壱の話

[今、大丈夫かしら?]

大悟からそんなメッセージが来たのは、大悟に昔のツテを教えてから二週間が経った頃で、返事代わりに電話を掛けた。

「もしもし。」
『今、リージョンミュージックに居るわ。』
「! ………へぇ? 俺が知ってる堂島の社長さんか?それとも変わってんのかな?」
『後者だ。 ……久しいな。 相変わらずの声の良さに感動をしている。』
「あぁ、あんたが今は社長をしてんのか雅信さん。 そういうあんたも相変わらずだな。」

聞こえて来たもう一つの声にそう告げて笑みを浮かべると、目を伏せた。

「………それで? 小塚新にどんな話だ? 先に言っておくが、活動再開はしないからな。」

そう告げて、聞いた内容には思わず笑って「じっくり考えて、気が向いたら」と答えた。
それが果たして答えと呼べたかどうかはさておき、少なからず興味をそそられる内容ではあった。

《この度、弊社株式会社リージョンミュージックは新規プロジェクトとして公開オーディション番組をやる事と致しました。 テーマを“新生"
とし、プロジェクト名は“ReRIZE"です。 このプロジェクトは、今年創設百周年を迎える劇団RIZEを全く新しい形で皆さんに触れて貰う為のものです。 劇団というよりはマルチタレントやパフォーマンス集団というイメージです。 自薦他薦問いませんが、プロジェクトには元劇団RIZEの弊社スタッフや従業員が参加する厳しいものになる可能性が非常に高いものです。 我々は本気で、即戦力となるような方を求めています。 その分、見事合格された方にはタレントとしてのデビューをお約束致します。》
《つ、つまり、プロから募集するという事でしょうか!?》
《いいえ。 ……昨今では名前しかご存知無い方も多いでしょうが、かの小塚新は劇団RIZEの入団テストを素人ながら即戦力レベルの実力を身に付けて挑んで来ました。 「劇団RIZEに入りたい、劇団RIZEでなければ意味が無い」その一心だけで。 実際は彼の努力も然ることながら才能があった。 彼の演技を見て虜になる人は多く、私も彼の演技や人間性に虜にされた一人です。 私は、彼のような熱意と情熱、並々ならぬ努力を惜しまない素人も対象としています。 アマチュアだろうが素人だろうが、努力さえ惜しまないのであれば弊社は持てる全てでサポートを致します。》
《………!》
《彼の名前を出したので、この流れでもう一つ。 弊社は小塚新に直接活動再開を申し入れました。 残念ながら、首を縦に振っては貰えませんでしたが、本プロジェクトに興味を持ってはくれました。 よって、「劇団RIZEに興味を持って貰えるのであれば」と弊社が管理⚫保護して来た物と小塚新自身で管理していた劇団RIZEに関連する品の展示を劇団RIZEミュージアムの方で行うことになりました。 今後、小塚新自身で管理していた物に関しては弊社で管理⚫保管する事となります。 こちらの展示日程については、後日劇団RIZEミュージアムの公式サイト及び公式SNSにて告知致します。》

そう発表されるや否やオーディションについての他に、劇団RIZEの権利を持つ株式会社リージョンミュージックの社長が小塚新について“ファンの一人"と言った事についてそれはもう盛り上がっていた。

[げ、劇団RIZEの権利持ってるとこが新生劇団RIZE作るからオーディションするってことォ!?]
[情報が!情報が多い!!]
[小塚新と連絡付いた上、小塚新が個人所有してたヤツまで展示ってマジか! 活動再開は断られたっぽいけど、プロジェクトに興味持ったって言われると期待しちゃうな……(ソワソワ]
[ReRIZEかぁ。 劇団ってよりかはグループになるってのは確かに新しいかもしれんな。 マルチタレントグループって言われると近いイメージ的にはオルティナか?]
[しかし、小塚新は天才天才言われてたが入団時のエピソードがマジで天才感もあるな………。 多分努力家なんだろうが、天性の才能もあったからこそ即戦力になり得たんでは?]
[理想が新人時代の小塚新はハイレベルじゃん? 新人の頃の公演見た記憶あるけど、初っ端から名前あるモブ?役だった記憶あるぞ、
なんだあの新人?!本当に新人か!?ってなった気がする。]
[まあ、音痴+運動音痴+ブサイクデブのワイはオーディションに応募しようとも思わんのだが、拡散しつつ視聴っすね!!]
[オーディションやるくらいならオルティナにパフォーマンスさせてよ!! なんでオルティナには頑なにパフォーマンスさせないの?!]
[オルティナの展示品は無いのに、小塚新はあるの??? 潰した張本人なのに???]
[リージョの会見観て心底ガッカリした。 最大レーベルの社長兼権利者がオルティナは全く眼中に無いんだなってハッキリ分かった。 もうリージョ所属アーティストの曲買わない。]
[うーん。 オーディションやるのは良いけど、劇団RIZEは未だになんかハッキリしてないとこ多いのにそこは無視してやるの? 小塚新に連絡付いたなら、そのハッキリしてない部分聞き取りして、発表してからの方が良くない?]

