壱の話

「めっちゃ人居ると思ったら、叔父さんの後輩のアイツらがイベントするっぽい。 最悪……。」
「あー、オルティナか? お前、それで学校の友達とか大丈夫かよ?」

仕事が休みだったこの日、俺は和馬に頼まれて少し遠い大型ショッピングモールに来ていた。
駐車場の時点で県外ナンバーも多かったので、イベントだろうとは思っていたがまさかオルティナだったとは思わなかった。

「変に誤魔化す方が苦しいから、「テレビ番組で堂々と悪口言う所がマジで生理的に無理。叔父さんと揉めてる親戚思い出す。」っつてる。」
「(そりゃ、ますます獅堂に対する当たりもキツくなる訳だ。 和馬にとっては、同類って事か。) ……一気にお前の学校生活が不安になったよ、俺は。」
「それなりに上手くやってる。 ……学校でも、鵜呑みにしたヤツが居るから、そういう時はイライラすっけど、俺も現役時代の叔父さんがどうしてたのかはよく知らねえから何も言えない。」
「………そういう我慢が出来るとこは充分偉いよ、お前は。」

和馬は翔真に比べると短気で、喧嘩腰になるのがかなり早い。
喜怒哀楽がハッキリしていると言ってしまえばそうだが、姉貴によく似ているという意味ではうちの遺伝子が強いのだろう。

「取り置きは出来ないって見たから、まだ残っててマジで良かった……。 ありがとう、叔父さん。」
「お前がそれを狙ってたのは知ってるからな。 ネットでは入荷次第即売れ、店頭でも中々売ってない大人気商品が、まさか有名配信者やアーティスト御用達のヘッドセットとはな。」
「叔父さんは興味ねえの?」
「それの型落ちっつうか、だいぶ古いのを使ってる。 有り難いのは、イヤーパッドが未だに販売されてる事だが……十年くらいになるし、そろそろガタが来てはいるなぁ。」
「………買い換えねえの?」
「そのうちするかもな。 ただ、壊れてもしばらくは捨てられねえな。 兄貴から貰った最後の誕生日プレゼントだから。」
「……父さんとか母さんが遺したの、俺にも何かあんの?」
「あるよ。 いつかお前達に譲るんだって言ってた腕時計とかな。」
「!」
「気になるなら今度見せてやるよ。 ちゃんと大事に手入れして、取ってあるから。」
「………たまに、さ。 叔父さんが羨ましい。」
「あ?」
「俺の中の父さん達の記憶、あんまり残ってねえから。」
「………いつかは忘れちまうよ、俺も。」

今17歳の翔真と和馬にとって、両親が亡くなった時は7歳だった。
まだ両親の愛を、幸せな時間を過ごすはずだった日常は、高速道路を走行していた居眠り運転のトラックが中央分離帯を越え、反対車線に居た車に突っ込み、トラック運転手及び被害車両の運転手と同行者の死亡という交通事故によって失われた。
二人には話していないが、今もなお居眠り運転をしていたトラックの運転手の遺族からは未だに謝罪の言葉も綴られた手紙のやり取りがある。

「(加害者遺族と被害者遺族。 立場は違えど家族とそれまでの日常を失ったのは、変わらないからな………。)」

そんな事を思っていると急に離れた場所から歓声が上がったのが聞こえた。
オルティナが到着したのだろう、と、そう察すると和馬が走り出した為、慌てて追いかけた。

「こんなに沢山の人が居るなんてすっごい嬉しいね!」
「劇団に居た時は考えられなかったよなぁ〜。」
「…………ッ。」
「和馬。」

和馬の考えている事はすぐに分かった。
今まで平然と他人を罵ったその口で、今、目の前ではファンに感謝を伝え、笑顔を見せ、愛を振り撒いている事に腹を立てているのだろう。

「(………CDの発売記念イベント、か。 流石に小塚新に触れないとは思いたいが………。)」

チラッと和馬を見た。
この人数だ、声を挙げない限りはこちらに気付く事は無いだろうが、万が一目の前で俺が罵られれば和馬は黙っては居られないだろう。
そして、制止をした所で簡単には怒りを収めないだろう事も。

