壱の話
[小塚新のプロフィールページが更新されてる!]
[小塚新のページ更新されてて、宣材写真とかプロフィールが!! ワァオイケメンのまま!!]
[小塚新の宣材写真公開されてたんだが、色気増してやしませんかねこの男。やはり顔が良い]
[小塚新顔良!! エッ、これで34?!!]
[小塚新:【スタッフからのお知らせ】 【初解禁】REA:RIZE from 小塚新Ver./劇団RIZEより【MV】 を小塚新公式チャンネルならびに株式会社リージョンミュージック公式チャンネルに投稿致しました。]
[@小塚新 ファッ?! なにそのバージョン!?]
[@小塚新 なんか知らないREA:RIZEタイトルなんだが?!]
[@小塚新 なにそのREA:RIZE知らない!!]
[小塚新:【REA:RIZE from 小塚新Ver.とは?】 劇団RIZEにおける未発表曲であり、REA:RIZEのバリエーション曲かつ小塚新専用曲。 通常REA:RIZEとの違いは歌詞や曲のアレンジ、振り付け。 実質単独公演用の曲なのでバックダンサーは居ない。 蛇足:俺は単独公演の話潰されたので機会は無かったので、ガチ幻の曲です。]
[@小塚新 未発表曲?!!]
[@小塚新 未発表曲?!それをまさかの単発!?]
[@小塚新 単独公演の話を潰されたって所、本当に前体制さぁ………]
[堂島雅信:スタッフの話によれば、小塚新に歌詞と曲、振り動画を見せた翌日にはあの動画レベルだったそうです。]
[小塚新:改めてこの人バケモノですわ……と思う事、数分で完璧(動画レベル)にするところ(担当M)]
[@小塚新 は、い……?]
[@小塚新 数分……?]
[@小塚新 数分であの動画レベルに???]
[小塚新:先輩達にも後輩連中にもバケモノ呼ばわりされるの、マジで遺憾。 一回見れば覚えられるし出来るんだからしょうがないだろ……。]
[@小塚新 そらバケモノですわ]
[@小塚新 天才過ぎるというか、バケモンですわ……]
[@小塚新 まごうことなくバケモンなので受け入れて貰えませんかね……]
SNS投稿の確認がてら投稿を済ませると携帯を仕舞い、この後の予定を確認がてらマネージャーに聞いて仕事を開始した。
活動再開を発表した直後に出演したからか、Re:RIZEProjectオーディション番組の視聴率が増えた一方で、和馬も俺の影響からか登録者数が増えた事で俺の話を望まれる声が増えていた。
『叔父についての裏話をします。 長くなるし、興味ある人だけ聞いて欲しい。 アーカイブ残すから、話すのはこれっきりね。 1月14日は両親の命日です。 叔父さんは、一人で墓参りに行っています。 「一人で行かせて欲しい」って言われたからで、断る理由は無かった。 叔父曰く、今日は「退団届けを叩き付け、一度小塚新が死んだ日」でもあるらしいです。』
『当時、俺は7歳かな?正直、あの当時の事はよく覚えてない。 多分、ショックだったから忘れたんだと思うし、別に思い出す無理に思い出す必要も無いって思ってます。』
『両親は、一泊二日の近場への旅行帰りに事故に遭って、即死だった。 その旅行は、子育てと仕事と母方の祖父の介護とでとにかく多忙だった両親が少しでも休まれば、と叔父さんが用意したもので、事故に遭ったあの日、叔父さんは劇団であった事全てを両親に打ち明けて退団する意向を伝えるつもりだった、って随分前に教えてくれた。』
『事故に遭った事、その場で死亡が確認されたらしいけど、念の為本人か確認して欲しいと連絡を受けたのは叔父さんだった。 自宅で叔父さんの友人と居た俺達は分からないまま、叔父さんの友人と警察署に行った。叔父さんの友人曰く、まだ帰れないという連絡を受け、俺達が叔父さんに会いたいと我儘を言ったって聞いた。』
『………俺がハッキリ覚えているのは、叔父さんが初めて泣き顔を見せた事と、俺達を抱き締め、とにかく泣きながら謝っていた事だけ。 叔父さんは、自分が旅行を用意しなければ俺達から両親を奪う事は無かったって罪悪感に苛まれていたんだと思う。 叔父さんが泣く事は、それっきり。 両親の葬式でも、父親である祖父が翌年に亡くなった時も泣いてない。』
『これは叔父さんの友人に聞いた話だけど、両親の葬式の時に俺達はこっそり両親の遺体を見てるらしい。 悲鳴を上げ、悲鳴を聞いて駆け付けた叔父さんを見た俺達に叔父さんは本当に申し訳無さそうにして、また謝ってたって。』
『俺に両親の記憶はもうほとんど残ってなくて、生前の顔さえ朧げで、そういう意味ではもう叔父さんが親みたいなもん。 両親を失っても、叔父さんは俺達に不自由なく生活させてくれた。愛情を目一杯注いでくれた。 これを親だと言わずしてなんて言えばいいのか、俺には分からない。』
『沢山。 沢山、悩んでた。 叔父さんは悪くない。 何度だって伝えました。 でも、叔父さん自身が許せないんだ。 「ずっと辞めようか悩んで、でも好きだから辞めたくなくて、叔父さんの活動を応援してくれていた両親を悲しませたくなくて、ずっと決心がつかなくて、結局心配だけかけて死んだ。俺が、死なせたんだ」って昔、かなり酔っ払った叔父さんは言ってたくらいだから、活動再開する気が無かったのは嘘じゃないと思うし、もう一度活動したいってのも嘘じゃなかったと思う。』
『………今の叔父さんを見て、母さん達がなんて言うかは叔父さんが一番知ってる。 だから、俺はこれ以上は何も言わない。 ただ、叔父さんがもう一番活動してくれたら、俺は嬉しいとだけ伝えた。』
『何度も言うけど、叔父さんは活動再開をかなり、かなり悩んでた。 本当に発表の前日まで悩んでたみたい。 だから、小塚新として、新しい一歩をようやく踏み出してくれた養父を今まで以上に応援してくれると息子としても、小塚和馬としても嬉しい。 以上。』
[命日……。 所属発表日なのか、小塚和馬の両親が亡くなったの……。]
[小塚和馬の配信アーカイブを見るに、やっぱ小塚新というよりは叔父でもなく、小塚和馬にとってはもう一人の父親なんだな。 実父が早くに亡くなったからとかじゃなく。]
[いやもう小塚新がマジで父親なんじゃん、小塚和馬にとっては。 幾度となく大人としての器とか背中を見せて来た、めちゃくちゃ頼りになるちゃんと父親だよ……。]
[小塚和馬の両親もだけど、翌年にあった自分の父親の葬式でさえ泣いてないのか小塚新……。 謝られている印象が強いんだな小塚和馬には。]
