壱の話
「叔父さん、叔父で養父が小塚新として活動してたって言いたいんだけど!!」
報道から一週間が経つ頃、学校から帰って来た和馬が、リビングに入って来るなりかなり苛立った様子でそう言ってきた。
「………チャンネルの登録者数が100万人いったらって約束だろ。 急になんだ?」
「マジで我慢の限界! 翔真にも、何も知らない連中が好き勝手言ってんのにも!」
和馬は鞄から携帯を出しながらそう言い、イライラしたまま鞄をソファーに投げていたので小さく溜め息を吐き、携帯で和馬のチャンネルの登録者数を見たがまもなく50万人といったところだった。
「(和馬がチャンネルで配信を始めてから、もうすぐ四年……解禁するならそのタイミングが良いと思っているだろうから、許可出さなくても言いそうだな………。)」
「………分かった。 そこまで言うなら解禁したっていい。」
「?!」
「ただし、言うなら今から言う事だけは絶対に守れよ。」
[小塚和馬:活動四周年記念配信(1月12日17時〜)で、一つ重大な情報を解禁します。 解禁するからと言って何か変わる訳じゃないですけど、間違い無くこの情報が嬉しい人は居る。 お楽しみに。]
[小塚和馬:もうずっと最近腹が立ってて。 言いたいけど言えなくて、我慢の限界。 許可下りたので、活動四周年記念配信で解禁します。]
和馬に解禁するに当たっての条件を伝えると和馬は了承し、SNSに告知を出していた。
重大な情報の解禁という事で和馬のチャンネルのファン達は期待や不安を述べていたが、ナンにせよ記念配信を楽しみにしているようだった。
《独占入手! 親族が明かす、元⚫劇団RIZEの小塚新の本性と現状とは!!》
そんな見出しの記事が出たのは、和馬の四周年記念配信を三日後に控えたタイミングで、書かれた内容はあまりにも獅堂側に都合が良いように出来ていた。
獅堂の話ししか聞かずに書いたのだ、と、すぐに分かるほどに。
『んじゃあ、そろそろ活動四周年記念配信らしい事をしたいと思います。 例の重大発表ね。』
[ドキドキ!]
[おっ。]
[おっ!]
『……なんかいざ言うとなったら緊張するな………。』
[こっちもだよw]
[な、何を言うんだ……!]
『………いきます。 俺、小塚和馬は十年前まで劇団RIZEで在籍、活動していた小塚新の甥であり、養子です。 小塚新は泣き母の弟であり、今なお亡き両親に代わってたった一人で面倒を見てくれている親代わりの人物です。 これ以上、感謝と尊敬の念が絶えない叔父に対する誹謗中傷や沈黙に俺が耐えられなかったので、叔父の許可が得られたので公表します。』
[は!!?]
[え?!!]
[ま?!]
「…………。」
『叔父さんは、公表する事は登録者数が100万人に行ったらって約束だったのに、俺がもう我慢出来そうに無いからって公表する事を許してくれた。 今までも迷惑とか負担かけてると思うけど、本当に俺が望むなら好きな事させてくれて、めちゃくちゃ応援とかサポートしてくれてて。 皆は知らないだろうけどさ、両親が急に死んじゃって、俺達の事もあるから好きだった仕事?辞めて、じいちゃんの介護しながらも仕事と俺達の面倒見ててさ、過労と睡眠不足でぶっ倒れた事があるんだよ。』
「!」
『だから、この活動四年があるのは皆のお陰でもあるけど、叔父さんのサポートがあったからなんだよ。 親族なんて、そんな叔父さんにも叔父さんの周りの人にも迷惑かけて、俺が嫌だって言おうがお構いなしに自分達の望みっつうか都合?ばっか押し付けてくるような連中で、自分達の望み通りにすることしか頭に無いんだなってつくづく思う。 対応してんのは叔父さんと弁護士さんだから、俺が出来るのなんて出来る限り叔父さんに迷惑かけないようにする事くらいだけど。』
[親族って、最近出た週刊誌の話しか?]
[ん?週刊誌記事の話しか?]
[週刊誌記事の話し……?]
『………記事の話をするなら俺には一切取材の連絡来てないし、親族の所に行きたいとも叔父さんの悪口言った事も無い。 てか、マジで親族嫌い。 父方だけどさ、二度と会いたくないし口も聞きたくないんだよ、俺は。 言えないことはマジで多いけど、俺には親族が嘘込で自分達の都合が良いようにしか言ってねえ内容って認識だから、叔父さんや俺に取材しないで何が公正公平だよって思ってる。 許せねえ。』
[また怒ってる……w]
[プライベートで鬱憤が溜まりすぎててw]
[じゃあ、叔父からなんかしてもらえばいいじゃん。]
[叔父が役に立ってない系?]