「劇団と言えばさ〜、今回のCDに劇団の曲使いたかったんだよね〜。」
「断られたらしいな。」
「元劇団員を公表しているのは俺らくらいだし、使わせてくれたってよくない? 知らん連中にはアレンジさせたりとか許可出してんのにさ!」
「………案外、アイツが手を回してるのかもな。 そういうの、得意だっただろ小塚新は。」
「うっわ、有り得る〜。 マジ、辞めてるくせに迷惑かけるの辞めて欲しいわ〜。」
「──!」

今にも行きそうになった和馬の肩を掴めば、和馬は怒りを露わにしたまま振り返った。

「今行けば、立派な営業妨害だ。 向こうが仕事中である以上、こっちが不利なだけだ。 お前は犯罪者になるつもりか?」
「ーーッ!!」

悔しそうな表情をし、歯を食いしばってオルティナ達を睨んでいる和馬に目を伏せ、溜め息を吐くと背中を軽く叩いてからそのままその場を離れた。
だが、俺も連中に対して腹が立たない訳では無い。
ただ、俺が決めている優先順位に自分に関する事は高くないというだけだった。

「晃?」
「!!」
「……?」

聞こえた声にすぐに振り返る事はしなかった。
会わない、と、昨日電話で告げたばかりだったというのに、こればっかりは少し遠いショッピングモールに来てしまったからだろう。
溜め息を吐いてから振り返れば、そこにはスーツ姿の懐かしい人物が、大橋健人がそこに立っていた。

「ここには仕事で来たが………アイツらはまたお前の悪口か。 CD発売イベントだというのに、あれでは……まあ、青柳に居る時点で色々と察せる。」
「俺はあんたと話す事なんて無い。」
「俺がお前に会いたいと思っていた事くらい、昨日の電話で察したはずだ。 この偶然の再会すらお前にとって不愉快だというのなら、俺は死んで詫びればいいのか?」
「いい加減にしろ。 俺は、あんたの言い訳すら聞きたくないし、俺が未だに怒ってるのかどうかの判別すら出来てないんなら、論外なんだよ。」
「………お前は特別だったが、お前は特別扱いを望まなかった。 俺は今でも後悔している。 お前が今のようになるなら、恨まれてでもあの時総支配人やアイツらを追い出すべきだった、と。 どのみちあの劇団RIZEは終幕を迎えていたのであれば、あの時アイツらを追い出していれば、あんな終わり方はしなかったはずだ。 上手くいけばお前を始めとする多くの劇団員達の退団公演が出来ていただろう。」
「………ッ。」

俺は劇団RIZEを無くしたくない、と、あの当時足掻いていた。
だから、例えあの当時しなかった事をしたとしても、多額の借金で首が回らなくなっていた劇団RIZEには終わる道しか残っていなかったという事は分かっていた。
だが、俺がやっていた努力さえも否定するような発言まで飛び出した事で声を荒げたくなったが、流石に堪え、手のひらを握り締めながら歯を食いしばるのに留めた。

「あのさ……すげえ二人が訳ありっぽいのは分かったし、話の途中で悪いとは思うんだけど誰?」
「ああ、失礼。 Rain'sプロダクションという芸能事務所をやっている、大橋健人だ。 晃とは、劇団RIZEの先輩後輩であり、指導者と教え子、それから……かつて恋人だった関係だ。」
「! レイプロの社長?! えっ、じゃあ、昔の……役者だった叔父さんをよく知ってる人じゃん。」
「そうか、君は茜さんの息子さんか。 会ったのは赤ん坊の時だったから、分からなかった。 顔はお父さん似だが話し方は、昔の晃にそっくりだな……ということは、次男の方か。晃が昔、長男は母親に、次男は父親の方にどちらと言えば似ていると言っていたからな。」
「……そんなに俺、親父に似てるんですか。 俺、写真でしか親父を見たことないし、あんまり似てるって実感が無いんですけど。」
「そういうものだ。 しかし……あの頃の晃から愛想の良さを抜くとこうなったのか……。」

