ゼラニウムに捧ぐ
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76対70で試合終了のブザーが鳴る。その瞬間 霧崎第一戦の勝利と同時に、誠凛高校のウィンターカップ出場が決まった。喜びを爆発させる選手たちの中で、難しい顔をした日向さんが木吉さんとハイタッチを交わす。私の隣でリコさんが流した涙の本当の意味は、きっと私には計り知れないのだろう。
◇
試合後はいつも通り、ドリンクボトルを抱えて手洗い場を目指して通路を歩く。勝利した喜び、ウィンターカップ出場を勝ち取った誇らしさ。だけどそれより私の胸を占めていたのは、霧崎第一を相手に“負傷退場者”を出さずに試合を終えられた安堵感だったのかもしれない。
木吉さんも大事に至る前に交代してもらえた。その上で勝利することが出来た。手洗い場に歩み寄りながらほっと息を吐くと、後ろから足音が近付いて来ていることに気が付く。その足音が私を抜き去る瞬間、強い力で二の腕を掴まれた。不意のことにビクリと肩が跳ねた私を気にも留めず 腕を引くように歩き進められれば、抱えていたボトルがバラバラと音を立ててその場に落ちる。目の前に見えるその後ろ姿に冷たい汗が背中を伝う感覚がした。
抵抗するように立ち止まろうとしても 私の腕を引く強い力がそれを許してくれず、立ち入り禁止の文字が書かれたバリケードを超えて薄暗い通路に引き込まれる。そこが人目につきにくい場所だという事はすぐに理解が出来て、私を壁際に追い込むように立つその人――花宮真の隙をついて逃げられないかと、彼の顔を伺うようにちらりと見上げ、そして瞬時に後悔した。視線が絡み、全身が凍り付いてしまう。私は心底、この人を怖いと思っているのだ。何の用だと声に出すことも出来ず、訝しむように視線で訴える事しかできない。
「…、っ!」
嘲るように笑った花宮さんに眉を寄せたところで、肩を押されて背中が壁にぶつかった。僅かな痛みに顔を顰めれば、目の前の口元は苛立ちを含んだように、だけど確かに愉快そうに弧を描く。
「オレの計算をここまで狂わされたのは初めてでね…苛立ってんだよ」
「っ、知らない!貴方がした事、私は絶対に許さないから」
「へぇ…まぁどうでもいいよ。木吉をつぶし損ねたし、お前だけでもね」
「な、に…?」
「ボロボロのお姫様を見たら、アイツらどんな顔するだろうな」
彼の言う意味は理解できなくて、私の肩を掴む手に力が込められた痛みだけが妙にリアルだ。困惑する私をよそに 彼が私の首元に顔を寄せれば、首筋に体温が触れた。何をされたか理解して胸元を押し返すけれど ビクともしなくて、私の抵抗を嘲笑うように 触れられてる場所に痛みが走って肩が跳ねる。口元が離れ、舌が這い、また触れて、痛みが走る。何度も何度も、首筋全体に散りばめるようにそれが繰り返され、彼の身体を押し返す事で拒絶を示していた私の腕は いつの間にか壁に押さえつけられていた。いやだ、やめてと発する言葉も、この人を喜ばせるだけなのだと知る。
幾つも赤を滲ませて ようやく首元から顔を上げた花宮さんは覗き込むように私と目を合わせて、指先で私の首筋を撫でながら 口の端を舐めて満足そうに笑った。
「いいね、そそる」
「っ、こんなの何の意味があるんですか…!」
「意味なんてねーよ」
冷たい声が聞こえて、首を掴まれ壁に押し付けられる。一瞬 息がつまるような感覚に 何をするのだと文句を言おうと顔を上げるけれど、言葉を発するより先に 口を塞がれた。私の口を塞ぐ、それは。ザワリと背筋が粟立ち目の前の人の胸元を叩くけれど、手首を掴まれ また壁に押さえつけられて封じられる。分かっている、腕力で敵いっこないのだ。
逃げるように顔を背けようとすれば 私の首を掴んでいる手に力が込められ、苦しさに思わず口を開いた瞬間に舌が捩じ込まれる。いやだ、こわい、たすけて、きもちわるい。犯すように口内を這う舌に涙が出そうになるけれど、これが私を傷つけるためだけの行為だと分かるから、絶対に泣いてはいけない。泣いてしまえば この人の思う壺なのだと自分に言い聞かせる。だから私は、這い回る舌に思い切り歯を立てた。
一瞬怯んだであろうその瞬間に思い切り突き飛ばすように花宮さんの身体を押せば、1,2歩ほど距離が空く。手の甲で自分の口元をゴシゴシと拭うように擦りながら その顔を睨みつけた。
「最低…!」
「ふはっ、いい顔してんじゃん」
舌先を親指の腹で拭いながら楽しそうな笑みを浮かべる目の前の男に湧き上がるのは、純粋な嫌悪感。頬に触れようと伸ばされた手を払い退ければ意外そうに目を瞬かせて、今度は簡単に手を引っ込めて だけどやっぱり楽しそうに笑う。
「みんなに見られないといいね」
自分の首筋をトントンと指差して「またね、七瀬チャン」と上辺だけの挨拶を残して立ち去る背中を睨むように見送る。その姿が見えなくなると全身の力が抜け、気付いた時にはずるずると崩れるように床に座り込んでいた。
