ゼラニウムに捧ぐ
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両膝を立てて床に座るオレの足の間にちょこんと座って、大人しく腕の中に収まる存在に高揚と戸惑いを覚える。よしよしと背中を撫でてやれば、甘えて擦り寄るように頭が動いた。
(ど、どうしよう可愛いすぎるんスけど…!)
これまで自分が擦り寄ることは幾度とあったけれど、七瀬の方から寄り添われたのは初めてで舞い上がってしまいそうだ。離したくない、ずっと抱きしめていたい、それ以上に邪な感情が湧き上がりそうになるけれど、触れている彼女の身体はどこも熱くて、その温度が理性を呼び戻す。
「七瀬っち大丈夫?しんどくないスか?」
上体を少し引いて身体を離し、俯く彼女の顔にかかる髪を掻き上げて表情を覗き込もうとした。それより先に顔を上げた七瀬の熱っぽい瞳と目が合い、どきりとする。髪を掬っていたオレの手に彼女の手が重ねられ 温かい頬が触れた。どこか嬉しそうな微笑みに、今度は心臓を握られたような感覚がする。
「涼太、冷たくて気持ちいい」
恍惚としたような表情でオレの手のひらに頬を寄せるその姿は、なんか、色々とヤバイ。その様子をゆっくり見てしまうのは理性的な意味であまり良くないと瞬時に判断して、再び彼女を抱きしめることで視界から隠した。
ただ、辛そうな彼女を放って置けなかった。下心があったとすれば、もしかしたら少しぐらい寝顔なんか見れたりして、とか 本当にその程度のものだった。それなのに 熱のせいか言動は妙に煽情的で、オレの理性をぶち壊そうとしているのかと思える。とんでもない試練に飛び込んでしまったと後悔すると同時に、いつもと違う彼女をもっと見たいと思うのもまた事実。
1人で葛藤していると胸元に僅かに重みが加わり視線を下げれば、やはり辛いのだろうか、ぺたりと密着するようにオレの胸にもたれ掛かる七瀬が 気怠そうにこちらを見上げていた。だから、そういうのヤバイんだってば。
「な、なんか今日の七瀬っちは 甘えん坊っスね」
「んー…そう、かも。たぶん、少し寂しかったの」
「へ?」
「1人でいるのが。だから、涼太が来てくれて嬉しい」
そう言って笑った彼女は、控えめにオレの腰あたりの服をキュッと握る。誰かこの子を止めてくれ!本気でそう叫びたかったけれど、今この家にはオレ達しかいないのだから叫ぶ相手も存在しない。(…ん?オレ達、だけ?)色々と必死すぎて失念していた重大な事実に今さら気が付いた。今、この空間でオレは好きな子と2人きり。気付いてしまえばもうその事実から目を逸らせなくて、いよいよマズい。安心しきったようにオレに身を寄せる彼女から動揺を隠すように口元を手で覆って、平常心を失ってしまった心中を悟られないように そっぽを向いた。
「あー…あのさ、甘えてくれるのはスゲー嬉しいんスけど」
「んー?」
「今の七瀬っちに手は出したくないし…あんま煽んないでほしいっス…」
余裕がないと自白するようで、格好悪くて本当はこんなこと言いたくなかった。でも言っておかないと、自制心など簡単に砕かれてしまいそうだ。オレを見上げて不思議そうに瞬きをした彼女は、何かを察したように小さく声を漏らし「じゃあさ」と オレの肩に手を乗せて顔を寄せる。
「ちゅーして涼太に移したら治るかな」
「なっ…!」
「なんてね」
べ、と 悪戯っぽく小さく舌を出した七瀬は すぐに身体を元の位置に戻し、何事もなかったように足の間に収まって上体をオレの胸に預けた。
さすがに分かる、今のは絶対にわざとだ。そういうことは元気な時に言って欲しい。普段は絶対に言わないからこその破壊力だろうとも思うけど。
勘弁してくれ、本当に。額に手を当てて思いっきり息を吐き出したところで気付く。オレにもたれる七瀬の肩が規則正しく上下している。まさか、ウソだろ。恐る恐る彼女の顔を覗き込めば、潤んだ瞳は閉じた瞼に隠れていて、依然と頬は赤らんでいるけれど 穏やかに寝息をたてている。その姿を見て、全身から力が抜けた。信頼されてると喜ぶべきか、意識されていないと嘆くべきか。
仕方がないので眠ってしまった七瀬を起こさないように体を移動させて、ソファにもたれ掛かる。彼女を抱き上げてソファに寝かせることもできるけれど、勿体ない気がしてこのままでいる事を選んだ。ソファの上にあったブランケットを七瀬の脚に掛け、額にかかる前髪を撫でるように払う。これぐらいは許されるだろうかと 閉じられた瞼にキスを落とした。
◇
日も長くなった初夏において太陽が傾き始めた頃、腕の中で七瀬が身じろぎ ゆっくりと瞼が開かれた。
