ゼラニウムに捧ぐ
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黒子の話を聞いてから、火神の中でモヤモヤと何かが渦巻いていた。気に喰わない。ただとにかく気に喰わなかった。だから、大事な試合の前に消化することを決めたのである。
インターハイ予選・準決勝をいよいよ翌日に控えたその日、練習が終わり解散となれば すぐに火神は七瀬へと駆け寄った。
「佐倉ちょっと待ってろ、送ってく」
「え?」
「伊月センパイには さっき話したから大丈夫だ」
有無を言わせずそれだけ言って さっさと着替えに部室へ入って行った火神を、彼女は呆然と見送ってから 困ったように笑った。
◇
薄暗くなり始めた通学路を歩く。隣に並ぶ火神は持って帰って来たのだろうか、バスケットボールを投げ上げたり 指先で回したり、まるで戯れているみたいだ。
そんな火神が操るボールの動きを目で追いながら、他愛もない話をする。そうやってしばらく歩いていると、不意に火神が足を止めた。彼の視線の先はバスケコートがある公園で、ちょっと遊んでいこーぜと ボールを弾ませながら嬉々としてコートに向かう火神を慌てて追いかける。
「ちょっと、誰がやるのよ」
「そりゃオレとお前だよ。佐倉、バスケできんだろ?」
「そうだけど、火神とやりあえる訳ないでしょ!?」
私がバスケをしていたのは何年も前の話で、身を置いていたレベルも低いのだ。そんな私が相手では、ゲームとして成り立つ以前に、火神が楽しめるとも思えない。
「じゃあオレは左手しか使わねーよ」
「うー…それでも 吠え面かくなよって言えないのが悔しい…!」
コート横に設置されているベンチに鞄と学ランを置いてゴール下へと向かう火神は楽しそうで、ああこの人は本当にバスケが好きなんだなと見て取れる。そんな彼の姿に負けるように、楽しくなくても知らないよと予防線を張ってから 私も荷物を置いてコートに向かった。
ゴールに背を向けて立つ火神と向かい合うように立てば、ボールが投げられる。それを受け取ってボールをつけば、火神がグッと重心を下げて構えた。こんな遊びで、私なんかを相手に、構えただけで大した威圧感じゃないか。
ペロリと唇の端を舐めてから、一歩を踏み出す。
「そういや、黒子に聞いた」
「…え?」
「中学のお前の話」
唐突な言葉に息が止まり 思わず足を止めてしまったその瞬間に、私の手元から火神の左手がボールを攫った。「オレの勝ち」ニヤリと得意気に言った後に左手で放たれたボールは、リングを掠めることもせずに地面に落ちる。チッ と舌打ちが聞こえ「まぁそんなに詳しく聞いちゃいねーけど」その後に続いた火神の声に、ボールを追っていた視線を彼に戻した。
「佐倉がいつも何にビビってたのかは分かった」
「どうして、テツ君が…」
「居合わせたんだとよ」
グルグルと猛スピードで思考が巡る。あの日のことをテツ君は知っている。そうか、だからテツ君はいつだって 的確な言葉で私の心を救い上げてくれていたのか。そう思えば、納得がいった。
「お前は何も悪くないだろ」
「…でも、私が止めなきゃいけなかった」
「確かに佐倉ならあいつらの暴走を止められたかもしれねーけど、だからって責任はないだろうが」
止められる可能性があるのと、止める責任があるのはイコールではないと言う。やっぱり貴方は、私を許してくれようとするんだね。
「でも…」
「悲劇のヒロインぶるなよ」
まっすぐに目を合わせて言われたその言葉にドキリとした。結局私は、過去に縛られる可哀想な自分を演じることで自身を守っていたのだろうか。そう言われてしまえば、そう思える。どこまで行っても、自分のことばかりで馬鹿みたい。
嘲笑さえ浮かんでしまいそうで顔を伏せるけれど、それを許さないとでも言いたげに 火神の両手が私の両方の頬に触れて、顔を持ち上げられる。
「佐倉は何も悪くねぇ。責任もねぇ。それが全てだろ」
「……うん」
真っ直ぐな言葉は、ただただ温かくて泣きたくなる。火神の手に自分の両手を重ねて、擦り寄るように頬を寄せた。すると火神の親指がするりと唇を撫でて、その動作が妙に煽情的で心臓が跳ねる。
「でも、緑間がお前を縛ってたっつーのだけが 気に喰わねぇ」
「…え?」
「緑間 じゃなくて、オレ を見ろよ」
ぐっと顔を引かれると同時に唇に温かな感触が触れた。それはすぐに離れたかと思えば 角度を変えてもう一度、今度は優しく下唇を食む。くすぐったくて 逃げるように身を捩れば、強く腰を抱き寄せられて踵が浮いた。その間に薄く開いた唇の隙間から舌先が割って入り、深さを増していく。絡めとられ、全てを奪われるように――だけど、こんなに優しいのはなぜだろう。
息苦しさに頭が真っ白になりそうで火神の胸を押せば、名残惜しそうに唇が離される。