『叔父さんや俺が何をしてるか知らないくせに、叔父さんが役立たずみたいな事言うとか何様? もしかしてトレンドか何かに入ってて見に来たヤツ? 俺、叔父さんが大好きだから悪く言われんのマジで嫌いだし地雷だから二度と来んな。』
[わ、わぁ……]
[ブチギレwww]
[気に入らないコメントや話題は感情剥き出しにしないで、スルーするしか]
『何年経っても無理。』
[小塚和馬チャンネル 和馬一人の力で四年で登録者数50万人行ってるのは凄い事だよな、と思いましたし、和馬自身がもう我慢の限界で許可しなくても喋りそうな勢いだったので今回許可を出した次第です。 今後とも小塚和馬をよろしくお願い致します。]
[叔父本人おるやないかい!w]
[管理人さんも居た! 管理人さんも四周年おめでとうございます!]
[管理人さんだ〜管理人さんも四周年おめでとうございまーす!]
「………恵まれてるな、俺達は。」
和馬の配信を見ながらそう呟くと、手元に置いていたコップに水を注ぎ、口にした。
『改めて念押しとして言うけど、叔父さんが小塚新だったって言うなって言ったのは、多分、俺が小塚新の甥だっていう事で勝手に小塚新の事が関連付けられて謂れもないことで誹謗中傷されるかもしれなくて、誹謗中傷の辛さみたいなのは叔父さんの方が分かってるからだと思う。 要するに俺を守ろうとしてたからだし、俺もそれは分かってたし叔父さんが嫌な事はしたくなかったから約束通り今まで言わなかっただけで、決して叔父さんから強制されたとかじゃなくて、活動する前に沢山話した結果、そういう決まりにしたんで、叔父さんのせいで黙ってたんじゃないから。 勘違いされたくないし、マジで叔父さんが悪く言われるのは気分悪い。』
「!」
『けど、誹謗中傷なんて小塚新の甥だって言っても言わなくても叩くやつは居るし、実際に今まで小塚新が叔父だって言ってないのに誹謗中傷は言われてるから、今後甥だって言った事で叩くやつは増えるだろうけど、そういう環境というか、状況作ってる一端って説明もしない小塚新のせいでもあると思ってる。 まあ、誹謗中傷するやつが悪いけど。』
[まあ、配信者も芸能人みたいなもんだしなぁ。]
[叩きたいやつは誰でも良かったりしてこじつけたりするから……]
[小塚新への誹謗中傷は退団前からチラホラあったが、露見が退団発表前だったせいで不満が全部小塚新に向いた印象さえあるわ]
「…………。」
『叔父さんに色々事情があるのは分かってるけど、黙ってても調子乗らせるだけだって叔父さんにも分かってる。 俺から見れば、なんなら暴露した方が色々解決するような気さえするくらいには、この状況は最悪。まあ、俺も詳しく言うと叔父さんへの負担増えるから言えないんだけどさ。 少なくとも、無関係の小塚さんまで攻撃する人達とか頭おかしいだろ、マジで。 なんなの?マジで叔父さんに親とか親しい人でも殺されたかなんかした? いや、叔父さんが前科者とかじゃないのは百も承知だけど。』
[言い方ァ!]
[言い方が良くない……!]
[まあ、言いたいことは分かるがw]
『何言おうが俺の叔父兼養父が小塚新って名前で活動してたのは事実で、変わらないし。 名指しはしないけど、その叔父さんの後輩連中の発言もどうなの?人気があれば何を言ったって許されるわけ? どうかしてるよ、起用する側も売り込む側も。 あんな業界?だから叔父さんが活動辞めたんじゃねえの。』
[そこに触れるのは流石にヤバいって]
[大手事務所のタレントだぞ……!]
[そこに言及しちゃうと炎上するて!]
『なんだっけ、被害者有志のアカウント?あの投稿がほぼ事実なんじゃないかって納得するぐらいには、退団直後の叔父さんは本当はボロボロで、両親亡くしたばっかの俺達が心配しないようにって、過労と寝不足でぶっ倒れるまで無理してたぐらいだったんだよ。 そんな状態だったから説明出来なかったのは理解してるし、実はそんな状態だったしここ数年はその頃に比べればめちゃくちゃ安定してるって事は伝えたい。 でも、流石にいきなり何も言わずに辞めてるし不誠実で、叔父さんだってそういうのは嫌なはずなんだよ。 だけど、それさえ言うのを躊躇わせる要素が色々マジであり過ぎる。 足枷の一つには無関係じゃないからあれだけど。』
[ぶ、ぶっ倒れた?!]
[マ?!!]
[倒れるまでボロボロのままって………]
[うわぁ……]
『もし、叔父さんの……小塚新ファンが聞いてたら、真偽の定かじゃない噂を鵜呑にして馬鹿にされてのを見て傷付いてる暇があったら、今の叔父さんはSNS見てるから、ちゃんと今も応援してるし待ってるとか、プラスな事をちゃんと発信しろよ。 叔父さんからの説明待ってるだけじゃなくて、ファン個人の言葉を尽くしてまだファンだってアピールしなきゃ意味が無い。 悪い声の方が目に付くんだから、悪い声以上に発信しなきゃ叔父さんの目に入らないんだよ。 俺ですら検索してなくても悪い声目に入ってんだから、検索してる見てるだろう叔父さんの目に入らない訳が無い。 俺の感想タグとかファンアートタグとかだって叔父さん見てるっぽいし。』
[小塚新が甥のファンアート見てんの?!w]
[保護者がタグの投稿閲覧してんのかいw]
[昔はSNS見たりしてなかったんか?]
