船長と狙撃手が釣りと狩りで勝負
*船長と狙撃手が釣りと狩りで勝負
「さぁやってまいりました第1129回釣り狩り競争。実況は私ブルック、解説はゾロさんが担当いたします、ヨホホホー!」
「寝る」
「あああ、ノリがわるいので元メジャー係チョッパーさんお願いします」
「えっ、おれか!?」
実況席、というよりはただの小さなテーブル。そこに寝こけた剣士と電伝虫マイクをつかんだ音楽家、そしておどおどと視線を右往左往させている船医がついている。堂々とかかった垂れ幕には、『第1129回(ウソ)釣り狩り競争』とでかでか掛かっていた。
「これは、食料補給がてら競争をやろうと言った釣り師ウソップさんと狩り師ルフィさんが、とってきた獲物の大きさで比べる大会です、はい、歓声」
「い、いえーーい!!」
「おれもアナウンスしてやろうかぁ?」
「フランキーさんはメジャー係なんでそちらに集中してください」
「あうよ、まかせな」
船大工は大きなメジャーを持ちながらからからと笑った。
「そして、サンジさんは食べられるか食べられないかの判定ですよー」
「お前らの腕に晩飯がかかってんだ、しっかりやれよ。ナミさんとロビンちゅわんも記録がんばってぬぇー!」
「ありがと、私はルフィの記録するわ」
「私はウソップのね」
「アッ、わたしのせりふぅ!」
料理人は解体道具やら包丁やらをずらと並べて握りこぶしを作った。航海士と考古学者もやる気満々だ。
「では、両者入場ーー」
「ルフィおれがかつぞー!」
「しし、まけねーぞ!ウソップ!」
船長と狙撃手がわちゃわちゃ言い合いながら仲良く入ってきたところで、音楽家が紙を見ながらルールを説明していく。それをまとめるとこうなる。まず、船長が島に上陸、狙撃手が海に釣糸を垂らしてそれぞれが獲物を捕まえる。それを料理人の元に持ってきて食べられるか判定。食べられるなら船大工のメジャーの方にいき、計測。一時間内なら何度でもとってこれる。そして、一番大きな獲物を最終的にとってきた方が勝ちなのだ。
「勝ったら何か賞品があるのか?」
「賞品はー」
「これでいいだろ」
剣士が何気なくぽいっと放ったそれ。一味の視線がわっと集まった。
「こ、これは」
「お、おれもほしいぞ!」
「おい!ゾロいいのか!ほんとにいいのか!?」
「最高の賞品ではないですか……!」
「前にトラ男が落としてったもんだ、別にいいだろ……何も斬れねぇし」
「いや斬ろうとしたのかよ!」
「記念コイン以外にこんなのも集めてたのね」
「まぁ私たちはいらないけどね。トラ男もとりにこないってことはいらないんでしょ」
「ロマンがねぇなぁ」
「ナミさんこれはレア物だよ。さすがローだな……」
男共が夢中になって、女性陣がしらけた瞳を向けるもの。それは、お土産屋によく売っている、小さな青色のおもちゃの石がついた銀色の龍の剣だった。よくみると、穴が開いた記念コインと共にストラップにされている。なるほどこちらが目当てなのか。けれども取りに行かないということは結局要らないのだろう。剣士いわく1ヶ月は経っているらしいし。
「では、賞品のために!おのが力を使ってください!」
「し、試合開始ィ!」
「がー」
こうして、狩り釣り対決の幕があけたのだった。
ーーーー
「おお、さすがウソップさん、作戦に出ましたね」
「おうよ、ルフィが食える獲物とれない可能性もあるからな!」
狙撃手は力が足りない分頭を使った。小さな魚をつり上げては、料理人の元に持っていく。そして次にそれより大きな魚をつり上げれば、更新するかのように持っていく作戦だ。
「こいつは食えるが稚魚だな。逃がしてやれ。こっちはギンギラサンマ、塩焼きがオツだな。フランキー、はかってくれ」
「あいよ。30センチだ。ロビン、頼むぜぇ」
「任せて」
びらりと貼られた紙。そこにさらさらと30センチと書き加えられた。どんどん更新していくためか、小さめの字だ。狙撃手は更新作戦をとるつもりらしいのでなおさらなのだろう。
「ルフィはたぶん大きいの狙いだな」
「そうでしょうねぇ。ただ島にそんな大きいのがいるんでしょうか?」
