壱の話
「いやぁ、連絡してみるもんですね! ああ、そうだこれ。 いつか本人に渡してくれって預かってたんですよ。」
「! これは………。」
「親父が最後に作った、小塚新の為のジャケットです。 本当は自分で渡したかったみたいなんですが、作ってるのにも随分力を使って、完成した直後にはやりきったみたいに寝たきりになってしまいまして、そのまま一週間もしないうちに………。」
「……そうですか。 元々衣装造りに命を燃やしてたような人、だったからかな。 残念ながら、活動とお披露目はお約束出来ませんが。」
「良いんです。 きっと、わざわざこんな個人でやってる店に舞台で着る専用衣装制作をって頼んだ小塚新に職人として、一人の人間として何か思う所があって、最後に何か渡したかったんじゃないかなと思うので。」
「………線香、あげさせて貰っても?」
「もちろんですよ!」
獅堂の件は、年が明けても解決しそうに無かったが、昔交流があった人々からSNSを通じて様々な連絡があった。
[小塚新:オルフェウス、静寂たる月夜の散華、マルフェル等小塚新として舞台に上がる際に使用する衣装の制作をご依頼していた職人さんが実は五年ほど前に亡くなられ、預かっている品があると息子さんからご連絡があり、本日お店に伺わせて頂きました。 最後まで職人であったとのお話しを聞き、その職人魂に感服すると共にここに哀悼の意を表します。]
[小塚新:最後に仕上げられた作品、確かにご子息から頂戴致しました。 相変わらず文句の付けようのない、完璧な品でした。 長年制作して頂き、ありがとうございました。]
[小塚新の衣装制作してた人、亡くなってたのか……。 小塚新の舞台衣装、そう言えば今何処にあるんだ……? リージョか?]
[小塚新の衣装って劇団側で用意してたんじゃなかったのか!? ………そういえば小塚新の衣装、劇団RIZEミュージアムには無いな?]
[小塚新の舞台衣装、外部に発注してたんか! 知らなかった……。 オルフェウスが挙げられてるが、どっちの衣装だ?どっちもか……?]
[小塚新:オルフェウス(どっちも)の衣装なら、俺が持ってる。 それ以外の衣装は、総支配人(当時)が俺への腹いせで燃やしたはずだから権利者んとこに無ければもうこの世に無いな。 まあ、オルフェウスの衣装だけでも手元にあったのは幸いだった。(ちょうどクリーニングと手直しをお願いした直後だったので、劇場に持って行ってなかった。)]
[@小塚新 腹いせで燃やした?!!]
[@小塚新 舞台衣装を?! 結構しただろうあの舞台衣装を腹いせで燃やしたァ!?]
[@小塚新 本当にあの当時の総支配人やらかしてない事が無いな!!]
「………本当にな。」
SNSの画面を見ながらそう呟くと、駅から翔真が出て来たのを見つけ、携帯を仕舞って車から声を掛ければすぐに翔真が駆け寄って来た。
「どうだった、大学のオープンキャンパスは。」
「うん。 僕には、この大学は背伸びしてなきゃいけないって事が分かったから有意義だったよ。」
「そうか。 まあ、有意義だったんなら良かったよ。」
「………和馬は、進学しないんでしょ?」
「ああ。 バイトしながら配信者やるって聞かなかった。 今は絶賛バイト先を探してるよ。」
「……そっか。」
「和馬が決めてからの行動が早いのは父親に似たが、お前は母親に似たな。 決めるのだけでも結構悩んで、悩むから中々行動しない。」
「…………。」
「おいたんおいたん言ってたガキ二人が、あっという間に高校卒業か。 兄貴達が居たら号泣もんだ。」
「………喜んだかな、父さん達。」
「喜んだに決まってる。しかも大袈裟にな。」
車を走らせながらそう告げると、翔真は何処か嬉しそうだった。
[小塚新:先日、トラブルになっている親族が経営する会社の親会社に対して、弁護士から事実確認の為の内容証明を要求致しました。 が、本日に至るまで回答が得られていない事から下記の通り問い合わせ内容を公表致します。]
[小塚新:こちらから問い合わせしたのは、⚫社内における当該人物(親族)の処遇について、⚫社内グループ内外に対し、当該人物が小塚新の名を出し誹謗中傷等の発言がある事を把握しているかどうかの二点です。 後者に関しては、劇団員時代に交流があった企業の社長さんや会長さん等から聞いた内容が事実かどうかを含め、問い合わせがあった事で発覚しました。]
[@小塚新 嘘だろ、トラブルになってる親族、経営者で社内グループ内外にまでなんか言ってんの?!!]
[@小塚新 トラブルになってる親族が経営者っぽいのも、親会社が把握しててもしてなくてもヤバい……]
[@小塚新 悪質過ぎる……。 しかも、昔交流があった企業からの問い合わせがあるって、だいぶ言い触らしてるんじゃ………?]
[小塚新:それと、しばらく忙しくなる関係でSNSの投稿が出来なくなる。(あと一ヶ月半くらいで年末だしな。) あと、公式ホームページ作りました。 ただ、俺の写真は無いぜ!!]
[@小塚新 して、ホームページのURLどこ??]
[@小塚新 リンクを……リンクを何卒………。]
[@小塚新 検索したのに出て来ない!]
[小塚新:すまん!URLリンク失念してた!(プロフに記載しました)]
「………さて、駆け足で動きますかね。」
SNSに投稿を終えると、その手で電話を掛け、腰に手を置きながらそう告げた。
[そういえば小塚新、もう二週間ちょいくらい浮上してないな。 忙しくなるって言ってたし、まあ、そもそももうすぐ年末だしな。]
[もうすぐ年末だし、忙しくなるからSNS投稿出来ないって告知通り小塚新の投稿見かけんな……。]
[甥の小塚和馬すら配信で「めちゃくちゃ忙しそうにしてる」としか言わなかったな……。]
[小塚和馬:そういえば叔父さんが言い忘れてたらしいんだけど、「映像の解禁だけは、病気の関係上俺が観れないので現状絶対無い。 観た場合には、過呼吸or吐くor失神するが絶対発生するんで無理です。期待してるなら諦めてくれ、すまん。」だそうです。]
[@小塚和馬 なにィ!!?]