『叔父さんが結構飲んで酔った時の話だけど、現役時代?はマジで忙しくてSNS見る余裕無かったらしい。 辞めた後は別の意味で見れなくなって、多分俺が活動始めてから見始めたんじゃねえかな。 SNSアカウント自体は昔から持ってたみたいだけど。』
[つまり、和馬のSNSアカウントのフォローかフォロワー欄に小塚新が居る?]
[和馬のSNSアカウントの最古どれだ?]
[小塚新のなりすましとかのアカウントは居るけど、多分本人は居ないんだよなぁ]
[小塚和馬チャンネル 探すんじゃないよ(少なくとも小塚新名義では無いし、片割れのアカウント同様見つからないと思うが)]
[そうだった、兄貴の方のアカウントも分からん]
[兄貴のアカウントが見つかれば早そうだが………]
[自分の身になって考えろよ、会社とか学校に趣味全開のアカウント知られたくないだろ 小塚新としてじゃなくて、ただの一般人としてSNSやってんだから探すなって]
『兄貴の方はどうでもいいけど、叔父さんだけはあんまり特定して欲しくない。 マジで兄貴のアカウントが特定されんのはどうでもいい。 叔父さんのだけはマジでやめて。簡単に見つからないとは思ってるけどさ。 』
「………心配しなくても、大丈夫だっての。」
和馬の反応にそう呟くと頬杖を付き、和馬の配信が終わるまで見届けた。
「叔父さん! なんで解禁させたの?! 100万人いったらじゃなかったの!?」
「!」
「………週刊誌記事が出た時点で、和馬の堪忍袋の緒が切れるのは時間の問題になった。 和馬本人が改めて言わせてくれって言ってきた以上、俺に止める理由が無くなった。」
「!!」
「それと、弁護士を通じて先方の弁護士から第二弾がある可能性を示唆された。 内容は、親族が甥から聞いた話だそうだ。」
「は? 俺は何にも言ってないし、そもそも連絡は………。」
「……!」
「………第二弾が出る出ないに関わらず、今劇団RIZEの権利を持ってる芸能会社社長に連絡を入れて、活動を再開する意向を伝えるつもりだ。 有志を名乗るSNSアカウントの投稿に加えて、獅堂が記事にして表沙汰にした以上、俺も表に出て対応せざるを得ないからな。」
「…………。」
「お、叔父さん、僕は………!」
「翔真。 前に言ったよな?お前の優しさは、獅堂にとっては都合が良くて、良いことにはならないって。 一週間以内に決めろとも言った。」
「………!」
「俺は、お前にハッキリ獅堂と関わり続けるなと伝えたつもりだった。 でも、お前には伝わってなかったみたいだな。 俺に黙って連絡や会うのを辞めなかった、第二弾が親族が甥から聞いた話という予定だってことは、そういう事だろう?」
「ち、違う! 一回目も、あるのか分からない二回目の記事の事は僕だって知らないんだよ?! た、確かに叔父さんに黙って連絡をしてた事はあるよ? でも、最近、ここ一週間くらいは本当に連絡してなかったんだよ!!」
「………俺は、お前が嘘を言っているとは思っちゃいない。 信じてやりたいとも思う。 でもな、翔真。 一度でも信頼を裏切ったら、取り戻すのは簡単じゃない。」
「!!」
「…………。」
翔真が信頼を裏切ったのは、俺をではない。
血を分けた、双子の片割れである和馬からの信頼を裏切ったのだ。
俺からの信用も裏切ってしまった翔真を、信じてやりたくても信じてやる事は難しい。
それが、どれほど俺にとって負担で、苦痛な事になるのか、翔真に分かって欲しかったのだが、優しさを仇にしている以上はもう今までのような関係のままでいる事は困難だ。
それでも、翔真は「もう獅堂に行くつもりはない」という意思だけは伝えてくれた。
和馬は、その意思を「どうせ今だけで、すぐに気が変わるに決まってる!」と敵意と怒りを剥き出しにして殴りかかろうとした。
殴る事を制し、ショックで泣きそうな顔をしている翔真にはほとぼりが冷めるまで大悟の家に泊まるよう告げた。
大悟の家ではなく俺が居る実家でも良かったが、今の俺も冷静な判断が出来る自信が無かったからだ。
『………はい。』
「ご無沙汰しております、小野塚晃です。」
『………、ようやく連絡をくれたな。 待っていた。』
「………いくつか、確認をしても構いませんか?」
『勿論だ。』
「俺が今いくつもの問題を抱えている事はご推察されているとは思いますが」
『こちらは全面的に協力するし、必要であるならばいくらでもサポートをする。』
「!」
『………本来であれば、そもそも劇団RIZEを巡っては君が槍玉に上がるべきでは無い事なんだ。 彼らや彼らが所属する事務所に対しては何度も通告をしているが……改善する気も、認めるつもりも無いんだろう。』
