ゼラニウムに捧ぐ
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駐車場を後にしてからも、まだ熱を持っているような自分の頬を挟むように両手で触れる。よく考えれば火神に触れられるのは初めてではない。なのに今日は雰囲気が違っていた所為か、なかなか熱が引いてくれない。私はいつも どんな顔で接していたのだろう。
そんなことを考えても答えは分からなくて、余計な事を考えるからいけないのだと結論付けた。思考を振り払うように、ふるふると頭を左右に振る。さ、飲み物を買いに行こう。そう頭を切り替えて、自販機へと足を進めた。
◇
たどり着いた目的地には先客の姿があった。その見知った後ろ姿に あ、と思うけれど、投入口に小銭を入れる彼がまだ私の存在に気が付いていなくて ちょっとしたイタズラ心が沸き起こる。
気付かれないようにそっと背後から忍び寄り、ガコンと音を立てて落ちてきた缶を 彼より先に取り出した。冷たい缶が、夏の夜の指先に心地いい。
「…何をしている」
「え、うそ、冷たいおしるこなんてあるの!?」
「佐倉」
「おつかれ真ちゃん。ね、ビックリした?」
「……くだらん」
眼鏡のブリッジを押し上げながら、心底呆れたように息を吐く彼に むっと頬を膨らます。上手く気付かれずに近付いて、突然現れたつもりだった。急に背後から他人の手が伸びてきたのだから、もう少し驚いてくれてもいいじゃないか。
「つまんないの」
「佐倉、それを返すのだよ」
「つまんないから、これは私がもらいまーす」
「…っ、待て」
手に持った缶を軽く掲げて、くるりと踵を返し 真ちゃんに背を向けて歩き出そうとした私の身体が、制止の声と共に すぐさま強い力で後方に引き戻された。背後からお腹に回された腕に引かれたのだと理解すると同時に、首筋にかかった髪を払うように退けられる。
「何だこれは…!」
「へ? な、何って、なにが…?」
私の髪を払ったその下、つまりは私の首裏に何かを見つけたように彼が声を上げる。真ちゃんの声に突然混ぜ込まれた怒気に戸惑うことしかできない。だってこれは、私のイタズラに対する怒りではないことは明らかだから。
「誰だ?…火神か?」
「待って真ちゃん、なにが…」
「―――…高尾か」
言いかけた言葉の途中で真ちゃんの冷たい声が紡いだその名に、ビクリと肩が跳ねる。高尾くん。そうだ、昨夜 彼は確かにそこに触れた。あの触れ方で、そこに“何か”が残っていると言うのなら それは――。そこまで考えたところで羞恥が込み上げ 慌てて首筋を右手で覆うけれど、すぐに手首を掴まれ 隠すように触れていた手を退けられる。振り向くより先に、腰に回された腕に力が込められた。
「…気に喰わん」
「え、…ひゃ、あ」
吐き捨てるような小さな声が耳に届いたかと思えば、ざらりと生暖かいものが首筋を這い 背中を何かが駆け上るような感覚がする。思わず私の手から滑り落ちた缶が、カランと場違いな音を立てた。何が起きているのか、思考が追いつかない。真ちゃん。彼の名を呼ぶけれど、返事はない。
まるで何かを拭い取るかのように舌が数度うなじを這い、ぞくぞくと身体が震えそうになるのを必死に耐える。そんな私の努力を嘲るように、カリ、と 甘噛みでもするみたいに歯を立てられて堪らず反応してしまう。頭の芯から白い靄が広がっていくような感覚がした。
「し、んちゃん、待って…っ、それ、なんか ダメ」
「…っ、お前は…!ここで煽るな」
「え…あ、」
懇願するように言えば 悩ましげな彼の声が耳元で聞こえ、その直後に二本の指が口内に捩じ込まれ舌を押さえ付けれた。その行為の意図よりも、それがたとえ利き手ではなくとも ボールを扱うこの指だけは絶対に噛んではいけない、絶対に傷付けてはいけないと ただそれだけを考える。
舌が這い 歯を立てられた場所に今度は唇が触れ、ちゅ、と 可愛らしささえ感じさせる音とは裏腹に 確かな痛みが走り 身を竦めた。七瀬、と 真ちゃんの掠れた声が耳元で響く。こんな時に、そんな呼び方はずるい。「ふ、…」唇が何度もうなじに触れて時折 小さな痛みが走り、堪らず吐息に混ざって声が漏れる。それが自分の物ではないみたいで、恥ずかしくて おかしくなりそうだ。そんな私の心中を知ってか知らずか、徐に口内から引き抜かれた指が そのまま私の顎を掴んでグッと乱暴に持ち上げられる。真上を向かされた顔のすぐ目の前には こちらを見下ろす真ちゃんが逆さまに見えて、覆いかぶさるように口を塞がれた。それはすぐに離れたけれど、腕を捕まれ強く引かれ 対面するように身体の向きを変えられる。間近で視線が絡めば、その瞳の中に灯る熱に気が付いた。はっと息を呑んだ直後、うなじに触れた手に引き寄せられて再び 唇が重なる。
「し、んっ…」
「―――、っ」
水音の合間に熱っぽい吐息が混ざり合うだけで、彼の名を呼ぶことさえ許されない。
どれぐらい そうしていたのかも分からずに、解放された時には足腰の力が抜け落ちていた。膝から崩れ落ちるようにその場に座り込んだ私と視線を合わせる様に 地面に膝をついた真ちゃんが、ちゅ、と 唇に触れるだけのキスをする。それに息が止まるような感覚がした私なんて気にもせず、彼は傍に落ちていた缶を拾って立ち上がる。
