ゼラニウムに捧ぐ
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木吉さんと火神が復帰して最初の練習試合。全員1年で挑んだその試合は序盤こそ思うほどスコアが伸びなかったけれど、最終的には火神1人の力で勝ってしまった。それはそれで良いのだろうけど、試合中に火神とテツ君の連携が1つもなかったのが気になって仕方がない。とはいえ私もあの日以来なんだか火神と気まずくて必要最低限の会話しか出来ていないし、テツ君も様子が違う気がして 軽々しく声をかけることもできない。こういう時、自分の無力さが本当に嫌になる。ドリンクボトルを洗いにやって来た手洗い場で大きくため息を吐いた。
「どうした?元気がないなー」
「っ!き、木吉さん…」
背後から突然声をかけられ、ビクリと肩が跳ねる。ゆるゆると振り向けば 木吉さんが穏やかにこちらを見下ろしていて、その姿を確認するとホッと息が溢れた。
彼は先日、私に対してテツ君のことを「悩める若者」と表現していた。出会って間もないはずなのに、テツ君の異変を感じ取っていたということになるのだろうか。それなら或いは、私も何か力になれる事はないのか ヒントがもらえるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて、考えていたことを素直に言葉にする。
「えっと、火神とテツ君の様子が気になって…」
「お、ちゃんと黒子も入ってるな。さすが七瀬、えらいぞ」
「わっ」
どこか嬉しそうにわしゃわしゃと私の髪を撫でる大きな手を受け入れながら、首を傾げて木吉さんを見上げる。そんな私の視線に気付いた彼は 私の言いたいことを察したのだろう、髪を混ぜていた手を止めて 少し困ったように笑った。
「みんな火神は気にするけど 黒子の方はなかなか、な。…七瀬がいてくれて良かった」
そう言って木吉さんは、止めていた手を動かして再び私の頭を撫でる。それはつまり、木吉さんはテツ君の様子がおかしいことに気が付いているということで間違いなくて。やっぱり、木吉さんはすごい人だ。
「でも、私は何もできなくて」
「いいんだ。七瀬はそのままでいい」
日向さんは木吉さんのことを いつも何か“企んでいる”と言い表していたけれど、私たちには計り知れないほど ずっと先を見ているようなこの感じを 私は知っている気がする。掛けられた言葉に首を傾げたけれど、ポンポンと頭を撫でる優しい手に甘えるように 私は素直に頷いた。
◇
その日の夜、シャワーを浴びてタオルで髪を拭きながらリビングに戻ると、テーブルの上に置いていた携帯がチカチカと光っていた。誰だろう。そう思いながら携帯の画面を確認して、ドキリとする。火神からの不在着信が、数分おきに合計で3件――それは、私に何かしらの用があるということだろう。まともな会話ができていなかった最近を思い浮かべ、妙な緊張感に包まれる。
複数回の着信が来ているぐらいなのだから、こちらから折り返し電話をするのが当然だろう。ドキドキと妙に落ち着かない心臓に気付かないふりをして、火神に発信しようとしたところで手の中の携帯が鳴り、ビクッと大げさに肩が跳ねた。ディスプレイに表示された「火神大我」の文字にホッと息を吐き、通話ボタンを押して携帯を耳にあてる。
「も、もしもし…」
『佐倉、今 外に出れるか?』
「そと?」
『ああ。マンションの前にいる』
「へ!?」
火神との通話を終えてから濡れた髪を必要最低限だけ乾かして、急いで家を出た。マンションのエントランスを抜けると、その横の花壇に縁に腰掛ける火神の姿がすぐに見つかり 小走りで駆け寄る。
「ごめん、お待たせ」
「いや、オレも急に悪かった…少し話がしたい」
「…?それじゃ、裏に公園あるから行こっか」
「ああ」