[わざわざ裏話って銘打って、小塚新の養子で甥としてメッセージ出すあたり小塚和馬、養父兼叔父を好き過ぎでは。]
『あ。 あと、最近流石に度が過ぎるので注意喚起するけど、今後今みたいな配信中やSNS、コメントで俺に叔父さんの話聞きたいとか言わないで。 俺がそういう目に遭うのマジで叔父さんが嫌がってるし、俺としてもぶっちゃけあんまり嬉しくない。特に配信中。 場合によっては共演NGを双方同意でしなきゃならなくなるから、マジでやめて。 俺にとっても、叔父さんにとっても活動のノイズってか邪魔になるから、ファンなら曲解とかしないでマジでやめて。』
「(まあ、和馬本人が分かっててちゃんと対処出来てる間は良いか……。)」
和馬の配信を聞きながらそう思いつつ、配信中の和馬にメッセージを飛ばし、和馬の配信を閉じると携帯を仕舞い、一息吐いてからその場から歩き出した。
オーディションの最終審査の練習も大詰めを迎えると個々の仕上がりは勿論、アレンジパフォーマンスも固まっており、個人指導を頼んで来るヤツは随分と少なくなっていた為、自分の活動に割ける時間も増えていた。
最も自分の活動と言っても、ボイストレーニングやジム等の基礎的な所だったり、歌やダンスの練習、貰った仕事の打ち合わせが主だった。
本番となる生放送での最終パフォーマンス及び結果発表を迎えるのは、あっという間だった。
「晃。」
「!?」
「………もうそう呼ぶなって、俺は連絡したつもりだ。」
見届ける為に会場へと向かっていると、突然背後から本名で呼ばれ、足と止めると同時にやや後ろ隣に居たマネージャーが驚いて振り向いたのが分かった。
振り返らないまま、俺はそう告げた。
「あんな別れ方、俺は望んでいない。」
「………?!」
「三年も俺の連絡を無視しといて?」
「! そ、れは………。」
「………俺はあんたを信じてた。 なんとかするという言葉を信じた。 でも、何にも変わらなかった。 それどころか悪化に拍車がかった。」
「「……………。」」
「……次は、今度は、そう何度も思った。 一年が過ぎ、二年が経って、もう返事を期待するのを辞めた。 三年目になって、俺は舞台に立つのが怖くなって、練習すらままならなくなって、どうすればいいのか分からなくなって縋るように連絡をした。 でも、一度として既読は付かなかったし、返事は無いままだった。 ああ、俺はあんたに裏切られたんだと、やっと、理解した。」
そう言って手の平を握り締めた。
「晃、俺は」
「全部、あんたのせいだ。」
「!!」
「受け入れたくせに、俺に希望を見せた癖に、全部ブチ壊しやがった……! あんたは助けに来なかった! 俺が連中に押さえつけられて犯され、他の劇団員連中に堂々と攻撃されて、身も心もボロボロになっていた間、あんたは今の事務所設立の為に奔走してたんだろ!? さぞかし、良い気分だったんだろうよ……!アイツらみたいにな!!」
「──!」
振り返って、言い放った。
感情のままに言い放って、涙まで出てきて、ただひたすらに握り締めた拳を更に握り締めるしかなかった。
「………俺が、馬鹿だった。 あんたに惚れた、信じた俺が馬鹿だったんだ。 俺はもう二度とあんたの言葉は信じない。 今まで通り、築き上げたコネを大事にすりゃあいい!彼氏を放置して、後輩蔑ろにして、そうやって作った事務所だろ! 結局運営連中とお揃いだったんじゃねえか、あんたも!!」
「………ッ! 晃、違う。 違うんだ……ッ。 頼む、一度だけでいい。俺の話を聞いてくれ。」
「俺が一番助けて欲しかった三年間を一度も俺の話を聞かなかったくせに、なんで自分の話は聞いて貰えると思ってんだよ?!」
俺の言う事にショックを受けたような、傷付いた顔をするのが尚更俺の癪に触った。
何年も抱え続けた鬱憤は一度溢れ出したら止まることはなく、そう言い放ってからその場から背を向けて立ち去った。
「…………。」
「……小塚さん。」
「………なんでお前がバツの悪そうな顔をするかね。」
「…………。」
「……前も言ったが、俺はあの当時の劇団員連中については一部を除けば恨んじゃいないし、責める気も無い。 だから、お前らが俺に謝る必要は無いと思ってる。 とはいえ、お前らが俺に対して罪悪感を抱いてるのは分かってるし、罪悪感を抱くなとも言えない。 結局の所、俺もお前らもやれる事に限りはあったからな。」
「……暴言ぐらい、代わりに受けるべきだったんです。」
「………そんな真似、俺がさせるかよ。」
「! でも……!」
「後悔が無いとは言わない。 それでも、あの当時の俺が出来た判断を間違っていたと言われるような事だけは、誰が相手だろうが絶対に許せない。」
「………!」
「……まあ、一人で抱え過ぎたのは反省すべきだが、じゃああの当時誰かに打ち明けられたか?って言われると、家族にさえ打ち明けるのに苦労した俺には無理だったのも紛れもない事実だ。 俺が逃げ出したら、後輩の誰かが犠牲になる。 そう分かってて自分だけ逃げ出すなんて無責任な事、俺には出来なかった。 あんな辞め方になったけどな。」
会場で待っているとマネージャーである前野が居心地の悪そうな顔で追い付いてきた。
何か話しでもして来たのだろうが、それを追及する気は無かった。
そう告げると会場の照明が落ち、ステージ上に現れた堂島さんだけが照らされた。
「長らくおまたせ致しました。 只今より、Re:RIZEProjectオーディションの最終パフォーマンス及び結果発表の生放送を開始致します!」
[いえーい!]
[始まった〜!]
[ドキドキ……!]
『生放送をご覧の皆様、お久し振りです。 元劇団RIZE第八十二代目俳優代表、兼、Re:RIZEProjectオーディションのスペシャルサポーターを務めさせて頂きました、小塚新です。 生放送で流すサプライズコメントを、と言われましたので事前収録にて失礼致します。 今頃参加者の皆様はパフォーマンス本番を控え、緊張している頃でしょうか? 短期間ではありましたが、出来る限りのサポートはさせて頂きました。 あとは、皆さん次第です。 泣いても笑ってもこれが最後、ここで全力が出せないのであればどこに行こうがチャンスがある場で全力を出せる事は無いと思って下さい。 事務所の後輩として追いかけ、追い越そうとして来てくれる人材である事を期待しています。 それでは、小塚新でした。』
[うえぇぇ!?]
[まさかのサプライズコメント……!]
[見に来れない感じか!]