SNS上は、賛否が分かれたのもさる事ながら目に付いたのは劇団RIZEそのものの噂の是非とオルティナという今最も知名度のある劇団RIZE出身者が劇団RIZEのパフォーマンスをしてない事に不満を上げている投稿だった。
後者については、オルティナファンによる投稿が最も目立つ形だった。

「(………説明、ね。 どう説明した所で、このオルティナファンは疑うに決まってんだよな。)」

ごく一部だろうが、声を上げるファンというのは良くも悪くも目立つ。
そのごく一部のファンが、オルティナを神像化しているようなら尚更だと俺は思った。

《オーディションプロジェクトを発表以来、様々なご意見を頂戴致しましたし拝見する事もございます。 その為、関係機関や関係者との話し合いの上、いくつかの事実を公表をする事と致しました。》
《まず、昨今人気となっているある芸能事務所さんに所属している劇団RIZE出身者五人で構成されたグループが劇団RIZE在籍当時に縁の品は弊社には一切ございませんので、無い物は展示する事が出来ません。 また、劇団RIZEの権利者として今後も当該事務所及びアーティストに使用許諾を出す事は有り得ません。詳細につきましては、非公表の使用許諾条件に合致しない以外のお答えは差し控えさせて頂きます。》
《そして、ネット上には劇団RIZEを潰したのは小塚新であるという、恐らく先述致しましたグループによる発言を元にしたと思われる噂がございますが、そのような事実は一切ございません。 劇団RIZEが解散に至った理由は、解散当時の運営管理者達による業務上横領などの犯罪行為と主要な劇団員が退団した事に伴う需要の低迷が理由の財政難が原因です。 決して、小塚新が原因ではありませんし、劇団RIZEの解散を決断したのは他ならぬ私です。》
《劇団RIZEに関しまして未だ不鮮明な部分が多い事につきましては、既に解決済みの犯罪行為が原因の為、被害者のプライバシー保護の観点から申し上げる事が弊社及び私個人の立場からは不可能となっております。 申し訳ありませんが、今後も弊社及び私個人から公表する予定はございません。 被害者個人から公表したい等の要望があれば可能な範囲で協力致します。》
《最後に、劇団RIZEという名称およびブランドイメージを損なうような言動、弊社や弊社所属アーティストに対する過度な誹謗中傷には然るべき対応を検討しております。 過度な誹謗中傷等はお控え下さいますようお願い申し上げます。》

リージョンミュージックが社長からのお知らせとして会社ホームページにも文章が公表されたのは、会見から二週間が経ち、オーディションの募集開始一週間前の事だった。
実質的な名指しをされたオルティナとオルティナ有する青柳芸能事務所は、ホームページ上で許諾が降りていない事と劇団RIZE在籍当時の品は本人達も所持をしていない事を認め、誹謗中傷は辞めるよう求めた。
だが、SNSは双方からのお知らせを受けて主にオルティナファンを中心にリージョンミュージック側に不満を漏らすような意見で炎上していた。

そうして良くも悪くも注目される最悪の状況のまま、オーディションの募集は開始された。
せっかくのプロジェクトは、波乱の幕開けになったのだ。

「オーディションの一次審査の配信、今日からよね?」
「………なんで家に来るんだよ? 自分の家で観ろ、自分の家で。」
「感想を言い合いたいじゃない!」
「つうかお前仕事は?」
「ダメだったけど何か?」
「………それは、悪い。」

オーディションの公開初日、書類審査を追加した参加者が面接を迎える一次審査の日、押し入って来た大悟に呆れつつ、テレビにネット配信の映像を映した。

『かつて、劇団RIZEには様々な劇団員が居ました。 劇団員として名を馳せた者も居れば、名を馳せる事無く劇団を去った者も居ます。』
「ちょうど始まる所じゃなーい!」
「あー、はいはい。」

