あなたに恋してユートピア
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平日に部活の休みが被ったその日、放課後に制服でデートがしたいと持ちかけたのは私の方だった。だって平日はお互いに遅くまで部活があって会えないのが当たり前で、休日に会うとすれば私服だし、部活絡みの時だとジャージだし。制服で会う機会なんて滅多になくて、だけど私だって普通の女子高校生だ。制服デートに憧れたっていいじゃない。
待ち合わせの約束をしたのは 誠凛と秀徳のちょうど中間あたりになる駅で、私が改札を出た時には既にそこには彼の姿があった。小走りで駆け寄る私の足音に気が付いた彼は、視線をこちらに向ける。
「わ、高尾くんがほんとに制服着てる…」
「そりゃあオレも高校生ですから」
私にとって、高尾くんの制服姿は本当に貴重だ。きっと今までに見たことはあるはずなのだけれど、やはり彼の印象としてはTシャツにハーフパンツだとか、ジャージ姿だとか、部活中のイメージが強いわけで。こうして意識的に制服姿の彼を見るのは初めてといっても過言ではなく、素っ頓狂な感想を漏らした私に 高尾くんはカラカラと笑った。
「なんか、制服だと雰囲気が違うね」
「そう?…ねえ、七瀬ちゃんはどっちが好き?」
「え?」
「ジャージのオレと、制服のオレ」
「…!どっちとか、ないです!」
悪戯を思い付いた子供みたいな笑みを浮かべて、覗き込むように顔を寄せる高尾くんの肩を 視線を逸らしながらグッと押し返す。こういう顔をした時の高尾くんは、私の反応を楽しんでいるのだ。分かっているのに、平然とやり過ごせるほどの余裕も経験値も私にはない。そしてそんな私の反応を見た彼は決まって
「照れてる、かーわいー」
そう言って楽しそうに笑うのだ。意地悪、なのに 笑ってくれたら嬉しいと思ってしまうから 恋って不思議。
それでも恥ずかしいことには変わりはないから「早く行こう」とそう言って歩き出そうとしたところで、私の右側にいた高尾くんが 左側へと位置を変える。不思議に思って首を傾げながら彼を見上げれば、私の視線に気付いた高尾くんと目が合って、それだけで彼はきっと 私が言いたい事を察してしまうのだろう。ああ、と なんてことのないように笑った。
「オレ、左側を歩く方が落ち着くんだよね」
そう言って私の左手を取り歩き始めた彼に、きゅ、と心臓が鳴いた気がした。高尾くんはいつだって心臓に悪い。照れ隠しの様に視線を下げて繋がれた手を眺めながら、ふと気付く。まだ高尾くんとこうして2人きりでゆっくり出かけたことは少ないけれど、私の記憶が間違っていなければ、右手も左手も 同じぐらいの頻度で握られた事があるはずだ。それはつまり、左側が落ち着くと言って私の左手を握る彼が、過去には私の右側を歩いていたという事で。
「……あ」
「ん?どうかした?」
「あ、ううん、なんでもない」
右側とか左側とかじゃない。彼はいつだって“車道側”を歩いてくれているのだ。スマートな高尾くんが「オレが車道側を歩くよ」なんてわざわざ言うわけもなくて、左側が落ち着くというさっきの言葉も きっと優しい嘘。私が気が付かない程さり気なく、彼はいつでも私を甘やかす。その優しさに気付いてしまったら、心臓がドキドキと騒ぎ出した。
うるさい心臓を落ち着けようと私が必死になっている間も、手を引くように高尾くんの足は迷いなく進んで行く。どこか目指している場所があるのだろうか。そんな疑問が、落ち着かなかった心臓のことさえも忘れさせてしまう。
「そういえば、どこかに向かってるの?」
「んー、ナイショ」
前を向いたまま楽しそうにはぐらかした彼の横顔を見上げながら、私は何も言えなくなる。からかわれても、はぐらかされても、高尾くんが楽しそうなら まぁいっか、って思ってしまう。どうしてかな。
