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*麦わらの一味全員がサニー号で食事中に海軍が襲撃してくるお話

*麦わらの一味全員がサニー号で食事中に海軍が襲撃してくるお話

今日の夕食はいっとう豪勢だった。彼いわく、3日間続く収穫祭というお祭りが前の島にあったらしい。

「収穫祭ってのは、作物が無事にたくさんとれたことに感謝する日なんだそうだ」

日々自分達を生かしてくれている食べ物がたくさんとれたことに感謝するのは当然だと料理人は考えている。なので、島にならって夕食だけでも収穫祭をしたいと考えたそうだ。島ではカボチャ比べやら豚競争やらしたらしいがそんなことはできないので、代わりにこの船でとれた海獣や魚、前の島で収穫された野菜や果物をふんだんに使って、おいしい料理を作りすべて平らげて宴で祝おうではないか、と。料理人がそのレシピを仕入れてきたらしくこう言ったのだ。そんなアイデアを披露されれば、麦わらの一味もやる気になるしかなかった。

「いやーでも、これはすげぇなサンジ!パイの山じゃねぇか」

狙撃手は喜び歓声をあげた。今日は甲板に大きなテーブルを出して、ずらとたくさん料理を並べた。まず、香ばしい匂いの焼きたてのパイ。ほくほくのカボチャを甘くしたパンプキンパイ、スパイシーなひき肉がぎっしりのミートパイ、網目ですらパリパリと美味しそうなアップルパイ、ふるふるのジェリーが宝石のようなベリーパイなど、数えきれないくらいおいてある。

「もちろん、パイだけじゃねぇぞ」

「あら、たくさんお野菜もあるのね」

「もちろん!レディたちに欠かせない美の要素さぁ!」

「いいじゃない」

野菜ももちろん充実している。マッシュポテトは見た目で滑らかさがわかるくらい白くて美しい。生野菜のバーニャカウダはソースにアンチョビが使われていてコクがあり、いくらでも食べられる仕上がりになっている。キノコはジューシーな旨味を閉じ込めたホイル焼きにされ、狙撃手はビクビクと怯えていたが、最近はちょっと食べられるようになったと小さく胸を張っていた。

「ヨホホ、サブメニューもたくさん!」

「デザートもいっぱいあるぞ……おで、幸せだ」

「スウパーな、バーガーもあるな」

サブメニューは、先程紹介したさくさくのパイはもちろん生クリームやフルーツをたっぷり使った鮮やかなタルトにケーキやヨーグルトムース、ゼリーなどのデザートが目をひく。もちろん、主食も充実していた。船大工の好物である多種多様なバーガー。音楽家の好物である、トンカツ唐揚げチーズなどからトッピングを自在に選べるセルフカレーなどもテーブルに並べてあった。

「すっげーーー!!でっけぇ肉だーー!」

「こりゃ酒にも合いそうだ」

メインは肉好きと飲兵衛が唸る品。巨大な海獣の肉はじっくりとオーブンで焼かれ、こんがりつやつやとしていた。料理人いわく、

「収穫祭には七面鳥を使うらしいが、鶏のような巨大な海獣の肉がとれたからこちらにした」

とのこと。肉の中には詰め物が入っている。今回は香草と野菜のピラフを詰めたらしい。肉汁を吸ったピラフはまた格別においしいし、野菜たちの旨味も肉に染み込むのでこれまたおいしいのだ。一流コックは火の通りにもしっかり配慮して、中はしっとり外はぱりぱりの絶妙な焼き加減に仕上げてあるらしい。このくらいまで料理人が説明すると、一味のほとんどが唾液をのんで、はやくはやくと急かし始めた。

「じゃあ手を合わせて」

今回は立食パーティなので、立ったまま両手を合わせる。しっかりとおいしい食べ物たちに心の中で感謝を捧げながら、

「いただきまーす!!」

と大きな声に出した。そのあとは、楽しい食事の開始だ。めいめい好きなものを手にとって……。

「待て、サンジ」

だが、静かな声が全てを遮った。船長だ。さっきまで肉やらおいしいに違いない食事に興奮していたのがウソのよう。何人かの一味はびっくりしたが、すぐに理由は知れた。料理人の瞳が、赤い。狙撃手ははっと慌ててゴーグルで辺りを見渡した。