[@小塚和馬 oh……謂わば持病NGやないか………]
[@小塚和馬 小塚新本人が映像観れないとかだいぶ根深いな………]
[株主優待が趣味:獅堂グループホールディングスの役員、子会社の社長夫妻がめちゃくちゃやらかしている事を株主から突っ込まれて顔面蒼白。 小塚新の名前まで出たぞ、終わりだよこの会社]
[投資が趣味マン:獅堂グループホールディングスの株主総会行って来たんだけど、別の株主がガチギレで「子会社の社長夫妻が小塚新さんと随分トラブルになっている、警察沙汰裁判沙汰にまでなっているだけではなく、取引先企業内にまで噂になっていると聞いた。 何故公表していないのか、ちゃんと説明して頂きたい。子会社の社長夫妻は経営陣のご兄弟ですよね?」って発言でだいぶ会場ザワついたわ。]
[とある企業の営業マン:株主にまで知られてんのにこの期に及んで必死に言い訳して、株主を更に怒らせたらしくて爆笑してる。 営業にならないもん、マジで。 トラブルになってる小塚新が元劇団員だからって舐め過ぎでしょ。つか、そもそも役者って職を馬鹿にしてるから、取引先だろうと平気で悪口言えてんだろ絶対。 もう業界で噂になってるって他社の友人に言われたからな。 終わりだよ弊社。]
[とある企業の株主:獅堂グループホールディングスの株主総会に出席して来たが、経営陣の退陣を求めた。 トラブル相手の事も、我々株主の事もあまりにも舐め過ぎている。]
[獅堂グループホールディングスの株価が暴落してて笑ってる]
[あーあ、株主が暴露したから獅堂グループホールディングスの株価が大暴落してら。 どうすんのかね、獅堂グループホールディングスは。]
[小塚新がトラブルになってたの獅堂グループホールディングスの子会社の社長夫妻かよ! 株主からの暴露で株価大暴落w 経営陣がまるっと変わらない限り終息しねえぞこれ]
[小塚新の心労ヤバそう]
[小塚和馬:翌日休みだと、配信終わりでもそのまま配信外(プライベート)でゲームやってんだけど、最近、小腹空いたり喉乾いたりで部屋出てリビング行くとソファーで(仕事終わりの)叔父さんが寝てるからたまにビックリする。]
[小塚和馬:叔父さん割と几帳面なんだけど、精神的に余裕無くなると何故か飲んだ薬のゴミだけ捨てない。 四日分くらいの眠剤のゴミ置かれてるのみるとマジで余裕ねえんだな……って思う(気付いた方が捨ててる)]
[小塚新、眠剤飲まなきゃ寝れないくらいヤバいんか……?]
[アカウント作って発信するの前向きに捉えてって、前に小塚新言ってたが………やっぱ今まで言えるほど余裕無かったんか。 今、眠剤飲まなきゃ寝れないっぽいな……。]
[散々小塚新の悪口言ってたオルティナを、小塚新とか小塚和馬はどう思ってたんだろうな……]
[小塚和馬:某グループに関しては、叔父さんはどうかしらないけど、学校で某グループがキャアキャア騒いでる女子が授業参観とかで叔父さんが来た時に騒いでる時に内心罵倒しまくってたくらいには嫌い。 話題に上がる度に吐き気がしたくらいにはマジで嫌い。(なんか見た)]
[@小塚和馬 最早地雷レベルで嫌いなんじゃねえか!]
[@小塚和馬 そんだけ嫌いなのによく今まで甥ですって言わなかったなw]
[@小塚和馬 甥だと名乗り出なかった事に感心したわw]
[小塚新:親会社の方は一旦放置というか、後回しにします。 親族についても、諸事情ございましてこちらも一旦保留になりました。]
[小塚新:あと、医者から流石にドクターストップかかったのでSNSも休みます。 軽度の睡眠障害症状が継続の為大事を取る為のなので、無理してるとかでは無く主治医との相談の結果、一旦落ち着くタイミングでしっかり休みましょうねって話なのでご心配無く。 まだ11月なのでだいぶ早いですが、皆様良いお年を。]
[@小塚新 なるほど。 つまり休養期間ですかね。 良いお年を〜。]
[@小塚新 休養了解でーす!良いお年を〜。]
[@小塚新 ひとまず一旦落ち着くのであれば良かった……。 ゆっくりお休みくださーい!良いお年を〜。]
ファンであろうアカウントからの投稿を見、フッと笑ってからSNSを閉じ、そのまま携帯も置いてソファーに寝そべり、テレビを付けてその流れでいよいよ終盤に差し掛かっているつい三日前に更新されたオーディション番組を流した。
「………本当に、休めれば良いんだがな……。」
そう呟くと、コップに手を伸ばし、温かいお茶を飲み込んだ。
『獅堂グループホールディングスは臨時の取締役会で、現在の経営陣の全員の退陣が決まった事、インターネットを中心に明らかになった件についても事実を認め、関係者に謝罪し、賠償金を支払う方針である事を明らかにしました。』
『詐欺や業務上横領等複数の罪に問われ、国外へ逃亡したとみられている獅堂グループホールディングスの子会社で獅堂リーティングの社長獅堂正行氏と妻で副社長の獅堂実日子が、逃亡先のアメリカで身柄を拘束された事が関係先への取材で分かりました。 二人は、元俳優である小塚新さんの自宅に誹謗中傷のビラを貼る、車を破損させるなどの器物損壊罪にも問われるとの事です。』
テレビのニュース番組で流れた言葉を聞き終えるとテレビを消し、鞄を持って立ち上がるとそのまま自宅を出た。
「「「申し訳ございませんでした!」」」
「………俺に言わせれば、インターネットを中心に炎上し、株主達が次々と手放した事で株価が暴落したからやっと重い腰を上げたという印象しかありません。」
「じ、事実確認を………。」
「事実確認? 社員さんにも関係取引先さんにですか? そんなの直接聞く事もあったような事に、三週間も事実確認ですか。 随分と暢気なものですね。 そんな建前のせいで、獅堂夫妻は容認されたと思い込んだというのに。」
「「──!」」
「(………流石は、あの劇団RIZEで若くして俳優代表をしていただけの事はある。 手を拱いた我々を含め、あの夫妻が如何に愚かだったのか痛感させられる。)」
「こうして直接会うのはこれっきりです。 義兄の実家であろうが、義兄が気に掛けた場所であろうが、俺には一切関係ありません。 あまりにも長引くようなら、さっさと司法に判断を委ねるつもりです。」
「「なッ……!」」
「……ご心配には及びません。 既に充分長引きましたから、これ以上長引かせる必要は無いでしょう。」