『生放送をご覧の皆様、ならびに、Re:RIZEProjectオーディション参加者の初めまして。 元劇団RIZE第八十一代目俳優代表を務めさせていただいておりました、株式会社Rain'sプロダクション代表の大橋健人です。 生放送で流すサプライズコメントを元俳優代表として頂きたいとの事でしたので、僭越ながらコメントをさせていただきます。 私の後を託した後輩が指導を担当しての本番であること、拝見させて頂いておりましたので承知しています。 彼が指導をしたのであれば、後は君達が会場の雰囲気に呑まれず、自身が全力を出せるかどうかです。 呑まれ、全力を出せなかったのであれば、まず次世代の劇団RIZEを背負うのは難しいでしょう。 何故ならば君達の先輩となる男は、私が知る限りでは、最も劇団RIZEを愛し、そう簡単には託してはくれないでしょうし抜かせる事も無い、まさに強敵と呼ぶべき人物だからです。 ……願わくば、彼の抱え過ぎたものを楽にしてくれる後輩となる人材が現れてくれる事を祈っています。大橋健人でした。』
[小塚新からの?!!]
[小塚新からの大橋健人!? これはマジでサプライズだわ………。]
[二度と劇団RIZEに関わる事は無いって断言してた大橋健人にまでコメント貰ってるの凄いな?!]
[さ、流石師弟……似たようなコメント言ってる………]
[抱え過ぎたって、大橋健人……やっぱりお前もなんか知ってる口か!!]
「………はッ。」
堂島さんの生放送開始宣言の後に再び照明が落ち、真っ暗になったかと思うと「オーディオコメンタリー」という文字が画面スクリーンに表示され、俺の宣材写真と共に数日前に収録したボイスメッセージが流された。
が、それからさほど経たずについ数分前に会った男……大橋健人 の写真とボイスメッセージが流され、再びステージが点灯し、画面スクリーンには生放送にされているコメントだけが表示された。
「生放送をご視聴の皆様〜おはようございます〜。 私、これから司会進行役を務めさせて頂きます、株式会社リージョンミュージック広報課の篠崎と申します、よろしくお願い致します〜。 ちなみに、元劇団員ではございませーん。」
[元劇団員じゃない、だと………?!]
[元劇団員じゃない社員が出るとは珍しい(いや、普通か?)]
[あ、生放送も広報課の担当なんだ。]
「先程ご視聴頂きましたオーディオコメンタリーについて、改めてご案内致します。 えー、画面左側ですね。最初にコメントを流して頂きましたのが、弊社株式会社リージョンミュージック所属のタレントで劇団RIZE最後の俳優代表を務められて居られました小塚新さん、画面右側が現在は株式会社Rain'sプロダクションの代表を務められております、小塚新さんの一つ前の俳優代表として活動されておりました大橋健人様のお二人からサプライズコメントとしてコメントを頂戴致しました。 ご両人にはこの場で改めて厚く御礼申し上げたいと思います。 お忙しい中コメントを頂き、誠にありがとうございました。」
[マジでこの為だけにコメント貰ったの!?]
[あ〜、存命で連絡先やら確認出来てる俳優代表コンビか。まあ、小塚新に関しては自社に居るし、最後の俳優代表だしなぁ……]
[この二人がまた並ぶ事あるんかね……。 大橋健人は既に社長業にシフトしてて、芸能活動してない感じあるが。]
[この二人が写真だろうが並んでるだけでも嬉しいわ。 大橋健人はもう芸能活動してないししないって明言してるが、元役者だから顔出して社長としてインタビューなんかには応えてる感じだもんよ。]
「………芸能活動をする気が無い? 俺に対する贖罪、罪滅ぼしのつもりかよ。」
「!」
背後の壁に寄りかかってからそう呟き、溜め息を吐いてから首を左右に振った。
会ったが故に文句しか出て来ないし、何もかもが癪に障る状態だと自覚があるからだ。
すると、前野が一枚の名刺を差し出して来た。
「………とにかく一度連絡を、との事でした。」
「……捨てとけよ。」
「捨てません。 絶対に。」
「…………。」
差し出された名刺は大橋健人の物で、再び溜め息を吐いてからそれを受け取り、裏を見た。
「謝っても許してくれないのだとしても、すまなかった。」という手書きの文字と恐らく私用のであろう携帯電話番号とメールアドレスが書かれていた。
「(……今更謝られたってもう遅いんだよ。)」
と、目を伏せると三度溜め息を吐いてから携帯を取り出し、ケースに名刺を仕舞った。
「あ、今のうちにいくつか確認してもらいたい事があるんでした。 この後の撮影なんですけど。」
「え?! 何?! スピーカーが近いから聞こえねえわ!」
「この後の!撮影の事なんですけど!確認して欲しい事があるって連絡が来たんです! 確認して貰ってもいいですか!?」
「ああ、うん!」
突然会場内に音楽が流れ始め、スピーカーが近いせいか前野の声が聞き取り難くなり、身を屈めてやや大きめの声でそう返すと前野がタブレット端末を差し出して来たのでそのままタブレット端末を見ながら説明を受け、確認作業を済ませた。
確認が終わった前野はスタッフに連絡してくる為か離れていき、俺もスピーカーが近過ぎて耳が痛くなりそうだった為移動した。
「(! 前に練習で見た時と内容を変えてきたな……。 が、確かにこっちの方が前よりは良いな……。)」
「………いち、に……三秒遅れか、痛いな……。」
そうして最終審査の最終パフォーマンスが始まった。
どちらのチームもアレンジパフォーマンスを練習と内容を変えて改善させただけではなく、劇団RIZEのパフォーマンスでも練習時と一部メンバーの立ち位置を変えるなどの改良を加えていた。
しかし、どちらも会場の雰囲気や緊張による小さなミスがあったが、その小さなミスさえ痛手になるのがこのパフォーマンス審査だった。
だが、結果を待つ事無く撮影の仕事へと向かった。
「初めまして、小塚新です。 よろしくお願いします。」
「初めまして。 Web雑誌ライジェル編集部の山際です、本日はよろしくお願いします。 どうぞお座り下さい。」
「失礼します。」
「では、早速事前に頂いたアンケートも元にインタビューを始めさせて頂きたいと思うのですが……やはり、劇団RIZE在籍時代から振り返らせて頂きますと、劇団RIZE在籍時代にはこういった取材はお受けにならなかったようですが、何か理由があったのでしょうか?」
「先ず、誤解されたくないのでお伝えすると晩年を除いて、俺自身が受けたくなかった訳ではありません。 その上で改めて回答させて頂くと当時の運営者による意向でしょうか。」
「当時の運営者と言いますと………。」
「暴行罪などの罪で服役した春日賢 ですね。 体調不良を理由に総支配人で権利者だった春日賢の叔父が総支配人のみを退任する事が決まり、春日賢が就任した訳ですが……就任当初から態度が悪かったので大半の劇団員が不安を口にしていましたよ。 前任の時や規則上は問題が無い事も、春日賢の好き嫌いや機嫌で判断が変わりました。 インタビューを禁止した理由なんて「そんな事をする暇を与えたら公演の質が落ちる」「公演の質が落ちて儲けられなければ俺の収入が減る」というものだったので、結局第一印象から一切変わる事はありませんでしたね。」
「最終的には不安が的中したという感じですかね……。」
