壱の話
「(加害者遺族と被害者遺族。 立場は違えど家族とそれまでの日常を失ったのは、変わらないからな………。)」
そんな事を思っていると急に離れた場所から歓声が上がったのが聞こえた。
オルティナが到着したのだろう、と、そう察すると和馬が走り出した為、慌てて追いかけた。
「こんなに沢山の人が居るなんてすっごい嬉しい!」
「劇団に居た時は考えられなかったよなぁ〜。」
「…………ッ。」
「和馬。」
和馬の考えている事はすぐに分かった。
今まで平然と他人を罵ったその口で、今、目の前ではファンに感謝を伝え、笑顔を見せ、愛を振り撒いている事に腹を立てているのだろう。
「(………CDの発売記念イベント、か。 流石に小塚新に触れないとは思いたいが………。)」
チラッと和馬を見た。
この人数だ、声を挙げない限りはこちらに気付く事は無いだろうが、万が一目の前で俺が罵られれば和馬は黙っては居られないだろう。
そして、制止をした所で簡単には怒りを収めないだろう事も。
「劇団と言えばさ〜、今回のCDに劇団の曲使いたかったんだよね〜。」
「断られたらしいな。」
「元劇団員を公表しているのは俺らくらいだし、使わせてくれたってよくない? 知らん連中にはアレンジさせたりとか許可出してんのにさ!」
「………案外、アイツが手を回してるのかもな。 そういうの、得意だっただろ小塚新は。」
「うっわ、有り得る〜。 マジ、辞めてるくせに迷惑かけるの辞めて欲しいわ〜。」
「──!」
今にも行きそうになった和馬の肩を掴めば、和馬は怒りを露わにしたまま振り返った。
「………今行けば、立派な営業妨害だ。」
「! でも………!」
「それとも、俺に頭を下げさせたり、これ以上厄介事を増やすのが望みか?」
「ーーッ!!」
悔しそうな表情をし、歯を食いしばる和馬に目を伏せ、溜め息を吐くと背中を軽く叩いた。
「……帰るぞ、和馬。」
「………分かった。」
俺とて腹が立たない訳では無い。
ただ、俺が決めている優先順位に自分に関する事は高くないというだけだった。
結局、和馬は終始不貞腐れており、翔真と和馬が過ごす家に着いてからもそれは変わらず、翔真が出迎えればより不機嫌になり、さっさと自室に籠もってしまった。
翔真も翔真でショックを受け、明らかに肩を落とし、夕食の時間になっても二人の様子は変わる事は無く、会話は無かった。
「…………。」
「(………やっぱ、収入を増やすか獅堂との問題を解決しない限り苦しいな。 副業を始めるか……?)」
オーディション番組を観ながらこれまでの出来事や帳簿をノートに書き込み、そう思いながら指先でテーブルを叩きつつ、考えを巡らせた。
と、部屋のドアをノックする音がした為思考と観ていたオーディション番組を中断し、椅子から立ち上がってドアを開けて驚いた。
「翔真。 珍しいな、お前がこの時間にまだ起きてるなんて。」
「………眠れ、なくて……。 少し、叔父さんと話してもいい?」
「ああ、構わねえよ。」
そう告げ、翔真を部屋に入れた。
「! その番組、もしかして劇団RIZEの権利者がやってるオーディション……?」
「ああ、この前たまたま観てな。 それから時間見つけては観てる。 中々面白いぞ。」
「……叔父さんは、参加しないの? 劇団員だった人、何人か参加してるって記事見たよ。」
「………俺が小塚新でいないほうが色々と動きやすいんだよ。」
「!」
「最も、向こうはそろそろ痺れを切らすだろうから、小塚新とトラブルになっていると週刊誌に売る可能性が高い。 そうなれば、俺は小塚新に戻って大々的に相手をする必要があり、お前らの意思なんて関係無く結論が出る。 そうなる事は俺の本意じゃないし、小塚新に戻るという事は明らかにしなきゃならないあれやこれやも話さなきゃならないからな……正直気は進まない。」
「………叔父さんは、小塚新をやりたくないの?」
「残念ながら、小塚新は色々としがらみだらけでな。 昔のように好きな事に打ち込んでて良い訳じゃない。 そのしがらみを断ち切るのも簡単じゃない上に、病気というリスクに接触する可能性さえある。 ……あまり、病気の事でお前らに心配されたくもないからな。」
そう告げながら、痺れを切らしそうなのが獅堂だけでは無いという事にまでは触れなかった。
過去についての当事者は、俺だけでは無いのだから。
「まあ、和馬は俺にまた役者というか、小塚新として活動して欲しいと本気で思ってるな。 ヒーローショーとか、ああいうのが和馬は赤ちゃんの時から好きだしな。」
「………僕だって、叔父さんの活動は見たいよ。」
「そうか。 だが、和馬はそう思ってない。 和馬は、お前は小塚新どころか叔父小野塚晃まで邪魔をしていると本気で思ってる。 何故なら、俺を散々悩ませ苦しめている獅堂と話をしようと、対話をしようという姿勢を取り続けているからだ。」
「…………。」
「お前には悪いが、獅堂が俺を散々悩ませて苦しめてるのは事実だぞ。 弁護士費用、裁判費用、この辺りは高額だ。 ハッキリ言って、獅堂を相手にしているせいでオルティナの言動を放置している部分だってある。 費用的にも、精神的負担的にも、もうあまり余裕が無い。 先の事を考えると、弁護士にお願いするのはこれが限界だ。 これで片付かないなら、もう対応は出来ない。」
