小人族サイズになった料理人のお話
*小人族サイズになった料理人の話
「まったくよぉ、どうすんだこれ」
「ルフィ、また妙なもん食わしたのか?」
「今回はおれじゃねぇぞ!失敬だなお前!」
「今回は私よ、ごめんなさい」
「エエエ!!?」
15時。騒がしい、甲板。そこに加わっていないのは、出掛けている音楽家に航海士に剣士くらいだ。そして、騒ぎの中心でひょいひょいと跳ねている、手のひらサイズの、なにか。虫か?いやいやそれにしては大きい。ぬいぐるみか?いやいや動くなんてありえない。よく見ると、ぐるぐる眉毛でスーツを着ている。そこで、わかる。
「コラ!ロビンちゃんに文句言うな!」
「いやお前被害者だろ!」
「サンジは優しいわね。手のひらにのって」
「んなっ!ぜひっ!」
くねくねと考古学者の手のひらで踊る、小さな小さな料理人。彼はまさしく黒足のサンジだ。ただ、あるものによって、小さくなっているだけであって。
「『新型スモールビスケット。服ごと記憶をそのままに、小人サイズに縮めます。時間は一枚につき1時間。そうするともとに戻ります』だって」
船医が袋を取り上げ小さく小さく折り畳まれて入っていた説明を読み漁る。まだ袋にはビスケットが1枚残っていた。船大工はそれを聞きながら顔をしかめる。
「おめェどこで買ってきたんだ」
「配ってたのよ。私が食べる予定だったけど、サンジが一枚毒味してくれるって言うから」
「ロビンちゃんにあぶねぇものを食わせるわけにゃいかねぇからな!」
「ビスケット……じゅる、うまかったか?」
「そうだな。歯触りはいいが、甘さがたりねぇ……っておいこらルフィ。食うのはやめとけ。ウソップのツッコミが大変だろうが」
「オイ」
今にもビスケットを口に運ぼうとする船長に、料理人は呆れ、狙撃手は手を出して止めた。ビスケットはまた余興にでも使おうと船大工によって没収されたのだが。
「にしても参ったな、おやつの時間なんだが」
「なにー!!おやつ!?」
「今日のおやつはなんだ?サンジ!甘いのか?」
「あぁ。運が良くか悪くか盛り付けやすいバナナチョコパイだよ。そろそろあら熱もとれたはず」
ひょい、と料理人は考古学者の手のひらから飛び降りた。一回転して、着地。ととと、と小さな足音を立ててキッチンの方に向かう。仲間たちは思わずそれについて行く。
「クソ、キッチンが遠いな」
「いや、サンジすげぇな」
「器用だぞ」
自分より大きなトングをつかんで、皿にバナナチョコパイを一生懸命盛り付ける。考古学者に手のひらを出してもらい、冷蔵庫の暗証番号をカチカチ。バニラアイスを出して、大きなスプーンで盛り付け。ホイップは両腕で袋を抱えて絞りだし、ミントを両手でちぎって頭の上にもちあげ、またととと、とテーブルを走る。ポットはそうっと足でも持ち上げて紅茶をいれようとしたが、そこまではいいと狙撃手にあわててぶんどられた。そうするといつもよりちょっと時間はかかったものの、ほかほかバナナチョコパイのバニラアイスのせが紅茶と共に、テーブルに6つ並んだ。
「あれ、サンジの小さいな」
「そりゃ、そんなに食ったらこの体じゃ腹一杯になるからよ、てかフランキーお前、いつの間にこんなの作った」
「そりゃおめぇ、こんなのはなにも見ずに作れるぜぇ」
ただ、狙撃手指摘の通り、料理人のサイズは船大工が手伝い切り取られて10分の1スケールほどに小さかった。しかも、ナイフとフォークにティーカップ、お皿まで小さい。首元に巻くナプキンまで抜かりない。
「いただきまーす!」
15時10分。ゆったりといただきますが皮切りになった。サクサクの生地から溢れ出す甘味とほろ苦さがたまらないバナナチョコパイ。熱々のものを冷たいバニラアイスや甘さ控えめホイップクリームと絡めればえもいわれぬ。ことさらに紅茶がよく合ってたまらない。