「残念ながら。 少なくとも、俺が思うに総支配人が春日賢でさえなければ劇団RIZEは存続出来たでしょうね。」
そう告げてからコーヒーを口にした。
もちろん、それはありもしないもしもの話しでしかない。
「甥っ子さんがお二人居て、どちらも養子にお迎えされている訳ですが、活動を再開する事について何か言われたりとかございましたか?」
「あ〜……とにかくもうぶっ倒れないでくれ、と、それだけですね。 小塚新として何をするのかはどっちも子供みたいに興味津々ですね。」
「あ、退団後に過労で倒れられた話に繋がるんですね。 高校卒業されてもまだちょっと子供っぽいところがお有りになる?」
「憧れに近いのかな? 両親が亡くなったのが6、7歳で、俺もその頃に辞めてるので、本当に小塚新の活動を知らないんですよ。 俺や俺の友人から、劇団RIZEで役者をしていたと聞いた事があるだけなので。」
「あ〜、劇団RIZEを見れる年齢と劇団RIZEの小塚新としての活動終了が重なってしまっているから。」
「そうなんですよ。 だから、先日劇団RIZE時代の未発表曲の動画を投稿したら、もう、二人からメッセージの受信が引っ切り無しに来て。 カラオケに行く事は何度かあったので歌が上手いことは二人共知ってるはずなのに、カラオケの時とは全然違うとか、ダンス出来たんだとかなんかもうめちゃくちゃ興奮状態で。」
「嬉しかったんですかね?」
「めちゃくちゃ嬉しかったらしいですね。 これが話に聞いた小塚新としての一面なんだ!って。 CDの発売いつ?とかテレビの仕事無いの?とかマジで聞いてきますからね。 あっても解禁日があるから言えないんですけど。」
「なるほど、子供みたいと表現されたのが少し分かりました。 甥っ子さん、活動を楽しみにされてますね。」
「有り難い事に応援してくれてますね。 和馬に関してはだいぶ強火に楽しみにしてるみたいで、小塚新でエゴサして批判的な感想見て、たまにブチ切れそうになるって言ってましたからね。 お前まで母親みたいな事をするのか、と頭痛くなりましたが。」
「和馬さんの母親と言いますとお姉さまですかね?」
「そうですね。 もう姉はマジで強火ファンでした。 公演チケット渡せたんですけど「いい、金はある」っつって人海戦術でチケット取って観に来てたんです。 一番笑ったの、結婚記念日と公演の初日が被っちゃって。結婚記念日には義兄が絶対サプライズしてたんですよ、毎年。 だから、義兄から「新くんどうしよう今年!きっと公演観に行くよね?!」って相談あって、案の定姉はその日一日休み取って昼夜観に来たんですけど、毎回義兄分取らないんですよ。」
「え!自分の分だけなんですか?!」
「そう、自分の分だけなんですよ。 別に義兄が観たがらないとかではなく、姉の過去の経験上、最初から聞く気が無い上に義兄が観たがってると考えもしなくなってたんです。 だから、交際中に義兄がサプライズでプロポーズしようと決めて、数ヶ月前から有名なお店予約して後は当日を迎えるだけで準備万端ってタイミングで公演日発表されて被った事があって、姉が公演行く気満々で。 でも、義兄はサプライズプロポーズするつもりで準備万端だから、お店予約してあるから夜の部だけは行かないで欲しいって頼んだらしいんですよ。 そうしたら、公演初日であるその日は姉は大事な仕事が昼に入ってるから休めなくて、夜の部しか見れないって状況で大喧嘩になって、別れ話にまでなっちゃって。」
「うわぁ……! 最悪じゃないですか。」
「義兄からは「どうしよう別れたくないのに」って泣きながら電話が来るわ、親父からもブチ切れてる姉が話を聞いてくれないと、俺と親父は義兄がサプライズプロポーズしようとしてるのは聞いてたので本当に最悪な状況で。」
「どうしたんですか?」
「義兄は姉貴に寄り添って、姉貴が一人でチケット取って一人で観に行くのも文句言わねえのに、お前はなんだたった一回、初日公演観れないぐらいで大騒ぎしやがって。 義兄がなんかしようとしてるくらい察してんだろ、それでも公演取るって言うならそれが最後。チケット抽選で姉貴の名前あった時点で弾いてもらうから、それで良いなら公演選べ。 俺は姉貴の肩は持たないって言いました。」
「………よくお姉さん聞いてくれましたね?」
「いや、一回では流石に。 やだーッ!って公演観るのが仕事の活力なのに、なんでそんな事言うの?!って言うから、知らないよ、そんなの。マジで姉貴が悪いから。そもそも毎回姉貴自分の分しか取らないから兄貴観ずにいるんだよ、毎回だぞ? それなのに姉貴は文句言われてないし、兄貴も俺にくれって言わないんだぞ。 姉貴の男の経歴は理解してるけどおかしいだろ、流石に。 毎回毎回、姉貴一人で公演楽しんでおいて、兄貴の頼みは聞きたくないってどういう神経してんだよ。マジで姉貴のそういうとこ嫌い。って言ってもうそれっきり姉貴からの連絡無視です。」
「悪化してません?」
「で、チケット抽選開始されたんで見たら姉貴の名前は無くて、兄貴から「新に凄い怒られたから貴方の用に付き合うけど、凄く残念だし凄く不満って連絡が来ました」と連絡が来ましたね。」
「お姉さんめちゃくちゃ不満そうじゃないですか。 小塚さんに言われたからって。」
「俺に嫌いって言われた挙げ句連絡を無視されて、マジで落ち込んでたと後に親父から聞きましたんで嫌いって言われたのが一番効いたんでしょうね。 ただ、効きすぎて兄貴のプロポーズも上の空で溜め息ばっかだったと聞いたし、姉貴の職場でもそうらしいと小耳に挟んで、また俺の出番だったんですよね。」
「今度は何を?」
「俺に散々人に迷惑を掛けるなと言った貴方が、現在進行形で周囲の人に迷惑をかけていますがどういう教育をされてきたのでしょうか?大変理解に苦しみます。 状況を改善しないのであれば縁を切りたいと思います。当然出禁ですし商品の宣伝もしません。 今まで応援ありがとうございました。 と送りましたね。」
「………悪手では?」
「いや、一週間くらい経った頃かな? 住んでたアパートに義兄と一緒に来て、泣きながら「お姉ちゃんが悪かったから許して」って。」
「効くんだ……。」
「姉には俺はとことん突き放すのが効いたんですよね。 それからかな、やっと義兄分のチケット要るか聞き始めて、義兄もグッズ買い始めて、二人で感想言い合って喧嘩して、たまーに二人揃って俺に説教されつつ、前にも増して仲良しになったの。」
「丸く収まってるの凄いですね?」
「まあ、とにかく義兄が姉にベタ惚れだったから上手くいっただけじゃないですかね。 義兄じゃなかったら多分姉は結婚出来てないんで。 マジで公演優先にし過ぎて何回も振られたり、振ったりしてますからね、姉は。 ………それだけに、二人が事故でと連絡があった時にはこんなに早く死ぬ事無いだろうにと思いましたね。」
やっと夫婦として公演を観に行く楽しみを味わい、子育てに介護にと忙しくなって公演を観に来る暇も無くなって、小学生にもなれば多少時間が出来ると期待していた矢先の事故死だった。
当時は恨みもしたが、今は穏やかな気持ちで事故の原因であるトラック運転手の遺族と手紙を続けている事もインタビューで答えた。
[小塚新のページ更新されてて、宣材写真とかプロフィールが!! ワァオイケメンのまま!!]