先導するように歩き出した私の半歩後ろを、火神は何も言わずについて歩く。マンションのすぐ裏にある小さな公園まで1分とかからない距離なのに、その時間はとても長く感じられた。気まずさが拭いきれず、どきどきと焦りに近いものが湧き上がる。今、私は火神と普通に会話することが出来ていただろうか。
ブランコとベンチと街灯が1つずつ。それだけしかない人通りも少ない小さな公園に立ち入りくるりと振り返れば、いつからだろう、こちらを見ている火神と目が合った。その視線があまりにもまっすぐで、どきりとする。
「悪かった」
「うん?」
「この間の昼休み、階段で」
その言葉で、あの日のことだと理解する。確かに突然のことで驚きはしたけれど、今では私にだって落ち度があったと思っている。申し訳なさそうに眉を下げる火神を見上げ、ふるふると首を左右に振った。
「ううん。放っておいてほしい時もあるはずなのに、私も無遠慮だった」
「いや、佐倉は何も悪くねぇんだ」
火神は、こういうところは頑固なのかもしれない。きっと何を言っても「お前は悪くない、オレが悪い」の一点張りなのだろう。変なところで真面目というか何というか。苦笑いをして諭すように口を開く。
「私はもう気にしていないから、火神も気にしないで?」
「…!ああ」
そう言って口元を緩めた火神は、笑顔というには控えめなものだったけれど 随分と久しぶりに穏やかな表情を向けられてような気がした。それが何だかくすぐったいような感じがして、思わず ふふっと小さな声を漏らして笑う。そんな私を見た火神は、不思議そうに首を傾げた。
「何だよ?」
「嬉しいのかな。…火神と気まずいのは、寂しかったから」
素直にそう口に出せば彼は一瞬 驚いたような表情をして、それからチッと舌を鳴らす。あれ、私は何かまた「気に喰わない」と言われるようなことを言ってしまったのだろうか。様子を窺うように火神を見上げれば、彼は苛立ったような、困ったような、そんな様子でガシガシと乱暴に自分の頭を掻いた。その様子に首を傾げれば、火神の手がするりと私の頬を撫でる。そのくすぐったさに思わず肩を竦めれば 腰を抱き寄せられ、顔を上げれば不自然なほどに凪いだ瞳に捕らわれ、心臓が早鐘を鳴らす。
「――今のは、佐倉がワリィからな」
「え…?」
間近に迫った火神がそう言った直後に口を塞がれる。それはとても優しい触れ方なのに、逃さないと言われてるような気がして 私は縋るように火神のシャツを握りしめた。
「どうした?元気がないなー」
「っ!き、木吉さん…」
背後から突然声をかけられ、ビクリと肩が跳ねる。ゆるゆると振り向けば 木吉さんが穏やかにこちらを見下ろしていて、その姿を確認するとホッと息が溢れた。
彼は先日、私に対してテツ君のことを「悩める若者」と表現していた。出会って間もないはずなのに、テツ君の異変を感じ取っていたということになるのだろうか。それなら或いは、私も何か力になれる事はないのか ヒントがもらえるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて、考えていたことを素直に言葉にする。
「えっと、火神とテツ君の様子が気になって…」
「お、ちゃんと黒子も入ってるな。さすが七瀬、えらいぞ」
「わっ」
どこか嬉しそうにわしゃわしゃと私の髪を撫でる大きな手を受け入れながら、首を傾げて木吉さんを見上げる。そんな私の視線に気付いた彼は 私の言いたいことを察したのだろう、髪を混ぜていた手を止めて 少し困ったように笑った。
「みんな火神は気にするけど 黒子の方はなかなか、な。…七瀬がいてくれて良かった」
そう言って木吉さんは、止めていた手を動かして再び私の頭を撫でる。それはつまり、木吉さんはテツ君の様子がおかしいことに気が付いているということで間違いなくて。やっぱり、木吉さんはすごい人だ。
「でも、私は何もできなくて」
「いいんだ。七瀬はそのままでいい」