「サンジ、おいしい?」
「はい!いつも通りのできでふ!」
「あっ、ロビンのかわいいセンサーに引っ掛かったか」
「この小さいは想定外だけど、かわいいわ」
「ふべべ、ろびんちゃんいたいよう。でもうれじい」
人差し指で小さくなった料理人の頬をふにふにとつつく考古学者はどこか嬉しそうだ。もちろんレディに構ってもらえる料理人も嬉しそうだったが。
「サンジー、おかわりー」
「おれも食べたいぞ」
「待ってろ、ちょっと大変なんだぜ?そこの距離が全力疾走だ。アイスは?」
「いるー!」
「おれもー!」
「アウ、手伝ってやるよ」
「お、こりゃ快適だ。ありがとよ」
また走り出そうとする料理人を見かねて船大工がひょいっと手を差し出した。料理人はちょこんと胡座をかいて冷凍庫まで運ばれていく。ぴょんぴょんと暗証番号を押してアイスを出して。またアップルパイを切り分けて、その皿は船大工が料理人ごと運んでくれた。
「なんだかんだでもうこんなにたったわ」
考古学者は時計を見た。15時52分。残り8分でもうこの小さいタイムは終わりだ。
「いつも通り終わりそうで何よりだな」
「ウソップ、お前そういうの何て言うか知ってるか……」
「フラグっていうんだぞ!おれロビンに教えてもらったんだ!」
「ハハハ、ソンナバカナ」
「キャーッ!!!」
甲板から甲高い悲鳴がした。一味は顔を見合わせる。
「この声!」
船長がとびだし、狙撃手と考古学者が慌てて続く。料理人も当然気づいていた。この悲鳴の主は。
「ナミさん!!!」
「まてまてのせていってやるよ」
船大工はひょいと料理人を摘まんだ。そっと彼を懐に隠して。彼は文句を言いそうになったが、開け放たれた扉から見えた状況を見てスッと動きを止め、彼の懐に潜り込んだ。ニヤリと笑い、彼ははしごのふたを開けた。
「おっと、うごくなよ」
「ナミ!」
「こいつを覇気の腕で絞め殺すぞ!」
事態は深刻だ。見知らぬ男が航海士を覇気の腕で羽交い締めにして、拘束している。
「くそっ、ナミをはなせ!ゴムゴムの」
「ダメよルフィ!」
「あぁ、もちろんおれが女の首を絞める方が早いぞ」
「ううっ」
航海士は苦しそうな声をあげた。船長は歯を食い縛るが、はっと息をのむ。
「わかったら他の仲間もつれてこい!!黒足とサイボーグを……」
「おれならここだ」
船大工はキッチンの扉から姿を見せた。敵の視線がそちらを向く。だからか、気づかない。きらりと空から輝いた光に。
「ナミさんをっ」
「あ?」
「放しやがれぇ!!」
「へぶうっ」
突き刺さった、小さな蹴り。鼻をへし折らんばかりのそれは、腕を緩ますのにぴったりだった。
「え」
「逃げてナミさん!!」
戸惑う航海士を、小さな料理人は敵の顔面で急かして押し出す。だが、はっと気づいた。
「いてぇじゃ、ねぇか」
「ぐ、は」
敵の大きな手のひらが、わしりと彼を鷲掴む。航海士は状況が飲み込めないまま顔を焦らせた。
「サンジ君!」
「ナミ!こっちだ!」
「でもっ」
船長に引き寄せられるも、航海士の顔は困惑していた。
「黒足が小さくなったなんて、知らなかったな」
「っ、うぁ」
じたばたともがくが、肩口から下をぎゅっと押さえられ、固い指先を悪戯に背中に押し込まれる。
「人質がお前に変わっただけだぞ?いいのか?」
「……あぁ、このまま、ならな……っ」
ふう、ふうと息をつき喘ぎながら、ちらと仲間の方を見る。だが、こちらを見ろと言わんばかりに、喉仏を強い力で撫でられる。
「ん、っ」
「虚勢が、どこまで続くかな?」
「あと、5秒よ」
考古学者が、ポツリといった。船長は、にぃと笑う。仲間たちは、焦っていなかった。というより、確信していたのだ。船大工が、料理人を危険にさらすような作戦に、そうそううって出るわけないと。
