ゼラニウムに捧ぐ
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間近で絡まる視線は いつもの優しく温かいものではなくて、怯んでしまいそうな鋭ささえ感じさせる。「あ、の…」まともな言葉も紡げない私の鎖骨の真ん中あたりに、トンと木吉さんの指先が触れた。
「そんな恰好で、男を家にあげようとするもんじゃないぞ」
そんな格好。その言葉で始めて自分の事に意識を向けた。Tシャツにショートパンツという 休日を過ごす時の良くあるスタイル。服は上下ともにそれなりにちゃんとした物だと思うから 部屋着というわけでも無いし、人に会うのが恥ずかしい服装ではない。けれど、木吉さんが言っているのは そういう意味じゃない。いくら借りたタオルを肩にかけていたとは言え、先ほどまで強い雨に晒されていたせいで濡れたTシャツが肌に張り付き、キャミソールが透けている。そんな事さえ意識から抜け落ちるほどに、私は舞い上がっていたのだろうか。ポタリ、と どこかから滴り落ちた水滴が廊下を叩く音が やけに大きく聞こえた気がした。
キャミソールを着ていたおかげで透けて見えたのは下着ではなかったことが幸いだけど、それでも本来なら異性に見せていい姿ではないだろう。そう思考が追いついたところで急激に恥ずかしくなって、顔に熱が集まってくるのが分かった。
「…っ、着替えてきます!」
「ダメだ」
踵を返して逃げるように自室へ向かおうとした私の身体は 否定の言葉と共に引き戻される。気が付いた時には木吉さんに抱き竦められていて、身動きが取れない。お互いの服はびしょ濡れで肌に貼り付いていて、冷たいはずなのに 肌同士が直に触れてるみたいに温かくて 早鐘を打つように心臓が暴れ出す。この五月蝿い心音が 聴こえてしまうんじゃないかと思えば、恥ずかしくて隠れたくなった。「きよしさん」弱々しい声で彼の名前を呼んだのを合図にするみたいに、グッとシャツの首元を引き下げられ 露わになった肩口に木吉さんが顔を埋める。そして小さな音を立てながら何度も首元に唇が触れた。時折 淡く食むような感覚があって ふるりと肩が震える。
「痛々しい痕 付けやがって…」
不満そうに零れたそれが何に対する言葉なのかすぐに分かった。鏡を見たわけではないから自分では確認してないけれど、先ほどから木吉さんが触れていたのは 敦に噛まれた場所だ。それから、敦の舌が這った場所をなぞるように 何度も唇で触れながら首筋を上っていく。くすぐったさから逃げるように顔を背ける私の耳元に触れられた時、たまらず肩が跳ねたのを最後に ようやく木吉さんの顔が離れていく。それから身体は抱きしめられたまま、顔を覗き込むようにしっかりと私と目を合わせた。
「どうする?こんなことするヤツを、まだ家に入れたいか?」
「…着替えて、きます」
何となく負けたくなくて、意地になっていたのかもしれない。挑発的な笑みで言われたその言葉に、私はほんの数分前と同じ台詞を返した。絶対に折れないという意思表示に、ジッと木吉さんの目を見る。そんな私に彼は面食らったように一度目を瞬かせて、それから ははっ、と楽しそうに笑った。
「ダメだって言っただろ」
笑顔で告げられたのは否定の言葉で、その大きな手に後頭部を引き寄せられる。これ以上の反論は許さないとでも言うかのように、木吉さんは私の口を塞いだ。
◇
結局、木吉さんにはしっかりと身体を拭いてもらって、乾いたタオルと傘を持ち帰ってもらうことで決着がついた。なんだか必死になりすぎてしまっただろうかと、ソファの上で膝を抱えて座って顔を伏せ、一人反省会のようになっていた。
そんな時、テーブルの上に置いていた携帯電話から短い通知音が鳴る。メールだ。メールなら後で確認すればいいだろうと放置しようとしたけれど、何となく、本当に何となく、すぐに立ち上がって確認する。
「え……、えぇ!?」
画面に表示されている送信者とその内容に、思わず驚きの声が漏れた。だって、まさか、そんな。そう思った後は、何も考えずに家を飛び出していた。
メールに書かれていたのは、近所の公園への呼び出し。来てほしい、と 請うような文面は 私を駆り立てるには十分すぎる。
住宅街を駆け抜けて、たどり着いた公園には誰の姿も見当たらない。走ったことで乱れた呼吸を整えながら、ゆっくりと公園の中へと足を進める。ちょうど公園の真ん中あたりに立てられた時計を見上げて、あ、雨が止んでる、そんなことを思った。家を出た時から降っていなかったはずなのに、空が暗くなってきていることにも、雨が降っていないことにも今更気が付く自分の必死さに苦笑いが漏れる。
その時、ふわりと後ろから抱きしめるように身体に腕が回された。不意のことにびくりと肩が跳ねたけれど、私はこの腕を知っている。
「久しぶりだな、七瀬」
「―――赤司くん」
耳元で聞こえた穏やかな声に、彼の名前を呼ぶ。抱きしめられていた腕がすぐに解かれ、身体ごと振り返れば 最後に会った時と変わらないその人の姿が見えた。
「…やっぱり、赤司くんだ」
「七瀬は相変わらず容赦がないな」
困ったように笑う赤司くんに、胸の中でごちゃ混ぜの感情が渦巻く。嬉しいのか、悲しいのか、寂しいのか、幸せなのか、それさえも分からない。
「会いたかった」