「………では、この場で判断をお聞かせ願えると? 誰もが降って沸いたような権利に目が眩み、お互いに足を引っ張り合い、醜い争いを繰り広げるような事が無いとは到底思えませんが。」
「……ええ、お答えします。」
「「?!」」
「おい、長谷川! 何を勝手に………!」
「我々が来たのは………!」
「赦しを得る為である事も、我々の保身の為に最も痛みが少ない方法で手打ちにして貰おうという魂胆まで、小野塚さんは全てお見通しだ。」
「「………!」」
「…………。」
「二人共、もう甘い考えは辞めろ。 我々の目の前に居るのはあの劇団RIZEで、俳優代表として戦い続けていた小塚新だ。 この件で目に見える損害など問題にならない。 目に見え無い損害を、最も受けたのは誰であるのか再認識しない限り、我々に職は無い。」
その言葉に、俺はフッと笑った。
「おかえり、叔父さん。」
「………和馬、お前なぁ……。」
「机の上、今月のバイト代の領収書。 翔真は今日塾だから、先に食べててって。」
「…………。」
「あと、卒業式の日程出た。」
「………ああ、もうそんな時期か。」
そう告げながらジャケットを脱ぎ、テーブルの上に置かれた翔真と和馬それぞれが持ち帰って来た保護者への書類と和馬のバイト代の領収書を確認すべく椅子を引き、腰掛けた。
「叔父さん。」
「今度はなんだ。」
「………心配されてるよ、流石に。」
「…………。」
「まあ、ニュース見た人が心配になるのも分かるけど。 トラブルになってた親族は重罪確実、会社の方は示談?和解?になるだろうけど、病気が病気だからそっちを心配されてるって感じ。 休むって事前に言ったのは、こういう可能性も見越してだろうから、大半は理解してるっぽいけど。」
「…………。」
「小塚新をもう一度観たい、だからこその心配かもよ。」
「………もうステージには立てない。」
「立たなきゃいいじゃん。 それだけなの?小塚新って。」
「…………。」
「俺は否定しないし叔父さんがやりたいなら、出来る形でやれば?ってだけ。」
「……簡単に言うなよ。」
「大変だね、人気があった人も。」
「…………。」
「あと、翔真。 バイト先と家が決まったら、一人暮らしするつもりっぽいよ。 どっちの家からも通うの遠いし、叔父さんがまた小塚新に戻るようなら送り迎えして貰う必要無いから。」
「! ………二人して、俺が役者に戻る前提か?」
「叔父さん、オーディション番組観てるとき羨ましそうだよ。 自覚無いんだろうけど。」
「!」
「………きっと、母さん達も戻る事を許すと思う。 叔父さんのせいじゃなく、運送業者の管理が杜撰だったせいで起きた居眠り運転の事故だったんだから。」
「…………。」
「少なくとも、俺はもう叔父さん自身に両親が死んだ事を責めて欲しくない。 今まで面倒見てくれた事が贖罪のつもりでもあるなら、尚更。」
「…………。」
「………たまに、俺達が叔父さんを選ばなかったら叔父さんはもっと早くに戻ったんじゃないかって思う時がある。」
「はあ?」
「もう、あんまりよく覚えてねーけど………母さんが、劇団での愚痴を話す叔父さんを見る目は嬉しそうだった気がするんだよ……。」
「…………。」
頬杖を付き、俺も和馬もしばらくは何も言わなかった。
ただ、確かに姉貴は愚痴を聞かせているというのにニコニコと嬉しそうにしていたな、と、久し振りに思い出していた。
[小塚新:お久し振りです、ご無沙汰しております。 元気です。]
[小塚新:御承知の皆様が多いとはおりますが、この度私が関係する二件のトラブル及び事案について、ようやく終息に至る運びとなりましたのでご報告致します。]
[小塚新:まず、親族に関しては複数の刑事事件が絡む事、複数回に渡って繰り返された事、国外逃亡を図った事などの醜悪さから禁固刑が確実であると同時に、経済状況から賠償金の支払いが不可能である事から提訴を取り下げました。 今後、当該親族は複数の刑事事件で裁かれる事になりますが、当該親族の関係者等により私や甥に関与しないように取り計らわれるとの事です。 尽力頂いた担当弁護士の方を始め、本件の関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。]
[小塚新:親族が経営していた会社の親会社である獅堂グループホールディングス様とは、賠償金の支払いに応じて頂く事、実名での公表を条件に和解致しました。 以降、私に関する事で誹謗中傷する等の行為はお辞め下さい。]
[小塚新:そして、この二件が終息した事を持ちましてこのアカウントは公表する役目を果たしたと認識しております。 残しておきますが、今後更新する予定はございません。]
[小塚新:数ヶ月の間ではございましたが、ファンの皆様の言葉を再び頂戴出来た事は私にとっては嬉しい誤算でした。 ありがとうございました。 お別れは言いません。 それでは、またここで会いましょう。]
[@小塚新 長期間、お疲れ様でした。 こちらも嬉しかったです!]
[@小塚新 終息されたとの事、おめでとうございます。そして、お疲れ様でした! また!!]
[@小塚新 寂しいですが、その時が来たんですね……。 お疲れ様でした! いつかまた!]
[Re:RIZEProject公式: Where could he have gone? Does anyone know where he is?]
[Re:RIZEProject公式:Coming soon...]
[@Re:RIZEProject公式 何の匂わせだ……?]
[@Re:RIZEProject公式 オーディションのデビュー日でも決まったんか?]
[RIZEsのヲタク:ちょっ!リージョ! リージョの公式サイトのタレント一覧!! Coming Soonって書いてある画像が一枚増えてる!! 終息したし、期待していいんか?!なあ!?]
[リージョンミュージックのタレントリストに、どう見ても怪しいComing Soonって書いてある画像が増えてる……。 え?終息を公表したこのタイミングで? ま、まさか……Re:RIZEProjectの匂わせあった彼って、終息を公表したばっかのあの人じゃないだろうな?]
[い、いつだ?!いつ発表する気だ!? まさか、オーディションの最終発表日じゃないだろうな?!それだけは辞めてやれよ!?]