「あ?」
男は気づいた。力を抜いた小さな黒足が、ゆっくりと大きくなっていることに。
「フランキー……30びょうじゃ、ねぇのかよ」
「あとで砥石出してやるから勘弁しろよ」
「な」
めきり、めきりと男の指が跳ね返されていく。ふわり、と影がとんだ。今度は大きな黒い影が、バク転して、すたんと着地した。
「どこがいい」
「な……」
「首だな」
ぶわりと火の粉が散る。ガードを容易くすり抜けて、突き刺さる。首に。いつもの黒足が。
「悪魔風……」
「が」
「首肉、ストライク!!!」
吹き飛ばし、えぐりとった。敵の首を。
「ナミさんの麗しい白いお肌に汚ならしいあとがついたらどうすんだ」
自身のネクタイを緩めながら、料理人は吐き捨てた。
「このクソ野郎が」
ーーーー
「そんなことがあったんですねぇ」
音楽家は牛乳片手にバナナチョコパイを噛りながら彼らの話を聞いていた。先程遅れて剣士と帰ってきたのだ。
「あぁ、ナミさんに怪我なくてよかった」
「まったくあいつ。買い物の途中に襲うなんて。明日サンジ君付き合ってね」
「はい、よろこんで!」
首に包帯を巻かれた料理人。ごほうびに彼女と買い物を取り付けたようだ。嬉しそうにくねくねしている。
「けっ、小さい間におれがひねってやったのに」
剣士もバリバリと噛りながら悪態をつく。
「んだと」
料理人はいつもの通り返そうとしたが、途端に瞬きする。
「お前、バナナチョコパイは?」
「あ?これがおやつじゃねぇのか?」
剣士は噛み砕いた。まるい、ビスケットを。引き裂かれた袋にはスモールの文字が踊っている。
「あ、それ!フランキーのとこからとって、おれがゾロの服に隠してたやつだ!」
「おい、ルフィそれって」
「あ」
「あー!」
このあと剣士に何が起こったかは、皆様のご想像通りである。
<end>
「まったくよぉ、どうすんだこれ」
「ルフィ、また妙なもん食わしたのか?」
「今回はおれじゃねぇぞ!失敬だなお前!」
「今回は私よ、ごめんなさい」
「エエエ!!?」
15時。騒がしい、甲板。そこに加わっていないのは、出掛けている音楽家に航海士に剣士くらいだ。そして、騒ぎの中心でひょいひょいと跳ねている、手のひらサイズの、なにか。虫か?いやいやそれにしては大きい。ぬいぐるみか?いやいや動くなんてありえない。よく見ると、ぐるぐる眉毛でスーツを着ている。そこで、わかる。
「コラ!ロビンちゃんに文句言うな!」
「いやお前被害者だろ!」
「サンジは優しいわね。手のひらにのって」
「んなっ!ぜひっ!」
くねくねと考古学者の手のひらで踊る、小さな小さな料理人。彼はまさしく黒足のサンジだ。ただ、あるものによって、小さくなっているだけであって。
「『新型スモールビスケット。服ごと記憶をそのままに、小人サイズに縮めます。時間は一枚につき1時間。そうするともとに戻ります』だって」
船医が袋を取り上げ小さく小さく折り畳まれて入っていた説明を読み漁る。まだ袋にはビスケットが1枚残っていた。船大工はそれを聞きながら顔をしかめる。
「おめェどこで買ってきたんだ」
「配ってたのよ。私が食べる予定だったけど、サンジが一枚毒味してくれるって言うから」
「ロビンちゃんにあぶねぇものを食わせるわけにゃいかねぇからな!」
「ビスケット……じゅる、うまかったか?」
「そうだな。歯触りはいいが、甘さがたりねぇ……っておいこらルフィ。食うのはやめとけ。ウソップのツッコミが大変だろうが」
「オイ」
今にもビスケットを口に運ぼうとする船長に、料理人は呆れ、狙撃手は手を出して止めた。ビスケットはまた余興にでも使おうと船大工によって没収されたのだが。
「にしても参ったな、おやつの時間なんだが」
「なにー!!おやつ!?」