俺は腕を組んで、何も言わなかった。
気分が、俺の機嫌が悪くなったからだ。

「………まだ話したい所だが……すまない、次の予定の時間があって、そろそろ行かなければならない。 ただ……晃、最後にもう一つ伝えたい事がある。 俺は今の劇団RIZEの権利者に頼んで、劇団RIZEのブラックリストに入れてもらった。」
「………は?」
「俺も劇団RIZEの幹部だった。 止める事が出来なかった。 その責任として、要求をした。 権利者はかなり長い間拒否したが、つい最近ようやく折れてくれた。 ……俺は役者だった頃の人生の全てというべき劇団RIZEを自ら手放した。 お前が言ったように、これは自己満足だ。 そうする事以外に、自分を罰する手段が浮かばなかった。 いっそ、お前が有る事無い事世間に告げて俺を悪者に仕立て上げてくれた方がマシだったが、お前はそんな真似をする男では無いからな。 たった一通の別れ話を最後に、音信不通になって所在も掴めなかったせいで謝りに行く事すら出来なかったのは、流石に効いて気が狂いそうだった。 とにかく、劇団RIZEに関わらない事が俺に出来る唯一のお前に対する誠意のつもりだ。」
「誠意?違うな。 俺に言わせれば、そうやって結局のところは俺本人が説明するのを待ってるだけだろ。 今更否定する様な事を言ってるのも、自分の為であって俺の為じゃない。 本当の事はどいつもこいつもが知ってる。 それなのに、誰一人言わない。 それは、昔、俺が去った事で“都合よく責任を負ってくれる人"を失くして、あっさり世間にバレるまで何もしなかった事と変わっちゃいない。 ……また俺がしてくれるのを待って、また俺に自分達は責任を負いたくないって事なんだよ。 もううんざりだ。 責任から逃げてるだけくせに、自分達に都合が悪い時だけ俳優代表の俺を頼ろうとしてんじゃねえ。」

そう告げると背を向け、さっさとその場から歩き出した。
和馬が慌てて追いかけて来たし、俺の様子を伺うような真似をしてはいたが聞いて来る事は無かった。

[大橋健人:師として、先輩として、俳優代表の前任として、お前に教えられる事は全て教えたつもりだ。 だが、今改めて伝えたい事がある。]
[大橋健人:新、俺はお前が入団して来なければ全てを投げ捨てて辞めていた。 純粋なまでに、真面目に、真っ直ぐに俺に教えを請うてきたが、お前は既にポテンシャルが高かった。教えてくれと言ってきたのが、そんなお前だから俺はお前に期待を寄せた。 そして、お前は常に期待以上の結果を俺に証明し続けた。 だからこそ、お前に後任を託した。お前以外に託したくないと思った。 結果としてお前には、随分と重荷を背負わせてしまったが、俺は一度としてお前に失望させられた事は無い。今も、なお。]
[大橋健人:だが……結果として、俺は、俺達はお前に頼り過ぎ、お前がどれほど失望し、どれほど傷付いたかなど目を向ける事をしていなかった。 もう一度、お前と同じ場所に立てればどれほど良かったか。 お前が許さない限り、この望みであり願いが叶う事は無いだろう。 先輩として、かつての幹部として、まだ動くとしよう。]

大橋さんのそれらの投稿は、俺にとって望まない再会を果たした一週間後にされ、和馬に無言で見せられた。

だが、そんな和馬は、翔真との会話や接触をあからさまに避けていた。
わざと翔真には分からない話をしたり、聞かれても無視するといった露骨なやり方なので、注意や窘めもしたがやめる気は無いと言われた。

「……翔真、お前は?」
「えっ?」
「最近、塾の話も聞いてない。 大丈夫か?」
「あ……うん、大丈夫。 ちゃんと行ってるよ。」
「(ちゃんと行ってる……って、俺が聞きたかったのはそういう事じゃないんだがな……。)」
「………どうせ、また塾終わりに会ってんだろうし聞いたり、心配するだけ無駄だって。 叔父さんがどんだけ苦しめられたか、分からないし理解も出来ねえんだから。 獅堂と一緒で。」
「──!」
「和馬。 そういう真似はやめろって何度言わせんだ。」
「ごちそうさま。 配信してくる。」

すぐに咎めたが、食器を台所に下げ終わった和馬はそう言うなり自室に入っていった。
徹底的に許さないつもりだ、というのは明らかだった。
その頑固さにはうちの家系である事を痛感せざるを得ず、溜め息を吐いた。