「か がみ、」
「悪い、佐倉……止まらねぇ」
彼らしくない弱い声が 悪いともう一度紡いだ後、再び全てを喰らうように唇が塞がれた。
インターハイ予選・準決勝をいよいよ翌日に控えたその日、練習が終わり解散となれば すぐに火神は七瀬へと駆け寄った。
「佐倉ちょっと待ってろ、送ってく」
「え?」
「伊月センパイには さっき話したから大丈夫だ」
有無を言わせずそれだけ言って さっさと着替えに部室へ入って行った火神を、彼女は呆然と見送ってから 困ったように笑った。
◇
薄暗くなり始めた通学路を歩く。隣に並ぶ火神は持って帰って来たのだろうか、バスケットボールを投げ上げたり 指先で回したり、まるで戯れているみたいだ。
そんな火神が操るボールの動きを目で追いながら、他愛もない話をする。そうやってしばらく歩いていると、不意に火神が足を止めた。彼の視線の先はバスケコートがある公園で、ちょっと遊んでいこーぜと ボールを弾ませながら嬉々としてコートに向かう火神を慌てて追いかける。
「ちょっと、誰がやるのよ」
「そりゃオレとお前だよ。佐倉、バスケできんだろ?」
「そうだけど、火神とやりあえる訳ないでしょ!?」
私がバスケをしていたのは何年も前の話で、身を置いていたレベルも低いのだ。そんな私が相手では、ゲームとして成り立つ以前に、火神が楽しめるとも思えない。
「じゃあオレは左手しか使わねーよ」
「うー…それでも 吠え面かくなよって言えないのが悔しい…!」
コート横に設置されているベンチに鞄と学ランを置いてゴール下へと向かう火神は楽しそうで、ああこの人は本当にバスケが好きなんだなと見て取れる。そんな彼の姿に負けるように、楽しくなくても知らないよと予防線を張ってから 私も荷物を置いてコートに向かった。
ゴールに背を向けて立つ火神と向かい合うように立てば、ボールが投げられる。それを受け取ってボールをつけば、火神がグッと重心を下げて構えた。こんな遊びで、私なんかを相手に、構えただけで大した威圧感じゃないか。
ペロリと唇の端を舐めてから、一歩を踏み出す。
「そういや、黒子に聞いた」
「…え?」
「中学のお前の話」
唐突な言葉に息が止まり 思わず足を止めてしまったその瞬間に、私の手元から火神の左手がボールを攫った。「オレの勝ち」ニヤリと得意気に言った後に左手で放たれたボールは、リングを掠めることもせずに地面に落ちる。チッ と舌打ちが聞こえ「まぁそんなに詳しく聞いちゃいねーけど」その後に続いた火神の声に、ボールを追っていた視線を彼に戻した。
「佐倉がいつも何にビビってたのかは分かった」
「どうして、テツ君が…」
「居合わせたんだとよ」
グルグルと猛スピードで思考が巡る。あの日のことをテツ君は知っている。そうか、だからテツ君はいつだって 的確な言葉で私の心を救い上げてくれていたのか。そう思えば、納得がいった。
「お前は何も悪くないだろ」
「…でも、私が止めなきゃいけなかった」
「確かに佐倉ならあいつらの暴走を止められたかもしれねーけど、だからって責任はないだろうが」
止められる可能性があるのと、止める責任があるのはイコールではないと言う。やっぱり貴方は、私を許してくれようとするんだね。
「でも…」
「悲劇のヒロインぶるなよ」
まっすぐに目を合わせて言われたその言葉にドキリとした。結局私は、過去に縛られる可哀想な自分を演じることで自身を守っていたのだろうか。そう言われてしまえば、そう思える。どこまで行っても、自分のことばかりで馬鹿みたい。
嘲笑さえ浮かんでしまいそうで顔を伏せるけれど、それを許さないとでも言いたげに 火神の両手が私の両方の頬に触れて、顔を持ち上げられる。
「佐倉は何も悪くねぇ。責任もねぇ。それが全てだろ」
「……うん」
真っ直ぐな言葉は、ただただ温かくて泣きたくなる。火神の手に自分の両手を重ねて、擦り寄るように頬を寄せた。すると火神の親指がするりと唇を撫でて、その動作が妙に煽情的で心臓が跳ねる。
「でも、緑間がお前を縛ってたっつーのだけが 気に喰わねぇ」
「…え?」
「
ぐっと顔を引かれると同時に唇に温かな感触が触れた。それはすぐに離れたかと思えば 角度を変えてもう一度、今度は優しく下唇を食む。くすぐったくて 逃げるように身を捩れば、強く腰を抱き寄せられて踵が浮いた。その間に薄く開いた唇の隙間から舌先が割って入り、深さを増していく。絡めとられ、全てを奪われるように――だけど、こんなに優しいのはなぜだろう。
息苦しさに頭が真っ白になりそうで火神の胸を押せば、名残惜しそうに唇が離される。
「か がみ、」
「悪い、佐倉……止まらねぇ」
彼らしくない弱い声が 悪いともう一度紡いだ後、再び全てを喰らうように唇が塞がれた。