「! 精神的負担……って……叔父さん、もしかして具合悪いの?」
「カウンセリングに行く頻度が増えたという意味では、ここ二、三年は悪くなってるな。」
「──!」
「そういう意味でも、和馬は最早お前を恨んでると言ってもいい。 これは、お前が獅堂と対話しようと俺に内緒で勝手に決めた以上、必然的に起きた結果だ。 俺に話を通してれば、そこまではいかなかっただろうけどな。」
「…………。」
「こうなった以上、お前には結論を出して貰わなきゃならない。 獅堂を選ぶか、小野塚を選ぶか、どちらか一つだ。 そして、どちらを選んだとしても和馬がお前を許すかどうかは別だ。」
「…………。」
「翔真。 ハッキリ言うがこの問題に関してはお前の優しさは何も良い結果を招かない。 お前は優しいから、どっちにも気を遣う。 その優しさが事態を悪化させた原因の一つだ。 諦めの悪い獅堂は、お前の優しさによってある種の「押せば通せる」という希望を抱いたんだ。」
「ーーッ?!」
「………もし、お前がこのまま決められないなら悪いが、獅堂家がお前を諦めない以上、お前との関係を切る。 それが和馬とお前の為で、自分の為だからだ。」
翔真は酷くショックを受けたようだったが、俺もまたその様子を見てショックを受けた。
散々、獅堂家の連中がどんな奴かは話して来たつもりだった。
期待を、希望を抱かせれば、どうなるかも。
だが、それが翔真には伝わっていなかったのだと分かったからだ。
「(………だとしたら、こうなったのは俺の説明が足りなかったという事なんだろうな。)」
そう思いながら、組んでいた手の平を握り締めた。
「いいからさっさと明け渡せ!!」
「お前のような人間の所に居たって、二人が幸せになれる訳が無い!」
「………勤務中ですし、店にもお客様にもご迷惑です。 何か仰っしゃりたい事があるのであれば弁護士を通して下さい。」
翌日、客が居るというのに俺の勤務先である大悟の店に押しかけ、俺の姿を見るなり声を掛けようとした他の従業員さえも押し退けて言い放って来た獅堂夫妻に驚きつつも、あちらの担当弁護士の姿が無い事に呆れて溜め息を吐いてからそう告げた。
「そうやって逃げるつもりだろう!!」
「弁護士を通しても話にならないから来てやったんじゃない!!」
「もう一度だけ言います。 ここは営業中ですし、お客様にも迷惑です。」
「どうせ弁護士に金だけじゃなく、寝てるんだろう!! そうでもなきゃ有り得る訳が無い!!」
「はあ? ……何を仰ってるんですか、それこそあり得ませんよ。」
そう告げれば既に大悟が電話をしているようだったので、再び溜め息を吐いた。
「あり得ない? 有り得るでしょう!お前は男同士のくせに男としか寝ないんだから!!」
「………俺の性的指向を、担当して頂いている弁護士先生への中傷にまで持ち出さないで下さい。」
「中傷? 事実だろうが!!」
「俺の性的指向は事実でも、弁護士先生と性的な関係だというご指摘は事実ではありません。」
「つべこべと………!」
「良いからさっさと翔真と和馬を渡しなさい!!」
「何度も申し上げている様に、翔真と和馬の二人が望まない事をするつもりはありません。 そして、俺の記憶が正しければお二人は俺への接触を司法の判断によって禁止されているはずですが、弁護士の方も居ないのに接触する事の意味を正しく理解されていないのでしょうか?」
「なんだと………!?」
「申し訳ありませんが、警察に通報させて頂きました。 営業妨害、でしたので。」
電話を切った大悟が告げると獅堂夫妻は舌打ちと俺を憎悪タップリの眼差しで睨み付けると逃げるように店を出ていった。
「………お騒がせしてすみません。 皆さん、怪我は無いですか?」
「「「大丈夫!」」」
「晃、あんたの担当の弁護士さんに連絡しといた方が良いわよ。 ……二人にも。」
「お言葉に甘えて、そうさせて貰うわ。 ちょっと裏で連絡して来る。」
「…………。」
「……晃さん。」
「湊、悪いんだけど戻るまで代わりに頼む。」
「………はい。」
「悪いな。」
そう告げると溜め息を吐きながら店の奥、裏へと向かった。
「………晃さん、大丈夫かな?」
「あの夫婦、もしかして前に話してたトラブルになってるっていう………?」
「……こうなった以上、晃はうちを辞めるかもしれないわね。」
「「!!」」
「「「えッ!?」」」
「いくらこっちが大丈夫って伝えても気にするのよ、晃。 あたし達は良くても居合わせたお客さんに悪いって。」
「「「…………。」」」
「………今日の事、思い詰めなきゃ良いけど。」
大悟が従業員と常連客とでそんな話をしているとも知らず、店の裏口から外に出て、弁護士先生に連絡を終えた俺は翔真と和馬に伝えるべく文章を打ち込んでいた。
[晃:店に獅堂夫妻が来た。 もしかしたらそっちにも連絡が行くかもしれない。 もし、連絡が来ても相手をしないでくれ。 弁護士さんにはもう伝えたから。]
「………はー……。」
「(いつかはやりかねない、とは思っちゃいたが………。 本当に勤務先にまで来るとはな……。)」
再び溜め息を吐いてからその場にしゃがみ込むと、手にしたマナーモードの携帯が振動した為画面を確認した。
[和馬:は?? なんであの二人が叔父さんの勤め先知ってんだよ。 叔父さんや店の人達、お客さんに怪我は?]