[小塚新の宣材写真公開されてたんだが、色気増してやしませんかねこの男。やはり顔が良い]
[小塚新顔良!! エッ、これで34?!!]
[小塚新:【スタッフからのお知らせ】 【初解禁】REA:RIZE from 小塚新Ver./劇団RIZEより【MV】 を小塚新公式チャンネルならびに株式会社リージョンミュージック公式チャンネルに投稿致しました。]
[@小塚新 ファッ?! なにそのバージョン!?]
[@小塚新 なんか知らないREA:RIZEタイトルなんだが?!]
[@小塚新 なにそのREA:RIZE知らない!!]
[小塚新:【REA:RIZE from 小塚新Ver.とは?】 劇団RIZEにおける未発表曲であり、REA:RIZEのバリエーション曲かつ小塚新専用曲。 通常REA:RIZEとの違いは歌詞や曲のアレンジ、振り付け。 実質単独公演用の曲なのでバックダンサーは居ない。 蛇足:俺は単独公演の話潰されたので機会は無かったので、ガチ幻の曲です。]
[@小塚新 未発表曲?!!]
[@小塚新 未発表曲?!それをまさかの単発!?]
[@小塚新 単独公演の話を潰されたって所、本当に前体制さぁ………]
[堂島雅信:スタッフの話によれば、小塚新に歌詞と曲、振り動画を見せた翌日にはあの動画レベルだったそうです。]
[小塚新:改めてこの人バケモノですわ……と思う事、数分で完璧(動画レベル)にするところ(担当M)]
[@小塚新 は、い……?]
[@小塚新 数分……?]
[@小塚新 数分であの動画レベルに???]
[小塚新:先輩達にも後輩連中にもバケモノ呼ばわりされるの、マジで遺憾。 一回見れば覚えられるし出来るんだからしょうがないだろ……。]
[@小塚新 そらバケモノですわ]
[@小塚新 天才過ぎるというか、バケモンですわ……]
[@小塚新 まごうことなくバケモンなので受け入れて貰えませんかね……]
SNS投稿の確認がてら投稿を済ませると携帯を仕舞い、この後の予定を確認がてらマネージャーに聞いて仕事を開始した。
活動再開を発表した直後に出演したからか、Re:RIZEProjectオーディション番組の視聴率が増えた一方で、和馬も俺の影響からか登録者数が増えた事で俺の話を望まれる声が増えていた。
『叔父についての裏話をします。 長くなるし、興味ある人だけ聞いて欲しい。 アーカイブ残すから、話すのはこれっきりね。 1月14日は両親の命日です。 叔父さんは、一人で墓参りに行っています。 「一人で行かせて欲しい」って言われたからで、断る理由は無かった。 叔父曰く、今日は「退団届けを叩き付け、一度小塚新が死んだ日」でもあるらしいです。』
『当時、俺は7歳かな?正直、あの当時の事はよく覚えてない。 多分、ショックだったから忘れたんだと思うし、別に思い出す無理に思い出す必要も無いって思ってます。』
『両親は、一泊二日の近場への旅行帰りに事故に遭って、即死だった。 その旅行は、子育てと仕事と母方の祖父の介護とでとにかく多忙だった両親が少しでも休まれば、と叔父さんが用意したもので、事故に遭ったあの日、叔父さんは劇団であった事全てを両親に打ち明けて退団する意向を伝えるつもりだった、って随分前に教えてくれた。』
『事故に遭った事、その場で死亡が確認されたらしいけど、念の為本人か確認して欲しいと連絡を受けたのは叔父さんだった。 自宅で叔父さんの友人と居た俺達は分からないまま、叔父さんの友人と警察署に行った。叔父さんの友人曰く、まだ帰れないという連絡を受け、俺達が叔父さんに会いたいと我儘を言ったって聞いた。』
『………俺がハッキリ覚えているのは、叔父さんが初めて泣き顔を見せた事と、俺達を抱き締め、とにかく泣きながら謝っていた事だけ。 叔父さんは、自分が旅行を用意しなければ俺達から両親を奪う事は無かったって罪悪感に苛まれていたんだと思う。 叔父さんが泣く事は、それっきり。 両親の葬式でも、父親である祖父が翌年に亡くなった時も泣いてない。』
『これは叔父さんの友人に聞いた話だけど、両親の葬式の時に俺達はこっそり両親の遺体を見てるらしい。 悲鳴を上げ、悲鳴を聞いて駆け付けた叔父さんを見た俺達に叔父さんは本当に申し訳無さそうにして、また謝ってたって。』
『俺に両親の記憶はもうほとんど残ってなくて、生前の顔さえ朧げで、そういう意味ではもう叔父さんが親みたいなもん。 両親を失っても、叔父さんは俺達に不自由なく生活させてくれた。愛情を目一杯注いでくれた。 これを親だと言わずしてなんて言えばいいのか、俺には分からない。』
『沢山。 沢山、悩んでた。 叔父さんは悪くない。 何度だって伝えました。 でも、叔父さん自身が許せないんだ。 「ずっと辞めようか悩んで、でも好きだから辞めたくなくて、叔父さんの活動を応援してくれていた両親を悲しませたくなくて、ずっと決心がつかなくて、結局心配だけかけて死んだ。俺が、死なせたんだ」って昔、かなり酔っ払った叔父さんは言ってたくらいだから、活動再開する気が無かったのは嘘じゃないと思うし、もう一度活動したいってのも嘘じゃなかったと思う。』
『………今の叔父さんを見て、母さん達がなんて言うかは叔父さんが一番知ってる。 だから、俺はこれ以上は何も言わない。 ただ、叔父さんがもう一番活動してくれたら、俺は嬉しいとだけ伝えた。』
『何度も言うけど、叔父さんは活動再開をかなり、かなり悩んでた。 本当に発表の前日まで悩んでたみたい。 だから、小塚新として、新しい一歩をようやく踏み出してくれた養父を今まで以上に応援してくれると息子としても、小塚和馬としても嬉しい。 以上。』
[命日……。 所属発表日なのか、小塚和馬の両親が亡くなったの……。]
[小塚和馬の配信アーカイブを見るに、やっぱ小塚新というよりは叔父でもなく、小塚和馬にとってはもう一人の父親なんだな。 実父が早くに亡くなったからとかじゃなく。]
[いやもう小塚新がマジで父親なんじゃん、小塚和馬にとっては。 幾度となく大人としての器とか背中を見せて来た、めちゃくちゃ頼りになるちゃんと父親だよ……。]
[小塚和馬の両親もだけど、翌年にあった自分の父親の葬式でさえ泣いてないのか小塚新……。 謝られている印象が強いんだな小塚和馬には。]
[わざわざ裏話って銘打って、小塚新の養子で甥としてメッセージ出すあたり小塚和馬、養父兼叔父を好き過ぎでは。]