「………めちゃくちゃSNSがザワついてる……。」
「本当だ……。 でも、良かった。 母さん達も喜ぶよね。」
「………言っとくけど、別にお前を許した訳じゃないからな。 叔父さんが許したから、許容してやるだけだから。」
「! ……うん。」
「………俺がちょっとでも席を外すと喧嘩か。
いい加減にしろよ、本当に。」
「は?違うし。」
「タイミングがタイミングだからSNSがザワついてるね、って話。」
「本当か? お前ら……というか、主に和馬が根に持つタイプだからな。 あんまり当てにならんな。」
そう告げながら、ネクタイがズレている和馬のネクタイを直し、手を差し出して翔真と和馬それぞれの携帯を預かり、卒業式と書かれた看板の左右に立つ翔真と和馬をそれぞれの携帯で撮影した。
「お!小野塚! どうだ、育てて来た甥が高校を卒業する気分は!」
「うおッ?! 誰かと思ったわ!!」
「あ、武先生だ。」
「武セン、来たんなら三人で撮りたいから撮って。 はい、これ俺等の携帯。」
「あと、叔父さんの携帯も。」
「おお!良いぞ!!」
「は?! ちょっと待て!それぞれ携帯でまで撮らんでいい!一台で充分だろ! お前ら、ここぞとばかりに引っ張るな!!」
「「まあまあ、お養父さん。」」
「こういう時だけ養父扱いすんな!!」
そう告げたが、二人があまりにも嬉しそうにしたのでこれ以上文句を言えず、仕方無く乱れたスーツを直し、かつて俺の担任をしていた通りがかりの二人の体育担任だった教師に三人の携帯でそれぞれ撮って貰った。
[小塚和馬:高校の卒業式だった。 撮影by叔父さん]
[@小塚和馬 おー!]
[@小塚和馬 意外と身長ある……だと………!]
[@小塚和馬 クソ!コイツもイケメンか!!]
[小塚和馬:これは三人で撮って貰ったやつ。 卒業式の看板の右に居るのが双子の兄、真ん中は言うまでもなく叔父さん。 双子の兄と叔父さんの顔は出すなと言われました。]
[@小塚和馬 並ぶと背ぇたっか?!]
[@小塚和馬 小塚新の身長(記憶が但しければ187cm)を考慮しても、この小塚兄弟やっぱ背高いな!?]
[@小塚和馬 左右の甥は嬉しそうなのに、叔父が困ってる顔してんの対比が凄いなw]
[@小塚和馬 ちょっと待て!叔父、スタイルが記憶にあるままなんだが?!まさか維持してんのか!?]
SNS画面を見つめ、SNS画面を閉じると溜め息を吐いた。
「約束、何時って言ったかしら?」
「16時30分。 悪いな、店借りちまって。」
「別に良いわよ。 今日は元々店は休みなんだし、特にやる事も無かったから。」
「……決めた以上は、ここで働いてられんのもあと少しだな。」
「アンタが辞めたら残念がるでしょうね、お客さんは。」
「んで、テレビで観て驚くんだぜ? 俺も反応を生で見れないのが残念だよ。」
「………いつでも顔を出しに来ていいのよ。」
「そりゃあどうも。」
そう告げると、休みである店のドアを開けて二人の男が入って来たので立ち上がった。
「まさか、お前の方から連絡をくれるとは思わなかったな。」
「呼び出し理由から察しは付いてるんだろ。」
「………ああ。」
「言っておくが決心したのはあんたがやってる事とは無関係だ。 昔から、俺は家族からの頼みやお願いには弱いんだよ。」
「…………。」
「ましてや、全盛期ほど実力は発揮出来ない。 それでも構わないなら、あんたの会社所属の小塚新として復帰する。」
「「!!」」
「………では、もう少し詳しく話を聞かせて貰いたい。 小塚新として、どこまでやれるのかを含めて。」
そんな会話をしたのは、翔真と和馬が卒業する少し前の事だった。
[株式会社リージョンミュージック:本日より、タレントが一名所属となりました。 詳しくは、弊社リリースまたはRe:RIZEProject公式アカウントをご確認下さい。 おかえりなさい、先輩。]
[Re:RIZEProject公式:The last actor representative of RIZE Theatre Company has returned! Welcome back, Arata Kozuka!]
[Re:RIZEProject公式:劇団RIZEにて最後の俳優代表を努められていた小塚新さんが本日1月19日より弊社の所属タレントとして在籍し、4月1日より順次活動を再開する事となりました。本プロジェクトにも元俳優代表として一部関わって下さいます。]
[………マジで?!小塚新がリージョに!?]
[小塚新が活動再開だァァ!!終わらなかったァァ!!]
[やっぱあの匂わせ小塚新かァァ!!匂わせから二ヶ月経ってるのは、あれか、甥の卒業待ちしてた感じか。]
[所属は今日からでも活動が4月1日からなのは、リハビリとかの都合かね?]
[小塚新のアカウントに動きはー………無いか。更新しないって言ってたしなぁ……。]
[小塚新の活動再開が確定したのマジで嬉しい! 劇団RIZE作品のパフォーマンスが病気の影響とか諸般の影響で出来ないとしても全然構わん!俺は活動が見たいんじゃ!]
[小塚新が活動再開を確定にした事で、飯塚将樹が狂喜乱舞する事がほぼ確実になった訳だが、確か携帯の使用禁止期間(目覚まし機能のみ使用可能)だから知らん可能性あるな?]
[堂島雅信:なおオーディションの参加者やオーディション関連スタッフ(SNS及び広報担当者は除く)に小塚新さんの活動再開はもちろん、所属すら伝わっておりません。]
[@堂島雅信 マシで知らんのかい!w]
[@堂島雅信 とんだサプライズになる事が確定したw]
[小塚新の活動再開は嬉しいが、リージョンミュージックかぁ………。 Rain'sが良かったなぁ。]
[え?大橋健人のとこからじゃねえの?なんでそっち行ったんだ、小塚新]
[小塚新が活動再開ってどの面下げて?]