「容易に隙を見せるな。――これは警告だ」
そう言って立ち去る真ちゃんの背中を、地面に座り込んだまま見送ることしか出来なかった。
そんなことを考えても答えは分からなくて、余計な事を考えるからいけないのだと結論付けた。思考を振り払うように、ふるふると頭を左右に振る。さ、飲み物を買いに行こう。そう頭を切り替えて、自販機へと足を進めた。
◇
たどり着いた目的地には先客の姿があった。その見知った後ろ姿に あ、と思うけれど、投入口に小銭を入れる彼がまだ私の存在に気が付いていなくて ちょっとしたイタズラ心が沸き起こる。
気付かれないようにそっと背後から忍び寄り、ガコンと音を立てて落ちてきた缶を 彼より先に取り出した。冷たい缶が、夏の夜の指先に心地いい。
「…何をしている」
「え、うそ、冷たいおしるこなんてあるの!?」
「佐倉」
「おつかれ真ちゃん。ね、ビックリした?」
「……くだらん」
眼鏡のブリッジを押し上げながら、心底呆れたように息を吐く彼に むっと頬を膨らます。上手く気付かれずに近付いて、突然現れたつもりだった。急に背後から他人の手が伸びてきたのだから、もう少し驚いてくれてもいいじゃないか。
「つまんないの」
「佐倉、それを返すのだよ」
「つまんないから、これは私がもらいまーす」
「…っ、待て」
手に持った缶を軽く掲げて、くるりと踵を返し 真ちゃんに背を向けて歩き出そうとした私の身体が、制止の声と共に すぐさま強い力で後方に引き戻された。背後からお腹に回された腕に引かれたのだと理解すると同時に、首筋にかかった髪を払うように退けられる。
「何だこれは…!」
「へ? な、何って、なにが…?」
私の髪を払ったその下、つまりは私の首裏に何かを見つけたように彼が声を上げる。真ちゃんの声に突然混ぜ込まれた怒気に戸惑うことしかできない。だってこれは、私のイタズラに対する怒りではないことは明らかだから。
「誰だ?…火神か?」
「待って真ちゃん、なにが…」
「―――…高尾か」
言いかけた言葉の途中で真ちゃんの冷たい声が紡いだその名に、ビクリと肩が跳ねる。高尾くん。そうだ、昨夜 彼は確かにそこに触れた。あの触れ方で、そこに“何か”が残っていると言うのなら それは――。そこまで考えたところで羞恥が込み上げ 慌てて首筋を右手で覆うけれど、すぐに手首を掴まれ 隠すように触れていた手を退けられる。振り向くより先に、腰に回された腕に力が込められた。
「…気に喰わん」
「え、…ひゃ、あ」
吐き捨てるような小さな声が耳に届いたかと思えば、ざらりと生暖かいものが首筋を這い 背中を何かが駆け上るような感覚がする。思わず私の手から滑り落ちた缶が、カランと場違いな音を立てた。何が起きているのか、思考が追いつかない。真ちゃん。彼の名を呼ぶけれど、返事はない。
まるで何かを拭い取るかのように舌が数度うなじを這い、ぞくぞくと身体が震えそうになるのを必死に耐える。そんな私の努力を嘲るように、カリ、と 甘噛みでもするみたいに歯を立てられて堪らず反応してしまう。頭の芯から白い靄が広がっていくような感覚がした。
「し、んちゃん、待って…っ、それ、なんか ダメ」
「…っ、お前は…!ここで煽るな」
「え…あ、」
懇願するように言えば 悩ましげな彼の声が耳元で聞こえ、その直後に二本の指が口内に捩じ込まれ舌を押さえ付けれた。その行為の意図よりも、それがたとえ利き手ではなくとも ボールを扱うこの指だけは絶対に噛んではいけない、絶対に傷付けてはいけないと ただそれだけを考える。
舌が這い 歯を立てられた場所に今度は唇が触れ、ちゅ、と 可愛らしささえ感じさせる音とは裏腹に 確かな痛みが走り 身を竦めた。七瀬、と 真ちゃんの掠れた声が耳元で響く。こんな時に、そんな呼び方はずるい。「ふ、…」唇が何度もうなじに触れて時折 小さな痛みが走り、堪らず吐息に混ざって声が漏れる。それが自分の物ではないみたいで、恥ずかしくて おかしくなりそうだ。そんな私の心中を知ってか知らずか、徐に口内から引き抜かれた指が そのまま私の顎を掴んでグッと乱暴に持ち上げられる。真上を向かされた顔のすぐ目の前には こちらを見下ろす真ちゃんが逆さまに見えて、覆いかぶさるように口を塞がれた。それはすぐに離れたけれど、腕を捕まれ強く引かれ 対面するように身体の向きを変えられる。間近で視線が絡めば、その瞳の中に灯る熱に気が付いた。はっと息を呑んだ直後、うなじに触れた手に引き寄せられて再び 唇が重なる。
「し、んっ…」
「―――、っ」
水音の合間に熱っぽい吐息が混ざり合うだけで、彼の名を呼ぶことさえ許されない。
どれぐらい そうしていたのかも分からずに、解放された時には足腰の力が抜け落ちていた。膝から崩れ落ちるようにその場に座り込んだ私と視線を合わせる様に 地面に膝をついた真ちゃんが、ちゅ、と 唇に触れるだけのキスをする。それに息が止まるような感覚がした私なんて気にもせず、彼は傍に落ちていた缶を拾って立ち上がる。
「容易に隙を見せるな。――これは警告だ」
そう言って立ち去る真ちゃんの背中を、地面に座り込んだまま見送ることしか出来なかった。