何もない空間を歩くリージョンミュージックの社長である堂島さんの周囲を、様々な劇団RIZEの公演ポスターが舞う。

『名を馳せた劇団員の中には、今もなおその名を馳せる者も………。』

カツンッ、と、音を立てて堂島さんの隣を一人、また一人とシルエット姿の人が堂島さんが見つめる光に向かって行く。
そして、最後、一人だけが後ろへ振り返り、堂島さんへと手を差し伸べ

『ようこそ、劇団RIZEの世界へ。』
『………どうか歴代を超え、未来へ。 まだ見ぬ君達を私達は歓迎しよう。』
『株式会社リージョンミュージック Presents ReRIZEプロジェクト第一弾 公開オーディション。 “繋げ、劇団RIZE"!さあ……! Shaw Timeだ!』
「?!」
「…………。」

聞こえた声に、大悟が振り向いた。
それが俺の声だったからだが、俺は何も言わなかった。
画面の下に表示されたコメントも、聞こえた声に反応していた。

[ンエェェ小塚新ァァァ!?]
[ああああ!! 光に向かって行ったの、歴代の俳優代表か………!]
[待って? これ、OP? 過去のかと思ったけど、これ小塚新わざわざセリフ収録したんか!? えぇッ?! サプライズが過ぎんか!?]
[興味持ったってそういう?!]
[小塚新がやってた公演前アナウンスのShawTimeだをまた聞けるとは思わなくていまないてる]
「随分嬉しそうねぇ……。 いつ撮ったのよ?」
「あ〜……二週間前かな? 向こうの家で和馬達が居ない間にパパッと。」

そう言いながら二人分のコーヒーを入れ、大悟に手渡しながら座った。

書類審査を通過したのは百人。
その中から第一審査を通過出来るのは五十人、第二審査では十人、最終第三審査でデビュー出来る五人が決り、デビューに至るまでも配信で公開する予定である事も発表された。

「随分減らすのね……。 集団って言ってたからもっと大人数かと思ったんだけど。」
「第一弾らしいからなぁ……。 まあ、とりあえず今は誰が残るか見守ろうぜ。」

オーディションが始まると様々な人が書類審査を通過して来たのだ、と、改めて分かった。
中には、劇団RIZE出身と書いたのに嘘だと分かってその場で不合格を告げられる人も居た。

『28番、山崎颯人です。 アイドル志望ですが、今はフリーでSNSや動画配信サイトで活動しています。』
『山崎さん、いくつも事務所を変えられていますが、理由は?』
『契約終了です。 デビューさせられる見込みが無いと言われました。』
『………なるほど。 では、歌ったり踊ったりは出来ますか?』
『はい!』
「……あら。 随分と上手いんじゃない?」
「………性格だな。」
「!」
「劇団RIZEに居た頃、技術も才能もあるのに、協調性は無くてプライドばっか高くて他の劇団員と揉め事ばっか起こすタイプのヤツはよく居たよ。」
「ああ、才能や技術はあるのに人間性が無いって事ね。 多いわよねぇ、業界には。」
「芸歴は長いし、技術が高い事を考えると多分通るだろうな。」

見ながら大悟とああでもないこうでもないと勝手に審査をしていると

『68番、新藤将樹です。 劇団RIZEに居た小塚新さんに憧れて業界に入りました。 このオーディションには、事務所を辞めて応募しました。 よろしくお願いします。』
「「『!!』」」
『………小塚新に、ですか。 このオーディションは、事務所に在籍済みでも構わなかったはずですが事務所を辞めた理由はなんですか?』
『在籍していた事務所ではやりたい事をやらせてくれなかったからです。 モデルとしての仕事ばかりで、やりたかった演技や歌は一度もやらせてくれなかったので、このまま在籍していても小塚新さんのような事は出来そうに無いと契約の打ち切りと終了を申し出ました。』
「………へぇ。 あの時の奴がねぇ……。」
「! 知ってるの?」
「名前は知らなかったけどな。」

劇団員時代に見た事のある男が現れた事に驚いたし、コメントで芸名だったのであろう飯塚将樹という名前が出されている辺り、モデルとして売れていたのだろう事は伺えた。

「………ああ、飯塚将樹ね。 名前だけならアタシも聞いたことがあったわ。 レイプロ辞めてたのね。」
「レイプロ?」
「Lain'sプロダクション、アンタの憧れた大橋健人が立ち上げた事務所よ。 彼、そこに所属する売れっ子モデルだったのよ。 残念ながらアタシが仕事する機会は無かったけどね。」
「(………大橋さんねぇ……。)」