[晃:怪我人は居ない、大丈夫だ。]
[翔真:怪我が無くて良かった……。 でも、お祖父ちゃんとお婆ちゃん、逮捕されちゃったんだ………。]
[和馬:叔父さんの勤め先、喋ったのお前だろ翔真。 本当にロクな真似しねえ。 不満なら小野塚から出て行けよ。 おふくろとオヤジ、じいちゃんの墓参りする資格も無いだろ、もう。 どれだけ無駄に叔父さんを苦しめれば気が済むんだよ?]
[晃:もしかしたら、あちらの弁護士さんが持ってた資料を盗み見したのかもしれない。 なんにせよ、なんでも翔真のせいにこじつけるな和馬。 とりあえず、報告したかっただけだ、仕事に戻る。]
そう送信すると何度目かの溜め息を吐いてから立ち上がりつつ携帯を仕舞い、店の中へと戻った。
「店を辞めるとか言い出したら張っ倒すわよ、晃。」
大悟と二人で閉店後に打ち合わせがてら片付けをしていると、急に大悟がそう言ってきた。
「……いきなりだな。」
「今日の事があって、なんか言いかねないから言ったのよ。」
「少なくとも、翔真が腹を決めてない今の段階で辞める気は無い。 仮に辞めるとしてもキリがいいとこにするさ。」
「そう。 だったら今月いっぱいは辞める事はなさそうね。」
「………翔真には一週間以内に決めろと伝えてある。 もし、決められないのなら俺は翔真を獅堂に渡す。」
「?!」
「俺がいくら間を取り持とうとしても、和馬はもう翔真を敵視している。親の仇みたいにな。 とっくにハッキリと意思決定をしている和馬は我慢の限界だ。 翔真の意志がどうあれ、少なくともこれ以上翔真がどっちつかずの対応をしている事は俺にとっても和馬にとっても苦痛しか生まない。 ……残念だけどな。」
「………、……翔真と二人で話しても構わないかしら。」
「なんで俺に聞くんだよ。 翔真が承諾したり望むならいくらでもすりゃあいい。 きっかけが俺にせよ、誰と交友を深めるかはお前と翔真の自由だろ。」
「そうよね……。」
「………俺は多分和馬の肩を持たざるを得なくなるから、翔真の方はよろしくな。」
「!」
告げれば大悟は驚き、何か言いたそうにしたがグッと言葉を飲み込んだようだった。
大悟も分かっているのだろう。
翔真がどれほど獅堂を再評価しようとも、俺が受けた苦しみがチャラになる訳ではなく、許す許さないの範疇には収まるものではない、と。
[劇団RIZE被害者の当事者有志:我々は、既に報道済みである劇団RIZEの元運営幹部による一連の犯罪行為及び劇団内におけるハラスメントまたはいじめ行為を受けた被害者有志です。 とあるパフォーマンスグループによる虚言に対して強い憤りを感じた為、我々はこのアカウントを作成しました。]
[劇団RIZE被害者の当事者有志:我々が知る限り、パワハラ行為、特定の劇団員を虐げる、備品を壊す等の行為をしたのは小塚新さんではありません。]
[劇団RIZE被害者の当事者有志:パワハラ行為については、大前提として「小塚新さんは指導する立場にある」という事と指導を行う前において、小塚新さんは自身の指導について「かなり厳しい自覚があるのでハラスメントにならないよう気を付けるがハラスメントだと感じた場合には遠慮なく訴えて良い」とその都度発言されています。 事実として我々が在籍期間中、ハラスメント行為に対する公表に指導に関するハラスメントの公表はありませんでした。 隠蔽されていた場合にはこの限りではありません。]
[劇団RIZE被害者の当事者有志:ここで、俳優代表の権限についてご説明します。 俳優代表は、一部の劇団員に関する事柄について独断で決定権を有しており、その決定権を行使する事については運営幹部の承認を必要としないと規則で定められています。 小塚新さんの過去の発言からの推測では、劇団員からの退団の申し入れ、トラブル回避の為の配役に関する申し出(例えばトラブルになっているのでこの劇団員とは一緒にしないで欲しい等)、契約違反による除籍は俳優代表権限に含まれていたようです。]
[劇団RIZE被害者の当事者有志:我々有志は、いずれも既に報道済みの事案の被害を受けた為退団申し入れを運営幹部に棄却(破り捨てに)され、小塚新さんに被害を含めたその事を相談として訴えた所、「自分に提出してくれれば俳優代表権限で承認するので退団届を渡してくれ」と言われ、提出したその場で承認していただけていますし、事実として俳優代表権限による退団であると明記された資料を確認しております。]
[劇団RIZE被害者の当事者有志:我々を小塚新さん信者だと言われるのであれば、我々は一向に構いません。 小塚新さんが居なければ、我々はとっくに残りの人生を歩むという事さえ辞めているからです。 有志は全員役者という道を閉ざしましたが、自分を表現するという点においては閉ざした訳ではありません。 過言ではなく、小塚新さんが劇団RIZEに在籍していたから、俳優代表を務めてくださっていたから、我々は今もこうして生きています。]
[劇団RIZE被害者の当事者有志:小塚新さんは我々が把握している限りでは、最後まで戦い続けていた人であると、同時に(俳優代表権限で自分で辞めることは不可能だった為)最も辞めたくても辞めさせてもらえなかった人です。 劇団RIZEの運営幹部による一連の事案で最も被害を受けた人物です。]