真っ直ぐに言われた言葉に、鼻の奥がツンとする。ああ、どうしてだろう、泣きたくなった。堪えるようにギュッと唇を噛み締めた私の頬を 赤司くんの手が優しく撫でた。
「そんな恰好で、男を家にあげようとするもんじゃないぞ」
そんな格好。その言葉で始めて自分の事に意識を向けた。Tシャツにショートパンツという 休日を過ごす時の良くあるスタイル。服は上下ともにそれなりにちゃんとした物だと思うから 部屋着というわけでも無いし、人に会うのが恥ずかしい服装ではない。けれど、木吉さんが言っているのは そういう意味じゃない。いくら借りたタオルを肩にかけていたとは言え、先ほどまで強い雨に晒されていたせいで濡れたTシャツが肌に張り付き、キャミソールが透けている。そんな事さえ意識から抜け落ちるほどに、私は舞い上がっていたのだろうか。ポタリ、と どこかから滴り落ちた水滴が廊下を叩く音が やけに大きく聞こえた気がした。
キャミソールを着ていたおかげで透けて見えたのは下着ではなかったことが幸いだけど、それでも本来なら異性に見せていい姿ではないだろう。そう思考が追いついたところで急激に恥ずかしくなって、顔に熱が集まってくるのが分かった。
「…っ、着替えてきます!」
「ダメだ」
踵を返して逃げるように自室へ向かおうとした私の身体は 否定の言葉と共に引き戻される。気が付いた時には木吉さんに抱き竦められていて、身動きが取れない。お互いの服はびしょ濡れで肌に貼り付いていて、冷たいはずなのに 肌同士が直に触れてるみたいに温かくて 早鐘を打つように心臓が暴れ出す。この五月蝿い心音が 聴こえてしまうんじゃないかと思えば、恥ずかしくて隠れたくなった。「きよしさん」弱々しい声で彼の名前を呼んだのを合図にするみたいに、グッとシャツの首元を引き下げられ 露わになった肩口に木吉さんが顔を埋める。そして小さな音を立てながら何度も首元に唇が触れた。時折 淡く食むような感覚があって ふるりと肩が震える。
「痛々しい痕 付けやがって…」
不満そうに零れたそれが何に対する言葉なのかすぐに分かった。鏡を見たわけではないから自分では確認してないけれど、先ほどから木吉さんが触れていたのは 敦に噛まれた場所だ。それから、敦の舌が這った場所をなぞるように 何度も唇で触れながら首筋を上っていく。くすぐったさから逃げるように顔を背ける私の耳元に触れられた時、たまらず肩が跳ねたのを最後に ようやく木吉さんの顔が離れていく。それから身体は抱きしめられたまま、顔を覗き込むようにしっかりと私と目を合わせた。
「どうする?こんなことするヤツを、まだ家に入れたいか?」
「…着替えて、きます」
何となく負けたくなくて、意地になっていたのかもしれない。挑発的な笑みで言われたその言葉に、私はほんの数分前と同じ台詞を返した。絶対に折れないという意思表示に、ジッと木吉さんの目を見る。そんな私に彼は面食らったように一度目を瞬かせて、それから ははっ、と楽しそうに笑った。
「ダメだって言っただろ」
笑顔で告げられたのは否定の言葉で、その大きな手に後頭部を引き寄せられる。これ以上の反論は許さないとでも言うかのように、木吉さんは私の口を塞いだ。
◇
結局、木吉さんにはしっかりと身体を拭いてもらって、乾いたタオルと傘を持ち帰ってもらうことで決着がついた。なんだか必死になりすぎてしまっただろうかと、ソファの上で膝を抱えて座って顔を伏せ、一人反省会のようになっていた。
そんな時、テーブルの上に置いていた携帯電話から短い通知音が鳴る。メールだ。メールなら後で確認すればいいだろうと放置しようとしたけれど、何となく、本当に何となく、すぐに立ち上がって確認する。
「え……、えぇ!?」
画面に表示されている送信者とその内容に、思わず驚きの声が漏れた。だって、まさか、そんな。そう思った後は、何も考えずに家を飛び出していた。
メールに書かれていたのは、近所の公園への呼び出し。来てほしい、と 請うような文面は 私を駆り立てるには十分すぎる。
住宅街を駆け抜けて、たどり着いた公園には誰の姿も見当たらない。走ったことで乱れた呼吸を整えながら、ゆっくりと公園の中へと足を進める。ちょうど公園の真ん中あたりに立てられた時計を見上げて、あ、雨が止んでる、そんなことを思った。家を出た時から降っていなかったはずなのに、空が暗くなってきていることにも、雨が降っていないことにも今更気が付く自分の必死さに苦笑いが漏れる。
その時、ふわりと後ろから抱きしめるように身体に腕が回された。不意のことにびくりと肩が跳ねたけれど、私はこの腕を知っている。
「久しぶりだな、七瀬」
「―――赤司くん」
耳元で聞こえた穏やかな声に、彼の名前を呼ぶ。抱きしめられていた腕がすぐに解かれ、身体ごと振り返れば 最後に会った時と変わらないその人の姿が見えた。
「…やっぱり、赤司くんだ」
「七瀬は相変わらず容赦がないな」
困ったように笑う赤司くんに、胸の中でごちゃ混ぜの感情が渦巻く。嬉しいのか、悲しいのか、寂しいのか、幸せなのか、それさえも分からない。
「会いたかった」
真っ直ぐに言われた言葉に、鼻の奥がツンとする。ああ、どうしてだろう、泣きたくなった。堪えるようにギュッと唇を噛み締めた私の頬を 赤司くんの手が優しく撫でた。