手を繋いだまま歩きながら、何てことのない会話をする。その間も行き先を教えられることはなかったけれど、きっとこうして並んで話しながら歩くだけで私は十分に満たされているのだ。そう考えたところで「着いた」と高尾くんの声が降ってきて、ハッと視線を前に向ける。そこに見えたのはどこにでもありそうな公園で、公園なら今まで歩いていた道沿いにだってあったはずだ。どうしてここに、と私が言うよりも先に「こっちこっち」と高尾くんは私の手を引いたまま公園内を進んで行く。そうして見えてきたのは1つのベンチと、その先に 見下ろすように広がる街並みだった。
「わぁ…!すごい!」
「景色が綺麗な穴場だって聞いたけど、想像以上だな」
歩いているときは気が付かなかったけれど、この公園は少し高い場所にあるようで。街を見下ろせるその場所は 私たちの他に誰の姿もなくて、普通の公園なのに 世界から切り取られたみたいに何となく非日常な雰囲気だ。夜景だったら良かったんだけど。そう言って苦笑いする高尾くんに、そんなことないと首を振る。
「行き先も言わないで歩かせてごめんね。休憩しよっか」
そう言って高尾くんは、私たちのすぐ後ろ――きっと この景色が見えるように設置されたベンチの方へ振り向いて、何の躊躇いもなく 空いている左手で座面を払う。砂や葉っぱがパラパラと地面に落ちるのをぼんやりと眺めながら、私が座る前に綺麗にしてくれているのだと理解する。何度か座面を払った高尾くんが、どうぞ と繋いだままだった私の右手をやんわりと引いた。
椅子に腰かけるぐらい、一人でできるのに。そう思っても決して口に出さないのは、この甘やかさが嬉しくて、愛しいから。だけど与えられるこの優しさを、決して当たり前だと思ってはいけないと知っている。
「高尾くんって、優しすぎない?」
促されるままベンチに腰を下ろした私がジッと視線だけで彼を見上げれば、そうかな、となんてことの無いような声が返ってくる。イエスの意思を伝えるために こくこくと首を縦に振れば、ふっ と微笑んだ高尾くんが 触れていた私の左手を優しく掬い上げた。
「オレ、好きな女の子に尽くすのは男の特権だと思ってるから」
持ち上げられた左手の甲に、彼の唇が触れる。高尾くんの言葉に何かを返すこともできず、ただただ呆然と息を飲んでその光景を眺めていた。私はそれほど少女趣味は持ち合わせていないつもりだったけれど、高尾くんといる時は少し違う。彼の優しさに触れるたび、私はドキドキと自分の物ではないみたいに騒ぐ心臓に戸惑い、だけど私も特別な女の子―――例えるとすればお姫様にでもなったような気がして、たしかに幸福感に包まれるのだ。
「自分でも信じられないよう競争率を勝ち抜いて得た特権なんだ」
「…そんなに安い特権でいいの?」
「安くねーよ。オレが七瀬ちゃんに優しくしたいし、尽くしたい」
不意に笑顔をひっこめた高尾くんが真面目な声でそういうから、心臓が締め付けられたような気がした。冗談なんかじゃないって伝わるから、本気だって分かるから、胸は苦しいのに温かいもので満たされてゆく。
「甘やかされてよ」
「…それなら私は、高尾くんに何をしたらいい?」
「んー、笑ってくれたら充分かな」
この人は、ほんとうに。ぎゅうっと 心臓に甘い痛みが走る。痛いのに、どうしようもなく甘くて、温かい。こんなに想ってくれる人に出会えたことが、どれほどの奇跡なのだろうかと思えば 言葉で表せないほどの幸福に泣きたくなった。その時の私はどんな顔をしていたのだろう。私の頬に触れて、なんつー顔してんだよ、と 高尾くんが困ったように笑う。
「私だって、高尾くんが好きだよ」
「…あー、もう!そういうの、ずるいって知ってる?」
きょとりと首を傾げて見上げれば、私を閉じこめて覆いかぶさるように背もたれに両手をついた高尾くんの顔が近付いた。その目の奥に、獰猛な光が宿っていることに気付く。ああ、これはきっと獲物を狙う猛禽類の眼だ。だけど間近で見えた鋭いその光をただ美しいと思うばかりで、全然怖くなんかない。
