ネオンライトのエスコート
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最近の俺に悩みがあるとすれば、彼女のことだろう。俺の彼女は控えめに言って可愛い。外見の可愛さも然る事ながら(これは惚れた欲目だと言われればそれまでだけど)、優しくて気が利いて、内面的な部分で可愛くて愛嬌がある。
それでも俺と七瀬は学年が違うから、学校では部活以外で接することはほとんどない。つまり俺は、七瀬の学校での様子を全くと言えるほどに知らないのだ。だから俺の見ていない知らないところで、変な男に目を付けられていないかと わりと本気で心配している。
この前、そんな不安を大地に相談したら「ノロケじゃねぇかよ ふざけんな」と目が笑ってないあの笑顔で一蹴されて凍り付いた。それならばと旭に同じ相談をすれば、なんとか俺を安心させようと気を遣ってくれたのだろう。オロオロとしながらも「影山が同じクラスだし大丈夫なんじゃないかな」と そう言われた。ほら、番犬的な。そういう旭の言い分は理解できる。七瀬の傍で影山が睨みを利かせていれば悪い虫は付かないだろう、と きっとそう言うことだ。けれどその言葉が、かえって俺の不安の煽ったこと事など きっと旭は知りもしない。
影山飛雄。今年うちのバレー部に入った天才セッターであり、今の俺の悩みの根源でもある。影山は俺の彼女でありバレー部のマネージャーでもある七瀬と同じクラスで、大地からの指示もあって バレー以外では何かと問題の多い影山の面倒を 七瀬が見ているという感じだ。その所為もあって、影山と七瀬は仲が良い。
対人関係が得意ではない影山が、七瀬に対しては毒舌を吐くぐらいに遠慮はなく、それはつまり影山が七瀬に対して壁を作っていないということで。なるべく気にしないようにしていたけれど そのことは俺も気になっていて、そこに旭のあの言葉だ。不安になってしまう俺が別におかしいわけではないと思う。
練習後にそんなことを考えてモヤモヤとしたものを抱えながら、ジャージから制服に着替えて部室を出れば 俺を待っていたであろう七瀬と、七瀬と会話をしている影山の姿が見えた。1歩分ぐらいの距離しか空けずに向かい合って話す2人の様子を見て、ぎゅうっと心臓を握りつぶされるような痛みが走った気がした。こんな感情、格好悪い。
ぐっと奥歯を噛んだところで 俺に気付いた影山が小さく頭を下げ、それに釣られるように七瀬もこちらに目を向ける。
「あ、孝支くん」
俺の姿を捉えた七瀬はパッと表情を明るくして嬉しそうにこちらに駆け寄ってきて、今すぐにでも抱きしめたくなるぐらいに愛おしいと思う。だけど、可愛いとか愛しいとか、そう思うと同じだけ不安も湧き上がる。情けないと思うけれど、それは俺がコントロールできる領域じゃないだろ?