「今日のおやつはなんだ?サンジ!甘いのか?」
「あぁ。運が良くか悪くか盛り付けやすいバナナチョコパイだよ。そろそろあら熱もとれたはず」
ひょい、と料理人は考古学者の手のひらから飛び降りた。一回転して、着地。ととと、と小さな足音を立ててキッチンの方に向かう。仲間たちは思わずそれについて行く。
「クソ、キッチンが遠いな」
「いや、サンジすげぇな」
「器用だぞ」
自分より大きなトングをつかんで、皿にバナナチョコパイを一生懸命盛り付ける。考古学者に手のひらを出してもらい、冷蔵庫の暗証番号をカチカチ。バニラアイスを出して、大きなスプーンで盛り付け。ホイップは両腕で袋を抱えて絞りだし、ミントを両手でちぎって頭の上にもちあげ、またととと、とテーブルを走る。ポットはそうっと足でも持ち上げて紅茶をいれようとしたが、そこまではいいと狙撃手にあわててぶんどられた。そうするといつもよりちょっと時間はかかったものの、ほかほかバナナチョコパイのバニラアイスのせが紅茶と共に、テーブルに6つ並んだ。
「あれ、サンジの小さいな」
「そりゃ、そんなに食ったらこの体じゃ腹一杯になるからよ、てかフランキーお前、いつの間にこんなの作った」
「そりゃおめぇ、こんなのはなにも見ずに作れるぜぇ」
ただ、狙撃手指摘の通り、料理人のサイズは船大工が手伝い切り取られて10分の1スケールほどに小さかった。しかも、ナイフとフォークにティーカップ、お皿まで小さい。首元に巻くナプキンまで抜かりない。
「いただきまーす!」
15時10分。ゆったりといただきますが皮切りになった。サクサクの生地から溢れ出す甘味とほろ苦さがたまらないバナナチョコパイ。熱々のものを冷たいバニラアイスや甘さ控えめホイップクリームと絡めればえもいわれぬ。ことさらに紅茶がよく合ってたまらない。
「サンジ、おいしい?」
「はい!いつも通りのできでふ!」
「あっ、ロビンのかわいいセンサーに引っ掛かったか」
「この小さいは想定外だけど、かわいいわ」
「ふべべ、ろびんちゃんいたいよう。でもうれじい」
人差し指で小さくなった料理人の頬をふにふにとつつく考古学者はどこか嬉しそうだ。もちろんレディに構ってもらえる料理人も嬉しそうだったが。
「サンジー、おかわりー」
「おれも食べたいぞ」
「待ってろ、ちょっと大変なんだぜ?そこの距離が全力疾走だ。アイスは?」
「いるー!」
「おれもー!」
「アウ、手伝ってやるよ」
「お、こりゃ快適だ。ありがとよ」
また走り出そうとする料理人を見かねて船大工がひょいっと手を差し出した。料理人はちょこんと胡座をかいて冷凍庫まで運ばれていく。ぴょんぴょんと暗証番号を押してアイスを出して。またアップルパイを切り分けて、その皿は船大工が料理人ごと運んでくれた。
「なんだかんだでもうこんなにたったわ」
考古学者は時計を見た。15時52分。残り8分でもうこの小さいタイムは終わりだ。
「いつも通り終わりそうで何よりだな」
「ウソップ、お前そういうの何て言うか知ってるか……」
「フラグっていうんだぞ!おれロビンに教えてもらったんだ!」
「ハハハ、ソンナバカナ」
「キャーッ!!!」
甲板から甲高い悲鳴がした。一味は顔を見合わせる。
「この声!」
船長がとびだし、狙撃手と考古学者が慌てて続く。料理人も当然気づいていた。この悲鳴の主は。
「ナミさん!!!」
「まてまてのせていってやるよ」
船大工はひょいと料理人を摘まんだ。そっと彼を懐に隠して。彼は文句を言いそうになったが、開け放たれた扉から見えた状況を見てスッと動きを止め、彼の懐に潜り込んだ。ニヤリと笑い、彼ははしごのふたを開けた。
「おっと、うごくなよ」
「ナミ!」
「こいつを覇気の腕で絞め殺すぞ!」