[劇団RIZE被害者の当事者有志:最後に、とある元劇団員二名(現在も活動中です)が退団後にまだ在籍していた事務所の後輩に対して嘘を付き、別の元劇団員(こちらも現在も活動中)一名までもがそれに加担した事で、劇団員達が公然ととある劇団員に対して侮辱的な発言をするだけではなく、村八分のような状況に追い込んだ事で全劇団員が派閥のようなものにより二分された事を我々は把握しています。 とある劇団員は、ただでさえ無理をしていると分かるような状態で、そんな状況に追い込まれてしまった結果、そのとある劇団員はリハーサル中に過呼吸を起こして意識を失い、そのまま二度と舞台というステージに立てなくなり、とある劇団員の周辺状況が悪化した末に退団したそうです。 とある劇団員という最大の功労者であり護り手が居なくなった劇団RIZEの終わりは、あっという間でした。]
[劇団RIZE被害者の当事者有志:我々は殆どが小塚新さんよりも先に辞めてしまった身であり、助けられた側ではありますが、権利者でさえも沈黙しているこの状況は、かつて我々が劇団RIZEの被害を受け、怖くて誰にも言えないまま苦しみ続けていたあの状況を思い出しました。 貴方にもう一度活動して下さいとは申しません。 ただ、我々の尊敬する、大好きな小塚新の名誉を守れるのはご本人である貴方だけです。 どうか、これ以上沈黙されている事だけは考え直しては頂けないでしょうか。 この投稿が、ご本人の目に届く事を切に願います。]
そんな投稿がSNSに上がったのは、大悟と話した三日後の深夜、午前1時頃の話だった。
朝になってから被害者有志だというアカウントの投稿を見た時には心底驚いた。
[堂島雅信:被害者の有志アカウントの投稿に関しては私自身も把握しています。 事実、一部の劇団員(明確な芸名が記載されていました)の退団は俳優代表権限による退団であるか?という問い合わせがあり、そうですという回答をした記録もあります。 しかしながら、当事者またはアカウントの所有者の方による問い合わせだったかまでは把握はしておりません。]
[堂島雅信:それから、現時点において小塚新本人を名乗る人物からの連絡はあれどすべて偽造(偽物)でした。 本物からのご連絡はありません。(見分ける方法があるという事だけは明言しておきます。)]
[堂島雅信:ここからは、権利者や社長という肩書きを一旦置いておいて、かつて劇団RIZEに関わっていた者として投稿します。]
[堂島雅信:私が被害や事案について把握した時、既に小塚新は劇場には居ませんでした。 提出されたのに承認されないまま、明らかに激しく損壊させられていた退団届を確認し、隠されていた小塚新による業務日誌を発見⚫確認し、本当に愕然としました。 すぐに彼の退団を公表し、あらゆる事の対応を行いました。 権利者権利の移行手続きもほぼ同時進行でした。]
[堂島雅信:彼に謝罪を、と、所在を確認し、あるタイミングで声を掛けることを辞めました。 なので、私は彼から連絡を待つことにしました。 その旨、彼へは手紙を残したので現時点で本人から連絡が無いという事は、私の判断は間違っていないのだろうと今も信じたいです。]
[堂島雅信:仮に、彼から連絡があったからと言って過去が許される訳ではない事は、皆様にもお伝えしておきます。 かつての関係者の一人として、現在の権利者として、劇団RIZE内で起きた全ての罪は今後も背負って行く所存であり、覚悟です。 しかしながら劇団RIZEというコンテンツや作品には罪は無く、活用したいという気持ちはご理解下さい。]
劇団RIZEの権利者であり株式会社リージョンミュージックの社長である堂島雅信 も意見を求めるような投稿が相次いだ事もあって自身のSNSでそんな反応を見せたほどだ。
どちらの投稿にも賛否は分かれ、小塚新本人のコメントを求める様な投稿も増えて行った。
「………参ったな……。」
携帯を片手にそう呟き、頭を抱えた。
獅堂絡みの問題も片付いてないというのに、どうしても小塚新を表に出したいという意図を感じずには要られなかったからだ。
溜め息を吐きながらベッドの上で後ろに倒れ込んだ。
『小塚新さんの演技を見た事もねえくせに、外野が言ってる事だけを鵜呑みにして馬鹿にしてんじゃねえよ。 俺達の誰一人としてあの人の足元にも及ばねえのに、何が「大したことない」だ……? 先ずは小塚新の演技を見てから言えよ。』
「──!!」
倒れ込んだ拍子にリモコンを押してしまったらしく、点いたテレビから寝る前に見ていたあのオーディション番組が流れた。
驚いて身体を起こし、すぐに一時停止を押した。
芸能活動を辞めて十年は経つ。
だからこそ、小塚新の活躍を観る機会が無いまま名前だけ知っているという者の方が若者世代は多いだろう。
「(やりたくない訳じゃない。 ただ……舞台に立つのが、“あの視線を向けられるかもしれない"というのが、怖い。)」
蔑みや恨みの籠もったあの視線を受けた日の事がフラッシュバックしかけ、目を閉じたままギュッと左手の手首を握り締めると深呼吸をした。
いずれにしても、活動を再開する云々は今考える事では無い。
