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大人組と船番するコック

*大人組と船番するコック(ほのぼの)

「珍しいな。ロビンちゃんとフランキーとブルックがいっぺんに残るなんて」

「この島の調査は昨日終わったの」

「私は今日は船でのーんびりしたいのでルフィさんにかわっていただきました!」

「おれァ昨日ルフィが寝ぼけて体当たりしてヒビはいったマストを直すんだ。8割方終わったぜぇ」

午前。ちょっとした買い出しを終えてきた料理人は今から船番だ。甲板には芝生でバイオリンの手入れをする音楽家と、とんかんとトンカチを振るう船大工、そして、ブランコのそばで読書する考古学者がいた。彼らは悠々自適、おのおのまったりと自分の時間を過ごしているようだ。

「じゃあ今日は4人分だな。ロビンちゃんはお昼何がいいー?」

「私は、そうね、そんなに重くないものがいいわ」

考古学者は少しだけ本から顔をあげてにこりと笑った。料理人はそれを見て目をハートにする。

「重くないもの!わっかりました!じゃあお前ら、重くないものでリクを5秒であげろ」

「こっちはえらい雑だな」

「はいはい!サンジさん!わたしたこ焼きが食べたいです!!」

音楽家は手をあげながらアピールした。料理人と船大工は思わず顔を見合わせる。

「おう、最年長。まさかの提案だな。昼からたこ焼きとは」

「いいじゃねぇの。たこ焼き機はこの間さらにでっかく直してやったし、数変えりゃ重くはねぇだろ」

船大工は音楽家の案に乗り気のようだ。考古学者に料理人は確認をとろうとしたが、どうやら読書に勤しんでいる、らしい。

「……じゃあ今日の昼飯はたこ焼きパーティにしねぇか?お前焼きてぇって顔してるぞ、ブルック」

「ヨホホ、表情筋ないですけどバレました?」

「あー、バレバレだ。今日はみんなで焼こう。どうせ4人だし。タコ以外も焼いちまおうぜ」

「えっ、タコ以外も!?」

「ついでにな」

料理人はにっと笑って、準備してくるとキッチンに戻っていった。料理人の言葉を聞いた音楽家と考古学者を見た船大工はにやと笑う。

「あいつは相変わらず配慮がすげぇなァ」

「えぇ。さらっとあまりたこ焼きを食べたことのない私に貴重な経験を、と」

音楽家は嬉しそうに顔を緩ませていた。そして、視線がゆっくりと考古学者の方に。

「……まぁそこまで心配すんなよ。おれも焼いたことねぇから」

「ヨホホ、お優しい」

二人の会話を聞きながら、考古学者は、読書をしていた。いつもの通り、静かに。ただ、内容がよほど面白く続きが気になるのか、はたまた。そわそわした様子が、少しだけ表情に浮かんでいる。

「初めてのたこ焼きパーティ!!」

「楽しみだなァ」

「……えぇ」

ぽそりと小声で囁かれた言葉には、仲間たちは気づかないふりをしてやった。

ーーーー

しゅうっとタネが鉄板に入る小気味いい音がする。タコ以外の具材はテーブルにずらと並び、ちらちらと仲間たちはそれを眺めていた。

「タコにチーズに焼いた鶏肉にウインナーにもちに海老にいかに……まだいる?」

「十分じゃないかしら」

「美味しそうですーー!!」

「まぁ好きなもん作れってことだろ。で、一流コック。丸めかたを教えてくれや」

「そう急かすなクソ一流船大工め。ほら」

料理人はめいめいにピックを渡し腕捲りした。最初はいくつかやってみせると言うようにタコをつまみ、ぱらぱらと10つくらいの生地の上にのせる。紅生姜やら長ネギやら天かすやらもいれてから、生地を溢れさせんばかりに注ぎ込む。

「この周りの生地わかるか?」

「えぇ」

「これを巻き込むようにして」

かりかりとひだのような周りを巻き込みながら、くるん。綺麗な丸だ。巻き込み、また、くるん。くるん。どんどんできていく。

「これで少し待ってカリッとさせたら完成」

10こ丸めたらピタッと止めて、しばらく待つと、こんがりきつね色に焼けたタコ入りから取り出される。今回は、スタンダードに、と呟きながら。竹の葉の船の中にいれて、ソースをかけて、青のりを振って、鰹節を踊らせて。ほくほくと湯気をたたえて。あぁ、見るからに美味しそうだ。

「出来上がりは、食べての通り」

まずは冷めないうちに、とタコ入りのものをさして小皿に分けると、いただきますのあとで、めいめい口にいれていく。ほふほふ、はふはふ。湯気を立てながら、あるものは一口で、またあるものは半分に割って。

「んん!」

「おい」

「ひ」

「な」

かりっとした生地の中からとろりと出汁や素材の旨味が溢れ出す。ぷりぷりのタコは大振りで、噛み締めると甘辛いソースとよくあって美味しい。青のりやマヨネーズ、そして踊るように揺れる鰹節がそれをしっかりと引き立てていた。

「さ、やってみて」

満足げに息ついたあと、料理人は生地を入れながら鉄板を指した。好きな具材で、ということらしい。船大工たちは顔を見合わせた。

「どの具材がやりやすいとかあるの?」

「特にないかな。どれも同じくらいにきってあるし」

「じゃあ」

それぞれめいめいに具材をとる。音楽家はチーズを、考古学者は鶏肉を、そして船大工はウインナーを手に取った。ぱらぱらと生地にいれれば、料理人が天かすやらネギやら、追加の生地やらを足してくれる。

