ゼラニウムに捧ぐ
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別の上着があると言う木吉さんに甘え、ジャージの上着を借りて羽織る。私が木吉さんのジャージを着て控え室に戻った理由は、ボトルを洗っている時に服を派手に濡らしてしまったからだという木吉さんの説明にみんなは納得してくれ安堵する。髪も下ろしたし、襟で首元は隠せているはずだ。戻る前に木吉さんに確認もしてもらっている。それでも視線を向けられるのは不安になって、チームメイト達と同じ部屋にいるのが居た堪れなく感じていた。
「…つーか、黒子どこ行った?」
「さっきまでボール持ってそこに居たような…」
「! それなら私、探してきますね!」
テツ君の不在に気が付いた会話を これ幸いと、テツ君探しを口実に控え室を飛び出した。明るい室内にいるより 暗い外にいる方が気付かれる可能性も低くなると思ったし、どうやら私は 何かあった時はテツ君に会いたくなるようだ。
◇
なんとなくで体育館の外に出れば、階段の下にバスケットゴールが設置されているのが見えた。そこで真剣にボールを弾ませるテツ君の姿を見つけて、私は迷わずそちらへと足を向けた。
「テツ君!」
「!… 佐倉さん」
私の声に驚いたような反応をしたテツ君は、きっと集中していて全く気付いていなかったのだろう。トントンとリズミカルに階段を下りて、彼の側に歩み寄る。しっかりと汗をかいているその様子から、かなりハードな動きをしていたことが想像できた。試合をした後にすぐまたこんなにも動き回るなんて、男の子って不思議だ。
「どうしたの?みんな帰る準備してるよ」
「すみません。ジッとしていられなくて」
申し訳なさそうに言うあたり、居ても立っても居られなかったのだろう。これが武者震いというものなのだろうか、テツ君の気が昂ぶっているのがありありと分かる。ポーカーフェイスとはいえ熱い面があるテツ君だから何ら不思議ではないけれど、ここまで気が立っている様子は中学時代から通しても初めて見た。それも、仕方のないことなのかもしれないけれど。
「真ちゃんも勝ってた。みんな、ウィンターカップに出るんだよね」
「そうですね」
「…戦うの、楽しみ?」
「そうですね……でも、心配も大きいです」
「心配?」
ジッと私と目を合わせた彼の言葉に目を瞬かせて、こてんと首を傾げた。身体を折り曲げてそっと地面にボールを置いたテツ君が、顔を上げればまた真っ直ぐな瞳に捕らわれる。
こちらにゆっくりと伸ばされた手が首元に触れて、そこを隠すようにジャージの襟の中に入れ込んでいた髪を 引き出すように払われる。慌てて隠すように首に手を当てるけれど、きっとそれに意味なんてない。テツ君には気付かれている。そう察した瞬間に恥ずかしくなって、逃げるように視線を足元に落とした。
「ボクの忠告も 佐倉さんにはイマイチ伝わっていないようですし」
「…ち、違うの!これは別に気を抜いてたとかじゃなくて、」
彼の言葉にパッと顔を上げて、誤魔化すように左右に振った手を握られてドキリとする。そのまま握られた手を引かれ、つんのめるように一歩踏み出せば 全身が触れ合いそうなほど近くにテツ君が見えた。向けられる視線はただただ真っ直ぐで、いつもと同じ穏やかで深い瞳。だけど間近にあるその目の奥に宿るのは 逃れようのない確かな熱で、心臓が大きく跳ねた。金縛りにでもあったみたいに身動きが取れなくなった私は、熱に捕らわれて視線を逸らすことさえ許されない。男の人の、眼だ。そう思った私が何か言葉を発するより先に口を開いたのは、テツ君の方だった。
「それを とやかく言う資格は、ボクにはありませんが」
「っ…、」
撫でるように頬に触れた彼の手がくすぐったくて、僅かに肩が跳ねる。親指で唇をなぞられ ぞくりとする。テツ君の顔がゆっくりと近付いてくるのがスローモーションみたいに見えた。身動きも取れないまま そっと唇が重ねられる。でもそれはすぐに離れて 鼻先が触れるような距離で視線を絡め取るのは、逃げたくなるほど真っ直ぐな瞳。
「――負けていられないな、とは 思います」
「…!ま、待って テツ君、」
熱を孕んだ視線から逃げるみたいに俯いた私の両頬を 挟むように彼の両手が添えられ、顔を持ち上げられる。間近に見えるのは私のよく知るテツ君で、それなのに始めてみる顔をしている気がした。