「…………。」
『私は君も被害者だと認識している。 君はあまりにもしなくてもいい事を押し付けられた。 残念ながら前任の権利者を含め、運営に携わる者達は携わるべきでは無い者達だったとしか言い様が無い。 ただ権利を持っていただけの者、収入源としか見ていなかった者、自慢したいだけの者………あまりにも愛の無い人達で、愛のある者が割りを食う羽目になってしまったのが晩年の劇団RIZEだ。』
「…………。」
『晃くん。 まだ、劇団RIZEは好きか?』
「は?」
『君が見て来た劇団RIZEは、晩年が特に酷かったはずだ。 君自身を苦しめたコンテンツであり、場所でもある。 愛想が尽きていても、それはしょうがない事だと思っているし、嫌いになっていたのだとしても必然的だとも思っている。』
「………確かに、晩年は酷いもんでしたし、散々苦しめられもした。 でも、それは人であってコンテンツや作品じゃない。 だから、劇団RIZEという作品やコンテンツは好きですよ。」
『そうか。』
「………実の所、こうして連絡はしましたがしっかり決心した訳じゃないんですよ。 小塚新は、あまりにも色々なものが絡みついていますしね。」
『それでも、君は私に連絡をした。』
「ええ。 ………いつまでも立ち止まっていたら、そろそろ姉が夢に出て来て背中を蹴飛ばされそうなので。」
『先程も言ったように、こちらは全面的に協力するし、万全の体制でサポートするつもりだ。 小塚新に、もう一度芸能活動をする意思があり、うちを選ぶならという前提になるが。』
「いずれにせよ、俺は小塚新として、もう一度活動をしたいと考えています。 そこまで言って頂けるのであれば、前向きに検討しますが今の仕事の事もあるのでもう少しお時間を下さい。」
電話をした堂島雅信へそう告げ、いくつか確認されてから電話を切り、長く息を吐いた。
「………これで、後戻りは出来なくなったな……。」
そう呟くと後ろを振り返り、背伸びをしてからベッドへと潜り込んだ。
[堂島雅信:長らく待ち望んでいた小塚新本人からご連絡がありました。 お元気そうで何よりです。 近日中には、もう少しお知らせ出来る事が増える予定です。]
[堂島社長マジ?!!]
[まさか、堂島社長に小塚新から直接連絡行ったのか?! お知らせ増えそうって色々期待しちゃうんだが!!]
[おー!小塚新本人がようやく堂島社長に連絡したんか! 期待しちゃいますな………!]
[小塚和馬:俺は、叔父さんから、なぁんも聞いてない。(いつの間に連絡したんだ)]
[小塚和馬(ガチの甥+養子)は小塚新からなんも聞いてないのかいw]
[小塚新の甥(養子)の小塚和馬はなんも聞いてなくて草]
[マジで小塚新は話題に事欠かないからなぁ、良くも悪くも]
職場に早めに行ってSNS画面を確認し、携帯を仕舞ってから深呼吸をし
「大悟。 俺は、小塚新としての活動に戻ろうかと思ってる。」
「………、そう。」
「……悪いな。」
「謝らないでちょうだい! あんな偏った内容の記事が出た時点で、あんたが活動を再開させるだろう事はすぐに想像が付いたわ!」
サラリと大悟に伝えれば、大悟はやや怒っているようにそう言うと、獅堂への文句を並べ、あくまで獅堂に対して怒っているようだったが、長い付き合いなのでそれが強がりであることくらい気が付いていた。
そんな大悟に笑いながら、他の従業員が来るまで開店準備をしながら雑談を続けた。
「「辞める?!」」
「今月いっぱいでな。」
「今月いっぱいって………。」
「もうあんまり日が無いじゃないですか!」
「そういう訳だから、来月からは二人が忙しくなっちゃうかもしれないわ。 勿論、その分お給料は上げるし、求人も出すつもりだけど。」
「忙しくなる事自体は平気ですよ。」
「わ、私も大丈夫です!」
「そう? でも、今まで通りキツくなったりしたらいつでも言ってちょうだいね。」
「……晃さん、ご親族トラブルの対応が難航してるから辞めるんですか?」
「辞めなきゃいけないほど、前に来た人達とのトラブル揉めてるんですか……!?」
「ん? ……まあ、難航してるのは事実だし、辞める理由としては親族トラブル対応の為でも間違いは無い。 ただ、それだけが理由って訳でも無いから安心してくれ。 やりたいことをが見つかって、それをやるには掛け持ちは難しいってだけだからさ。」
他の従業員二人に伝えれば、二人は驚きながらも残念そうにした。