「おはよ、七瀬っち」
「……りょうた?」
まだ完全に覚醒しきってないのだろうか、ゆるゆると瞬きをしながら ぼんやりとこちらを見る彼女の顔色はかなり良くなっていて、コツリと額を合わせれば眠る前の熱さとは全然違う。
「ん、熱もだいぶ下がったみたいスね」
「ご、ごめん涼太!私いつの間に寝てた…!?」
「大丈夫っスよ、オレも七瀬っちの寝顔見れて役得だし」
体を起こしてオレから離れ、気まずそうに視線を下げるその姿はオレの良く知る彼女の姿で、体調が良くなったのかと安心すると同時に 少し寂しくもなる。「体調どう?」恥ずかしそうに俯く顔を覗き込んで問えば、考えるような間が空いた後「うん、すごく楽になった」と笑顔で返されホッと息を吐く。
「だいぶ良くなったみたいだし、オレはそろそろお暇しようかな」
「え…あ!もうこんな時間!ほんとごめん…」
立ち上がりながら言ったオレの言葉に時計を見やり、申し訳なさそうにまた謝る彼女の唇に人差し指の先で触れる。今回のことはオレが自発的にやったことで、謝ってほしいわけじゃない。そうやって眉を下げる姿も しおらしくて悪くないけど、オレにはもっと好きな表情がある。
「ごめんより、もっと嬉しい言葉があるよ」
「……ありがとうね、涼太」
笑顔で言われた言葉に満足して 七瀬の髪を撫でる。それから玄関へと向かうオレの後ろをついて歩いてる時も、靴を履いたオレが振り返った時も、彼女の視線は足元に向けられていた。普段の状態にほぼ戻った彼女は、きっと言葉にできないのだろう。それでもその顔は「寂しい」と言っている。
「そういう顔されると帰りたくなくなるんスけど」
「え、あ…ごめん。体調崩すと気弱になるからダメだね」
「オレは良いけど、これ以上一緒にいたらオレ、七瀬に何するか分かんないっスよ?」
「そ、う いうこと言わない!」
「それに、」
恥ずかしそうに視線を逸らした彼女の肩を抱き寄せて、奪うように唇を重ねる。揺らいだ理性じゃ歯止めも利かなくなりそうだし、相手は一応 体調を崩してる子だし、深いのは自重しておくけれど。
「ちゅーしてオレに移したら治るかもしれないし?」
「っ、な…!」
「じゃあね、七瀬 っち。早く良くなってね」
熱がある時とは違う様子で頬を染めた彼女の頭をぐしゃぐしゃと撫でて「お大事に」と言葉を残し、名残惜しくて仕方ない心の内を悟られないように 何食わぬ顔をして部屋を後にした。
(ど、どうしよう可愛いすぎるんスけど…!)
これまで自分が擦り寄ることは幾度とあったけれど、七瀬の方から寄り添われたのは初めてで舞い上がってしまいそうだ。離したくない、ずっと抱きしめていたい、それ以上に邪な感情が湧き上がりそうになるけれど、触れている彼女の身体はどこも熱くて、その温度が理性を呼び戻す。
「七瀬っち大丈夫?しんどくないスか?」
上体を少し引いて身体を離し、俯く彼女の顔にかかる髪を掻き上げて表情を覗き込もうとした。それより先に顔を上げた七瀬の熱っぽい瞳と目が合い、どきりとする。髪を掬っていたオレの手に彼女の手が重ねられ 温かい頬が触れた。どこか嬉しそうな微笑みに、今度は心臓を握られたような感覚がする。
「涼太、冷たくて気持ちいい」
恍惚としたような表情でオレの手のひらに頬を寄せるその姿は、なんか、色々とヤバイ。その様子をゆっくり見てしまうのは理性的な意味であまり良くないと瞬時に判断して、再び彼女を抱きしめることで視界から隠した。
ただ、辛そうな彼女を放って置けなかった。下心があったとすれば、もしかしたら少しぐらい寝顔なんか見れたりして、とか 本当にその程度のものだった。それなのに 熱のせいか言動は妙に煽情的で、オレの理性をぶち壊そうとしているのかと思える。とんでもない試練に飛び込んでしまったと後悔すると同時に、いつもと違う彼女をもっと見たいと思うのもまた事実。
1人で葛藤していると胸元に僅かに重みが加わり視線を下げれば、やはり辛いのだろうか、ぺたりと密着するようにオレの胸にもたれ掛かる七瀬が 気怠そうにこちらを見上げていた。だから、そういうのヤバイんだってば。
「な、なんか今日の七瀬っちは 甘えん坊っスね」
「んー…そう、かも。たぶん、少し寂しかったの」
「へ?」
「1人でいるのが。だから、涼太が来てくれて嬉しい」