「待ちません。ボクも男だって 言ったでしょう」
ぐっと顔を引かれ、もう一度 唇が重なる。さっきの触れるだけのものとは違って 次第に深くなって行くそれに、私の脳は思考することを放棄してしまった。
その日、決してさつきに言えない秘密ができた。
「…つーか、黒子どこ行った?」
「さっきまでボール持ってそこに居たような…」
「! それなら私、探してきますね!」
テツ君の不在に気が付いた会話を これ幸いと、テツ君探しを口実に控え室を飛び出した。明るい室内にいるより 暗い外にいる方が気付かれる可能性も低くなると思ったし、どうやら私は 何かあった時はテツ君に会いたくなるようだ。
◇
なんとなくで体育館の外に出れば、階段の下にバスケットゴールが設置されているのが見えた。そこで真剣にボールを弾ませるテツ君の姿を見つけて、私は迷わずそちらへと足を向けた。
「テツ君!」
「!… 佐倉さん」
私の声に驚いたような反応をしたテツ君は、きっと集中していて全く気付いていなかったのだろう。トントンとリズミカルに階段を下りて、彼の側に歩み寄る。しっかりと汗をかいているその様子から、かなりハードな動きをしていたことが想像できた。試合をした後にすぐまたこんなにも動き回るなんて、男の子って不思議だ。
「どうしたの?みんな帰る準備してるよ」
「すみません。ジッとしていられなくて」
申し訳なさそうに言うあたり、居ても立っても居られなかったのだろう。これが武者震いというものなのだろうか、テツ君の気が昂ぶっているのがありありと分かる。ポーカーフェイスとはいえ熱い面があるテツ君だから何ら不思議ではないけれど、ここまで気が立っている様子は中学時代から通しても初めて見た。それも、仕方のないことなのかもしれないけれど。
「真ちゃんも勝ってた。みんな、ウィンターカップに出るんだよね」
「そうですね」
「…戦うの、楽しみ?」
「そうですね……でも、心配も大きいです」
「心配?」
ジッと私と目を合わせた彼の言葉に目を瞬かせて、こてんと首を傾げた。身体を折り曲げてそっと地面にボールを置いたテツ君が、顔を上げればまた真っ直ぐな瞳に捕らわれる。
こちらにゆっくりと伸ばされた手が首元に触れて、そこを隠すようにジャージの襟の中に入れ込んでいた髪を 引き出すように払われる。慌てて隠すように首に手を当てるけれど、きっとそれに意味なんてない。テツ君には気付かれている。そう察した瞬間に恥ずかしくなって、逃げるように視線を足元に落とした。
「ボクの忠告も 佐倉さんにはイマイチ伝わっていないようですし」
「…ち、違うの!これは別に気を抜いてたとかじゃなくて、」
彼の言葉にパッと顔を上げて、誤魔化すように左右に振った手を握られてドキリとする。そのまま握られた手を引かれ、つんのめるように一歩踏み出せば 全身が触れ合いそうなほど近くにテツ君が見えた。向けられる視線はただただ真っ直ぐで、いつもと同じ穏やかで深い瞳。だけど間近にあるその目の奥に宿るのは 逃れようのない確かな熱で、心臓が大きく跳ねた。金縛りにでもあったみたいに身動きが取れなくなった私は、熱に捕らわれて視線を逸らすことさえ許されない。男の人の、眼だ。そう思った私が何か言葉を発するより先に口を開いたのは、テツ君の方だった。
「それを とやかく言う資格は、ボクにはありませんが」
「っ…、」
撫でるように頬に触れた彼の手がくすぐったくて、僅かに肩が跳ねる。親指で唇をなぞられ ぞくりとする。テツ君の顔がゆっくりと近付いてくるのがスローモーションみたいに見えた。身動きも取れないまま そっと唇が重ねられる。でもそれはすぐに離れて 鼻先が触れるような距離で視線を絡め取るのは、逃げたくなるほど真っ直ぐな瞳。
「――負けていられないな、とは 思います」
「…!ま、待って テツ君、」
熱を孕んだ視線から逃げるみたいに俯いた私の両頬を 挟むように彼の両手が添えられ、顔を持ち上げられる。間近に見えるのは私のよく知るテツ君で、それなのに始めてみる顔をしている気がした。
「待ちません。ボクも男だって 言ったでしょう」
ぐっと顔を引かれ、もう一度 唇が重なる。さっきの触れるだけのものとは違って 次第に深くなって行くそれに、私の脳は思考することを放棄してしまった。
その日、決してさつきに言えない秘密ができた。