そんな事を思っていると急に離れた場所から歓声が上がったのが聞こえた。
オルティナが到着したのだろう、と、そう察すると和馬が走り出した為、慌てて追いかけた。
「こんなに沢山の人が居るなんてすっごい嬉しい!」
「劇団に居た時は考えられなかったよなぁ〜。」
「…………ッ。」
「和馬。」
和馬の考えている事はすぐに分かった。
今まで平然と他人を罵ったその口で、今、目の前ではファンに感謝を伝え、笑顔を見せ、愛を振り撒いている事に腹を立てているのだろう。
「(………CDの発売記念イベント、か。 流石に小塚新に触れないとは思いたいが………。)」
チラッと和馬を見た。
この人数だ、声を挙げない限りはこちらに気付く事は無いだろうが、万が一目の前で俺が罵られれば和馬は黙っては居られないだろう。
そして、制止をした所で簡単には怒りを収めないだろう事も。
「劇団と言えばさ〜、今回のCDに劇団の曲使いたかったんだよね〜。」
「断られたらしいな。」
「元劇団員を公表しているのは俺らくらいだし、使わせてくれたってよくない? 知らん連中にはアレンジさせたりとか許可出してんのにさ!」
「………案外、アイツが手を回してるのかもな。 そういうの、得意だっただろ小塚新は。」
「うっわ、有り得る〜。 マジ、辞めてるくせに迷惑かけるの辞めて欲しいわ〜。」
「──!」
今にも行きそうになった和馬の肩を掴めば、和馬は怒りを露わにしたまま振り返った。
「………今行けば、立派な営業妨害だ。」
「! でも………!」
「それとも、俺に頭を下げさせたり、これ以上厄介事を増やすのが望みか?」
「ーーッ!!」
悔しそうな表情をし、歯を食いしばる和馬に目を伏せ、溜め息を吐くと背中を軽く叩いた。
「……帰るぞ、和馬。」
「………分かった。」
俺とて腹が立たない訳では無い。
ただ、俺が決めている優先順位に自分に関する事は高くないというだけだった。
結局、和馬は終始不貞腐れており、翔真と和馬が過ごす家に着いてからもそれは変わらず、翔真が出迎えればより不機嫌になり、さっさと自室に籠もってしまった。
翔真も翔真でショックを受け、明らかに肩を落とし、夕食の時間になっても二人の様子は変わる事は無く、会話は無かった。
「…………。」
「(………やっぱ、収入を増やすか獅堂との問題を解決しない限り苦しいな。 副業を始めるか……?)」
オーディション番組を観ながらこれまでの出来事や帳簿をノートに書き込み、そう思いながら指先でテーブルを叩きつつ、考えを巡らせた。
と、部屋のドアをノックする音がした為思考と観ていたオーディション番組を中断し、椅子から立ち上がってドアを開けて驚いた。
「翔真。 珍しいな、お前がこの時間にまだ起きてるなんて。」
「………眠れ、なくて……。 少し、叔父さんと話してもいい?」
「ああ、構わねえよ。」
そう告げ、翔真を部屋に入れた。
「! その番組、もしかして劇団RIZEの権利者がやってるオーディション……?」
「ああ、この前たまたま観てな。 それから時間見つけては観てる。 中々面白いぞ。」
「……叔父さんは、参加しないの? 劇団員だった人、何人か参加してるって記事見たよ。」
「………俺が小塚新でいないほうが色々と動きやすいんだよ。」
「!」
「最も、向こうはそろそろ痺れを切らすだろうから、小塚新とトラブルになっていると週刊誌に売る可能性が高い。 そうなれば、俺は小塚新に戻って大々的に相手をする必要があり、お前らの意思なんて関係無く結論が出る。 そうなる事は俺の本意じゃないし、小塚新に戻るという事は明らかにしなきゃならないあれやこれやも話さなきゃならないからな……正直気は進まない。」
「………叔父さんは、小塚新をやりたくないの?」
「残念ながら、小塚新は色々としがらみだらけでな。 昔のように好きな事に打ち込んでて良い訳じゃない。 そのしがらみを断ち切るのも簡単じゃない上に、病気というリスクに接触する可能性さえある。 ……あまり、病気の事でお前らに心配されたくもないからな。」
そう告げながら、痺れを切らしそうなのが獅堂だけでは無いという事にまでは触れなかった。
過去についての当事者は、俺だけでは無いのだから。
「まあ、和馬は俺にまた役者というか、小塚新として活動して欲しいと本気で思ってるな。 ヒーローショーとか、ああいうのが和馬は赤ちゃんの時から好きだしな。」
「………僕だって、叔父さんの活動は見たいよ。」
「そうか。 だが、和馬はそう思ってない。 和馬は、お前は小塚新どころか叔父小野塚晃まで邪魔をしていると本気で思ってる。 何故なら、俺を散々悩ませ苦しめている獅堂と話をしようと、対話をしようという姿勢を取り続けているからだ。」
「…………。」
「お前には悪いが、獅堂が俺を散々悩ませて苦しめてるのは事実だぞ。 弁護士費用、裁判費用、この辺りは高額だ。 ハッキリ言って、獅堂を相手にしているせいでオルティナの言動を放置している部分だってある。 費用的にも、精神的負担的にも、もうあまり余裕が無い。 先の事を考えると、弁護士にお願いするのはこれが限界だ。 これで片付かないなら、もう対応は出来ない。」
「! 精神的負担……って……叔父さん、もしかして具合悪いの?」