日向さんは木吉さんのことを いつも何か“企んでいる”と言い表していたけれど、私たちには計り知れないほど ずっと先を見ているようなこの感じを 私は知っている気がする。掛けられた言葉に首を傾げたけれど、ポンポンと頭を撫でる優しい手に甘えるように 私は素直に頷いた。
◇
その日の夜、シャワーを浴びてタオルで髪を拭きながらリビングに戻ると、テーブルの上に置いていた携帯がチカチカと光っていた。誰だろう。そう思いながら携帯の画面を確認して、ドキリとする。火神からの不在着信が、数分おきに合計で3件――それは、私に何かしらの用があるということだろう。まともな会話ができていなかった最近を思い浮かべ、妙な緊張感に包まれる。
複数回の着信が来ているぐらいなのだから、こちらから折り返し電話をするのが当然だろう。ドキドキと妙に落ち着かない心臓に気付かないふりをして、火神に発信しようとしたところで手の中の携帯が鳴り、ビクッと大げさに肩が跳ねた。ディスプレイに表示された「火神大我」の文字にホッと息を吐き、通話ボタンを押して携帯を耳にあてる。
「も、もしもし…」
『佐倉、今 外に出れるか?』
「そと?」
『ああ。マンションの前にいる』
「へ!?」
火神との通話を終えてから濡れた髪を必要最低限だけ乾かして、急いで家を出た。マンションのエントランスを抜けると、その横の花壇に縁に腰掛ける火神の姿がすぐに見つかり 小走りで駆け寄る。
「ごめん、お待たせ」
「いや、オレも急に悪かった…少し話がしたい」
「…?それじゃ、裏に公園あるから行こっか」
「ああ」
先導するように歩き出した私の半歩後ろを、火神は何も言わずについて歩く。マンションのすぐ裏にある小さな公園まで1分とかからない距離なのに、その時間はとても長く感じられた。気まずさが拭いきれず、どきどきと焦りに近いものが湧き上がる。今、私は火神と普通に会話することが出来ていただろうか。
ブランコとベンチと街灯が1つずつ。それだけしかない人通りも少ない小さな公園に立ち入りくるりと振り返れば、いつからだろう、こちらを見ている火神と目が合った。その視線があまりにもまっすぐで、どきりとする。
「悪かった」
「うん?」
「この間の昼休み、階段で」
その言葉で、あの日のことだと理解する。確かに突然のことで驚きはしたけれど、今では私にだって落ち度があったと思っている。申し訳なさそうに眉を下げる火神を見上げ、ふるふると首を左右に振った。
「ううん。放っておいてほしい時もあるはずなのに、私も無遠慮だった」
「いや、佐倉は何も悪くねぇんだ」
火神は、こういうところは頑固なのかもしれない。きっと何を言っても「お前は悪くない、オレが悪い」の一点張りなのだろう。変なところで真面目というか何というか。苦笑いをして諭すように口を開く。
「私はもう気にしていないから、火神も気にしないで?」
「…!ああ」
そう言って口元を緩めた火神は、笑顔というには控えめなものだったけれど 随分と久しぶりに穏やかな表情を向けられてような気がした。それが何だかくすぐったいような感じがして、思わず ふふっと小さな声を漏らして笑う。そんな私を見た火神は、不思議そうに首を傾げた。
「何だよ?」
「嬉しいのかな。…火神と気まずいのは、寂しかったから」
素直にそう口に出せば彼は一瞬 驚いたような表情をして、それからチッと舌を鳴らす。あれ、私は何かまた「気に喰わない」と言われるようなことを言ってしまったのだろうか。様子を窺うように火神を見上げれば、彼は苛立ったような、困ったような、そんな様子でガシガシと乱暴に自分の頭を掻いた。その様子に首を傾げれば、火神の手がするりと私の頬を撫でる。そのくすぐったさに思わず肩を竦めれば 腰を抱き寄せられ、顔を上げれば不自然なほどに凪いだ瞳に捕らわれ、心臓が早鐘を鳴らす。
「――今のは、佐倉がワリィからな」
「え…?」
間近に迫った火神がそう言った直後に口を塞がれる。それはとても優しい触れ方なのに、逃さないと言われてるような気がして 私は縋るように火神のシャツを握りしめた。