もう一度 拭うように手の甲で口元に触れ、反対の手で隠すように首筋に手を当てて項垂れる。こんなの、どうやって隠せばいいの。泣いてしまいたい、絶対に泣きたくない。そんな葛藤の中で じわりと視界が滲んだ。
◇
試合後はいつも通り、ドリンクボトルを抱えて手洗い場を目指して通路を歩く。勝利した喜び、ウィンターカップ出場を勝ち取った誇らしさ。だけどそれより私の胸を占めていたのは、霧崎第一を相手に“負傷退場者”を出さずに試合を終えられた安堵感だったのかもしれない。
木吉さんも大事に至る前に交代してもらえた。その上で勝利することが出来た。手洗い場に歩み寄りながらほっと息を吐くと、後ろから足音が近付いて来ていることに気が付く。その足音が私を抜き去る瞬間、強い力で二の腕を掴まれた。不意のことにビクリと肩が跳ねた私を気にも留めず 腕を引くように歩き進められれば、抱えていたボトルがバラバラと音を立ててその場に落ちる。目の前に見えるその後ろ姿に冷たい汗が背中を伝う感覚がした。
抵抗するように立ち止まろうとしても 私の腕を引く強い力がそれを許してくれず、立ち入り禁止の文字が書かれたバリケードを超えて薄暗い通路に引き込まれる。そこが人目につきにくい場所だという事はすぐに理解が出来て、私を壁際に追い込むように立つその人――花宮真の隙をついて逃げられないかと、彼の顔を伺うようにちらりと見上げ、そして瞬時に後悔した。視線が絡み、全身が凍り付いてしまう。私は心底、この人を怖いと思っているのだ。何の用だと声に出すことも出来ず、訝しむように視線で訴える事しかできない。
「…、っ!」
嘲るように笑った花宮さんに眉を寄せたところで、肩を押されて背中が壁にぶつかった。僅かな痛みに顔を顰めれば、目の前の口元は苛立ちを含んだように、だけど確かに愉快そうに弧を描く。
「オレの計算をここまで狂わされたのは初めてでね…苛立ってんだよ」
「っ、知らない!貴方がした事、私は絶対に許さないから」
「へぇ…まぁどうでもいいよ。木吉をつぶし損ねたし、お前だけでもね」
「な、に…?」
「ボロボロのお姫様を見たら、アイツらどんな顔するだろうな」
彼の言う意味は理解できなくて、私の肩を掴む手に力が込められた痛みだけが妙にリアルだ。困惑する私をよそに 彼が私の首元に顔を寄せれば、首筋に体温が触れた。何をされたか理解して胸元を押し返すけれど ビクともしなくて、私の抵抗を嘲笑うように 触れられてる場所に痛みが走って肩が跳ねる。口元が離れ、舌が這い、また触れて、痛みが走る。何度も何度も、首筋全体に散りばめるようにそれが繰り返され、彼の身体を押し返す事で拒絶を示していた私の腕は いつの間にか壁に押さえつけられていた。いやだ、やめてと発する言葉も、この人を喜ばせるだけなのだと知る。
幾つも赤を滲ませて ようやく首元から顔を上げた花宮さんは覗き込むように私と目を合わせて、指先で私の首筋を撫でながら 口の端を舐めて満足そうに笑った。
「いいね、そそる」
「っ、こんなの何の意味があるんですか…!」
「意味なんてねーよ」
冷たい声が聞こえて、首を掴まれ壁に押し付けられる。一瞬 息がつまるような感覚に 何をするのだと文句を言おうと顔を上げるけれど、言葉を発するより先に 口を塞がれた。私の口を塞ぐ、それは。ザワリと背筋が粟立ち目の前の人の胸元を叩くけれど、手首を掴まれ また壁に押さえつけられて封じられる。分かっている、腕力で敵いっこないのだ。
逃げるように顔を背けようとすれば 私の首を掴んでいる手に力が込められ、苦しさに思わず口を開いた瞬間に舌が捩じ込まれる。いやだ、こわい、たすけて、きもちわるい。犯すように口内を這う舌に涙が出そうになるけれど、これが私を傷つけるためだけの行為だと分かるから、絶対に泣いてはいけない。泣いてしまえば この人の思う壺なのだと自分に言い聞かせる。だから私は、這い回る舌に思い切り歯を立てた。
一瞬怯んだであろうその瞬間に思い切り突き飛ばすように花宮さんの身体を押せば、1,2歩ほど距離が空く。手の甲で自分の口元をゴシゴシと拭うように擦りながら その顔を睨みつけた。
「最低…!」
「ふはっ、いい顔してんじゃん」
舌先を親指の腹で拭いながら楽しそうな笑みを浮かべる目の前の男に湧き上がるのは、純粋な嫌悪感。頬に触れようと伸ばされた手を払い退ければ意外そうに目を瞬かせて、今度は簡単に手を引っ込めて だけどやっぱり楽しそうに笑う。
「みんなに見られないといいね」
自分の首筋をトントンと指差して「またね、七瀬チャン」と上辺だけの挨拶を残して立ち去る背中を睨むように見送る。その姿が見えなくなると全身の力が抜け、気付いた時にはずるずると崩れるように床に座り込んでいた。
もう一度 拭うように手の甲で口元に触れ、反対の手で隠すように首筋に手を当てて項垂れる。こんなの、どうやって隠せばいいの。泣いてしまいたい、絶対に泣きたくない。そんな葛藤の中で じわりと視界が滲んだ。