「足跡は見た。食えるかは別だけどな」
「あっ、ゾロさんちょいちょいナイスアシスト」
船医が想像で口火をきり、音楽家が追加し、剣士が気まぐれに起きて解説を付け加える。何だかんだで息の合った解説組だ。
「なにー、足跡だって?おれ様も頑張らねぇと」
「ウソップもルフィもがんばれー!」
狙撃手はたんたんと釣りを重ねていく。30センチが40センチになり、1mになり、果てには2メートル越えの大物をつり上げたのだった。
「こっちからうまそうなにおいがする!」
一方で船長は森の中を必死で探した。ずしん、ずしん。どしん、どしん。響く足音に耳を澄ませて、そちらの方に向かうのだ。そして、きらきらと顔を輝かせる。
「あーーっ!!!」
見えた。巨大な影。ゆうに3メートルはあるだろう。これを捕まえたら、勝てるはずだ。わにだろうか。熊だろうか。猪だろうか。美味しいだろうか。ワクワクしながら拳を伸ばした。
「ぎゃーーっ!!!」
その獣の大きな断末魔が、響き渡った。
ーーーー
終了時間5分前。
「おーい!!とってきたぞーー!」
船長の元気な声が響いた。これは獲物をとってきたのだろう。彼らは顔を輝かせながら、狙撃手はドキドキしながら、現れるのを待った。
「え」
「あ」
「は?」
だがその獲物を見たとき、彼らの顔は驚きに一変した。別の、意味で。
「どうだ、間に合ったろ!」
だが、船長はその様子に気づかず胸を張った。一味は顔を見合わせる。料理人が口火を切った。
「あー……ルフィ、そいつ、食えねぇぞ」
「そうなのか!?」
「お前はその事知ってるはずだぜぇ、よーくみてみろ。よーく、な」
船大工が諭すように言うので、船長はん?と首をかしげなから振り向く。
「あ」
最初の一言は、呆けたように。そして、途端に大声をあげた。
「あーーっ!!!トラ男のとこのくまーー!!!」
「おせぇよ!!!」
一味全員にツッコまれた通り。船長がとらえた獲物は、ハートの海賊団航海士のベポだった。はっと気がつき、辺りをキョロキョロ見渡す。はっと息を飲む。
「何すんだよ麦わらいきなり!」
「わりぃわりぃ、腹減っててよ……ってあーー!!」
ピピピピ、と勢いよくタイマーが鳴り響いた。どうやらタイムアップ。船長はあがっと口をあげた。
「ふふん、どうやらおれ様の勝ちのようだな」
「まげだーー」
船長はぐすぐす泣いている。勝負である以上どうしても白黒はつくのだし、仕方ないことなのではあるのだが。その辺り狙撃手は優しかった。
「でも、ま、ルフィのが条件悪かったからな。なぁ、お前身長いくつなんだ?」
「アイアイ、240cmだよ、ちょうど」
「ふふ、あなたが釣ったお魚も240センチメートルだったわね、ウソップ」
「ってことで、引き分け」
狙撃手はきゅっと賞品のおもちゃの刀の鞘を抜いた。
「半分こだ!」
刀はおれがもらうぞ。と付け足してしまえば、勝負にうるさい船長はなにも言わず。
「ししっ、ありがとう!ウソップ!」
むしろパァッと明るい顔になって、それを素直に受け取ろうと手を伸ばした。
「あーっ!!」
だが、刹那。それを見つめたベポの声が、あからさまにひっくり返り、見事に遮ったのだった。
ーーー
「しかたねぇよなー」
「なー」
狙撃手と船長は焼きたての魚を噛みちぎりながらちょっとしょんぼりして海を見ていた。ベポはかき氷を山盛り食べてから安堵の顔を浮かべる。その懐には例のお土産の刀が入っていた。どうやらベポ含むハートの海賊団はそのお土産刀を探すためにあの島にいたらしい。そのうち麦わらの一味が通るだろうことを計算して。
「まぁ詫びにメシ分けてくれるんだろー。今回はそれで納めようぜ。おれたち大人だからな」
「そうそう、大人だからなトラ男とちがって!」
「だよなー、トラ男はまだまだだ!」
そんな少年のような会話をかわす19歳コンビ。
「じゃあいっぱい食うか!」
「おう!サンジおーかーわりー!」
おごりと決まれば、あとは食べるだけと決まっていた。そしてその高い食費に、ローの一味のコックが頭を抱え、キャプテンをお説教したのは、言うまでもない。
<end>