たまに遊びに来て欲しいとも言われたが、それはちょっと難しいとハッキリ伝えた。
役者に、芸能界に戻るつもりだからとまでは流石に言わなかったが。
報道から一週間が経つ頃、学校から帰って来た和馬が、リビングに入って来るなりかなり苛立った様子でそう言ってきた。
「………チャンネルの登録者数が100万人いったらって約束だろ。 急になんだ?」
「マジで我慢の限界! 翔真にも、何も知らない連中が好き勝手言ってんのにも!」
和馬は鞄から携帯を出しながらそう言い、イライラしたまま鞄をソファーに投げていたので小さく溜め息を吐き、携帯で和馬のチャンネルの登録者数を見たがまもなく50万人といったところだった。
「(和馬がチャンネルで配信を始めてから、もうすぐ四年……解禁するならそのタイミングが良いと思っているだろうから、許可出さなくても言いそうだな………。)」
「………分かった。 そこまで言うなら解禁したっていい。」
「?!」
「ただし、言うなら今から言う事だけは絶対に守れよ。」
[小塚和馬:活動四周年記念配信(1月12日17時〜)で、一つ重大な情報を解禁します。 解禁するからと言って何か変わる訳じゃないですけど、間違い無くこの情報が嬉しい人は居る。 お楽しみに。]
[小塚和馬:もうずっと最近腹が立ってて。 言いたいけど言えなくて、我慢の限界。 許可下りたので、活動四周年記念配信で解禁します。]
和馬に解禁するに当たっての条件を伝えると和馬は了承し、SNSに告知を出していた。
重大な情報の解禁という事で和馬のチャンネルのファン達は期待や不安を述べていたが、ナンにせよ記念配信を楽しみにしているようだった。
《独占入手! 親族が明かす、元⚫劇団RIZEの小塚新の本性と現状とは!!》
そんな見出しの記事が出たのは、和馬の四周年記念配信を三日後に控えたタイミングで、書かれた内容はあまりにも獅堂側に都合が良いように出来ていた。
獅堂の話ししか聞かずに書いたのだ、と、すぐに分かるほどに。
『んじゃあ、そろそろ活動四周年記念配信らしい事をしたいと思います。 例の重大発表ね。』
[ドキドキ!]
[おっ。]
[おっ!]
『……なんかいざ言うとなったら緊張するな………。』
[こっちもだよw]
[な、何を言うんだ……!]
『………いきます。 俺、小塚和馬は十年前まで劇団RIZEで在籍、活動していた小塚新の甥であり、養子です。 小塚新は泣き母の弟であり、今なお亡き両親に代わってたった一人で面倒を見てくれている親代わりの人物です。 これ以上、感謝と尊敬の念が絶えない叔父に対する誹謗中傷や沈黙に俺が耐えられなかったので、叔父の許可が得られたので公表します。』
[は!!?]
[え?!!]
[ま?!]
「…………。」
『叔父さんは、公表する事は登録者数が100万人に行ったらって約束だったのに、俺がもう我慢出来そうに無いからって公表する事を許してくれた。 今までも迷惑とか負担かけてると思うけど、本当に俺が望むなら好きな事させてくれて、めちゃくちゃ応援とかサポートしてくれてて。 皆は知らないだろうけどさ、両親が急に死んじゃって、俺達の事もあるから好きだった仕事?辞めて、じいちゃんの介護しながらも仕事と俺達の面倒見ててさ、過労と睡眠不足でぶっ倒れた事があるんだよ。』
「!」
『だから、この活動四年があるのは皆のお陰でもあるけど、叔父さんのサポートがあったからなんだよ。 親族なんて、そんな叔父さんにも叔父さんの周りの人にも迷惑かけて、俺が嫌だって言おうがお構いなしに自分達の望みっつうか都合?ばっか押し付けてくるような連中で、自分達の望み通りにすることしか頭に無いんだなってつくづく思う。 対応してんのは叔父さんと弁護士さんだから、俺が出来るのなんて出来る限り叔父さんに迷惑かけないようにする事くらいだけど。』
[親族って、最近出た週刊誌の話しか?]
[ん?週刊誌記事の話しか?]
[週刊誌記事の話し……?]
『………記事の話をするなら俺には一切取材の連絡来てないし、親族の所に行きたいとも叔父さんの悪口言った事も無い。 てか、マジで親族嫌い。 父方だけどさ、二度と会いたくないし口も聞きたくないんだよ、俺は。 言えないことはマジで多いけど、俺には親族が嘘込で自分達の都合が良いようにしか言ってねえ内容って認識だから、叔父さんや俺に取材しないで何が公正公平だよって思ってる。 許せねえ。』
[また怒ってる……w]
[プライベートで鬱憤が溜まりすぎててw]
[じゃあ、叔父からなんかしてもらえばいいじゃん。]
[叔父が役に立ってない系?]
