だ、だって涼太はそんな素振りを全然見せていなかった―――いいや、違う。彼は最初からいつだって真っ直ぐで全力で、私に好意を向けてくれていたのではないか。それを厚意としてしか受け取らず、直接的な言葉がないことに甘えて気付かないふりをしていたのは、きっと私の方だ。
私の後頭部に手が触れて、グッと無理矢理に上を向かされる。燃えるような熱を孕んだ眼差しに捕らわれてしまえば、もう、全ての感情から目を逸らせない。気付かないふりも、なかったことにもできない。
「でも、七瀬も悪い。―――思い知って」
涼太、と 名前を呼ぶことさえ許されずに口を塞がれる。反射的に胸を押し返すけれどビクともせず、腰を抱き寄せられることで余計に体が密着する。
ただ愛おしむように、全てを奪うように。荒々しさは微塵も感じさせないのに、どこまでも貪欲に。息苦しさに 縋るように涼太のシャツを掴めば、わずかに唇が離される。私が酸素を吸い込んだ瞬間に また深く深く求められ、私は為す術もなくそれを受け入れることしかできなかった。
どれだけの時間そうしていたのだろう。ようやく離れた涼太は私と目を合わせて、困ったようにギュッと眉を寄せる。それからもう一度 小さな音を立てて触れるだけの軽いキスをした。
「悪ぃけど、オレ 本気っスから。…それだけは、忘れないで」
くしゃくしゃと私の頭を撫でる涼太の手がとても優しくて、少し困惑する。それ以上は何も言わずに立ち去る背中を 何の言葉を発することもできずにただ見送った私は、しばらく呆然とその場に立ち尽くしていた。