「カウンセリングに行く頻度が増えたという意味では、ここ二、三年は悪くなってるな。」
「──!」
「そういう意味でも、和馬は最早お前を恨んでると言ってもいい。 これは、お前が獅堂と対話しようと俺に内緒で勝手に決めた以上、必然的に起きた結果だ。 俺に話を通してれば、そこまではいかなかっただろうけどな。」
「…………。」
「こうなった以上、お前には結論を出して貰わなきゃならない。 獅堂を選ぶか、小野塚を選ぶか、どちらか一つだ。 そして、どちらを選んだとしても和馬がお前を許すかどうかは別だ。」
「…………。」
「翔真。 ハッキリ言うがこの問題に関してはお前の優しさは何も良い結果を招かない。 お前は優しいから、どっちにも気を遣う。 その優しさが事態を悪化させた原因の一つだ。 諦めの悪い獅堂は、お前の優しさによってある種の「押せば通せる」という希望を抱いたんだ。」
「ーーッ?!」
「………もし、お前がこのまま決められないなら悪いが、獅堂家がお前を諦めない以上、お前との関係を切る。 それが和馬とお前の為で、自分の為だからだ。」
翔真は酷くショックを受けたようだったが、俺もまたその様子を見てショックを受けた。
散々、獅堂家の連中がどんな奴かは話して来たつもりだった。
期待を、希望を抱かせれば、どうなるかも。
だが、それが翔真には伝わっていなかったのだと分かったからだ。
「(………だとしたら、こうなったのは俺の説明が足りなかったという事なんだろうな。)」
そう思いながら、組んでいた手の平を握り締めた。
「いいからさっさと明け渡せ!!」
「お前のような人間の所に居たって、二人が幸せになれる訳が無い!」
「………勤務中ですし、店にもお客様にもご迷惑です。 何か仰っしゃりたい事があるのであれば弁護士を通して下さい。」
翌日、客が居るというのに俺の勤務先である大悟の店に押しかけ、俺の姿を見るなり声を掛けようとした他の従業員さえも押し退けて言い放って来た獅堂夫妻に驚きつつも、あちらの担当弁護士の姿が無い事に呆れて溜め息を吐いてからそう告げた。
「そうやって逃げるつもりだろう!!」
「弁護士を通しても話にならないから来てやったんじゃない!!」
「もう一度だけ言います。 ここは営業中ですし、お客様にも迷惑です。」
「どうせ弁護士に金だけじゃなく、寝てるんだろう!! そうでもなきゃ有り得る訳が無い!!」
「はあ? ……何を仰ってるんですか、それこそあり得ませんよ。」
そう告げれば既に大悟が電話をしているようだったので、再び溜め息を吐いた。
「あり得ない? 有り得るでしょう!お前は男同士のくせに男としか寝ないんだから!!」
「………俺の性的指向を、担当して頂いている弁護士先生への中傷にまで持ち出さないで下さい。」
「中傷? 事実だろうが!!」
「俺の性的指向は事実でも、弁護士先生と性的な関係だというご指摘は事実ではありません。」
「つべこべと………!」
「良いからさっさと翔真と和馬を渡しなさい!!」
「何度も申し上げている様に、翔真と和馬の二人が望まない事をするつもりはありません。 そして、俺の記憶が正しければお二人は俺への接触を司法の判断によって禁止されているはずですが、弁護士の方も居ないのに接触する事の意味を正しく理解されていないのでしょうか?」
「なんだと………!?」
「申し訳ありませんが、警察に通報させて頂きました。 営業妨害、でしたので。」
電話を切った大悟が告げると獅堂夫妻は舌打ちと俺を憎悪タップリの眼差しで睨み付けると逃げるように店を出ていった。
「………お騒がせしてすみません。 皆さん、怪我は無いですか?」
「「「大丈夫!」」」
「晃、あんたの担当の弁護士さんに連絡しといた方が良いわよ。 ……二人にも。」
「お言葉に甘えて、そうさせて貰うわ。 ちょっと裏で連絡して来る。」
「…………。」
「……晃さん。」
「湊、悪いんだけど戻るまで代わりに頼む。」
「………はい。」
「悪いな。」
そう告げると溜め息を吐きながら店の奥、裏へと向かった。
「………晃さん、大丈夫かな?」
「あの夫婦、もしかして前に話してたトラブルになってるっていう………?」
「……こうなった以上、晃はうちを辞めるかもしれないわね。」
「「!!」」
「「「えッ!?」」」
「いくらこっちが大丈夫って伝えても気にするのよ、晃。 あたし達は良くても居合わせたお客さんに悪いって。」
「「「…………。」」」
「………今日の事、思い詰めなきゃ良いけど。」
大悟が従業員と常連客とでそんな話をしているとも知らず、店の裏口から外に出て、弁護士先生に連絡を終えた俺は翔真と和馬に伝えるべく文章を打ち込んでいた。
[晃:店に獅堂夫妻が来た。 もしかしたらそっちにも連絡が行くかもしれない。 もし、連絡が来ても相手をしないでくれ。 弁護士さんにはもう伝えたから。]
「………はー……。」
「(いつかはやりかねない、とは思っちゃいたが………。 本当に勤務先にまで来るとはな……。)」
再び溜め息を吐いてからその場にしゃがみ込むと、手にしたマナーモードの携帯が振動した為画面を確認した。
[和馬:は?? なんであの二人が叔父さんの勤め先知ってんだよ。 叔父さんや店の人達、お客さんに怪我は?]