『叔父さんや俺が何をしてるか知らないくせに、叔父さんが役立たずみたいな事言うとか何様? もしかしてトレンドか何かに入ってて見に来たヤツ? 俺、叔父さんが大好きだから悪く言われんのマジで嫌いだし地雷だから二度と来んな。』
[わ、わぁ……]
[ブチギレwww]
[気に入らないコメントや話題は感情剥き出しにしないで、スルーするしか]
『何年経っても無理。』
[小塚和馬チャンネル 和馬一人の力で四年で登録者数50万人行ってるのは凄い事だよな、と思いましたし、和馬自身がもう我慢の限界で許可しなくても喋りそうな勢いだったので今回許可を出した次第です。 今後とも小塚和馬をよろしくお願い致します。]
[叔父本人おるやないかい!w]
[管理人さんも居た! 管理人さんも四周年おめでとうございます!]
[管理人さんだ〜管理人さんも四周年おめでとうございまーす!]
「………恵まれてるな、俺達は。」
和馬の配信を見ながらそう呟くと、手元に置いていたコップに水を注ぎ、口にした。
『改めて念押しとして言うけど、叔父さんが小塚新だったって言うなって言ったのは、多分、俺が小塚新の甥だっていう事で勝手に小塚新の事が関連付けられて謂れもないことで誹謗中傷されるかもしれなくて、誹謗中傷の辛さみたいなのは叔父さんの方が分かってるからだと思う。 要するに俺を守ろうとしてたからだし、俺もそれは分かってたし叔父さんが嫌な事はしたくなかったから約束通り今まで言わなかっただけで、決して叔父さんから強制されたとかじゃなくて、活動する前に沢山話した結果、そういう決まりにしたんで、叔父さんのせいで黙ってたんじゃないから。 勘違いされたくないし、マジで叔父さんが悪く言われるのは気分悪い。』
「!」
『けど、誹謗中傷なんて小塚新の甥だって言っても言わなくても叩くやつは居るし、実際に今まで小塚新が叔父だって言ってないのに誹謗中傷は言われてるから、今後甥だって言った事で叩くやつは増えるだろうけど、そういう環境というか、状況作ってる一端って説明もしない小塚新のせいでもあると思ってる。 まあ、誹謗中傷するやつが悪いけど。』
[まあ、配信者も芸能人みたいなもんだしなぁ。]
[叩きたいやつは誰でも良かったりしてこじつけたりするから……]
[小塚新への誹謗中傷は退団前からチラホラあったが、露見が退団発表前だったせいで不満が全部小塚新に向いた印象さえあるわ]
「…………。」
『叔父さんに色々事情があるのは分かってるけど、黙ってても調子乗らせるだけだって叔父さんにも分かってる。 俺から見れば、なんなら暴露した方が色々解決するような気さえするくらいには、この状況は最悪。まあ、俺も詳しく言うと叔父さんへの負担増えるから言えないんだけどさ。 少なくとも、無関係の小塚さんまで攻撃する人達とか頭おかしいだろ、マジで。 なんなの?マジで叔父さんに親とか親しい人でも殺されたかなんかした? いや、叔父さんが前科者とかじゃないのは百も承知だけど。』
[言い方ァ!]
[言い方が良くない……!]
[まあ、言いたいことは分かるがw]
『何言おうが俺の叔父兼養父が小塚新って名前で活動してたのは事実で、変わらないし。 名指しはしないけど、その叔父さんの後輩連中の発言もどうなの?人気があれば何を言ったって許されるわけ? どうかしてるよ、起用する側も売り込む側も。 あんな業界?だから叔父さんが活動辞めたんじゃねえの。』
[そこに触れるのは流石にヤバいって]
[大手事務所のタレントだぞ……!]
[そこに言及しちゃうと炎上するて!]
『なんだっけ、被害者有志のアカウント?あの投稿がほぼ事実なんじゃないかって納得するぐらいには、退団直後の叔父さんは本当はボロボロで、両親亡くしたばっかの俺達が心配しないようにって、過労と寝不足でぶっ倒れるまで無理してたぐらいだったんだよ。 そんな状態だったから説明出来なかったのは理解してるし、実はそんな状態だったしここ数年はその頃に比べればめちゃくちゃ安定してるって事は伝えたい。 でも、流石にいきなり何も言わずに辞めてるし不誠実で、叔父さんだってそういうのは嫌なはずなんだよ。 だけど、それさえ言うのを躊躇わせる要素が色々マジであり過ぎる。 足枷の一つには無関係じゃないからあれだけど。』
[ぶ、ぶっ倒れた?!]
[マ?!!]
[倒れるまでボロボロのままって………]
[うわぁ……]
『もし、叔父さんの……小塚新ファンが聞いてたら、真偽の定かじゃない噂を鵜呑にして馬鹿にされてのを見て傷付いてる暇があったら、今の叔父さんはSNS見てるから、ちゃんと今も応援してるし待ってるとか、プラスな事をちゃんと発信しろよ。 叔父さんからの説明待ってるだけじゃなくて、ファン個人の言葉を尽くしてまだファンだってアピールしなきゃ意味が無い。 悪い声の方が目に付くんだから、悪い声以上に発信しなきゃ叔父さんの目に入らないんだよ。 俺ですら検索してなくても悪い声目に入ってんだから、検索してる見てるだろう叔父さんの目に入らない訳が無い。 俺の感想タグとかファンアートタグとかだって叔父さん見てるっぽいし。』
[小塚新が甥のファンアート見てんの?!w]
[保護者がタグの投稿閲覧してんのかいw]
[昔はSNS見たりしてなかったんか?]
