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*WCI後、仲間への罪の意識を感じてしまうと何故か髪が伸びてしまうコックが、髪狙いで拐われる話

*WCI後、仲間への罪の意識を感じてしまうと何故か髪が伸びてしまうコックが、髪狙いで拐われる話(ブルックさん多め)

「綺麗な髪」

しゃきり、しゃきり。椅子に座った一人の男。ハサミの音がして、ぱさぱさと金髪が落ちる。ぐるぐる眉毛の下の、色の薄い瞳はぼうっと言葉なく宙を見つめる。

「あなたのは、この床をきれいに埋め尽くせてしまうわね」

しゃきり。しゃきり。まだ響く、ハサミの音。襟首まで短くなった髪。だが、そこで、ハサミはひたと止まった。ゆっくりと透明な手が、黒いスーツの肩に置かれる。

「さぁ、また読みましょうか」

ぽうっと、血が通ったように白く輝く。ひく、と眉毛が揺れた。

「ここは、罪の意識を髪にする美容室」

ほわり、ほわり。光を雲のように漂わせながら、手のひらが輝いていく。にこり、と透き通った体の女性が口許を緩めた。

「……ほら、あなたの罪の意識がまたたまってきたわ」

ゆっくりと髪の毛が伸びていく。艶やかな金色の毛が、短髪から長髪に。

「これは、女の子に対する罪の意識。怖がらせて、ひっぱたかれたけれど」

ゆっくりと透明な手が櫛をつかんでそれをといていく。さらさら艶々の髪の毛は、簡単にブラシを通した。

「あなたはひっぱたかれただけでは足りないと思っている」

また、ひくりと眉が揺れた。さらに伸びゆく髪の毛。透明な姿をした女性の顔はわからない。けれど、その口許は美しい髪の毛を見つめてほころんでいるように見えた。

「まだまだあるのね」

ゆっくりと肩から手のひらが離れる。髪の伸びは一端ぴたりと止まった。はさみを通す。しゃきり。しゃきり。またハサミの小気味いい音が響いた。

「こういう優しい髪は大好き」

しゃきり。しゃきり。ハサミは動く。だが、彼は無関心だ。切られるがまま。むしろ、いくらでも切ってくれと言わんばかりのまま。

「そこまでにしてください」

ちゃきりと刀の音が響いた。シルクハットが揺れ、ぱさりと金髪の切りかけの髪が落ちる。

「この人の優しさを、弄ぶのは」

鏡すらない美容室。背には、音楽家が刀を揺らして立っていた。

「……あなたは、この人の仲間かしら」

ぼわり、と血の通った手が、料理人の肩に触れる。にこり、と微笑む。

「やっぱり、そうね。あなたにも罪の意識を感じているわ」

するりするりと髪の毛が伸びていく。音楽家は、ちらと料理人を見た。

「サンジさんの髪が、気に入ったのですか」

「ええ、そうよ。優しくて、清らかな魂で、何より美しい、罪に溢れた髪」

ーーあなた、私に髪を見せてくださらない?

柔らかな声で、恍惚と笑いながら女性はいった。

ーー罪の意識に、溢れた髪を。

唖然と固まる料理人を、ゆっくりと透明な手で支配していく様子を、思い出しながら。

「私はその髪を切るのが大好きなの」

くつくつと笑う女性。そのドレスはひらひらと宙に揺れた。

「そのときだけなぜか、生きていた頃の手が戻るから」

ハサミが揺れる。全身は、透明に包まれていた。顔も手も足も腹も。まるで生き霊のように。

「だから、邪魔させないわ!!」

向かってくる音楽家に、ハサミを向けた。対抗するように、向けた。

「満足するまで髪が切れる客を、見つけたから!」

だが、ぶわりと冷気が漂った。女性の瞳が見開かれる。体が、かちこちと凍る。

「な」

「確かにあなたの気持ちも、わかります。私もう、死んでますから」

音楽家はポツリといった。かちこちと黄泉の冷気で氷漬けになった女性をみて。

「けれど」

未だ宙に瞳が向いたまま。そんな料理人を抱えあげる。

「彼は、あなたの自己満足の道具ではありませんので」

音楽家は女性に背を向け、ゆっくりとその場を後にした。

ーーーーー

「……ブルック」

ゆっくりと料理人は、目を覚ました。帰り道、音楽家の腕の中。とろりとした瞳のまま。体をくったりとこぼしたまま。

「あの人は、逝ったのか?」

「わかりません。執着心が強そうでしたから」

音楽家は料理人を揺らした。宥めるように、声なき子守唄でも聞かせるように。

「けれど、あなたは最後まで優しかったですね」

「……なにが」

「体、動かせたんでしょ?本当は」

音楽家の囁くような一言。料理人は、寂しそうに口許をたたえ、

「……な、ブルック。内緒にしてくれよ」

「はい」

「おれは、WCIのことを忘れちゃいけねぇんだ」

ぽつりぼつりといった。彼の頭にまだ残る、罪の意識を。

「だから、全部引きずり出してもらってたんだ。あの女性に。おれが犯した、罪を」

「……!」

「そしたら、お前らがやさしくして忘れさせようとしてくれたって、それにあまえなくていいだろ?」

笑ってさらりと呻く彼の優しさは、底がないのだろうか。音楽家は、震える彼の肩をぎゅっと握った。

「サンジさん、ダメですよ」

「……なにが」

「私」

説教臭いことは言わない。言えない。例えば自分を殺すことになれるなといっても。またこの人は、それを認めないから。優しいな、ブルックとしか言わないから。

「サンジさんのそんな優しいところが大好きなんでーす!!!」

「は????」

料理人は驚いただろう。突然そんなことを、大きな声で叫ばれて。

「サンジさんが戻って来ないことが最悪です!!!あなたの罪なんかありませーーん!!」

「……!」

「それはサニー号のみなさんにとってもそうだと思いますーー!!」

料理人ははっと気づいた。いつのまにか、サニー号の前。航海士たちが甲板にいる。

「そーだぞーー!」

「あんたには絶対戻って来てもらわなきゃ許さないと思ってたんだからーー!」

「当たり前だーー!!」

「私もサンジだーーいすき!」

かあっと料理人の顔が赤くなった。もがこうとするも音楽家は放さない。にこりと笑って、料理人を抱き上げる。

「たくさん、甘やかされてくださいね」

「……っ、こんの」

「サンジさんが大好きだー!」

「さん」

「じぃ!」

「君!」

「のわぁっ」

ぎゅっと腕の中に飲み込まれ、料理人はくしゃくしゃと口許を緩めた。その中でWCIの罪を無理やり思い出そうとしたが、あたたかさの方が、強くて、強くて

「あっ、サンジの髪が元に戻った」

「なんでだぁ?」

「あとでお話ししますよ。ね」

「……ん」

音楽家の言葉に観念して、料理人はささやくような小さな声でいったのだった。

「ありがとう」

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