「あっ、海軍だ!!」

「えぇ!!?」

海軍船が前方から一隻こちらに接近してきていた。しかも拡声電伝虫をひっつけて、口をぱくぱくと動かして、どいつもこいつも下卑た笑みを浮かべているのだ。

「やっとこちらを見たか、麦わらの一味!」

「夕飯中とは優雅だな、台無しにしてやる」

「それにどうせ………だ」

「ぎゃはは、ちがいねぇ!」

先程の……は、海風にかき消されてほとんどの一味には聞こえなかった。ゲラゲラと笑い声が響いてくるだけ。料理人はそれを耳にしたようだ。ふうっと煙草を燻らせる。

「来ねぇならほっとこうとおもったが……これ以上近づいたら射程距離。ディナーが崩れちまうからおれがいく」

「ダメだ、今日はおれ一人でいく」

ごとりと皿をおいて、船長はひょいと立ち上がった。サニー号のヘッドに向かい、きっと眼前を鋭くにらんだ。その表情を見た料理人はポリポリと頬をかく。

「任せとけよアホコック」

好戦的な剣士も珍しくそう呻いてジョッキを置いた。どうやら彼にも聞こえたらしい。

「……るせぇな、わかってるよ」

ならば料理人はそこで諦めた。船長命令は止められないのだ。しかも、あんな顔した船長の言ならなおさらだ。

「サニーは近づけるか?キャプテン」

「いい。ここにいろ。メシが台無しになる」

「了解だ」

問いかけた船大工にそう答えると、ぱくり、と船長は親指をくわえる。

「ちょっと、何がどういうこと?」

「ルフィがいったあとで説明してあげるわ。ね、ウソップ」

「……おう」

「お、お?」

「説明はあと」

考古学者と狙撃手の顔は渋い。訳がわかっていない二人に宥めるように言って、音楽家はそっと指差した。指をぱくりとくわえる。船長の体が覇気に膨れる。

「船長の、御出陣ですよ」

見守る。体をばうん、ばうんと跳ねさせるその形は。

「ギア4!バウンドマン!!」

初めから明らかな全開だ。ぐっと足を絞り飛び立てば、あっという間に、影と消えた。はぁぁ、と料理人がため息をつく。

「バカだなほんとあいつら」

「あぁ、そこは同感だ」

剣士が遠くなっていく影を目で追いながら料理人の言葉に同意する。すたん、とやがて船長は敵の甲板に到着するだろう。

「で、なにがあったの?」

「船長の食事を」

「最悪な形で邪魔しやがったのさ」

こういうときだけ、二人は息の合った回答を見せる。真似すんな、との小声つきで。

「ど、どういうことだ?」

「サンジの飯を、バカにしたんだ」

「え?」

狙撃手の歯を食い縛るような声に船医は息を飲んだ。料理人はぱくりと煙草をくわえる。

「あのね」

考古学者が料理人を横目をしながら遠慮がちに声を出した。

「あぁ、いいよロビンちゃん。あいつらはなーー」

「『部下の作った豚の餌を楽しんでやがる』ってよ」

「しかも胸くそ悪いことに、『海賊が作った美味くもないメシなんぞ今すぐ大砲でぐしゃぐしゃにしてやる』って言ったんですよ」

さらっと口火を切ろうとした料理人の説明を遮ったのは船大工と音楽家だった。

「おれたちは微塵も思っちゃねぇぞ、わかってると思うが」

「サンジさんがそんなこと復唱しなくていいです」

「……男に気遣いされても嬉しかねぇが、ありがとよ」

さらっとため息混じりに言って、ちらと船医を見やる。船医は口許をぐしゃぐしゃにしていた。感情が高ぶったのが、あからさま。

「ひどいぞそんな!サンジのご飯はすごくおいしいんだ」

「……わかってるさ、だから」

料理人は、泣きそうな船医の頭にぽんと手を置いてやりながら、柔らかく言った。

「あいつがあれだけ、キレてんだ」

拳の音が、遠くで聞こえる。拳の影がありありと見える。空から隕石のごとく繰り返し振り落とされる黒拳。

「おれの仲間をバカにして!!」

悲鳴なんて、構わない。許して悪かった、なんて命乞い、もう応じない。

「笑うやつは、許さねぇ!!」

砕く。砕く。甲板ごと、敵を。悲鳴はあっという間にやんでいき、代わりに拳の轟音に変わるだけ。バチンと言う音と共にそれがやんでしまうと、あれだけ下卑た声を出していた船は分殺か秒殺か。あっという間に静かになった。ごろごろと敵の気絶体が転がるだけの、海軍船。

「ふ、ふべべ!!」

全部片付けたあとは、用がなくなった空気が抜けて、サニーへとまっすぐ飛んでいく。

「ふべ」

「たく」

「ディナーに当たるだろ」

その手をつかんだのが剣士、足をつかんだのが料理人だった。ビョン、とだらしなくなった体
がテーブルの目の前で跳ねる。剣士が先に手を放し、料理人がひょいと器用に彼をたたせた。

「……ありがとう、船長」

そんな礼の言葉をさらっとねじ込めば、

「しし、いいよ!当然だからな!」

船長はすっかり機嫌を直していつものように笑った。一味は安堵したようにうなずく。

「よーし!メシ再開だ!」

「おーう!」

そうなればあとは、感謝祭の続き。食べて飲んで騒ぐだけの、賑やかな宴が始まるのだった。

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