「あ、そうだ、私ちょっと潔子さんに用事!」
ちょっと待っててね、と俺に言ってパタパタと清水のもとへと駆け寄る七瀬の背中を見つめる。それから、ちらりと隣に立つ影山へと視線を向けた。
こいつは、俺の知らない“学校での七瀬”を知っている。放課後しか一緒に過ごせない俺よりも、七瀬と過ごしている時間も長いのかもしれない。認めたくはないけれど、自覚はしている。俺は影山に嫉妬しているのだ。俺よりも七瀬に近いような気がして、羨ましいと思っている。
「なぁ影山」
「はい」
「……手、出すなよ」
ジッと見上げた先の影山は 一瞬だけ不思議そうに目を瞬かせて、それから俺の言いたいことを察したのだろう。ああ、と納得したような声を漏らす。一見すると肯定したようにも聞こえるその声が 俺の言葉に対する返事ではないことは分かったから、ただ目を逸らさずに 自分より背の高い後輩を見上げた。影山も真っ直ぐにこちらを見ながら、大丈夫です、と 静かに淡々と言葉を発する。
「仮に、万が一 何かの間違いで俺がその気になったとして」
「なるなよ!」
「仮定の話です」
「……なったとして?」
「佐倉は絶対に なびきません」
「そんなの分かんないだろ!?」
そうであって欲しいと どんなに強く思いはしても、そうであるという保証などどこにもないのだから。睨むように影山を見上げたところで、こちらに戻ってきた七瀬が俺たち2人を見て「あれ、2人ともどうかしたの?」なんて 場違いなほど呑気な声で首を傾げた。そんな七瀬をちらりと見た影山は すぐに俺の方へと視線を戻し、やっぱりさほど温度を含まない声で言う。
「俺といる時、こいつは菅原さんの話しかしないです」
「へ…!? ちょ、ちょっと何言ってるのかな影山くん!」
「事実だろ」
「事実なら何でも口にしていいと思ってるの!? 影山バカなの!?」
慌てるように影山につっかかる七瀬の頬は赤く染まっていて、影山が発した“事実”という言葉への否定もない。その全てが影山の発言を肯定しているという証拠に他ならなくて、あぁなんだろうこれ、俄然 無敵になった気分だ。
ははっ!と 堪らず声を出して笑った俺に、言い争っていた2人が揃って不思議そうな視線を寄越した。
「こ、孝支くん?どうかした?」
「いや、なんでもないよ。…悪い、影山。さっきの忘れて」
「…? ウス」
首を傾げながらも了解した影山に 悪かったともう一度だけ謝って、七瀬の左手を取る。「帰るべ」そう言えば七瀬は少し恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに笑った。ああ、好きだなと思う。影山と 近くにいた他の連中にもお先にと声をかけ、七瀬の手を引いたまま 一足先に帰途についた。
すっかり暗くなった通学路に他人の姿は見えなくて、俺の気は少し大きくなっていたのかもしれない。いまだに手を握ったまま歩く俺に、七瀬が不思議そうに声をかける。
「孝支くん、今日はどうかしたの?」
「んー?…うん、俺さ、影山に嫉妬してたんだよね」
隠していても仕方がないと思ったのかもしれないし、或いは 俺の不安を七瀬に知ってほしいと思ったのかもしれない。嘘偽りなく告げた言葉に 七瀬は足を止めて驚いたように目を見開き、「ほんとうに!?」と 前のめりになって食い付いてくる。その勢いに若干押されながらも肯定の返事を返せば、七瀬ははにかむように 嬉しそうに笑った。
「そっか、そっかぁ…!」
「え、なに、七瀬なんか嬉しそう…?」
「私さ、孝支くんにとって私は妹みたいな感じかなって思ってて」
