*ウソプが初めて、兄さんのキノコ料理を食べる話
*ウソプが初めて、兄さんのキノコ料理を食べる話
この料理人の食事は本当に美味しい。狙撃手はいつも船長に負けじとペロリと平らげていた。航海士も、そしていつも喧嘩ばかりの剣士も、がつがつ食べてしまうほど。この船の食事の時間を楽しみにしていたのだった。
ただ、狙撃手には嫌いな食べ物があった。キノコである。料理人にはそのことがばれていたからか、なかなかキノコ料理が出てこないことを狙撃手はありがたいと思っていた。
「げ」
ある日、狙撃手は目を剥いた。料理人と二人っきりの船番のときだ。オムライスに添えるように舞茸とベーコンのスープが器に入っていたからだ。大嫌いなキノコが、あからさまだ。
「サンジくーん」
猫なで声でどういうことだと問えば、料理人はじっとそれを見て、それだけいった。
「食ってみろ」
「え、でも」
「お前のは食わず嫌いだ。食える」
いつもの悪態とは違ってにぃとやわらかく言うもんだから、狙撃手はじっと小鉢を見つめてしまった。いただきます、と声を揃えていって、すっとスプーンをそれに伸ばした。でもひたとそこでためらうように動きを止めた。
「大丈夫だ」
念押しするように言われて観念したのか、狙撃手はスプーンでキノコとベーコンに手を伸ばした。たっぷりスープでごまかせば食べられるだろう。そう確信したように、目をつぶりながらパクリと口にした。
「……あれ?」
噛み締める。首をかしげる。また噛み締める。くにくにと独特の食感と共にじゅわりと旨味が口に広がった。ベーコンやスープの旨味と共に溶け込んで、美味しい。ついついもう一口、なんて手を伸ばしてしまうほど。
「なっ」
料理人は歯を見せて笑い口にスープを運んだ。いいできだ、と自画自賛するように満足げ。狙撃手は瞬きしたままだったが、またスープを口に運び、驚きに顔をあげる。
「な、なんでだサンジ!おれほんとに嫌いだったんだぞ!」
「だからいったろ、最初に食ったときがひどすぎて食わず嫌いしてんだって」
料理人はゆっくりと飲み物を口に含んで息ついたあと、まだしっくり来ていない様子の狙撃手を見てニヤリと笑う。
「一昨日のグラタン旨かったろ?」
「え、あぁ……」
「一週間前のクリームコロッケもどうだ」
「うまかったけど。って、え?」
「鈍いな。二週間前のシチューは」
「ま、まさか」
呆れながら三つ例を出されてピンときた。今まで食べたことのないほど絶品の料理たち。そう、食べたことのない、美味しい『味』がしたのだ。
「ぜーんぶ細かく刻んだキノコいりでした」
「えぇぇ!!?」
「な、食わず嫌いだ」
料理人は涼しい顔でぱくりとオムライスを口にした。狙撃手はまだ困ったような顔をしている。もう一度スープのキノコを口にする。やっぱり美味しい。だったら今までのキノコ嫌いはなんだったのか。こんなにあっさり解決するなんて。
「サンジってすげぇんだな」
「なんだよ、おれは元々一流コックだろうが」
「いやでもすげぇよ……好き嫌い簡単になおしちまうなんて!」
狙撃手は興奮した声でいった。今まで一人で暮らしていてキノコなんか食べようともしなかったのに。まるで魔法みたいだ。
「……じゃあ、誉めてくれた礼に、ひとついいこと教えてやる」
「え?」
またにっと笑った料理人。内緒だぜ、とひそひそ吹き込まれる言葉。狙撃手はぱぁっと顔を明るくする。
そして、次の日の夕飯。
「なぁ、ゾロうめーなー、今日も」
「まぁまぁ」
カレーライスをいつも通り食べる剣士。狙撃手はそれを見てへへ、と笑った。料理人はくるりとお玉をかき混ぜ船長のおかわりをつぎながらふっとわらう。
ーー今度は、マリモのチョコ嫌いを治すぞ。