『あ。 あと、最近流石に度が過ぎるので注意喚起するけど、今後今みたいな配信中やSNS、コメントで俺に叔父さんの話聞きたいとか言わないで。 俺がそういう目に遭うのマジで叔父さんが嫌がってるし、俺としてもぶっちゃけあんまり嬉しくない。特に配信中。 場合によっては共演NGを双方同意でしなきゃならなくなるから、マジでやめて。 俺にとっても、叔父さんにとっても活動のノイズってか邪魔になるから、ファンなら曲解とかしないでマジでやめて。』
「(まあ、和馬本人が分かっててちゃんと対処出来てる間は良いか……。)」
和馬の配信を聞きながらそう思いつつ、配信中の和馬にメッセージを飛ばし、和馬の配信を閉じると携帯を仕舞い、一息吐いてからその場から歩き出した。
オーディションの最終審査の練習も大詰めを迎えると個々の仕上がりは勿論、アレンジパフォーマンスも固まっており、個人指導を頼んで来るヤツは随分と少なくなっていた為、自分の活動に割ける時間も増えていた。
最も自分の活動と言っても、ボイストレーニングやジム等の基礎的な所だったり、歌やダンスの練習、貰った仕事の打ち合わせが主だった。
本番となる生放送での最終パフォーマンス及び結果発表を迎えるのは、あっという間だった。
「晃。」
「!?」
「………もうそう呼ぶなって、俺は連絡したつもりだ。」
見届ける為に会場へと向かっていると、突然背後から本名で呼ばれ、足と止めると同時にやや後ろ隣に居たマネージャーが驚いて振り向いたのが分かった。
振り返らないまま、俺はそう告げた。
「あんな別れ方、俺は望んでいない。」
「………?!」
「三年も俺の連絡を無視しといて?」
「! そ、れは………。」
「………俺はあんたを信じてた。 なんとかするという言葉を信じた。 でも、何にも変わらなかった。 それどころか悪化に拍車がかった。」
「「……………。」」
「……次は、今度は、そう何度も思った。 一年が過ぎ、二年が経って、もう返事を期待するのを辞めた。 三年目になって、俺は舞台に立つのが怖くなって、練習すらままならなくなって、どうすればいいのか分からなくなって縋るように連絡をした。 でも、一度として既読は付かなかったし、返事は無いままだった。 ああ、俺はあんたに裏切られたんだと、やっと、理解した。」
そう言って手の平を握り締めた。
「晃、俺は」
「全部、あんたのせいだ。」
「!!」
「受け入れたくせに、俺に希望を見せた癖に、全部ブチ壊しやがった……! あんたは助けに来なかった! 俺が連中に押さえつけられて犯され、他の劇団員連中に堂々と攻撃されて、身も心もボロボロになっていた間、あんたは今の事務所設立の為に奔走してたんだろ!? さぞかし、良い気分だったんだろうよ……!アイツらみたいにな!!」
「──!」
振り返って、言い放った。
感情のままに言い放って、涙まで出てきて、ただひたすらに握り締めた拳を更に握り締めるしかなかった。
「………俺が、馬鹿だった。 あんたに惚れた、信じた俺が馬鹿だったんだ。 俺はもう二度とあんたの言葉は信じない。 今まで通り、築き上げたコネを大事にすりゃあいい!彼氏を放置して、後輩蔑ろにして、そうやって作った事務所だろ! 結局運営連中とお揃いだったんじゃねえか、あんたも!!」
「………ッ! 晃、違う。 違うんだ……ッ。 頼む、一度だけでいい。俺の話を聞いてくれ。」
「俺が一番助けて欲しかった三年間を一度も俺の話を聞かなかったくせに、なんで自分の話は聞いて貰えると思ってんだよ?!」
俺の言う事にショックを受けたような、傷付いた顔をするのが尚更俺の癪に触った。
何年も抱え続けた鬱憤は一度溢れ出したら止まることはなく、そう言い放ってからその場から背を向けて立ち去った。
「…………。」
「……小塚さん。」
「………なんでお前がバツの悪そうな顔をするかね。」
「…………。」
「……前も言ったが、俺はあの当時の劇団員連中については一部を除けば恨んじゃいないし、責める気も無い。 だから、お前らが俺に謝る必要は無いと思ってる。 とはいえ、お前らが俺に対して罪悪感を抱いてるのは分かってるし、罪悪感を抱くなとも言えない。 結局の所、俺もお前らもやれる事に限りはあったからな。」
「……暴言ぐらい、代わりに受けるべきだったんです。」
「………そんな真似、俺がさせるかよ。」
「! でも……!」
「後悔が無いとは言わない。 それでも、あの当時の俺が出来た判断を間違っていたと言われるような事だけは、誰が相手だろうが絶対に許せない。」
「………!」
「……まあ、一人で抱え過ぎたのは反省すべきだが、じゃああの当時誰かに打ち明けられたか?って言われると、家族にさえ打ち明けるのに苦労した俺には無理だったのも紛れもない事実だ。 俺が逃げ出したら、後輩の誰かが犠牲になる。 そう分かってて自分だけ逃げ出すなんて無責任な事、俺には出来なかった。 あんな辞め方になったけどな。」
会場で待っているとマネージャーである前野が居心地の悪そうな顔で追い付いてきた。
何か話しでもして来たのだろうが、それを追及する気は無かった。
そう告げると会場の照明が落ち、ステージ上に現れた堂島さんだけが照らされた。
「長らくおまたせ致しました。 只今より、Re:RIZEProjectオーディションの最終パフォーマンス及び結果発表の生放送を開始致します!」
[いえーい!]
[始まった〜!]
[ドキドキ……!]
『生放送をご覧の皆様、お久し振りです。 元劇団RIZE第八十二代目俳優代表、兼、Re:RIZEProjectオーディションのスペシャルサポーターを務めさせて頂きました、小塚新です。 生放送で流すサプライズコメントを、と言われましたので事前収録にて失礼致します。 今頃参加者の皆様はパフォーマンス本番を控え、緊張している頃でしょうか? 短期間ではありましたが、出来る限りのサポートはさせて頂きました。 あとは、皆さん次第です。 泣いても笑ってもこれが最後、ここで全力が出せないのであればどこに行こうがチャンスがある場で全力を出せる事は無いと思って下さい。 事務所の後輩として追いかけ、追い越そうとして来てくれる人材である事を期待しています。 それでは、小塚新でした。』
[うえぇぇ!?]
[まさかのサプライズコメント……!]
[見に来れない感じか!]