「さぁやってまいりました第1129回釣り狩り競争。実況は私ブルック、解説はゾロさんが担当いたします、ヨホホホー!」
「寝る」
「あああ、ノリがわるいので元メジャー係チョッパーさんお願いします」
「えっ、おれか!?」
実況席、というよりはただの小さなテーブル。そこに寝こけた剣士と電伝虫マイクをつかんだ音楽家、そしておどおどと視線を右往左往させている船医がついている。堂々とかかった垂れ幕には、『第1129回(ウソ)釣り狩り競争』とでかでか掛かっていた。
「これは、食料補給がてら競争をやろうと言った釣り師ウソップさんと狩り師ルフィさんが、とってきた獲物の大きさで比べる大会です、はい、歓声」
「い、いえーーい!!」
「おれもアナウンスしてやろうかぁ?」
「フランキーさんはメジャー係なんでそちらに集中してください」
「あうよ、まかせな」
船大工は大きなメジャーを持ちながらからからと笑った。
「そして、サンジさんは食べられるか食べられないかの判定ですよー」
「お前らの腕に晩飯がかかってんだ、しっかりやれよ。ナミさんとロビンちゅわんも記録がんばってぬぇー!」
「ありがと、私はルフィの記録するわ」
「私はウソップのね」
「アッ、わたしのせりふぅ!」
料理人は解体道具やら包丁やらをずらと並べて握りこぶしを作った。航海士と考古学者もやる気満々だ。
「では、両者入場ーー」
「ルフィおれがかつぞー!」
「しし、まけねーぞ!ウソップ!」
船長と狙撃手がわちゃわちゃ言い合いながら仲良く入ってきたところで、音楽家が紙を見ながらルールを説明していく。それをまとめるとこうなる。まず、船長が島に上陸、狙撃手が海に釣糸を垂らしてそれぞれが獲物を捕まえる。それを料理人の元に持ってきて食べられるか判定。食べられるなら船大工のメジャーの方にいき、計測。一時間内なら何度でもとってこれる。そして、一番大きな獲物を最終的にとってきた方が勝ちなのだ。
「勝ったら何か賞品があるのか?」
「賞品はー」
「これでいいだろ」
剣士が何気なくぽいっと放ったそれ。一味の視線がわっと集まった。
「こ、これは」
「お、おれもほしいぞ!」
「おい!ゾロいいのか!ほんとにいいのか!?」
「最高の賞品ではないですか……!」
「前にトラ男が落としてったもんだ、別にいいだろ……何も斬れねぇし」
「いや斬ろうとしたのかよ!」
「記念コイン以外にこんなのも集めてたのね」
「まぁ私たちはいらないけどね。トラ男もとりにこないってことはいらないんでしょ」
「ロマンがねぇなぁ」
「ナミさんこれはレア物だよ。さすがローだな……」
男共が夢中になって、女性陣がしらけた瞳を向けるもの。それは、お土産屋によく売っている、小さな青色のおもちゃの石がついた銀色の龍の剣だった。よくみると、穴が開いた記念コインと共にストラップにされている。なるほどこちらが目当てなのか。けれども取りに行かないということは結局要らないのだろう。剣士いわく1ヶ月は経っているらしいし。
「では、賞品のために!おのが力を使ってください!」
「し、試合開始ィ!」
「がー」
こうして、狩り釣り対決の幕があけたのだった。
ーーーー
「おお、さすがウソップさん、作戦に出ましたね」
「おうよ、ルフィが食える獲物とれない可能性もあるからな!」
狙撃手は力が足りない分頭を使った。小さな魚をつり上げては、料理人の元に持っていく。そして次にそれより大きな魚をつり上げれば、更新するかのように持っていく作戦だ。
「こいつは食えるが稚魚だな。逃がしてやれ。こっちはギンギラサンマ、塩焼きがオツだな。フランキー、はかってくれ」
「あいよ。30センチだ。ロビン、頼むぜぇ」
「任せて」
びらりと貼られた紙。そこにさらさらと30センチと書き加えられた。どんどん更新していくためか、小さめの字だ。狙撃手は更新作戦をとるつもりらしいのでなおさらなのだろう。
「ルフィはたぶん大きいの狙いだな」
「そうでしょうねぇ。ただ島にそんな大きいのがいるんでしょうか?」
「足跡は見た。食えるかは別だけどな」
「あっ、ゾロさんちょいちょいナイスアシスト」