ひそひそと吹き込み吹き込まれた言葉を、互いに頭の中に反芻しながら。
<end>
この料理人の食事は本当に美味しい。狙撃手はいつも船長に負けじとペロリと平らげていた。航海士も、そしていつも喧嘩ばかりの剣士も、がつがつ食べてしまうほど。この船の食事の時間を楽しみにしていたのだった。
ただ、狙撃手には嫌いな食べ物があった。キノコである。料理人にはそのことがばれていたからか、なかなかキノコ料理が出てこないことを狙撃手はありがたいと思っていた。
「げ」
ある日、狙撃手は目を剥いた。料理人と二人っきりの船番のときだ。オムライスに添えるように舞茸とベーコンのスープが器に入っていたからだ。大嫌いなキノコが、あからさまだ。
「サンジくーん」
猫なで声でどういうことだと問えば、料理人はじっとそれを見て、それだけいった。
「食ってみろ」
「え、でも」
「お前のは食わず嫌いだ。食える」
いつもの悪態とは違ってにぃとやわらかく言うもんだから、狙撃手はじっと小鉢を見つめてしまった。いただきます、と声を揃えていって、すっとスプーンをそれに伸ばした。でもひたとそこでためらうように動きを止めた。
「大丈夫だ」
念押しするように言われて観念したのか、狙撃手はスプーンでキノコとベーコンに手を伸ばした。たっぷりスープでごまかせば食べられるだろう。そう確信したように、目をつぶりながらパクリと口にした。
「……あれ?」
噛み締める。首をかしげる。また噛み締める。くにくにと独特の食感と共にじゅわりと旨味が口に広がった。ベーコンやスープの旨味と共に溶け込んで、美味しい。ついついもう一口、なんて手を伸ばしてしまうほど。
「なっ」
料理人は歯を見せて笑い口にスープを運んだ。いいできだ、と自画自賛するように満足げ。狙撃手は瞬きしたままだったが、またスープを口に運び、驚きに顔をあげる。
「な、なんでだサンジ!おれほんとに嫌いだったんだぞ!」
「だからいったろ、最初に食ったときがひどすぎて食わず嫌いしてんだって」
料理人はゆっくりと飲み物を口に含んで息ついたあと、まだしっくり来ていない様子の狙撃手を見てニヤリと笑う。
「一昨日のグラタン旨かったろ?」
「え、あぁ……」
「一週間前のクリームコロッケもどうだ」
「うまかったけど。って、え?」
「鈍いな。二週間前のシチューは」
「ま、まさか」
呆れながら三つ例を出されてピンときた。今まで食べたことのないほど絶品の料理たち。そう、食べたことのない、美味しい『味』がしたのだ。
「ぜーんぶ細かく刻んだキノコいりでした」
「えぇぇ!!?」
「な、食わず嫌いだ」
料理人は涼しい顔でぱくりとオムライスを口にした。狙撃手はまだ困ったような顔をしている。もう一度スープのキノコを口にする。やっぱり美味しい。だったら今までのキノコ嫌いはなんだったのか。こんなにあっさり解決するなんて。
「サンジってすげぇんだな」
「なんだよ、おれは元々一流コックだろうが」
「いやでもすげぇよ……好き嫌い簡単になおしちまうなんて!」
狙撃手は興奮した声でいった。今まで一人で暮らしていてキノコなんか食べようともしなかったのに。まるで魔法みたいだ。
「……じゃあ、誉めてくれた礼に、ひとついいこと教えてやる」
「え?」
またにっと笑った料理人。内緒だぜ、とひそひそ吹き込まれる言葉。狙撃手はぱぁっと顔を明るくする。
そして、次の日の夕飯。
「なぁ、ゾロうめーなー、今日も」
「まぁまぁ」
カレーライスをいつも通り食べる剣士。狙撃手はそれを見てへへ、と笑った。料理人はくるりとお玉をかき混ぜ船長のおかわりをつぎながらふっとわらう。
ーー今度は、マリモのチョコ嫌いを治すぞ。
ひそひそと吹き込み吹き込まれた言葉を、互いに頭の中に反芻しながら。
<end>