『生放送をご覧の皆様、ならびに、Re:RIZEProjectオーディション参加者の初めまして。 元劇団RIZE第八十一代目俳優代表を務めさせていただいておりました、株式会社Rain'sプロダクション代表の大橋健人です。 生放送で流すサプライズコメントを元俳優代表として頂きたいとの事でしたので、僭越ながらコメントをさせていただきます。 私の後を託した後輩が指導を担当しての本番であること、拝見させて頂いておりましたので承知しています。 彼が指導をしたのであれば、後は君達が会場の雰囲気に呑まれず、自身が全力を出せるかどうかです。 呑まれ、全力を出せなかったのであれば、まず次世代の劇団RIZEを背負うのは難しいでしょう。 何故ならば君達の先輩となる男は、私が知る限りでは、最も劇団RIZEを愛し、そう簡単には託してはくれないでしょうし抜かせる事も無い、まさに強敵と呼ぶべき人物だからです。 ……願わくば、彼の抱え過ぎたものを楽にしてくれる後輩となる人材が現れてくれる事を祈っています。大橋健人でした。』
[小塚新からの?!!]
[小塚新からの大橋健人!? これはマジでサプライズだわ………。]
[二度と劇団RIZEに関わる事は無いって断言してた大橋健人にまでコメント貰ってるの凄いな?!]
[さ、流石師弟……似たようなコメント言ってる………]
[抱え過ぎたって、大橋健人……やっぱりお前もなんか知ってる口か!!]
「………はッ。」
堂島さんの生放送開始宣言の後に再び照明が落ち、真っ暗になったかと思うと「オーディオコメンタリー」という文字が画面スクリーンに表示され、俺の宣材写真と共に数日前に収録したボイスメッセージが流された。
が、それからさほど経たずについ数分前に会った男……
「生放送をご視聴の皆様〜おはようございます〜。 私、これから司会進行役を務めさせて頂きます、株式会社リージョンミュージック広報課の篠崎と申します、よろしくお願い致します〜。 ちなみに、元劇団員ではございませーん。」
[元劇団員じゃない、だと………?!]
[元劇団員じゃない社員が出るとは珍しい(いや、普通か?)]
[あ、生放送も広報課の担当なんだ。]
「先程ご視聴頂きましたオーディオコメンタリーについて、改めてご案内致します。 えー、画面左側ですね。最初にコメントを流して頂きましたのが、弊社株式会社リージョンミュージック所属のタレントで劇団RIZE最後の俳優代表を務められて居られました小塚新さん、画面右側が現在は株式会社Rain'sプロダクションの代表を務められております、小塚新さんの一つ前の俳優代表として活動されておりました大橋健人様のお二人からサプライズコメントとしてコメントを頂戴致しました。 ご両人にはこの場で改めて厚く御礼申し上げたいと思います。 お忙しい中コメントを頂き、誠にありがとうございました。」
[マジでこの為だけにコメント貰ったの!?]
[あ〜、存命で連絡先やら確認出来てる俳優代表コンビか。まあ、小塚新に関しては自社に居るし、最後の俳優代表だしなぁ……]
[この二人がまた並ぶ事あるんかね……。 大橋健人は既に社長業にシフトしてて、芸能活動してない感じあるが。]
[この二人が写真だろうが並んでるだけでも嬉しいわ。 大橋健人はもう芸能活動してないししないって明言してるが、元役者だから顔出して社長としてインタビューなんかには応えてる感じだもんよ。]
「………芸能活動をする気が無い? 俺に対する贖罪、罪滅ぼしのつもりかよ。」
「!」
背後の壁に寄りかかってからそう呟き、溜め息を吐いてから首を左右に振った。
会ったが故に文句しか出て来ないし、何もかもが癪に障る状態だと自覚があるからだ。
すると、前野が一枚の名刺を差し出して来た。
「………とにかく一度連絡を、との事でした。」
「……捨てとけよ。」
「捨てません。 絶対に。」
「…………。」
差し出された名刺は大橋健人の物で、再び溜め息を吐いてからそれを受け取り、裏を見た。
「謝っても許してくれないのだとしても、すまなかった。」という手書きの文字と恐らく私用のであろう携帯電話番号とメールアドレスが書かれていた。
「(……今更謝られたってもう遅いんだよ。)」
と、目を伏せると三度溜め息を吐いてから携帯を取り出し、ケースに名刺を仕舞った。
「あ、今のうちにいくつか確認してもらいたい事があるんでした。 この後の撮影なんですけど。」
「え?! 何?! スピーカーが近いから聞こえねえわ!」
「この後の!撮影の事なんですけど!確認して欲しい事があるって連絡が来たんです! 確認して貰ってもいいですか!?」
「ああ、うん!」
突然会場内に音楽が流れ始め、スピーカーが近いせいか前野の声が聞き取り難くなり、身を屈めてやや大きめの声でそう返すと前野がタブレット端末を差し出して来たのでそのままタブレット端末を見ながら説明を受け、確認作業を済ませた。
確認が終わった前野はスタッフに連絡してくる為か離れていき、俺もスピーカーが近過ぎて耳が痛くなりそうだった為移動した。
「(! 前に練習で見た時と内容を変えてきたな……。 が、確かにこっちの方が前よりは良いな……。)」
「………いち、に……三秒遅れか、痛いな……。」
そうして最終審査の最終パフォーマンスが始まった。
どちらのチームもアレンジパフォーマンスを練習と内容を変えて改善させただけではなく、劇団RIZEのパフォーマンスでも練習時と一部メンバーの立ち位置を変えるなどの改良を加えていた。
しかし、どちらも会場の雰囲気や緊張による小さなミスがあったが、その小さなミスさえ痛手になるのがこのパフォーマンス審査だった。
だが、結果を待つ事無く撮影の仕事へと向かった。
「初めまして、小塚新です。 よろしくお願いします。」
「初めまして。 Web雑誌ライジェル編集部の山際です、本日はよろしくお願いします。 どうぞお座り下さい。」
「失礼します。」
「では、早速事前に頂いたアンケートも元にインタビューを始めさせて頂きたいと思うのですが……やはり、劇団RIZE在籍時代から振り返らせて頂きますと、劇団RIZE在籍時代にはこういった取材はお受けにならなかったようですが、何か理由があったのでしょうか?」
「先ず、誤解されたくないのでお伝えすると晩年を除いて、俺自身が受けたくなかった訳ではありません。 その上で改めて回答させて頂くと当時の運営者による意向でしょうか。」
「当時の運営者と言いますと………。」
「暴行罪などの罪で服役した
「最終的には不安が的中したという感じですかね……。」
「残念ながら。 少なくとも、俺が思うに総支配人が春日賢でさえなければ劇団RIZEは存続出来たでしょうね。」
そう告げてからコーヒーを口にした。
もちろん、それはありもしないもしもの話しでしかない。
「甥っ子さんがお二人居て、どちらも養子にお迎えされている訳ですが、活動を再開する事について何か言われたりとかございましたか?」