「じゃあ、やっぱり七瀬ちゃんをちょうだい」
そうして与えられる喰らうような口付けでさえ、私は喜んで甘受しよう。
待ち合わせの約束をしたのは 誠凛と秀徳のちょうど中間あたりになる駅で、私が改札を出た時には既にそこには彼の姿があった。小走りで駆け寄る私の足音に気が付いた彼は、視線をこちらに向ける。
「わ、高尾くんがほんとに制服着てる…」
「そりゃあオレも高校生ですから」
私にとって、高尾くんの制服姿は本当に貴重だ。きっと今までに見たことはあるはずなのだけれど、やはり彼の印象としてはTシャツにハーフパンツだとか、ジャージ姿だとか、部活中のイメージが強いわけで。こうして意識的に制服姿の彼を見るのは初めてといっても過言ではなく、素っ頓狂な感想を漏らした私に 高尾くんはカラカラと笑った。
「なんか、制服だと雰囲気が違うね」
「そう?…ねえ、七瀬ちゃんはどっちが好き?」
「え?」
「ジャージのオレと、制服のオレ」
「…!どっちとか、ないです!」
悪戯を思い付いた子供みたいな笑みを浮かべて、覗き込むように顔を寄せる高尾くんの肩を 視線を逸らしながらグッと押し返す。こういう顔をした時の高尾くんは、私の反応を楽しんでいるのだ。分かっているのに、平然とやり過ごせるほどの余裕も経験値も私にはない。そしてそんな私の反応を見た彼は決まって
「照れてる、かーわいー」
そう言って楽しそうに笑うのだ。意地悪、なのに 笑ってくれたら嬉しいと思ってしまうから 恋って不思議。
それでも恥ずかしいことには変わりはないから「早く行こう」とそう言って歩き出そうとしたところで、私の右側にいた高尾くんが 左側へと位置を変える。不思議に思って首を傾げながら彼を見上げれば、私の視線に気付いた高尾くんと目が合って、それだけで彼はきっと 私が言いたい事を察してしまうのだろう。ああ、と なんてことのないように笑った。
「オレ、左側を歩く方が落ち着くんだよね」
そう言って私の左手を取り歩き始めた彼に、きゅ、と心臓が鳴いた気がした。高尾くんはいつだって心臓に悪い。照れ隠しの様に視線を下げて繋がれた手を眺めながら、ふと気付く。まだ高尾くんとこうして2人きりでゆっくり出かけたことは少ないけれど、私の記憶が間違っていなければ、右手も左手も 同じぐらいの頻度で握られた事があるはずだ。それはつまり、左側が落ち着くと言って私の左手を握る彼が、過去には私の右側を歩いていたという事で。
「……あ」
「ん?どうかした?」
「あ、ううん、なんでもない」
右側とか左側とかじゃない。彼はいつだって“車道側”を歩いてくれているのだ。スマートな高尾くんが「オレが車道側を歩くよ」なんてわざわざ言うわけもなくて、左側が落ち着くというさっきの言葉も きっと優しい嘘。私が気が付かない程さり気なく、彼はいつでも私を甘やかす。その優しさに気付いてしまったら、心臓がドキドキと騒ぎ出した。
うるさい心臓を落ち着けようと私が必死になっている間も、手を引くように高尾くんの足は迷いなく進んで行く。どこか目指している場所があるのだろうか。そんな疑問が、落ち着かなかった心臓のことさえも忘れさせてしまう。
「そういえば、どこかに向かってるの?」
「んー、ナイショ」
前を向いたまま楽しそうにはぐらかした彼の横顔を見上げながら、私は何も言えなくなる。からかわれても、はぐらかされても、高尾くんが楽しそうなら まぁいっか、って思ってしまう。どうしてかな。
手を繋いだまま歩きながら、何てことのない会話をする。その間も行き先を教えられることはなかったけれど、きっとこうして並んで話しながら歩くだけで私は十分に満たされているのだ。そう考えたところで「着いた」と高尾くんの声が降ってきて、ハッと視線を前に向ける。そこに見えたのはどこにでもありそうな公園で、公園なら今まで歩いていた道沿いにだってあったはずだ。どうしてここに、と私が言うよりも先に「こっちこっち」と高尾くんは私の手を引いたまま公園内を進んで行く。そうして見えてきたのは1つのベンチと、その先に 見下ろすように広がる街並みだった。