事態は深刻だ。見知らぬ男が航海士を覇気の腕で羽交い締めにして、拘束している。
「くそっ、ナミをはなせ!ゴムゴムの」
「ダメよルフィ!」
「あぁ、もちろんおれが女の首を絞める方が早いぞ」
「ううっ」
航海士は苦しそうな声をあげた。船長は歯を食い縛るが、はっと息をのむ。
「わかったら他の仲間もつれてこい!!黒足とサイボーグを……」
「おれならここだ」
船大工はキッチンの扉から姿を見せた。敵の視線がそちらを向く。だからか、気づかない。きらりと空から輝いた光に。
「ナミさんをっ」
「あ?」
「放しやがれぇ!!」
「へぶうっ」
突き刺さった、小さな蹴り。鼻をへし折らんばかりのそれは、腕を緩ますのにぴったりだった。
「え」
「逃げてナミさん!!」
戸惑う航海士を、小さな料理人は敵の顔面で急かして押し出す。だが、はっと気づいた。
「いてぇじゃ、ねぇか」
「ぐ、は」
敵の大きな手のひらが、わしりと彼を鷲掴む。航海士は状況が飲み込めないまま顔を焦らせた。
「サンジ君!」
「ナミ!こっちだ!」
「でもっ」
船長に引き寄せられるも、航海士の顔は困惑していた。
「黒足が小さくなったなんて、知らなかったな」
「っ、うぁ」
じたばたともがくが、肩口から下をぎゅっと押さえられ、固い指先を悪戯に背中に押し込まれる。
「人質がお前に変わっただけだぞ?いいのか?」
「……あぁ、このまま、ならな……っ」
ふう、ふうと息をつき喘ぎながら、ちらと仲間の方を見る。だが、こちらを見ろと言わんばかりに、喉仏を強い力で撫でられる。
「ん、っ」
「虚勢が、どこまで続くかな?」
「あと、5秒よ」
考古学者が、ポツリといった。船長は、にぃと笑う。仲間たちは、焦っていなかった。というより、確信していたのだ。船大工が、料理人を危険にさらすような作戦に、そうそううって出るわけないと。
「あ?」
男は気づいた。力を抜いた小さな黒足が、ゆっくりと大きくなっていることに。
「フランキー……30びょうじゃ、ねぇのかよ」
「あとで砥石出してやるから勘弁しろよ」
「な」
めきり、めきりと男の指が跳ね返されていく。ふわり、と影がとんだ。今度は大きな黒い影が、バク転して、すたんと着地した。
「どこがいい」
「な……」
「首だな」
ぶわりと火の粉が散る。ガードを容易くすり抜けて、突き刺さる。首に。いつもの黒足が。
「悪魔風……」
「が」
「首肉、ストライク!!!」
吹き飛ばし、えぐりとった。敵の首を。
「ナミさんの麗しい白いお肌に汚ならしいあとがついたらどうすんだ」
自身のネクタイを緩めながら、料理人は吐き捨てた。
「このクソ野郎が」
ーーーー
「そんなことがあったんですねぇ」
音楽家は牛乳片手にバナナチョコパイを噛りながら彼らの話を聞いていた。先程遅れて剣士と帰ってきたのだ。
「あぁ、ナミさんに怪我なくてよかった」
「まったくあいつ。買い物の途中に襲うなんて。明日サンジ君付き合ってね」
「はい、よろこんで!」
首に包帯を巻かれた料理人。ごほうびに彼女と買い物を取り付けたようだ。嬉しそうにくねくねしている。
「けっ、小さい間におれがひねってやったのに」
剣士もバリバリと噛りながら悪態をつく。
「んだと」
料理人はいつもの通り返そうとしたが、途端に瞬きする。
「お前、バナナチョコパイは?」
「あ?これがおやつじゃねぇのか?」
剣士は噛み砕いた。まるい、ビスケットを。引き裂かれた袋にはスモールの文字が踊っている。
「あ、それ!フランキーのとこからとって、おれがゾロの服に隠してたやつだ!」
「おい、ルフィそれって」
「あ」
「あー!」
このあと剣士に何が起こったかは、皆様のご想像通りである。
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