ゼラニウムに捧ぐ
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翌日の合同練習でも 休憩のたびに秀徳の選手に囲まれたじろぐ私を、何かと高尾くんがフォローしてくれた。それは昨日と同じなのに、私は昨日と同じ態度を取れず 彼に対してどこか固くなってしまったのは、昨夜の出来事のせいだろう。そんな私に気が付いたのか、そんなに意識しないで、と 彼は苦笑いを浮かべて肩を竦めた。
「それとも、意識してもらえてるって喜んでいい?」
耳元で他の誰にも聞こえない声で囁かれた言葉に パッと勢いよく顔を上げる。見上げた先の高尾くんはカラカラと軽い調子で笑っていて、今までの彼と何ら変わりない様子にホッと息を吐いた。そこで肩の力が抜けた私の髪を すれ違いざまにぐしゃぐしゃと撫でてから 高尾くんは練習へと戻って行く。そんな彼の背中を見送りながら、高尾くんは絶対 妹がいるな、なんて そんなことを考えた。
◇
夕食の用意もほとんど終え、食事まではまだ少し時間がある。今の内に飲み物を買いに行こうと宿舎を出た。何だかんだでロビーの自販機しか使っていなかった私は、外にもあるというその存在に微かな期待を膨らませる。軽い足取りで進んでいるとダムダムとボールをつく音が耳に届いて視線を向ければ、見知った人影が駐車場の端でバスケットボールを弾ませていた。その姿を見つけ、私はほとんど無意識のうちにそちらへ歩み寄っていく。
「おつかれ」
「ん?ああ、佐倉か」
「なんか久しぶりだね、火神」
「オレだけ合宿中ずっと走ってっからな…」
げんなりと言う火神に苦笑いを浮かべ、リコさんにも何か思惑があるんだよと 彼が内心で恨み言を並べたであろう我が部のカントクをフォローする。「だろうな…これで何もなけりゃ、マジで怒るぞ」そう言って顔を顰めた火神に私は肩を竦めた。
「で、お前は大丈夫かよ?」
「うん?」
「秀徳もまとめて相手してるんだろ」
「…あぁ、そういうこと」
彼の言葉に軽い相槌を返す。秀徳との合同練習のためにケアする選手の数が増えて大変ではないか、と 彼なりに心配してくれているらしい。彼だってかなりの量のランニングを課されて大変なはずなのに、こうして私のことも気にかけてくれる。優しいなぁ と、言葉にはせず心の中で思いながら、良くしてもらってるから大丈夫だよ と本音をそのまま言葉にした。
「秀徳さんはマネージャーが珍しいみたいだけどね」
「大丈夫なのかよ、それ」
「うん、ちょっと圧倒されることもあるけど、高尾くんもいるし」
「高尾?…緑間じゃなくて?」
「…?真ちゃんは、休憩とはいえ練習中に関わってくるタイプじゃないよ」
「……」
何やら難しい顔をする火神に首を傾げるけれど、この事についてそれ以上の言葉が返ってくることはなかった。何か変なことを言っただろうか。そう考えてみるけれど、いまいち心当たりが浮かばない。難しい顔で考え込んでいるような彼につられるように 私も思考を巡らすけれど、そんな私に気が付いた火神が それより、と 話題を切り替えるように声を発した。
「どっか行くのか?」
「あ、うん。飲み物買いに行くんだけど、火神も何かいる?」
「ああ、だったらオレも…」
「いいよいいよ、重たいものでもないし…ボールに触り足りないんでしょ?」
合宿が始まってから 彼がどれぐらいの距離を走っているのか私は知らない。だけどリコさんのことだ、半端なことをさせるわけがない。きっと途方もない距離を走っていて、疲労もあるはずで、そしてだからこそ こうして練習後に自主的にボール触ってしまうぐらいに飢えている。お見通しだぞと言うようにニヤリとしてみせれば、火神は一瞬 面食らったように目を見開いた。それから可笑しそうに笑って「じゃあ頼むわ」と言われた言葉に、私は笑顔で大きく頷く。
「それじゃあ ちょっと待っててね!」
「佐倉」
踵を返して早速歩き始めようとしたところで、後ろから腕を掴まれ強く引かれる。予期せぬ事に間抜けな声が漏れ、気が付いた時には火神の腕の中にいた。状況が呑み込めずにぱちぱちと瞬きを繰り返し、火神の顔を見上げようとしたけれど、私の頭に頬を寄せる様にぎゅうと抱きしめられていて それは叶わない。
「な、なに?どうしたの?」
「いや…」
私の問いかけに曖昧な返事をした火神はほんの少しだけ身体を離して私の顔を覗き込み、さらりと撫でるように私の前髪を掻き上げる。瞳の奥に揺れる熱に気付き あ、と 小さく声を零したところで 露になった額に唇が触れた。優しく触れたその感覚がくすぐったくて身を捩るけれど、それを許さないとでも言うように 両頬を包むように添えられた火神の大きな手が逃げ道を塞ぐ。それからもう一度 額に触れた唇が、目尻、鼻、頬と順番に触れていく。降り注ぐキスが優しすぎて、くすぐったくて、恥ずかしくて、どうにかなってしまいそうだ。
「ん…か、がみ」
「あー?」
「“あー?”じゃなくて、あの…っ」