「わぁ…!すごい!」
「景色が綺麗な穴場だって聞いたけど、想像以上だな」
歩いているときは気が付かなかったけれど、この公園は少し高い場所にあるようで。街を見下ろせるその場所は 私たちの他に誰の姿もなくて、普通の公園なのに 世界から切り取られたみたいに何となく非日常な雰囲気だ。夜景だったら良かったんだけど。そう言って苦笑いする高尾くんに、そんなことないと首を振る。
「行き先も言わないで歩かせてごめんね。休憩しよっか」
そう言って高尾くんは、私たちのすぐ後ろ――きっと この景色が見えるように設置されたベンチの方へ振り向いて、何の躊躇いもなく 空いている左手で座面を払う。砂や葉っぱがパラパラと地面に落ちるのをぼんやりと眺めながら、私が座る前に綺麗にしてくれているのだと理解する。何度か座面を払った高尾くんが、どうぞ と繋いだままだった私の右手をやんわりと引いた。
椅子に腰かけるぐらい、一人でできるのに。そう思っても決して口に出さないのは、この甘やかさが嬉しくて、愛しいから。だけど与えられるこの優しさを、決して当たり前だと思ってはいけないと知っている。
「高尾くんって、優しすぎない?」
促されるままベンチに腰を下ろした私がジッと視線だけで彼を見上げれば、そうかな、となんてことの無いような声が返ってくる。イエスの意思を伝えるために こくこくと首を縦に振れば、ふっ と微笑んだ高尾くんが 触れていた私の左手を優しく掬い上げた。
「オレ、好きな女の子に尽くすのは男の特権だと思ってるから」
持ち上げられた左手の甲に、彼の唇が触れる。高尾くんの言葉に何かを返すこともできず、ただただ呆然と息を飲んでその光景を眺めていた。私はそれほど少女趣味は持ち合わせていないつもりだったけれど、高尾くんといる時は少し違う。彼の優しさに触れるたび、私はドキドキと自分の物ではないみたいに騒ぐ心臓に戸惑い、だけど私も特別な女の子―――例えるとすればお姫様にでもなったような気がして、たしかに幸福感に包まれるのだ。
「自分でも信じられないよう競争率を勝ち抜いて得た特権なんだ」
「…そんなに安い特権でいいの?」
「安くねーよ。オレが七瀬ちゃんに優しくしたいし、尽くしたい」
不意に笑顔をひっこめた高尾くんが真面目な声でそういうから、心臓が締め付けられたような気がした。冗談なんかじゃないって伝わるから、本気だって分かるから、胸は苦しいのに温かいもので満たされてゆく。
「甘やかされてよ」
「…それなら私は、高尾くんに何をしたらいい?」
「んー、笑ってくれたら充分かな」
この人は、ほんとうに。ぎゅうっと 心臓に甘い痛みが走る。痛いのに、どうしようもなく甘くて、温かい。こんなに想ってくれる人に出会えたことが、どれほどの奇跡なのだろうかと思えば 言葉で表せないほどの幸福に泣きたくなった。その時の私はどんな顔をしていたのだろう。私の頬に触れて、なんつー顔してんだよ、と 高尾くんが困ったように笑う。
「私だって、高尾くんが好きだよ」
「…あー、もう!そういうの、ずるいって知ってる?」
きょとりと首を傾げて見上げれば、私を閉じこめて覆いかぶさるように背もたれに両手をついた高尾くんの顔が近付いた。その目の奥に、獰猛な光が宿っていることに気付く。ああ、これはきっと獲物を狙う猛禽類の眼だ。だけど間近で見えた鋭いその光をただ美しいと思うばかりで、全然怖くなんかない。
「じゃあ、やっぱり七瀬ちゃんをちょうだい」
そうして与えられる喰らうような口付けでさえ、私は喜んで甘受しよう。
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