[晃:怪我人は居ない、大丈夫だ。]
[翔真:怪我が無くて良かった……。 でも、お祖父ちゃんとお婆ちゃん、逮捕されちゃったんだ………。]
[和馬:叔父さんの勤め先、喋ったのお前だろ翔真。 本当にロクな真似しねえ。 不満なら小野塚から出て行けよ。 おふくろとオヤジ、じいちゃんの墓参りする資格も無いだろ、もう。 どれだけ無駄に叔父さんを苦しめれば気が済むんだよ?]
[晃:もしかしたら、あちらの弁護士さんが持ってた資料を盗み見したのかもしれない。 なんにせよ、なんでも翔真のせいにこじつけるな和馬。 とりあえず、報告したかっただけだ、仕事に戻る。]
そう送信すると何度目かの溜め息を吐いてから立ち上がりつつ携帯を仕舞い、店の中へと戻った。
「店を辞めるとか言い出したら張っ倒すわよ、晃。」
大悟と二人で閉店後に打ち合わせがてら片付けをしていると、急に大悟がそう言ってきた。
「……いきなりだな。」
「今日の事があって、なんか言いかねないから言ったのよ。」
「少なくとも、翔真が腹を決めてない今の段階で辞める気は無い。 仮に辞めるとしてもキリがいいとこにするさ。」
「そう。 だったら今月いっぱいは辞める事はなさそうね。」
「………翔真には一週間以内に決めろと伝えてある。 もし、決められないのなら俺は翔真を獅堂に渡す。」
「?!」
「俺がいくら間を取り持とうとしても、和馬はもう翔真を敵視している。親の仇みたいにな。 とっくにハッキリと意思決定をしている和馬は我慢の限界だ。 翔真の意志がどうあれ、少なくともこれ以上翔真がどっちつかずの対応をしている事は俺にとっても和馬にとっても苦痛しか生まない。 ……残念だけどな。」
「………、……翔真と二人で話しても構わないかしら。」
「なんで俺に聞くんだよ。 翔真が承諾したり望むならいくらでもすりゃあいい。 きっかけが俺にせよ、誰と交友を深めるかはお前と翔真の自由だろ。」
「そうよね……。」
「………俺は多分和馬の肩を持たざるを得なくなるから、翔真の方はよろしくな。」
「!」
告げれば大悟は驚き、何か言いたそうにしたがグッと言葉を飲み込んだようだった。
大悟も分かっているのだろう。
翔真がどれほど獅堂を再評価しようとも、俺が受けた苦しみがチャラになる訳ではなく、許す許さないの範疇には収まるものではない、と。
[劇団RIZE被害者の当事者有志:我々は、既に報道済みである劇団RIZEの元運営幹部による一連の犯罪行為及び劇団内におけるハラスメントまたはいじめ行為を受けた被害者有志です。 とあるパフォーマンスグループによる虚言に対して強い憤りを感じた為、我々はこのアカウントを作成しました。]
[劇団RIZE被害者の当事者有志:我々が知る限り、パワハラ行為、特定の劇団員を虐げる、備品を壊す等の行為をしたのは小塚新さんではありません。]
[劇団RIZE被害者の当事者有志:パワハラ行為については、大前提として「小塚新さんは指導する立場にある」という事と指導を行う前において、小塚新さんは自身の指導について「かなり厳しい自覚があるのでハラスメントにならないよう気を付けるがハラスメントだと感じた場合には遠慮なく訴えて良い」とその都度発言されています。 事実として我々が在籍期間中、ハラスメント行為に対する公表に指導に関するハラスメントの公表はありませんでした。 隠蔽されていた場合にはこの限りではありません。]
[劇団RIZE被害者の当事者有志:ここで、俳優代表の権限についてご説明します。 俳優代表は、一部の劇団員に関する事柄について独断で決定権を有しており、その決定権を行使する事については運営幹部の承認を必要としないと規則で定められています。 小塚新さんの過去の発言からの推測では、劇団員からの退団の申し入れ、トラブル回避の為の配役に関する申し出(例えばトラブルになっているのでこの劇団員とは一緒にしないで欲しい等)、契約違反による除籍は俳優代表権限に含まれていたようです。]
[劇団RIZE被害者の当事者有志:我々有志は、いずれも既に報道済みの事案の被害を受けた為退団申し入れを運営幹部に棄却(破り捨てに)され、小塚新さんに被害を含めたその事を相談として訴えた所、「自分に提出してくれれば俳優代表権限で承認するので退団届を渡してくれ」と言われ、提出したその場で承認していただけていますし、事実として俳優代表権限による退団であると明記された資料を確認しております。]
[劇団RIZE被害者の当事者有志:我々を小塚新さん信者だと言われるのであれば、我々は一向に構いません。 小塚新さんが居なければ、我々はとっくに残りの人生を歩むという事さえ辞めているからです。 有志は全員役者という道を閉ざしましたが、自分を表現するという点においては閉ざした訳ではありません。 過言ではなく、小塚新さんが劇団RIZEに在籍していたから、俳優代表を務めてくださっていたから、我々は今もこうして生きています。]
[劇団RIZE被害者の当事者有志:小塚新さんは我々が把握している限りでは、最後まで戦い続けていた人であると、同時に(俳優代表権限で自分で辞めることは不可能だった為)最も辞めたくても辞めさせてもらえなかった人です。 劇団RIZEの運営幹部による一連の事案で最も被害を受けた人物です。]