[大和達を散々苦しめといて、活動再開するとかどういうつもりなの小塚新って]
活動再開の告知は、事務所が不満な者、オルティナの発言を未だ真に受けている者、反応は様々だった。
開いていたSNSの画面を閉じ、一息吐くと携帯を鞄の上に置き、肩を回してからダンスの練習を再開した。
少しでも鈍った勘を取り戻す為に。
「! これは………。」
「親父が最後に作った、小塚新の為のジャケットです。 本当は自分で渡したかったみたいなんですが、作ってるのにも随分力を使って、完成した直後にはやりきったみたいに寝たきりになってしまいまして、そのまま一週間もしないうちに………。」
「……そうですか。 元々衣装造りに命を燃やしてたような人、だったからかな。 残念ながら、活動とお披露目はお約束出来ませんが。」
「良いんです。 きっと、わざわざこんな個人でやってる店に舞台で着る専用衣装制作をって頼んだ小塚新に職人として、一人の人間として何か思う所があって、最後に何か渡したかったんじゃないかなと思うので。」
「………線香、あげさせて貰っても?」
「もちろんですよ!」
獅堂の件は、年が明けても解決しそうに無かったが、昔交流があった人々からSNSを通じて様々な連絡があった。
[小塚新:オルフェウス、静寂たる月夜の散華、マルフェル等小塚新として舞台に上がる際に使用する衣装の制作をご依頼していた職人さんが実は五年ほど前に亡くなられ、預かっている品があると息子さんからご連絡があり、本日お店に伺わせて頂きました。 最後まで職人であったとのお話しを聞き、その職人魂に感服すると共にここに哀悼の意を表します。]
[小塚新:最後に仕上げられた作品、確かにご子息から頂戴致しました。 相変わらず文句の付けようのない、完璧な品でした。 長年制作して頂き、ありがとうございました。]
[小塚新の衣装制作してた人、亡くなってたのか……。 小塚新の舞台衣装、そう言えば今何処にあるんだ……? リージョか?]
[小塚新の衣装って劇団側で用意してたんじゃなかったのか!? ………そういえば小塚新の衣装、劇団RIZEミュージアムには無いな?]
[小塚新の舞台衣装、外部に発注してたんか! 知らなかった……。 オルフェウスが挙げられてるが、どっちの衣装だ?どっちもか……?]
[小塚新:オルフェウス(どっちも)の衣装なら、俺が持ってる。 それ以外の衣装は、総支配人(当時)が俺への腹いせで燃やしたはずだから権利者んとこに無ければもうこの世に無いな。 まあ、オルフェウスの衣装だけでも手元にあったのは幸いだった。(ちょうどクリーニングと手直しをお願いした直後だったので、劇場に持って行ってなかった。)]
[@小塚新 腹いせで燃やした?!!]
[@小塚新 舞台衣装を?! 結構しただろうあの舞台衣装を腹いせで燃やしたァ!?]
[@小塚新 本当にあの当時の総支配人やらかしてない事が無いな!!]
「………本当にな。」
SNSの画面を見ながらそう呟くと、駅から翔真が出て来たのを見つけ、携帯を仕舞って車から声を掛ければすぐに翔真が駆け寄って来た。
「どうだった、大学のオープンキャンパスは。」
「うん。 僕には、この大学は背伸びしてなきゃいけないって事が分かったから有意義だったよ。」
「そうか。 まあ、有意義だったんなら良かったよ。」
「………和馬は、進学しないんでしょ?」
「ああ。 バイトしながら配信者やるって聞かなかった。 今は絶賛バイト先を探してるよ。」
「……そっか。」
「和馬が決めてからの行動が早いのは父親に似たが、お前は母親に似たな。 決めるのだけでも結構悩んで、悩むから中々行動しない。」
「…………。」
「おいたんおいたん言ってたガキ二人が、あっという間に高校卒業か。 兄貴達が居たら号泣もんだ。」
「………喜んだかな、父さん達。」
「喜んだに決まってる。しかも大袈裟にな。」
車を走らせながらそう告げると、翔真は何処か嬉しそうだった。
[小塚新:先日、トラブルになっている親族が経営する会社の親会社に対して、弁護士から事実確認の為の内容証明を要求致しました。 が、本日に至るまで回答が得られていない事から下記の通り問い合わせ内容を公表致します。]
[小塚新:こちらから問い合わせしたのは、⚫社内における当該人物(親族)の処遇について、⚫社内グループ内外に対し、当該人物が小塚新の名を出し誹謗中傷等の発言がある事を把握しているかどうかの二点です。 後者に関しては、劇団員時代に交流があった企業の社長さんや会長さん等から聞いた内容が事実かどうかを含め、問い合わせがあった事で発覚しました。]
[@小塚新 嘘だろ、トラブルになってる親族、経営者で社内グループ内外にまでなんか言ってんの?!!]
[@小塚新 トラブルになってる親族が経営者っぽいのも、親会社が把握しててもしてなくてもヤバい……]
[@小塚新 悪質過ぎる……。 しかも、昔交流があった企業からの問い合わせがあるって、だいぶ言い触らしてるんじゃ………?]
[小塚新:それと、しばらく忙しくなる関係でSNSの投稿が出来なくなる。(あと一ヶ月半くらいで年末だしな。) あと、公式ホームページ作りました。 ただ、俺の写真は無いぜ!!]
[@小塚新 して、ホームページのURLどこ??]
[@小塚新 リンクを……リンクを何卒………。]
[@小塚新 検索したのに出て来ない!]
[小塚新:すまん!URLリンク失念してた!(プロフに記載しました)]
「………さて、駆け足で動きますかね。」
SNSに投稿を終えると、その手で電話を掛け、腰に手を置きながらそう告げた。
[そういえば小塚新、もう二週間ちょいくらい浮上してないな。 忙しくなるって言ってたし、まあ、そもそももうすぐ年末だしな。]
[もうすぐ年末だし、忙しくなるからSNS投稿出来ないって告知通り小塚新の投稿見かけんな……。]
[甥の小塚和馬すら配信で「めちゃくちゃ忙しそうにしてる」としか言わなかったな……。]
[小塚和馬:そういえば叔父さんが言い忘れてたらしいんだけど、「映像の解禁だけは、病気の関係上俺が観れないので現状絶対無い。 観た場合には、過呼吸or吐くor失神するが絶対発生するんで無理です。期待してるなら諦めてくれ、すまん。」だそうです。]
[@小塚和馬 なにィ!!?]
