ある日  ~穂積vision



翼がデスクに置かれたカレンダーを眺めている。

そこには赤で〇印が付けられた日付。

穂積
「・・・・・」


ふと、目が合った。
翼は、顔を赤くして視線を逸らす。

穂積
「・・・・・・・・」



特に約束はしていない。
休日でもないし、何か予定があるとも聞いていない。

だが、あの表情からして、何か特別な日なんだろうな・・・。もしかして、いわゆる記念日とかってヤツか?
でも何の記念日なのか、俺には見当がつかない。


女子供は記念日が好きだ。

やたらと理由をくっつけては、アレコレ騒いでみせる。

面倒くさい・・・・と。
今までならそれで一蹴してきたが、なぜか気にかかる。

いや、もし、俺とのことで期待しているとしたらスルーするのはマズい。非常に。
やっぱり翼が楽しみにしている事は叶えてやりたいと、思う。


・・・これは我ながら、かなり重症だな。


だが、業平工業の事件後、付き合い始めたばかりの俺たちには、まだ『記念日』と呼ぶような日は存在しないはずだ。

たぶん。




小野瀬 
「あれ?今日は櫻井さんは一緒じゃないんだ?」

おもしろくなさそうに小野瀬がほざく。

いつものバーで、小野瀬と二人で飲んでることを俺だって歓迎してるわけじゃないが。

穂積
「今日は女子会だとさ。そういう付き合いも必要だろ」

小野瀬
「つまり、振られたってわけだね」

穂積
「うるせぇよ。・・・あ、そういや、今日の女子会の予定はカレンダーに〇つけてなかったな・・・」

小野瀬 
「ん?何の話?」

穂積 
「・・・」

しまった。うっかり口が滑った。


しかたない。酒の席の戯言だ。話を振ってみる。


小野瀬
「記念日?」

穂積
「タラ・・・いや、異性交遊専門家のお前なら女子供が気にしそうな記念日に詳しいだろ?」

小野瀬
「お前、相変わらず失礼だね。残念だけど役には立たないよ。俺は記念日ができるほど長く続くような特定の彼女は作らないからね」

穂積 
「・・・たしかに。お前に聞いた俺がバカだったな」

小野瀬
「あはは、だいたい、そんなのいちいち考えてたら俺なんか心当たりありすぎて、毎日が記念日だらけだよ」

穂積 
「おまえ、、、いっぺん刺されたほうがいいんじゃないのか?骨は拾ってやるぞ」

小野瀬 
「なんだ、もしかしてお姫様の喜ぶ顔が見たいなんて考えてるわけ?」


くそう・・・、にやけながら図星をさすな。



小野瀬
「なんか記念日~ってアピールしてるなら、その日に適当に食事にでも誘う。相手に理由を言わせて、合わせておけばいいんじゃない?」

穂積 
「お前らしいな」

たしかに、以前の俺ならそうしていただろうが。

小野瀬 
「今のお前は・・・らしくないけど。まぁ、そんなことで悩むのもいいんじゃないか?」

小野瀬がシニカルな笑顔で俺の顔を覗き込む。

穂積 
「・・・うるせぇ」

小野瀬
「勝手にやってろって言ってるんだよ。あ~ぁ、櫻井さんは、なんで穂積なんかに喰われちゃったんだろうな」

おもしろくないと、小野瀬がぼやいた。

穂積
「絶対やらねぇからな。お前手出すなよ」

小野瀬
「そこまで命知らずじゃないよ」





翌日。
会議を終えて捜査室に戻ると。


如月
「翼ちゃん、何見つめちゃってるのかなぁ?」

カレンダーの赤〇を目敏く見つけ、指差しながら如月が声をかけている。

翼と歳が近いだけあってコイツはそういうトコには敏感だ。
ムッとする、が、反面・・・これはチャンスかもしれない。入口で思わず聞き耳を立てる。


藤守
「おぉ、なんやデートの予定か?ま、まさかカレシができたんか?お前」

明智
「・・・そ、そうなのか? あ、いや、プライベートなことだったな」

藤守が突っ込んだ。
明智・・・急に顔色が悪くなったぞ・・・。


「ち、違いますよ~」

胸の前で両手を横に振りながら、苦笑いで否定のジェスチャーをする翼。


・・・違うって・・・何だ、全力で否定するな。
交際を公表するタイミングじゃないのは確かだが、それはそれでイラつく。大人気ないけれども。



「えっと、その日は両親の結婚記念日なんです」

穂積
「・・・!」



藤守
「なーんや、心配したで~」

如月
「なんで藤守さんが心配するんですか?」

明智
「そうだ。お前は櫻井の予定なんかに関係はないだろう」

小笠原 
「・・・明智さんも関係ないよね」

明智 
「・・・小笠原、お前はもう少し先輩を敬え」


捜査室メンバーのバカバカしいほど好き勝手なリアクションに対して、翼ははにかみながらも律儀に答える。

翼 
「父が毎年、母に花束を買ってくるんです。・・・真っ赤な薔薇の。私はいつも何を贈ろうかなって、悩むんですよ」


如月
「へぇ!ロマンチックなお父さんなんだね!」

藤守 
「ホンマや、ウチなんかじゃありえへんわ」

明智 
「何年経っても結婚記念日を祝えるのはいいことだ」



なんだ、そういうことだったのか。

答えが解ればなんてことはない、俺は肩の力を抜く。
そういや、家を出て随分経つ俺は、最近両親が結婚記念日を祝ってるのかさえ知らないな。


それにしても、あの櫻井判事が赤い薔薇の花束ねぇ。
似合わなさ過ぎる。

でも。
やっぱり、あの翼の父親だな。
そういう愛情に厚い所はそっくりだ。

そんなことを考えていると、



小笠原 
「あれ、室長、戻ってきてたんだ。・・・顔赤い」


・・・どうしてこういう時だけ目ざといんだ、こいつは。


穂積 
「・・・小笠原、敬語! それから、今は何の時間かみんな忘れてるようねぇ?なんなら思い出させてあげるけど?」

デスクに向かって歩きながら手元のファイルを丸めて掲げる。

「「「「仕事しまーす!!!」」」」

それだけで、全員一目散に駆け出した。

・・・PCに向かった小笠原を除いて。


わたわたと出かける準備をする翼を見つめる。

視線に気づいたのか、翼が顔をあげてこっちを見た。
すると、やっぱり顔を赤くして俯いてしまう。

藤守 
「おーい、櫻井、いくで~」

翼 
「はーい!出ます!」

気持ちを切り替えたらしく、元気良く駆けていく翼の後姿を見送る。



何を意識してるんだ。


あぁ、そういやあいつを口説くとき、結婚すればいいなんて言ってしまったんだった。
もしかして、自分の結婚記念日を想像してたのか?

心配しなくたっていくら俺でも、お前との結婚記念日は絶対大切にするぞ。ずっと一緒に祝っていこうな。

・・・と、考えて、ハタと気づく。いくらなんでもまだ気が早いか。

とりあえず、今日はあいつを家に連れ帰って一緒に過ごす算段をすることにした。



いつのまにかほくそえんでいたんだろう。
小笠原がつぶやく。

小笠原 
「・・・くだらない」


オイ、聞こえてるぞ。


だが、反論しようにも分が悪い。下手すると付き合ってることを自白することにもなりかねない。

しかたないから聞こえなかったフリをして、胸の内に刻んで仕舞い込む。




いつか来る、翼との大切な「記念日」を。



FIN

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