船医が想像で口火をきり、音楽家が追加し、剣士が気まぐれに起きて解説を付け加える。何だかんだで息の合った解説組だ。
「なにー、足跡だって?おれ様も頑張らねぇと」
「ウソップもルフィもがんばれー!」
狙撃手はたんたんと釣りを重ねていく。30センチが40センチになり、1mになり、果てには2メートル越えの大物をつり上げたのだった。
「こっちからうまそうなにおいがする!」
一方で船長は森の中を必死で探した。ずしん、ずしん。どしん、どしん。響く足音に耳を澄ませて、そちらの方に向かうのだ。そして、きらきらと顔を輝かせる。
「あーーっ!!!」
見えた。巨大な影。ゆうに3メートルはあるだろう。これを捕まえたら、勝てるはずだ。わにだろうか。熊だろうか。猪だろうか。美味しいだろうか。ワクワクしながら拳を伸ばした。
「ぎゃーーっ!!!」
その獣の大きな断末魔が、響き渡った。
ーーーー
終了時間5分前。
「おーい!!とってきたぞーー!」
船長の元気な声が響いた。これは獲物をとってきたのだろう。彼らは顔を輝かせながら、狙撃手はドキドキしながら、現れるのを待った。
「え」
「あ」
「は?」
だがその獲物を見たとき、彼らの顔は驚きに一変した。別の、意味で。
「どうだ、間に合ったろ!」
だが、船長はその様子に気づかず胸を張った。一味は顔を見合わせる。料理人が口火を切った。
「あー……ルフィ、そいつ、食えねぇぞ」
「そうなのか!?」
「お前はその事知ってるはずだぜぇ、よーくみてみろ。よーく、な」
船大工が諭すように言うので、船長はん?と首をかしげなから振り向く。
「あ」
最初の一言は、呆けたように。そして、途端に大声をあげた。
「あーーっ!!!トラ男のとこのくまーー!!!」
「おせぇよ!!!」
一味全員にツッコまれた通り。船長がとらえた獲物は、ハートの海賊団航海士のベポだった。はっと気がつき、辺りをキョロキョロ見渡す。はっと息を飲む。
「何すんだよ麦わらいきなり!」
「わりぃわりぃ、腹減っててよ……ってあーー!!」
ピピピピ、と勢いよくタイマーが鳴り響いた。どうやらタイムアップ。船長はあがっと口をあげた。
「ふふん、どうやらおれ様の勝ちのようだな」
「まげだーー」
船長はぐすぐす泣いている。勝負である以上どうしても白黒はつくのだし、仕方ないことなのではあるのだが。その辺り狙撃手は優しかった。
「でも、ま、ルフィのが条件悪かったからな。なぁ、お前身長いくつなんだ?」
「アイアイ、240cmだよ、ちょうど」
「ふふ、あなたが釣ったお魚も240センチメートルだったわね、ウソップ」
「ってことで、引き分け」
狙撃手はきゅっと賞品のおもちゃの刀の鞘を抜いた。
「半分こだ!」
刀はおれがもらうぞ。と付け足してしまえば、勝負にうるさい船長はなにも言わず。
「ししっ、ありがとう!ウソップ!」
むしろパァッと明るい顔になって、それを素直に受け取ろうと手を伸ばした。
「あーっ!!」
だが、刹那。それを見つめたベポの声が、あからさまにひっくり返り、見事に遮ったのだった。
ーーー
「しかたねぇよなー」
「なー」
狙撃手と船長は焼きたての魚を噛みちぎりながらちょっとしょんぼりして海を見ていた。ベポはかき氷を山盛り食べてから安堵の顔を浮かべる。その懐には例のお土産の刀が入っていた。どうやらベポ含むハートの海賊団はそのお土産刀を探すためにあの島にいたらしい。そのうち麦わらの一味が通るだろうことを計算して。
「まぁ詫びにメシ分けてくれるんだろー。今回はそれで納めようぜ。おれたち大人だからな」
「そうそう、大人だからなトラ男とちがって!」
「だよなー、トラ男はまだまだだ!」
そんな少年のような会話をかわす19歳コンビ。
「じゃあいっぱい食うか!」
「おう!サンジおーかーわりー!」
おごりと決まれば、あとは食べるだけと決まっていた。そしてその高い食費に、ローの一味のコックが頭を抱え、キャプテンをお説教したのは、言うまでもない。
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