[@小塚和馬 oh……謂わば持病NGやないか………]
[@小塚和馬 小塚新本人が映像観れないとかだいぶ根深いな………]
[株主優待が趣味:獅堂グループホールディングスの役員、子会社の社長夫妻がめちゃくちゃやらかしている事を株主から突っ込まれて顔面蒼白。 小塚新の名前まで出たぞ、終わりだよこの会社]
[投資が趣味マン:獅堂グループホールディングスの株主総会行って来たんだけど、別の株主がガチギレで「子会社の社長夫妻が小塚新さんと随分トラブルになっている、警察沙汰裁判沙汰にまでなっているだけではなく、取引先企業内にまで噂になっていると聞いた。 何故公表していないのか、ちゃんと説明して頂きたい。子会社の社長夫妻は経営陣のご兄弟ですよね?」って発言でだいぶ会場ザワついたわ。]
[とある企業の営業マン:株主にまで知られてんのにこの期に及んで必死に言い訳して、株主を更に怒らせたらしくて爆笑してる。 営業にならないもん、マジで。 トラブルになってる小塚新が元劇団員だからって舐め過ぎでしょ。つか、そもそも役者って職を馬鹿にしてるから、取引先だろうと平気で悪口言えてんだろ絶対。 もう業界で噂になってるって他社の友人に言われたからな。 終わりだよ弊社。]
[とある企業の株主:獅堂グループホールディングスの株主総会に出席して来たが、経営陣の退陣を求めた。 トラブル相手の事も、我々株主の事もあまりにも舐め過ぎている。]
[獅堂グループホールディングスの株価が暴落してて笑ってる]
[あーあ、株主が暴露したから獅堂グループホールディングスの株価が大暴落してら。 どうすんのかね、獅堂グループホールディングスは。]
[小塚新がトラブルになってたの獅堂グループホールディングスの子会社の社長夫妻かよ! 株主からの暴露で株価大暴落w 経営陣がまるっと変わらない限り終息しねえぞこれ]
[小塚新の心労ヤバそう]
[小塚和馬:翌日休みだと、配信終わりでもそのまま配信外(プライベート)でゲームやってんだけど、最近、小腹空いたり喉乾いたりで部屋出てリビング行くとソファーで(仕事終わりの)叔父さんが寝てるからたまにビックリする。]
[小塚和馬:叔父さん割と几帳面なんだけど、精神的に余裕無くなると何故か飲んだ薬のゴミだけ捨てない。 四日分くらいの眠剤のゴミ置かれてるのみるとマジで余裕ねえんだな……って思う(気付いた方が捨ててる)]
[小塚新、眠剤飲まなきゃ寝れないくらいヤバいんか……?]
[アカウント作って発信するの前向きに捉えてって、前に小塚新言ってたが………やっぱ今まで言えるほど余裕無かったんか。 今、眠剤飲まなきゃ寝れないっぽいな……。]
[散々小塚新の悪口言ってたオルティナを、小塚新とか小塚和馬はどう思ってたんだろうな……]
[小塚和馬:某グループに関しては、叔父さんはどうかしらないけど、学校で某グループがキャアキャア騒いでる女子が授業参観とかで叔父さんが来た時に騒いでる時に内心罵倒しまくってたくらいには嫌い。 話題に上がる度に吐き気がしたくらいにはマジで嫌い。(なんか見た)]
[@小塚和馬 最早地雷レベルで嫌いなんじゃねえか!]
[@小塚和馬 そんだけ嫌いなのによく今まで甥ですって言わなかったなw]
[@小塚和馬 甥だと名乗り出なかった事に感心したわw]
[小塚新:親会社の方は一旦放置というか、後回しにします。 親族についても、諸事情ございましてこちらも一旦保留になりました。]
[小塚新:あと、医者から流石にドクターストップかかったのでSNSも休みます。 軽度の睡眠障害症状が継続の為大事を取る為のなので、無理してるとかでは無く主治医との相談の結果、一旦落ち着くタイミングでしっかり休みましょうねって話なのでご心配無く。 まだ11月なのでだいぶ早いですが、皆様良いお年を。]
[@小塚新 なるほど。 つまり休養期間ですかね。 良いお年を〜。]
[@小塚新 休養了解でーす!良いお年を〜。]
[@小塚新 ひとまず一旦落ち着くのであれば良かった……。 ゆっくりお休みくださーい!良いお年を〜。]
ファンであろうアカウントからの投稿を見、フッと笑ってからSNSを閉じ、そのまま携帯も置いてソファーに寝そべり、テレビを付けてその流れでいよいよ終盤に差し掛かっているつい三日前に更新されたオーディション番組を流した。
「………本当に、休めれば良いんだがな……。」
そう呟くと、コップに手を伸ばし、温かいお茶を飲み込んだ。
『獅堂グループホールディングスは臨時の取締役会で、現在の経営陣の全員の退陣が決まった事、インターネットを中心に明らかになった件についても事実を認め、関係者に謝罪し、賠償金を支払う方針である事を明らかにしました。』
『詐欺や業務上横領等複数の罪に問われ、国外へ逃亡したとみられている獅堂グループホールディングスの子会社で獅堂リーティングの社長獅堂正行氏と妻で副社長の獅堂実日子が、逃亡先のアメリカで身柄を拘束された事が関係先への取材で分かりました。 二人は、元俳優である小塚新さんの自宅に誹謗中傷のビラを貼る、車を破損させるなどの器物損壊罪にも問われるとの事です。』
テレビのニュース番組で流れた言葉を聞き終えるとテレビを消し、鞄を持って立ち上がるとそのまま自宅を出た。
「「「申し訳ございませんでした!」」」
「………俺に言わせれば、インターネットを中心に炎上し、株主達が次々と手放した事で株価が暴落したからやっと重い腰を上げたという印象しかありません。」
「じ、事実確認を………。」
「事実確認? 社員さんにも関係取引先さんにですか? そんなの直接聞く事もあったような事に、三週間も事実確認ですか。 随分と暢気なものですね。 そんな建前のせいで、獅堂夫妻は容認されたと思い込んだというのに。」
「「──!」」
「(………流石は、あの劇団RIZEで若くして俳優代表をしていただけの事はある。 手を拱いた我々を含め、あの夫妻が如何に愚かだったのか痛感させられる。)」
「こうして直接会うのはこれっきりです。 義兄の実家であろうが、義兄が気に掛けた場所であろうが、俺には一切関係ありません。 あまりにも長引くようなら、さっさと司法に判断を委ねるつもりです。」
「「なッ……!」」
「……ご心配には及びません。 既に充分長引きましたから、これ以上長引かせる必要は無いでしょう。」