「………叔父さんは、僕が出て行くべきだって思ってるの?」
「そう思ってて欲しいだけだろ。そうすれば、獅堂に行く明確な理由が出来るからだろうな。 ……翔真、自分の将来の事だぞ。 他人に在り方を決めて欲しがるのはやめろ。 誰かが望む在り方じゃなく、お前自身がどうなりたいのか、どう在りたいのかをしっかり考えろ。」
「………だって……。」
「だってじゃない。 和馬があんな態度を取り続けるのも、お前が獅堂に「もしかしたら」なんて考えを抱かせて、裁判やトラブルを繰り返させているのは、俺に黙って連絡をしていたからだろ。 俺は一貫して、俺に無断で関わるなって言ってきたんだからな。」

俺は連絡するな、とも、会うなとも言っていない。
もちろん、本音を言えば一切そんな事をして欲しくないが、一言言ってくれれば反対はしても抑え込むように強制的に阻むような真似なんぞしないというのに。
俺に黙って連絡したり会って何かトラブルに遭っても、俺は関知しないとも告げてきた。
それなのに、無断で連絡したり、会っていたのであれば、翔真はその判断の責任を負うべきだ。そこに、どんな理由があったとしても。

「………悪いが、ハッキリ言うぞ。 お前は物分りが良いと思ってたが、いつの間にか変わった。 逆に、和馬の方がまだ物分りが良くなった気さえする。 五年前、お前が俺に黙って獅堂とやり取りを始めた頃からだ。」
「!」
「翔真、俺はあと何回お前に突き付けて、あと何回姉貴達の位牌の前で謝れば、獅堂とのトラブルに終わりが来る? お前が俺に無断で獅堂と関わり、状況を悪化させていく度にストレスがかかり、お前と和馬の関係まで悪化している事に俺が傷付かないと思ってんのか? ……もしそうだとしたら、俺はお前への接し方を間違えたんだろうな。」
「…………。」
「………とにかく、これ以上お前が状況を悪化させるばかりで、自分自身で答えをハッキリさせないのであれば、俺は自分自身の為にもお前を見限ってお前だけを獅堂に引き渡し、お前との縁を切る事を条件に獅堂から二度と変わらないと双方の弁護士立ち会いのもとに誓約書を交わすつもりだ。 この先の事を考えると、もうこれ以上は獅堂との事に時間や金、精神力をかけることは出来ない。」

これまで以上に強めに、「これ以上は容認出来ない」という意思をハッキリと伝えた。
ここまで伝えてなお、翔真が顧みて考え直してくれないのであれば、獅堂の要求の本質である兄貴の代わりとしての翔真を明け渡す方向でこちらが譲歩しなければ、金銭面でも精神面でも更に苦しくなるのは明らかだからだ。

「………この辺で折れるなり、諦めるしかないな……。」

姉貴夫妻と親父が眠る墓を前に、そう呟くと溜め息を吐いてから立ち上がった。
定期的に墓を掃除に来てはいるが、姉夫妻の命日も近いからと改めて掃除に来たというのに、どうにもならない悩みを、上手くいかないもどかしさと無力感を、どうしても決して返事の無いものに漏らしてしまった。

「………ホント、姉貴と兄貴が生きてりゃあな。」

母親代わりだった姉貴、今まで居なかった義兄という新たな存在だった兄貴、どちらも精神的に頼りにしていたが故に未だにそう思わずには居られない事は多々ある。
そう心底思いながら呟いたのち、膝を叩いてから立ち上がり、背伸びをしてからゴミや持って来た荷物を手に駐車場へと向かった。

「劇団RIZEで俳優代表をされていた小塚新さんですよね?」

途中で、行く手を阻むように現れた見知らぬ男にそう言われるまでは。

「……どちらも今は元、です。 どちら様ですか?」
「私、こういう者でして。」
「(………株式会社エンターブレイン週刊芸能最前線!編集部記者……。)」
「ご親族の方と、随分と長い間トラブルになっているそうですねぇ? 目的は、お金ですか?」
「私がご依頼している担当の弁護士の方にご連絡をして下さい。 私の方からは記事にするのはご遠慮頂きたいとお伝えする以外、一切お答え致しません。」
「おや? 良いんですか?そんなご態度で。 聞きましたよ?劇団RIZEの総支配人や演出家と、肉体関係にあった……と。」