[劇団RIZE被害者の当事者有志:最後に、とある元劇団員二名(現在も活動中です)が退団後にまだ在籍していた事務所の後輩に対して嘘を付き、別の元劇団員(こちらも現在も活動中)一名までもがそれに加担した事で、劇団員達が公然ととある劇団員に対して侮辱的な発言をするだけではなく、村八分のような状況に追い込んだ事で全劇団員が派閥のようなものにより二分された事を我々は把握しています。 とある劇団員は、ただでさえ無理をしていると分かるような状態で、そんな状況に追い込まれてしまった結果、そのとある劇団員はリハーサル中に過呼吸を起こして意識を失い、そのまま二度と舞台というステージに立てなくなり、とある劇団員の周辺状況が悪化した末に退団したそうです。 とある劇団員という最大の功労者であり護り手が居なくなった劇団RIZEの終わりは、あっという間でした。]
[劇団RIZE被害者の当事者有志:我々は殆どが小塚新さんよりも先に辞めてしまった身であり、助けられた側ではありますが、権利者でさえも沈黙しているこの状況は、かつて我々が劇団RIZEの被害を受け、怖くて誰にも言えないまま苦しみ続けていたあの状況を思い出しました。 貴方にもう一度活動して下さいとは申しません。 ただ、我々の尊敬する、大好きな小塚新の名誉を守れるのはご本人である貴方だけです。 どうか、これ以上沈黙されている事だけは考え直しては頂けないでしょうか。 この投稿が、ご本人の目に届く事を切に願います。]
そんな投稿がSNSに上がったのは、大悟と話した三日後の深夜、午前1時頃の話だった。
朝になってから被害者有志だというアカウントの投稿を見た時には心底驚いた。
[堂島雅信:被害者の有志アカウントの投稿に関しては私自身も把握しています。 事実、一部の劇団員(明確な芸名が記載されていました)の退団は俳優代表権限による退団であるか?という問い合わせがあり、そうですという回答をした記録もあります。 しかしながら、当事者またはアカウントの所有者の方による問い合わせだったかまでは把握はしておりません。]
[堂島雅信:それから、現時点において小塚新本人を名乗る人物からの連絡はあれどすべて偽造(偽物)でした。 本物からのご連絡はありません。(見分ける方法があるという事だけは明言しておきます。)]
[堂島雅信:ここからは、権利者や社長という肩書きを一旦置いておいて、かつて劇団RIZEに関わっていた者として投稿します。]
[堂島雅信:私が被害や事案について把握した時、既に小塚新は劇場には居ませんでした。 提出されたのに承認されないまま、明らかに激しく損壊させられていた退団届を確認し、隠されていた小塚新による業務日誌を発見⚫確認し、本当に愕然としました。 すぐに彼の退団を公表し、あらゆる事の対応を行いました。 権利者権利の移行手続きもほぼ同時進行でした。]
[堂島雅信:彼に謝罪を、と、所在を確認し、あるタイミングで声を掛けることを辞めました。 なので、私は彼から連絡を待つことにしました。 その旨、彼へは手紙を残したので現時点で本人から連絡が無いという事は、私の判断は間違っていないのだろうと今も信じたいです。]
[堂島雅信:仮に、彼から連絡があったからと言って過去が許される訳ではない事は、皆様にもお伝えしておきます。 かつての関係者の一人として、現在の権利者として、劇団RIZE内で起きた全ての罪は今後も背負って行く所存であり、覚悟です。 しかしながら劇団RIZEというコンテンツや作品には罪は無く、活用したいという気持ちはご理解下さい。]
劇団RIZEの権利者であり株式会社リージョンミュージックの社長である
どちらの投稿にも賛否は分かれ、小塚新本人のコメントを求める様な投稿も増えて行った。
「………参ったな……。」
携帯を片手にそう呟き、頭を抱えた。
獅堂絡みの問題も片付いてないというのに、どうしても小塚新を表に出したいという意図を感じずには要られなかったからだ。
溜め息を吐きながらベッドの上で後ろに倒れ込んだ。
『小塚新さんの演技を見た事もねえくせに、外野が言ってる事だけを鵜呑みにして馬鹿にしてんじゃねえよ。 俺達の誰一人としてあの人の足元にも及ばねえのに、何が「大したことない」だ……? 先ずは小塚新の演技を見てから言えよ。』
「──!!」
倒れ込んだ拍子にリモコンを押してしまったらしく、点いたテレビから寝る前に見ていたあのオーディション番組が流れた。
驚いて身体を起こし、すぐに一時停止を押した。
芸能活動を辞めて十年は経つ。
だからこそ、小塚新の活躍を観る機会が無いまま名前だけ知っているという者の方が若者世代は多いだろう。
「(やりたくない訳じゃない。 ただ……舞台に立つのが、“あの視線を向けられるかもしれない"というのが、怖い。)」
蔑みや恨みの籠もったあの視線を受けた日の事がフラッシュバックしかけ、目を閉じたままギュッと左手の手首を握り締めると深呼吸をした。
いずれにしても、活動を再開する云々は今考える事では無い。