「………では、この場で判断をお聞かせ願えると? 誰もが降って沸いたような権利に目が眩み、お互いに足を引っ張り合い、醜い争いを繰り広げるような事が無いとは到底思えませんが。」
「……ええ、お答えします。」
「「?!」」
「おい、長谷川! 何を勝手に………!」
「我々が来たのは………!」
「赦しを得る為である事も、我々の保身の為に最も痛みが少ない方法で手打ちにして貰おうという魂胆まで、小野塚さんは全てお見通しだ。」
「「………!」」
「…………。」
「二人共、もう甘い考えは辞めろ。 我々の目の前に居るのはあの劇団RIZEで、俳優代表として戦い続けていた小塚新だ。 この件で目に見える損害など問題にならない。 目に見え無い損害を、最も受けたのは誰であるのか再認識しない限り、我々に職は無い。」
その言葉に、俺はフッと笑った。
「おかえり、叔父さん。」
「………和馬、お前なぁ……。」
「机の上、今月のバイト代の領収書。 翔真は今日塾だから、先に食べててって。」
「…………。」
「あと、卒業式の日程出た。」
「………ああ、もうそんな時期か。」
そう告げながらジャケットを脱ぎ、テーブルの上に置かれた翔真と和馬それぞれが持ち帰って来た保護者への書類と和馬のバイト代の領収書を確認すべく椅子を引き、腰掛けた。
「叔父さん。」
「今度はなんだ。」
「………心配されてるよ、流石に。」
「…………。」
「まあ、ニュース見た人が心配になるのも分かるけど。 トラブルになってた親族は重罪確実、会社の方は示談?和解?になるだろうけど、病気が病気だからそっちを心配されてるって感じ。 休むって事前に言ったのは、こういう可能性も見越してだろうから、大半は理解してるっぽいけど。」
「…………。」
「小塚新をもう一度観たい、だからこその心配かもよ。」
「………もうステージには立てない。」
「立たなきゃいいじゃん。 それだけなの?小塚新って。」
「…………。」
「俺は否定しないし叔父さんがやりたいなら、出来る形でやれば?ってだけ。」
「……簡単に言うなよ。」
「大変だね、人気があった人も。」
「…………。」
「あと、翔真。 バイト先と家が決まったら、一人暮らしするつもりっぽいよ。 どっちの家からも通うの遠いし、叔父さんがまた小塚新に戻るようなら送り迎えして貰う必要無いから。」
「! ………二人して、俺が役者に戻る前提か?」
「叔父さん、オーディション番組観てるとき羨ましそうだよ。 自覚無いんだろうけど。」
「!」
「………きっと、母さん達も戻る事を許すと思う。 叔父さんのせいじゃなく、運送業者の管理が杜撰だったせいで起きた居眠り運転の事故だったんだから。」
「…………。」
「少なくとも、俺はもう叔父さん自身に両親が死んだ事を責めて欲しくない。 今まで面倒見てくれた事が贖罪のつもりでもあるなら、尚更。」
「…………。」
「………たまに、俺達が叔父さんを選ばなかったら叔父さんはもっと早くに戻ったんじゃないかって思う時がある。」
「はあ?」
「もう、あんまりよく覚えてねーけど………母さんが、劇団での愚痴を話す叔父さんを見る目は嬉しそうだった気がするんだよ……。」
「…………。」
頬杖を付き、俺も和馬もしばらくは何も言わなかった。
ただ、確かに姉貴は愚痴を聞かせているというのにニコニコと嬉しそうにしていたな、と、久し振りに思い出していた。
[小塚新:お久し振りです、ご無沙汰しております。 元気です。]
[小塚新:御承知の皆様が多いとはおりますが、この度私が関係する二件のトラブル及び事案について、ようやく終息に至る運びとなりましたのでご報告致します。]
[小塚新:まず、親族に関しては複数の刑事事件が絡む事、複数回に渡って繰り返された事、国外逃亡を図った事などの醜悪さから禁固刑が確実であると同時に、経済状況から賠償金の支払いが不可能である事から提訴を取り下げました。 今後、当該親族は複数の刑事事件で裁かれる事になりますが、当該親族の関係者等により私や甥に関与しないように取り計らわれるとの事です。 尽力頂いた担当弁護士の方を始め、本件の関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。]
[小塚新:親族が経営していた会社の親会社である獅堂グループホールディングス様とは、賠償金の支払いに応じて頂く事、実名での公表を条件に和解致しました。 以降、私に関する事で誹謗中傷する等の行為はお辞め下さい。]
[小塚新:そして、この二件が終息した事を持ちましてこのアカウントは公表する役目を果たしたと認識しております。 残しておきますが、今後更新する予定はございません。]
[小塚新:数ヶ月の間ではございましたが、ファンの皆様の言葉を再び頂戴出来た事は私にとっては嬉しい誤算でした。 ありがとうございました。 お別れは言いません。 それでは、またここで会いましょう。]
[@小塚新 長期間、お疲れ様でした。 こちらも嬉しかったです!]
[@小塚新 終息されたとの事、おめでとうございます。そして、お疲れ様でした! また!!]
[@小塚新 寂しいですが、その時が来たんですね……。 お疲れ様でした! いつかまた!]
[Re:RIZEProject公式: Where could he have gone? Does anyone know where he is?]
[Re:RIZEProject公式:Coming soon...]
[@Re:RIZEProject公式 何の匂わせだ……?]
[@Re:RIZEProject公式 オーディションのデビュー日でも決まったんか?]
[RIZEsのヲタク:ちょっ!リージョ! リージョの公式サイトのタレント一覧!! Coming Soonって書いてある画像が一枚増えてる!! 終息したし、期待していいんか?!なあ!?]
[リージョンミュージックのタレントリストに、どう見ても怪しいComing Soonって書いてある画像が増えてる……。 え?終息を公表したこのタイミングで? ま、まさか……Re:RIZEProjectの匂わせあった彼って、終息を公表したばっかのあの人じゃないだろうな?]
[い、いつだ?!いつ発表する気だ!? まさか、オーディションの最終発表日じゃないだろうな?!それだけは辞めてやれよ!?]