「よし、そろそろいいぞ」

生地に恐る恐るピック持つ手を伸ばした。いつもは冷静な考古学者ですらドキドキが顔に見えている。

「大丈夫、気楽に楽しんで」

料理人がにこにこしながら声をかけるも、えぇ、と小さな声で返事があるだけ。ゆっくりとひだの部分に先が伸びる。こそげながら、鉄と生地の間に鉄の串を差し込んで。

「おっ」

「あ」

「あっ……」

3人の反応も状況もまさに三者三様だった。一番うまくいったのは船大工だ。くるんと美しい球が出来上がっている。音楽家はコントロールを誤ったのか、チーズが生地と脱走してとろけてしまった。考古学者は、中身こそ出さなかったが、まだ少し柔らかくて、表面は凸凹していた。

「あー、ブルックは慌てすぎだ。もっとゆっくり。あと、その溢れた生地もこう、丸めちまえばいい」

「なるほど」

それを見た料理人はそっとアドバイスをつけ加えていく。まず音楽家には、串でそっとコツを示しながら。

「ロビンちゅわんは大丈夫だよほーー!焼いていればこんがりきれいになるからぬえー!」

「よかった」

料理人がメロメロしながらいうと、考古学者はほうと安堵の顔になった。

「フランキーは言うことなしだな。やったことあんのか?」

「そりゃおめぇ、一流船大工は球体をきれいに作れるんだぜぇ」

「そんなもんか」

「そんなもんよ」

船大工は握りこぶしを作りながらいった。料理人はそうか、とふっと笑う。

「ヨホホ、練習あるのみですね!」

「今度はもう少し上手にやるわ」

音楽家と考古学者も船大工の腕に煽られたのかヤル気満々で料理人のアドバイスを参考に他のものも返していく。船大工もさらにやる気が出たのが、くるくると残りも器用に返していく。そして、終わる頃には、完璧なたこ焼きがじゅうじゅうと音を立てて鉄板に残っていたのである。

「さ、食べよう。ソースとか今度は自由にしたらいいからな」

料理人がひょいと6つほど区切りがついた皿を置いた。ソースは甘口と辛口、岩塩にボン酢に普通のだけでなく明太マヨネーズもあり、しまいには出汁。薬味はねぎに鰹節に青のりなどを工夫して、好きにかけて食べていいのだった。
ならばとまず音楽家は甘口ソースをたっぷりと、考古学者はねぎとポン酢を、船大工は岩塩をとってみる。

「サンジにはわたしが焼いたのをあげるわ」

「えっ、ほんとぉー!!?」

「フランキーとブルックも、あとで食べてね」

「アウ、おめぇらもおれの焼いたのも食えよ」

「当然!パーティーですからねー!」

なんだかんだで、6つの区切りはあっという間にうまり、料理人はまず考古学者が焼いたものを出汁につけて食べることになった。ここからは、めいめいだ。とうにいただきますはすんでいる。串にさして、その鰹節やら青のりやら踊る表面を、ふーっ、ふーっ。かり、はふり、ほふり。とろり。ここまでは、ほぼ一緒。

「ヨホホ、チーズと濃厚ソースがよく合いますーー!」

「ポン酢、さっぱりして美味しいわ」

「アウ、岩塩も素材の味が引き立ってスーパーだぜ!」

「出汁もいいな。柔らかな部分とカリカリが絶妙だしロビンちゅわんの愛情を感じるぜ………!!」

感想は、皆バラバラだった。調味料や具材が違うからである。ただ、共通することと言えば、おいしさに顔が緩んでいるということだけ。自分が焼いたものも仲間が焼いたものも、食べて、食べて、繰り返し食べれば。あっという間になくなった。

「よし、じゃんじゃん焼くぞ!」

「ロビンちゃん、お腹の方は」

「まだ食べられるわ」

「なら焼きましょー!ドンドン♪ドンドン♪」

そうすれば丸めるのに慣れて楽しくなってきた3人とそんな様子を一緒に楽しんでいる料理人。彼らは焼いては食べて、時々一人が歌って、焼いては食べて、楽しいたこ焼きパーティーをお腹一杯になるまで続けたのだった。

ーーーーー

「いやぁ、食べたな」

「おなかいっぱいですー」

料理人がかちゃかちゃと食器や鉄板を片付け始めると、音楽家も洗い物を手伝い始めた。結局彼らは4人で数えきれないほどのたこ焼きを平らげた。数えるのは100きた辺りでやめてしまったけれど。

「満足したか?ロビン」

船大工が床を拭きながら問う。考古学者は、テーブルをふきながら、ゆっくりと微笑んだ。

「えぇ、美味しかったしたのしかったわ」

彼女は今まで体験したことのないことに満足していた。

「また、やりたい」

ぽつりと、思わず自分の望み、すなわちおねだりを溢してしまうくらいに。

「……もちろん」

「今度は」

「9人全員でな」

にっと満足げに笑った料理人。音楽家と船大工も頷く。彼らの意見はみんな同じだった。4人でこれだけ楽しいのに、9人全員だったら。あぁ、もっともっと、楽しいに違いない。

「えぇ」

考古学者も、くすりと笑った。きっと、近日中には、具材も生地も倍のたこ焼き大会が行われるだろうことを。そしてそこで自慢げに丸め方を教える、自分達の姿があるだろうことを。楽しくてたまらない最高の予定を、想像しながら。

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