大悟まで知っていたのであれば、やはりかなり売れていたのだろう。
審査員に言われたようにパフォーマンスしている技術も見るに、小塚新のようなという言葉も嘘では無く、かなり練習している事も伺えた。

「まさか、小塚新に憧れて業界に入りましたって言われるとはなぁ………。」
「あら、意外と居るわよ?アンタが知らないだけでね。」
「…………。」

一次審査の結果は二週間後に通知され、二次審査は約一ヶ月後に発表される事が公表された。
一次審査の参加者の多くがSNSをやっていた事で、配信を見た人が直接メッセージを伝えるなどニュースにもなっていた。

[ゲーム配信者の小塚和馬、小塚新の甥である事を公表! 叔父⚫小塚新について「十年くらい前に両親を亡くしてからの親代わりで、劇団RIZE活躍してたって事は知っているが実際に公演は見た事は無い。(自宅と配信に)割と頻繁に来てくれる」とのこと。]
「………和馬、どういう事だ?これは。」

一週間後、俺は携帯に表示させたニュース記事を指して、和馬を問い詰めていた。

「なんで小塚新の名前を出した? 誹謗中傷を受けるとは考えなかったのか。」
「………考えたけど、叔父さんが小塚新なのは事実じゃん……。 それに……これ以上、叔父さんが悪く言われんのをただ見てるのは、叔父さんが思うより辛いんだよ……!」
「だからってなんで俺に言わなかった? 勝手に言うなっていつも言ってただろうが。」
「………聞いても、叔父さんが良いよって言った事ねーじゃん。」
「あ?」
「アタシも和馬の気持ちは分かるし、あんたの言いたい事だって分かるわ。 だけど、あんたが思っているより身近な人が悪く言われるのをただ見てるのって辛いのよ? あんたとしては親心みたいなものもあるんでしょうけど。」
「…………。」
「ねぇ、晃。 小塚新にとって、アタシ達は邪魔とまでは言わないけど、足枷なのかしら?」
「………は?」
「小塚新の身内や友人⚫知人に名乗りを上げられると、必然的に今まで明らかにならなかった一面を話される事が増えるわけだから、都合が悪い。 そう思ってるから、アタシ達に口止めしてるんじゃないの?」
「なっ……?! そんな訳あるわけが………!」
「じゃあ聞くけど、なんでアタシ達に口止めをするの? あんたが悪く言われてるから?」
「………そうだよ。」
「……そう。 和馬は未成年だからっていうのは分かるけど、あんたに守って貰わなきゃならないほどアタシ達には受け止める力が無いって言いたいのね。 随分と自惚れてるのねぇ?」
「?! なんでそうなる?!」
「小塚新との関係を黙ってろっていうことは、黙ってればあんたがぜーんぶ引き受けてるから被害が及ばないように守ってやるってことでしょう。 だって、元とは言え劇団RIZEのトップスターの一人だものねぇ。 自惚れ無いわけがないわよね。」
「おい。 お前がわざとやってんだとしても、いくらなんでも許さねえぞ大悟。」

オロオロしだした和馬をよそに、居合わせて口を挟んで来た大悟の胸倉を掴んでそう告げた。

「………違うなら、別に言っても良いはずよね? アタシは、自分の身くらい自分で守るわ。 いつまでもあんたに守って貰わなきゃいけないほど、アタシは弱くないわ。 弱いのはあんたの方でしょう、晃。」
「!?」
「いつまで言われっ放しでいるつもり? いつになったら、アタシ達にあんたを心の底から応援させてくれるのよ。 トラウマが原因なんでしょうけど、周りの目が怖くてビビってんのはあんただけなのよ、晃!!」
「──!」
「………あんたは変わったわ、悪い意味で。 そのザマじゃ、確かにあんたは小塚新を名乗れないでしょうね。 お姉さん達が死んだ時に、一緒に死んだんでしょうね小塚新も。」

大悟は、そう言うと俺の手を振り払った。

「アタシは、小塚新の幼馴染みだって事を公表するわ。 あんたが望もうと望ままいと、アタシは幼馴染みの小塚新の話だってするわ。 アタシの価値は、あんたや外野に決められる筋合いはないもの。」
「…………。」
「だ、大悟さん……!」
「和馬、あんたは気にしなくていいわ。 アタシは良い機会だからこの際ハッキリ言いたかっただけ。 あんた達も好きにしなさい、自分の人生なんだから。 ………少なくとも、私が知ってる小野塚晃と小塚新は、もっとカッコイイ男だったんだから。」