すぐに理解して溜め息を吐いてから告げ、さっさと立ち去ろうとするとニヤニヤしながらそう言ったのが聞こえて思わず足を止めた。

「……は?」
「またまた。 貴方と劇団RIZEの当時の総支配人と演出家ですよ、分かっていらっしゃるでしょ?」
「いいえ、ちっとも分かりませんね。 繰り返しになりますが、私からは「記事にするのはご遠慮ください」とお伝えする事しか出来ませんので、私の担当弁護士の方にご連絡をお願いします。」
「裏は取れているんですよ? 困るからって弁護士任せですか。」
「………編集部の方に、弁護士を通じてご連絡して頂くよう申し入れておきます。 私が困るのは、元小塚新だからではありませんから。」

記者が嬉々として記事にするだろう事は、記者の口振りや態度から察していた。
あの獅堂夫妻が売り込んだ相手であるという事もそうだが、裏は取れているという全く当てにならない根拠が理由だ。

「はあッ?! あんッの………!」
「手にカメラを持ってたし、多分写真も撮られた。 今の俺を知ってる人が見れば、すぐにお前の店の従業員だって事も知られるはずだ。 あるいは、あの記者がここに来るか……。」
「!」
「………悪いな、大悟。」
「謝らないでちょうだい。 ……あの夫婦、いつかはやるだろうとは思ってたけど、相手のチョイスも最悪よ!あんたが突撃された記者、有名な記者なのよ?! 嘘だろうが平気で記事にするけど、一部は事実を折り込む上にゴシップ記者としては歴も長いから、客層が喜ぶ記事を分かってるだけに質が悪いってね!」
「……お前が知ってるって事は相当な有名人だな、あの記者。」

すぐに大悟に連絡を入れ、ちょうど家に居るというので帰りがけに立ち寄り、事情を話した。
案の定怒りを露わにした大悟の話しを冷静に聞きつつ、あの記者の名刺を見ながらそう告げ、目を細めた。

「まあ、とにかくこっちの事は気にしないでちょうだい。 一応アタシも今まで以上に気にかけておくわ。」
「分かった。 とりあえず、そういう事だから。」
「……あんまり、無理するんじゃないわよ?」
「はいはい。」

そう告げて大悟の家を後にすれば、今日だけで何度目かの溜め息を吐いた。
最悪の場合には仕事を辞めなければならないが、いずれにしても翔真と和馬にも言わなければならない。
翔真と和馬に言わなければならないのが、正直な所一番気が進まない。
ただでさえ今獅堂のトラブルに対して怒り心頭な和馬が更に激怒するのは言うまでもなく、その怒りの矛先が翔真にも向くのは明らかで、それが憂鬱だからだ。

「………はあぁ〜……。」

再び溜め息を吐いた矢先、携帯がメッセージアプリの通知を知らせた。
すぐに携帯の画面を確認すれば和馬からで、その間にも和馬からのメッセージが届いた。

[和馬 叔父さん、この間ショッピングモールで会った大橋社長さんからメッセージが来たんだけど、記事が出るかもって何?]
[和馬 まさか、あのクソジジイ共が記者に売ったとかじゃないよな?]
[和馬 もう絶対翔真のせいだろ。あんだけ叔父さんが勝手に連絡したりすんなって言ってたのに、勝手に連絡したりするからこうなったじゃん。 マジで許せねえ、ふざけんな]
「(大橋さんが記事になる事を知ってる……? いや、それよりも今は和馬だな。)」

そう判断し、すぐに事情を話したがやはり激怒しているからか既読は付いたものの、返事はなかった。
溜め息を吐いて、翔真にも事情を話し、和馬がかなり怒っているので今日は実家である姉貴の家ではなく、俺の自宅に帰った方が良いので塾が終わり次第迎えに行くと送った。

[翔真 大悟さんに連絡して、大悟さんの家に泊まる。]
「(俺にも会いたくない、か………。)」

理由まではハッキリ分からないが、俺とも今は顔を合わせたくないのだろう事は理解した為、了承し、俺からも大悟にもその旨を伝えれば、大悟からも了承を意味するスタンプが送られてきたので一息を吐いた。
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