「………めちゃくちゃSNSがザワついてる……。」
「本当だ……。 でも、良かった。 母さん達も喜ぶよね。」
「………言っとくけど、別にお前を許した訳じゃないからな。 叔父さんが許したから、許容してやるだけだから。」
「! ……うん。」
「………俺がちょっとでも席を外すと喧嘩か。
いい加減にしろよ、本当に。」
「は?違うし。」
「タイミングがタイミングだからSNSがザワついてるね、って話。」
「本当か? お前ら……というか、主に和馬が根に持つタイプだからな。 あんまり当てにならんな。」
そう告げながら、ネクタイがズレている和馬のネクタイを直し、手を差し出して翔真と和馬それぞれの携帯を預かり、卒業式と書かれた看板の左右に立つ翔真と和馬をそれぞれの携帯で撮影した。
「お!小野塚! どうだ、育てて来た甥が高校を卒業する気分は!」
「うおッ?! 誰かと思ったわ!!」
「あ、武先生だ。」
「武セン、来たんなら三人で撮りたいから撮って。 はい、これ俺等の携帯。」
「あと、叔父さんの携帯も。」
「おお!良いぞ!!」
「は?! ちょっと待て!それぞれ携帯でまで撮らんでいい!一台で充分だろ! お前ら、ここぞとばかりに引っ張るな!!」
「「まあまあ、お養父さん。」」
「こういう時だけ養父扱いすんな!!」
そう告げたが、二人があまりにも嬉しそうにしたのでこれ以上文句を言えず、仕方無く乱れたスーツを直し、かつて俺の担任をしていた通りがかりの二人の体育担任だった教師に三人の携帯でそれぞれ撮って貰った。
[小塚和馬:高校の卒業式だった。 撮影by叔父さん]
[@小塚和馬 おー!]
[@小塚和馬 意外と身長ある……だと………!]
[@小塚和馬 クソ!コイツもイケメンか!!]
[小塚和馬:これは三人で撮って貰ったやつ。 卒業式の看板の右に居るのが双子の兄、真ん中は言うまでもなく叔父さん。 双子の兄と叔父さんの顔は出すなと言われました。]
[@小塚和馬 並ぶと背ぇたっか?!]
[@小塚和馬 小塚新の身長(記憶が但しければ187cm)を考慮しても、この小塚兄弟やっぱ背高いな!?]
[@小塚和馬 左右の甥は嬉しそうなのに、叔父が困ってる顔してんの対比が凄いなw]
[@小塚和馬 ちょっと待て!叔父、スタイルが記憶にあるままなんだが?!まさか維持してんのか!?]
SNS画面を見つめ、SNS画面を閉じると溜め息を吐いた。
「約束、何時って言ったかしら?」
「16時30分。 悪いな、店借りちまって。」
「別に良いわよ。 今日は元々店は休みなんだし、特にやる事も無かったから。」
「……決めた以上は、ここで働いてられんのもあと少しだな。」
「アンタが辞めたら残念がるでしょうね、お客さんは。」
「んで、テレビで観て驚くんだぜ? 俺も反応を生で見れないのが残念だよ。」
「………いつでも顔を出しに来ていいのよ。」
「そりゃあどうも。」
そう告げると、休みである店のドアを開けて二人の男が入って来たので立ち上がった。
「まさか、お前の方から連絡をくれるとは思わなかったな。」
「呼び出し理由から察しは付いてるんだろ。」
「………ああ。」
「言っておくが決心したのはあんたがやってる事とは無関係だ。 昔から、俺は家族からの頼みやお願いには弱いんだよ。」
「…………。」
「ましてや、全盛期ほど実力は発揮出来ない。 それでも構わないなら、あんたの会社所属の小塚新として復帰する。」
「「!!」」
「………では、もう少し詳しく話を聞かせて貰いたい。 小塚新として、どこまでやれるのかを含めて。」
そんな会話をしたのは、翔真と和馬が卒業する少し前の事だった。
[株式会社リージョンミュージック:本日より、タレントが一名所属となりました。 詳しくは、弊社リリースまたはRe:RIZEProject公式アカウントをご確認下さい。 おかえりなさい、先輩。]
[Re:RIZEProject公式:The last actor representative of RIZE Theatre Company has returned! Welcome back, Arata Kozuka!]
[Re:RIZEProject公式:劇団RIZEにて最後の俳優代表を努められていた小塚新さんが本日1月19日より弊社の所属タレントとして在籍し、4月1日より順次活動を再開する事となりました。本プロジェクトにも元俳優代表として一部関わって下さいます。]
[………マジで?!小塚新がリージョに!?]
[小塚新が活動再開だァァ!!終わらなかったァァ!!]
[やっぱあの匂わせ小塚新かァァ!!匂わせから二ヶ月経ってるのは、あれか、甥の卒業待ちしてた感じか。]
[所属は今日からでも活動が4月1日からなのは、リハビリとかの都合かね?]
[小塚新のアカウントに動きはー………無いか。更新しないって言ってたしなぁ……。]
[小塚新の活動再開が確定したのマジで嬉しい! 劇団RIZE作品のパフォーマンスが病気の影響とか諸般の影響で出来ないとしても全然構わん!俺は活動が見たいんじゃ!]
[小塚新が活動再開を確定にした事で、飯塚将樹が狂喜乱舞する事がほぼ確実になった訳だが、確か携帯の使用禁止期間(目覚まし機能のみ使用可能)だから知らん可能性あるな?]
[堂島雅信:なおオーディションの参加者やオーディション関連スタッフ(SNS及び広報担当者は除く)に小塚新さんの活動再開はもちろん、所属すら伝わっておりません。]
[@堂島雅信 マシで知らんのかい!w]
[@堂島雅信 とんだサプライズになる事が確定したw]
[小塚新の活動再開は嬉しいが、リージョンミュージックかぁ………。 Rain'sが良かったなぁ。]
[え?大橋健人のとこからじゃねえの?なんでそっち行ったんだ、小塚新]
[小塚新が活動再開ってどの面下げて?]
[大和達を散々苦しめといて、活動再開するとかどういうつもりなの小塚新って]
活動再開の告知は、事務所が不満な者、オルティナの発言を未だ真に受けている者、反応は様々だった。
開いていたSNSの画面を閉じ、一息吐くと携帯を鞄の上に置き、肩を回してからダンスの練習を再開した。
少しでも鈍った勘を取り戻す為に。
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