「は…?」
「だから、ヤキモチ焼いてくれたの、素直に嬉しくて」
「そういうもん…?」
「そういうものなの。でも、これからは気をつけるね」
孝支くんに嫌な思いをさせたいわけじゃないから。そう言って笑う七瀬はやっぱり嬉しそうで、ここ最近の俺がどんな気持ちで過ごしていたかなんて知りもしないくせに、と 恨みがましく思いはしたけれど、あんなに悩ましかったことですら些細な事に思えてくるのだ。七瀬が笑う。俺にとって、それ以上の幸せなど思い付きもしない。
「なぁ、七瀬」
「うん?」
「俺さ、多分 七瀬が思ってる以上に七瀬のことが好きだよ」
「…!わ、私だって、負けない から」
恥ずかしそうにごにょごにょと小さくなっていく声は、最後はほとんど音になっていなかったけれど、俺の耳にはしっかりと言葉が届いた。赤く染まった頬を隠すように俯く七瀬の頬をするりと撫でる。ずっと感じていた不安から解消されて、やっぱり俺の気は大きくなっているのだ。情けなくなるほどに好きだと思うこの気持ちが、言葉よりも明確に伝わればいい。そう思って俺は 愛しい彼女の額に誘われるように唇を寄せた。
それでも俺と七瀬は学年が違うから、学校では部活以外で接することはほとんどない。つまり俺は、七瀬の学校での様子を全くと言えるほどに知らないのだ。だから俺の見ていない知らないところで、変な男に目を付けられていないかと わりと本気で心配している。
この前、そんな不安を大地に相談したら「ノロケじゃねぇかよ ふざけんな」と目が笑ってないあの笑顔で一蹴されて凍り付いた。それならばと旭に同じ相談をすれば、なんとか俺を安心させようと気を遣ってくれたのだろう。オロオロとしながらも「影山が同じクラスだし大丈夫なんじゃないかな」と そう言われた。ほら、番犬的な。そういう旭の言い分は理解できる。七瀬の傍で影山が睨みを利かせていれば悪い虫は付かないだろう、と きっとそう言うことだ。けれどその言葉が、かえって俺の不安の煽ったこと事など きっと旭は知りもしない。
影山飛雄。今年うちのバレー部に入った天才セッターであり、今の俺の悩みの根源でもある。影山は俺の彼女でありバレー部のマネージャーでもある七瀬と同じクラスで、大地からの指示もあって バレー以外では何かと問題の多い影山の面倒を 七瀬が見ているという感じだ。その所為もあって、影山と七瀬は仲が良い。
対人関係が得意ではない影山が、七瀬に対しては毒舌を吐くぐらいに遠慮はなく、それはつまり影山が七瀬に対して壁を作っていないということで。なるべく気にしないようにしていたけれど そのことは俺も気になっていて、そこに旭のあの言葉だ。不安になってしまう俺が別におかしいわけではないと思う。
練習後にそんなことを考えてモヤモヤとしたものを抱えながら、ジャージから制服に着替えて部室を出れば 俺を待っていたであろう七瀬と、七瀬と会話をしている影山の姿が見えた。1歩分ぐらいの距離しか空けずに向かい合って話す2人の様子を見て、ぎゅうっと心臓を握りつぶされるような痛みが走った気がした。こんな感情、格好悪い。
ぐっと奥歯を噛んだところで 俺に気付いた影山が小さく頭を下げ、それに釣られるように七瀬もこちらに目を向ける。
「あ、孝支くん」
俺の姿を捉えた七瀬はパッと表情を明るくして嬉しそうにこちらに駆け寄ってきて、今すぐにでも抱きしめたくなるぐらいに愛おしいと思う。だけど、可愛いとか愛しいとか、そう思うと同じだけ不安も湧き上がる。情けないと思うけれど、それは俺がコントロールできる領域じゃないだろ?