『叔父さんが結構飲んで酔った時の話だけど、現役時代?はマジで忙しくてSNS見る余裕無かったらしい。 辞めた後は別の意味で見れなくなって、多分俺が活動始めてから見始めたんじゃねえかな。 SNSアカウント自体は昔から持ってたみたいだけど。』
[つまり、和馬のSNSアカウントのフォローかフォロワー欄に小塚新が居る?]
[和馬のSNSアカウントの最古どれだ?]
[小塚新のなりすましとかのアカウントは居るけど、多分本人は居ないんだよなぁ]
[小塚和馬チャンネル 探すんじゃないよ(少なくとも小塚新名義では無いし、片割れのアカウント同様見つからないと思うが)]
[そうだった、兄貴の方のアカウントも分からん]
[兄貴のアカウントが見つかれば早そうだが………]
[自分の身になって考えろよ、会社とか学校に趣味全開のアカウント知られたくないだろ 小塚新としてじゃなくて、ただの一般人としてSNSやってんだから探すなって]
『兄貴の方はどうでもいいけど、叔父さんだけはあんまり特定して欲しくない。 マジで兄貴のアカウントが特定されんのはどうでもいい。 叔父さんのだけはマジでやめて。簡単に見つからないとは思ってるけどさ。 』
「………心配しなくても、大丈夫だっての。」
和馬の反応にそう呟くと頬杖を付き、和馬の配信が終わるまで見届けた。
「叔父さん! なんで解禁させたの?! 100万人いったらじゃなかったの!?」
「!」
「………週刊誌記事が出た時点で、和馬の堪忍袋の緒が切れるのは時間の問題になった。 和馬本人が改めて言わせてくれって言ってきた以上、俺に止める理由が無くなった。」
「!!」
「それと、弁護士を通じて先方の弁護士から第二弾がある可能性を示唆された。 内容は、親族が甥から聞いた話だそうだ。」
「は? 俺は何にも言ってないし、そもそも連絡は………。」
「……!」
「………第二弾が出る出ないに関わらず、今劇団RIZEの権利を持ってる芸能会社社長に連絡を入れて、活動を再開する意向を伝えるつもりだ。 有志を名乗るSNSアカウントの投稿に加えて、獅堂が記事にして表沙汰にした以上、俺も表に出て対応せざるを得ないからな。」
「…………。」
「お、叔父さん、僕は………!」
「翔真。 前に言ったよな?お前の優しさは、獅堂にとっては都合が良くて、良いことにはならないって。 一週間以内に決めろとも言った。」
「………!」
「俺は、お前にハッキリ獅堂と関わり続けるなと伝えたつもりだった。 でも、お前には伝わってなかったみたいだな。 俺に黙って連絡や会うのを辞めなかった、第二弾が親族が甥から聞いた話という予定だってことは、そういう事だろう?」
「ち、違う! 一回目も、あるのか分からない二回目の記事の事は僕だって知らないんだよ?! た、確かに叔父さんに黙って連絡をしてた事はあるよ? でも、最近、ここ一週間くらいは本当に連絡してなかったんだよ!!」
「………俺は、お前が嘘を言っているとは思っちゃいない。 信じてやりたいとも思う。 でもな、翔真。 一度でも信頼を裏切ったら、取り戻すのは簡単じゃない。」
「!!」
「…………。」
翔真が信頼を裏切ったのは、俺をではない。
血を分けた、双子の片割れである和馬からの信頼を裏切ったのだ。
俺からの信用も裏切ってしまった翔真を、信じてやりたくても信じてやる事は難しい。
それが、どれほど俺にとって負担で、苦痛な事になるのか、翔真に分かって欲しかったのだが、優しさを仇にしている以上はもう今までのような関係のままでいる事は困難だ。
それでも、翔真は「もう獅堂に行くつもりはない」という意思だけは伝えてくれた。
和馬は、その意思を「どうせ今だけで、すぐに気が変わるに決まってる!」と敵意と怒りを剥き出しにして殴りかかろうとした。
殴る事を制し、ショックで泣きそうな顔をしている翔真にはほとぼりが冷めるまで大悟の家に泊まるよう告げた。
大悟の家ではなく俺が居る実家でも良かったが、今の俺も冷静な判断が出来る自信が無かったからだ。
『………はい。』
「ご無沙汰しております、小野塚晃です。」
『………、ようやく連絡をくれたな。 待っていた。』
「………いくつか、確認をしても構いませんか?」
『勿論だ。』
「俺が今いくつもの問題を抱えている事はご推察されているとは思いますが」
『こちらは全面的に協力するし、必要であるならばいくらでもサポートをする。』
「!」
『………本来であれば、そもそも劇団RIZEを巡っては君が槍玉に上がるべきでは無い事なんだ。 彼らや彼らが所属する事務所に対しては何度も通告をしているが……改善する気も、認めるつもりも無いんだろう。』