「あ〜……とにかくもうぶっ倒れないでくれ、と、それだけですね。 小塚新として何をするのかはどっちも子供みたいに興味津々ですね。」
「あ、退団後に過労で倒れられた話に繋がるんですね。 高校卒業されてもまだちょっと子供っぽいところがお有りになる?」
「憧れに近いのかな? 両親が亡くなったのが6、7歳で、俺もその頃に辞めてるので、本当に小塚新の活動を知らないんですよ。 俺や俺の友人から、劇団RIZEで役者をしていたと聞いた事があるだけなので。」
「あ〜、劇団RIZEを見れる年齢と劇団RIZEの小塚新としての活動終了が重なってしまっているから。」
「そうなんですよ。 だから、先日劇団RIZE時代の未発表曲の動画を投稿したら、もう、二人からメッセージの受信が引っ切り無しに来て。 カラオケに行く事は何度かあったので歌が上手いことは二人共知ってるはずなのに、カラオケの時とは全然違うとか、ダンス出来たんだとかなんかもうめちゃくちゃ興奮状態で。」
「嬉しかったんですかね?」
「めちゃくちゃ嬉しかったらしいですね。 これが話に聞いた小塚新としての一面なんだ!って。 CDの発売いつ?とかテレビの仕事無いの?とかマジで聞いてきますからね。 あっても解禁日があるから言えないんですけど。」
「なるほど、子供みたいと表現されたのが少し分かりました。 甥っ子さん、活動を楽しみにされてますね。」
「有り難い事に応援してくれてますね。 和馬に関してはだいぶ強火に楽しみにしてるみたいで、小塚新でエゴサして批判的な感想見て、たまにブチ切れそうになるって言ってましたからね。 お前まで母親みたいな事をするのか、と頭痛くなりましたが。」
「和馬さんの母親と言いますとお姉さまですかね?」
「そうですね。 もう姉はマジで強火ファンでした。 公演チケット渡せたんですけど「いい、金はある」っつって人海戦術でチケット取って観に来てたんです。 一番笑ったの、結婚記念日と公演の初日が被っちゃって。結婚記念日には義兄が絶対サプライズしてたんですよ、毎年。 だから、義兄から「新くんどうしよう今年!きっと公演観に行くよね?!」って相談あって、案の定姉はその日一日休み取って昼夜観に来たんですけど、毎回義兄分取らないんですよ。」
「え!自分の分だけなんですか?!」
「そう、自分の分だけなんですよ。 別に義兄が観たがらないとかではなく、姉の過去の経験上、最初から聞く気が無い上に義兄が観たがってると考えもしなくなってたんです。 だから、交際中に義兄がサプライズでプロポーズしようと決めて、数ヶ月前から有名なお店予約して後は当日を迎えるだけで準備万端ってタイミングで公演日発表されて被った事があって、姉が公演行く気満々で。 でも、義兄はサプライズプロポーズするつもりで準備万端だから、お店予約してあるから夜の部だけは行かないで欲しいって頼んだらしいんですよ。 そうしたら、公演初日であるその日は姉は大事な仕事が昼に入ってるから休めなくて、夜の部しか見れないって状況で大喧嘩になって、別れ話にまでなっちゃって。」
「うわぁ……! 最悪じゃないですか。」
「義兄からは「どうしよう別れたくないのに」って泣きながら電話が来るわ、親父からもブチ切れてる姉が話を聞いてくれないと、俺と親父は義兄がサプライズプロポーズしようとしてるのは聞いてたので本当に最悪な状況で。」
「どうしたんですか?」
「義兄は姉貴に寄り添って、姉貴が一人でチケット取って一人で観に行くのも文句言わねえのに、お前はなんだたった一回、初日公演観れないぐらいで大騒ぎしやがって。 義兄がなんかしようとしてるくらい察してんだろ、それでも公演取るって言うならそれが最後。チケット抽選で姉貴の名前あった時点で弾いてもらうから、それで良いなら公演選べ。 俺は姉貴の肩は持たないって言いました。」
「………よくお姉さん聞いてくれましたね?」
「いや、一回では流石に。 やだーッ!って公演観るのが仕事の活力なのに、なんでそんな事言うの?!って言うから、知らないよ、そんなの。マジで姉貴が悪いから。そもそも毎回姉貴自分の分しか取らないから兄貴観ずにいるんだよ、毎回だぞ? それなのに姉貴は文句言われてないし、兄貴も俺にくれって言わないんだぞ。 姉貴の男の経歴は理解してるけどおかしいだろ、流石に。 毎回毎回、姉貴一人で公演楽しんでおいて、兄貴の頼みは聞きたくないってどういう神経してんだよ。マジで姉貴のそういうとこ嫌い。って言ってもうそれっきり姉貴からの連絡無視です。」
「悪化してません?」
「で、チケット抽選開始されたんで見たら姉貴の名前は無くて、兄貴から「新に凄い怒られたから貴方の用に付き合うけど、凄く残念だし凄く不満って連絡が来ました」と連絡が来ましたね。」
「お姉さんめちゃくちゃ不満そうじゃないですか。 小塚さんに言われたからって。」
「俺に嫌いって言われた挙げ句連絡を無視されて、マジで落ち込んでたと後に親父から聞きましたんで嫌いって言われたのが一番効いたんでしょうね。 ただ、効きすぎて兄貴のプロポーズも上の空で溜め息ばっかだったと聞いたし、姉貴の職場でもそうらしいと小耳に挟んで、また俺の出番だったんですよね。」
「今度は何を?」
「俺に散々人に迷惑を掛けるなと言った貴方が、現在進行形で周囲の人に迷惑をかけていますがどういう教育をされてきたのでしょうか?大変理解に苦しみます。 状況を改善しないのであれば縁を切りたいと思います。当然出禁ですし商品の宣伝もしません。 今まで応援ありがとうございました。 と送りましたね。」
「………悪手では?」
「いや、一週間くらい経った頃かな? 住んでたアパートに義兄と一緒に来て、泣きながら「お姉ちゃんが悪かったから許して」って。」
「効くんだ……。」
「姉には俺はとことん突き放すのが効いたんですよね。 それからかな、やっと義兄分のチケット要るか聞き始めて、義兄もグッズ買い始めて、二人で感想言い合って喧嘩して、たまーに二人揃って俺に説教されつつ、前にも増して仲良しになったの。」
「丸く収まってるの凄いですね?」
「まあ、とにかく義兄が姉にベタ惚れだったから上手くいっただけじゃないですかね。 義兄じゃなかったら多分姉は結婚出来てないんで。 マジで公演優先にし過ぎて何回も振られたり、振ったりしてますからね、姉は。 ………それだけに、二人が事故でと連絡があった時にはこんなに早く死ぬ事無いだろうにと思いましたね。」
やっと夫婦として公演を観に行く楽しみを味わい、子育てに介護にと忙しくなって公演を観に来る暇も無くなって、小学生にもなれば多少時間が出来ると期待していた矢先の事故死だった。
当時は恨みもしたが、今は穏やかな気持ちで事故の原因であるトラック運転手の遺族と手紙を続けている事もインタビューで答えた。
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