「あ、そうだ、私ちょっと潔子さんに用事!」
ちょっと待っててね、と俺に言ってパタパタと清水のもとへと駆け寄る七瀬の背中を見つめる。それから、ちらりと隣に立つ影山へと視線を向けた。
こいつは、俺の知らない“学校での七瀬”を知っている。放課後しか一緒に過ごせない俺よりも、七瀬と過ごしている時間も長いのかもしれない。認めたくはないけれど、自覚はしている。俺は影山に嫉妬しているのだ。俺よりも七瀬に近いような気がして、羨ましいと思っている。
「なぁ影山」
「はい」
「……手、出すなよ」
ジッと見上げた先の影山は 一瞬だけ不思議そうに目を瞬かせて、それから俺の言いたいことを察したのだろう。ああ、と納得したような声を漏らす。一見すると肯定したようにも聞こえるその声が 俺の言葉に対する返事ではないことは分かったから、ただ目を逸らさずに 自分より背の高い後輩を見上げた。影山も真っ直ぐにこちらを見ながら、大丈夫です、と 静かに淡々と言葉を発する。
「仮に、万が一 何かの間違いで俺がその気になったとして」
「なるなよ!」
「仮定の話です」
「……なったとして?」
「佐倉は絶対に なびきません」
「そんなの分かんないだろ!?」
そうであって欲しいと どんなに強く思いはしても、そうであるという保証などどこにもないのだから。睨むように影山を見上げたところで、こちらに戻ってきた七瀬が俺たち2人を見て「あれ、2人ともどうかしたの?」なんて 場違いなほど呑気な声で首を傾げた。そんな七瀬をちらりと見た影山は すぐに俺の方へと視線を戻し、やっぱりさほど温度を含まない声で言う。
「俺といる時、こいつは菅原さんの話しかしないです」
「へ…!? ちょ、ちょっと何言ってるのかな影山くん!」
「事実だろ」
「事実なら何でも口にしていいと思ってるの!? 影山バカなの!?」
慌てるように影山につっかかる七瀬の頬は赤く染まっていて、影山が発した“事実”という言葉への否定もない。その全てが影山の発言を肯定しているという証拠に他ならなくて、あぁなんだろうこれ、俄然 無敵になった気分だ。
ははっ!と 堪らず声を出して笑った俺に、言い争っていた2人が揃って不思議そうな視線を寄越した。
「こ、孝支くん?どうかした?」
「いや、なんでもないよ。…悪い、影山。さっきの忘れて」
「…? ウス」
首を傾げながらも了解した影山に 悪かったともう一度だけ謝って、七瀬の左手を取る。「帰るべ」そう言えば七瀬は少し恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに笑った。ああ、好きだなと思う。影山と 近くにいた他の連中にもお先にと声をかけ、七瀬の手を引いたまま 一足先に帰途についた。
すっかり暗くなった通学路に他人の姿は見えなくて、俺の気は少し大きくなっていたのかもしれない。いまだに手を握ったまま歩く俺に、七瀬が不思議そうに声をかける。
「孝支くん、今日はどうかしたの?」
「んー?…うん、俺さ、影山に嫉妬してたんだよね」
隠していても仕方がないと思ったのかもしれないし、或いは 俺の不安を七瀬に知ってほしいと思ったのかもしれない。嘘偽りなく告げた言葉に 七瀬は足を止めて驚いたように目を見開き、「ほんとうに!?」と 前のめりになって食い付いてくる。その勢いに若干押されながらも肯定の返事を返せば、七瀬ははにかむように 嬉しそうに笑った。
「そっか、そっかぁ…!」
「え、なに、七瀬なんか嬉しそう…?」
「私さ、孝支くんにとって私は妹みたいな感じかなって思ってて」
「は…?」
「だから、ヤキモチ焼いてくれたの、素直に嬉しくて」
「そういうもん…?」
「そういうものなの。でも、これからは気をつけるね」
孝支くんに嫌な思いをさせたいわけじゃないから。そう言って笑う七瀬はやっぱり嬉しそうで、ここ最近の俺がどんな気持ちで過ごしていたかなんて知りもしないくせに、と 恨みがましく思いはしたけれど、あんなに悩ましかったことですら些細な事に思えてくるのだ。七瀬が笑う。俺にとって、それ以上の幸せなど思い付きもしない。
「なぁ、七瀬」
「うん?」
「俺さ、多分 七瀬が思ってる以上に七瀬のことが好きだよ」
「…!わ、私だって、負けない から」
恥ずかしそうにごにょごにょと小さくなっていく声は、最後はほとんど音になっていなかったけれど、俺の耳にはしっかりと言葉が届いた。赤く染まった頬を隠すように俯く七瀬の頬をするりと撫でる。ずっと感じていた不安から解消されて、やっぱり俺の気は大きくなっているのだ。情けなくなるほどに好きだと思うこの気持ちが、言葉よりも明確に伝わればいい。そう思って俺は 愛しい彼女の額に誘われるように唇を寄せた。
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