「…………。」
『私は君も被害者だと認識している。 君はあまりにもしなくてもいい事を押し付けられた。 残念ながら前任の権利者を含め、運営に携わる者達は携わるべきでは無い者達だったとしか言い様が無い。 ただ権利を持っていただけの者、収入源としか見ていなかった者、自慢したいだけの者………あまりにも愛の無い人達で、愛のある者が割りを食う羽目になってしまったのが晩年の劇団RIZEだ。』
「…………。」
『晃くん。 まだ、劇団RIZEは好きか?』
「は?」
『君が見て来た劇団RIZEは、晩年が特に酷かったはずだ。 君自身を苦しめたコンテンツであり、場所でもある。 愛想が尽きていても、それはしょうがない事だと思っているし、嫌いになっていたのだとしても必然的だとも思っている。』
「………確かに、晩年は酷いもんでしたし、散々苦しめられもした。 でも、それは人であってコンテンツや作品じゃない。 だから、劇団RIZEという作品やコンテンツは好きですよ。」
『そうか。』
「………実の所、こうして連絡はしましたがしっかり決心した訳じゃないんですよ。 小塚新は、あまりにも色々なものが絡みついていますしね。」
『それでも、君は私に連絡をした。』
「ええ。 ………いつまでも立ち止まっていたら、そろそろ姉が夢に出て来て背中を蹴飛ばされそうなので。」
『先程も言ったように、こちらは全面的に協力するし、万全の体制でサポートするつもりだ。 小塚新に、もう一度芸能活動をする意思があり、うちを選ぶならという前提になるが。』
「いずれにせよ、俺は小塚新として、もう一度活動をしたいと考えています。 そこまで言って頂けるのであれば、前向きに検討しますが今の仕事の事もあるのでもう少しお時間を下さい。」
電話をした堂島雅信へそう告げ、いくつか確認されてから電話を切り、長く息を吐いた。
「………これで、後戻りは出来なくなったな……。」
そう呟くと後ろを振り返り、背伸びをしてからベッドへと潜り込んだ。
[堂島雅信:長らく待ち望んでいた小塚新本人からご連絡がありました。 お元気そうで何よりです。 近日中には、もう少しお知らせ出来る事が増える予定です。]
[堂島社長マジ?!!]
[まさか、堂島社長に小塚新から直接連絡行ったのか?! お知らせ増えそうって色々期待しちゃうんだが!!]
[おー!小塚新本人がようやく堂島社長に連絡したんか! 期待しちゃいますな………!]
[小塚和馬:俺は、叔父さんから、なぁんも聞いてない。(いつの間に連絡したんだ)]
[小塚和馬(ガチの甥+養子)は小塚新からなんも聞いてないのかいw]
[小塚新の甥(養子)の小塚和馬はなんも聞いてなくて草]
[マジで小塚新は話題に事欠かないからなぁ、良くも悪くも]
職場に早めに行ってSNS画面を確認し、携帯を仕舞ってから深呼吸をし
「大悟。 俺は、小塚新としての活動に戻ろうかと思ってる。」
「………、そう。」
「……悪いな。」
「謝らないでちょうだい! あんな偏った内容の記事が出た時点で、あんたが活動を再開させるだろう事はすぐに想像が付いたわ!」
サラリと大悟に伝えれば、大悟はやや怒っているようにそう言うと、獅堂への文句を並べ、あくまで獅堂に対して怒っているようだったが、長い付き合いなのでそれが強がりであることくらい気が付いていた。
そんな大悟に笑いながら、他の従業員が来るまで開店準備をしながら雑談を続けた。
「「辞める?!」」
「今月いっぱいでな。」
「今月いっぱいって………。」
「もうあんまり日が無いじゃないですか!」
「そういう訳だから、来月からは二人が忙しくなっちゃうかもしれないわ。 勿論、その分お給料は上げるし、求人も出すつもりだけど。」
「忙しくなる事自体は平気ですよ。」
「わ、私も大丈夫です!」
「そう? でも、今まで通りキツくなったりしたらいつでも言ってちょうだいね。」
「……晃さん、ご親族トラブルの対応が難航してるから辞めるんですか?」
「辞めなきゃいけないほど、前に来た人達とのトラブル揉めてるんですか……!?」
「ん? ……まあ、難航してるのは事実だし、辞める理由としては親族トラブル対応の為でも間違いは無い。 ただ、それだけが理由って訳でも無いから安心してくれ。 やりたいことをが見つかって、それをやるには掛け持ちは難しいってだけだからさ。」
他の従業員二人に伝えれば、二人は驚きながらも残念そうにした。
たまに遊びに来て欲しいとも言われたが、それはちょっと難しいとハッキリ伝えた。
役者に、芸能界に戻るつもりだからとまでは流石に言わなかったが。