そう言って笑った彼女は、控えめにオレの腰あたりの服をキュッと握る。誰かこの子を止めてくれ!本気でそう叫びたかったけれど、今この家にはオレ達しかいないのだから叫ぶ相手も存在しない。(…ん?オレ達、だけ?)色々と必死すぎて失念していた重大な事実に今さら気が付いた。今、この空間でオレは好きな子と2人きり。気付いてしまえばもうその事実から目を逸らせなくて、いよいよマズい。安心しきったようにオレに身を寄せる彼女から動揺を隠すように口元を手で覆って、平常心を失ってしまった心中を悟られないように そっぽを向いた。
「あー…あのさ、甘えてくれるのはスゲー嬉しいんスけど」
「んー?」
「今の七瀬っちに手は出したくないし…あんま煽んないでほしいっス…」
余裕がないと自白するようで、格好悪くて本当はこんなこと言いたくなかった。でも言っておかないと、自制心など簡単に砕かれてしまいそうだ。オレを見上げて不思議そうに瞬きをした彼女は、何かを察したように小さく声を漏らし「じゃあさ」と オレの肩に手を乗せて顔を寄せる。
「ちゅーして涼太に移したら治るかな」
「なっ…!」
「なんてね」
べ、と 悪戯っぽく小さく舌を出した七瀬は すぐに身体を元の位置に戻し、何事もなかったように足の間に収まって上体をオレの胸に預けた。
さすがに分かる、今のは絶対にわざとだ。そういうことは元気な時に言って欲しい。普段は絶対に言わないからこその破壊力だろうとも思うけど。
勘弁してくれ、本当に。額に手を当てて思いっきり息を吐き出したところで気付く。オレにもたれる七瀬の肩が規則正しく上下している。まさか、ウソだろ。恐る恐る彼女の顔を覗き込めば、潤んだ瞳は閉じた瞼に隠れていて、依然と頬は赤らんでいるけれど 穏やかに寝息をたてている。その姿を見て、全身から力が抜けた。信頼されてると喜ぶべきか、意識されていないと嘆くべきか。
仕方がないので眠ってしまった七瀬を起こさないように体を移動させて、ソファにもたれ掛かる。彼女を抱き上げてソファに寝かせることもできるけれど、勿体ない気がしてこのままでいる事を選んだ。ソファの上にあったブランケットを七瀬の脚に掛け、額にかかる前髪を撫でるように払う。これぐらいは許されるだろうかと 閉じられた瞼にキスを落とした。
◇
日も長くなった初夏において太陽が傾き始めた頃、腕の中で七瀬が身じろぎ ゆっくりと瞼が開かれた。
「おはよ、七瀬っち」
「……りょうた?」
まだ完全に覚醒しきってないのだろうか、ゆるゆると瞬きをしながら ぼんやりとこちらを見る彼女の顔色はかなり良くなっていて、コツリと額を合わせれば眠る前の熱さとは全然違う。
「ん、熱もだいぶ下がったみたいスね」
「ご、ごめん涼太!私いつの間に寝てた…!?」
「大丈夫っスよ、オレも七瀬っちの寝顔見れて役得だし」
体を起こしてオレから離れ、気まずそうに視線を下げるその姿はオレの良く知る彼女の姿で、体調が良くなったのかと安心すると同時に 少し寂しくもなる。「体調どう?」恥ずかしそうに俯く顔を覗き込んで問えば、考えるような間が空いた後「うん、すごく楽になった」と笑顔で返されホッと息を吐く。
「だいぶ良くなったみたいだし、オレはそろそろお暇しようかな」
「え…あ!もうこんな時間!ほんとごめん…」
立ち上がりながら言ったオレの言葉に時計を見やり、申し訳なさそうにまた謝る彼女の唇に人差し指の先で触れる。今回のことはオレが自発的にやったことで、謝ってほしいわけじゃない。そうやって眉を下げる姿も しおらしくて悪くないけど、オレにはもっと好きな表情がある。
「ごめんより、もっと嬉しい言葉があるよ」
「……ありがとうね、涼太」
笑顔で言われた言葉に満足して 七瀬の髪を撫でる。それから玄関へと向かうオレの後ろをついて歩いてる時も、靴を履いたオレが振り返った時も、彼女の視線は足元に向けられていた。普段の状態にほぼ戻った彼女は、きっと言葉にできないのだろう。それでもその顔は「寂しい」と言っている。
「そういう顔されると帰りたくなくなるんスけど」
「え、あ…ごめん。体調崩すと気弱になるからダメだね」
「オレは良いけど、これ以上一緒にいたらオレ、七瀬に何するか分かんないっスよ?」
「そ、う いうこと言わない!」
「それに、」
恥ずかしそうに視線を逸らした彼女の肩を抱き寄せて、奪うように唇を重ねる。揺らいだ理性じゃ歯止めも利かなくなりそうだし、相手は一応 体調を崩してる子だし、深いのは自重しておくけれど。
「ちゅーしてオレに移したら治るかもしれないし?」
「っ、な…!」
「じゃあね、七瀬 っち。早く良くなってね」
熱がある時とは違う様子で頬を染めた彼女の頭をぐしゃぐしゃと撫でて「お大事に」と言葉を残し、名残惜しくて仕方ない心の内を悟られないように 何食わぬ顔をして部屋を後にした。