大悟は、そう言うと帰って行った。
俺も、程なくしてからしばらく頭を冷やすと帰った。

『小塚新について聞きたい……ですか?』
『はい。 堂島社長は、現役時代の小塚新さんをご存知なんですよね?』
『ええ。 当時は、社長秘書としてお会いもしましたし、お話しも何度か。』
『どんな方でしたか?』
『そうですね……。 一言で言うなら、憧れる理想の男、でしょうか?』
『理想の男……ですか?』
『真面目で、良く気が利いて、それでいてつい頼りたくなる頼り甲斐のある男です。 ただ、芝居やパフォーマンスに対する情熱が強いが故に自分にも他人にも厳しい一面もありました。 まるで、戦隊ヒーローのリーダーのような』
「…………。」

付けていたオーディション番組の番外編という名のリージョンミュージック社長へのインタビューを消し、大きく溜め息を吐いてその場で仰向けになった。

「(………ビビってる、か……。 なまじ自覚があるだけに、しんどいものがあるな………。)」

そう思いながら目を閉じれば、思い出されるのはかつて味わった沢山の人の眼差し。
嫉妬だけならまだ可愛いものだった。
いつの間にか、その視線は嫉妬ではなく恨みや怒り、嫌悪といったものだけに変わった。

《すまない、小塚。》
《ごめんなさい、小塚先輩。》

残っていた同期や後輩が視線や空気に耐え切れずに一人、また一人と、劇団を去って行った。
俺だけが、故意に取り残された。

《まだやれるよなぁ? 小塚新。》
「ーーッ!!」

聞こえたハッ!と目を開け、飛び起きた。
目に入った時計の時刻を見て、あのまま寝落ちたのだと理解し、溜め息と共に立ち上がって眠気覚ましがてらシャワーを浴びた。

「(求められるのは、きっと昔の俺だ。 でも、今の俺は………小塚新は、昔とは違う。 昔のようなパフォーマンスは、多分間違いなく、出来ない。 いつかは出来るようになるかもしれなくても、それは今じゃない。)」

そう思いながら大悟の指摘通りだと痛感して溜め息を吐くと携帯が通知音を鳴らした為、携帯を取り出して確認した。
それは、動画サイトの大悟のチャンネルで動画が上がったという通知だった。

『はぁ〜い、皆。 タイトル通り、今日はお知らせ動画よ。 残念ながらお仕事のお知らせじゃなくって、ずっと隠してる事を公表するだけなの。 というのも、昨今、色々考えさせられちゃって、もうずーっと隠してる事にモヤモヤしてたの! だから、言っちゃうわ。 私、鏑木大悟は劇団RIZEの劇団員だった小塚新と幼馴染みの関係です。 今も交流があるわ。』
「!」
『隠してた理由としては………んー、まあ、新本人からの要望っていうのは大きいけど、一番は売名みたいで嫌だったのよね。 今でこそ沢山の人に見て貰えてるけど、初めはぜーんぜん駄目だったもの。 だから、黙ってたわ。』
「…………。」
『だけど、昨今は新が悪くばっかり言われてるでしょう? 事情とか色々知ってる身からすると、やっぱり思う事が止まらなくて、どうしてもモヤモヤしちゃったのよ。 アタシがメイクしたりするようになったのは、間違いなく新のおかげなんだもの。 今のアタシがあるのは、ありのままを受け入れてくれた新のおかげ。 だから、言う事にしたわ。 だって、その方がやっぱりアタシらしいもの。』
「…………。」
『だ、け、ど! アタシは新に関する噂については言及しないわ。 それを全ては新本人以外を除いて言うべきじゃないっていうのがアタシのスタンスだから。 それでも、あえてアタシが言うとしたら………新は退団する五年前にはプライベートが理由で辞めたがってたのと何も言わないのは何も言えない事情があるって事だけ。 復帰するのかどうかは、アタシが言うことじゃない。そうでしょう?』
「…………。」
『アタシはこれからもこれまで通りのスタンスよ。 アタシはアタシらしく生きるわ。 アタシの好きなことを共有する事で、誰かの背中をちょっと押せるなら嬉しいわ。 それじゃあまたね! 次はお仕事のお知らせが出来るように頑張るわね〜。』

動画を見終わると立ち上がり、溜め息を吐きながら頭を掻いた。
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