「うるせぇ」
いつもと違う雰囲気に浮かされそうになりながら、なんとか普段通りを装おうとする私を 火神の低い声が遮る。グッと顔を引き寄せられたかと思うと、照れ隠しの言葉を探していた私の口を 優しい温かさが塞いだ。
「それとも、意識してもらえてるって喜んでいい?」
耳元で他の誰にも聞こえない声で囁かれた言葉に パッと勢いよく顔を上げる。見上げた先の高尾くんはカラカラと軽い調子で笑っていて、今までの彼と何ら変わりない様子にホッと息を吐いた。そこで肩の力が抜けた私の髪を すれ違いざまにぐしゃぐしゃと撫でてから 高尾くんは練習へと戻って行く。そんな彼の背中を見送りながら、高尾くんは絶対 妹がいるな、なんて そんなことを考えた。
◇
夕食の用意もほとんど終え、食事まではまだ少し時間がある。今の内に飲み物を買いに行こうと宿舎を出た。何だかんだでロビーの自販機しか使っていなかった私は、外にもあるというその存在に微かな期待を膨らませる。軽い足取りで進んでいるとダムダムとボールをつく音が耳に届いて視線を向ければ、見知った人影が駐車場の端でバスケットボールを弾ませていた。その姿を見つけ、私はほとんど無意識のうちにそちらへ歩み寄っていく。
「おつかれ」
「ん?ああ、佐倉か」
「なんか久しぶりだね、火神」
「オレだけ合宿中ずっと走ってっからな…」
げんなりと言う火神に苦笑いを浮かべ、リコさんにも何か思惑があるんだよと 彼が内心で恨み言を並べたであろう我が部のカントクをフォローする。「だろうな…これで何もなけりゃ、マジで怒るぞ」そう言って顔を顰めた火神に私は肩を竦めた。
「で、お前は大丈夫かよ?」
「うん?」
「秀徳もまとめて相手してるんだろ」
「…あぁ、そういうこと」
彼の言葉に軽い相槌を返す。秀徳との合同練習のためにケアする選手の数が増えて大変ではないか、と 彼なりに心配してくれているらしい。彼だってかなりの量のランニングを課されて大変なはずなのに、こうして私のことも気にかけてくれる。優しいなぁ と、言葉にはせず心の中で思いながら、良くしてもらってるから大丈夫だよ と本音をそのまま言葉にした。
「秀徳さんはマネージャーが珍しいみたいだけどね」
「大丈夫なのかよ、それ」
「うん、ちょっと圧倒されることもあるけど、高尾くんもいるし」
「高尾?…緑間じゃなくて?」
「…?真ちゃんは、休憩とはいえ練習中に関わってくるタイプじゃないよ」
「……」
何やら難しい顔をする火神に首を傾げるけれど、この事についてそれ以上の言葉が返ってくることはなかった。何か変なことを言っただろうか。そう考えてみるけれど、いまいち心当たりが浮かばない。難しい顔で考え込んでいるような彼につられるように 私も思考を巡らすけれど、そんな私に気が付いた火神が それより、と 話題を切り替えるように声を発した。
「どっか行くのか?」
「あ、うん。飲み物買いに行くんだけど、火神も何かいる?」
「ああ、だったらオレも…」
「いいよいいよ、重たいものでもないし…ボールに触り足りないんでしょ?」
合宿が始まってから 彼がどれぐらいの距離を走っているのか私は知らない。だけどリコさんのことだ、半端なことをさせるわけがない。きっと途方もない距離を走っていて、疲労もあるはずで、そしてだからこそ こうして練習後に自主的にボール触ってしまうぐらいに飢えている。お見通しだぞと言うようにニヤリとしてみせれば、火神は一瞬 面食らったように目を見開いた。それから可笑しそうに笑って「じゃあ頼むわ」と言われた言葉に、私は笑顔で大きく頷く。
「それじゃあ ちょっと待っててね!」
「佐倉」
踵を返して早速歩き始めようとしたところで、後ろから腕を掴まれ強く引かれる。予期せぬ事に間抜けな声が漏れ、気が付いた時には火神の腕の中にいた。状況が呑み込めずにぱちぱちと瞬きを繰り返し、火神の顔を見上げようとしたけれど、私の頭に頬を寄せる様にぎゅうと抱きしめられていて それは叶わない。
「な、なに?どうしたの?」
「いや…」
私の問いかけに曖昧な返事をした火神はほんの少しだけ身体を離して私の顔を覗き込み、さらりと撫でるように私の前髪を掻き上げる。瞳の奥に揺れる熱に気付き あ、と 小さく声を零したところで 露になった額に唇が触れた。優しく触れたその感覚がくすぐったくて身を捩るけれど、それを許さないとでも言うように 両頬を包むように添えられた火神の大きな手が逃げ道を塞ぐ。それからもう一度 額に触れた唇が、目尻、鼻、頬と順番に触れていく。降り注ぐキスが優しすぎて、くすぐったくて、恥ずかしくて、どうにかなってしまいそうだ。
「ん…か、がみ」
「あー?」
「“あー?”じゃなくて、あの…っ」
「うるせぇ」
いつもと違う雰囲気に浮かされそうになりながら、なんとか普段通りを装おうとする私を 火神の低い声が遮る。グッと顔を引き寄せられたかと思うと、照れ隠しの言葉を探していた私の口を 優しい温かさが塞いだ。