約束
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――数年後
「よしっ、完成!!あとは……風っ!イーピンちゃん!お昼ご飯が出来たよ!」
私は、火を消すと、家の外にある稽古場に向かい、稽古をしていた二人に声を掛けた。
すると、二人は稽古の手を止めてこっちに振り返った。
「では、イーピン。午前中の修行はここまでにしましょう」
「はい、お師匠様」
風が微笑みながら言うと、イーピンちゃんは笑顔で元気に返事をして家の中に入って行った。
私と風が恋人になってから、早いもので数年が経ち、今は弟子入りに来たイーピンちゃんと猿のリーチも含めた4人で暮らしている。
「今日のお昼はなんですか?」
「炒飯だよ。夕飯は麻婆豆腐にするつもり」
家の中に入るために歩いていると、風が楽しそうに聞いてきたので、私は笑顔で答えた。
風と二人っきりになれる時間は少ないけれど、今の生活が充実していて楽しいからいっか!
そんなことを思いながら、私は家の中に入っていった。
「それじゃあ、お師匠様!春蘭さん!お休みなさい」
「お休みなさい」
「お休みなさい。温かくして寝てね」
夜、夕食も入浴も終えると、イーピンちゃんはいつものように早めに就寝した。
規則正しい生活を弟子に身に付けさせるのも、師匠の役割だと風は言っていた。
だから、そんな風の教えに従っているらしい。
そんなわけで、一足早く居間から出て行ったイーピンちゃんにそれぞれ挨拶をすると、室内は静かになった。
「春蘭、少し話があります」
「急に改まってどうしたの?」
静かに流れていた沈黙を破るようにして風は、いつになく真剣な声で言った。
私はそんな風に向き合うようにして椅子に座ると、風の次の言葉を待った。
「実は、明日から数日、クライアントの仕事でまた家を空けます」
「今までの仕事みたいに、どのくらい掛かるのかわからないの?」
「はい」
風の声の低さや表情から、その仕事がこれまでのものとは違ってかなり危険なものであることが伝わってきた。
これまでにも風は仕事で家を空けることが何度かあった。
だけど、いつも何日で戻って来るのかがハッキリしていた。
しかし、今回のようにいつ戻って来るのかがハッキリしないことは初めてだった。
そのせいか、私は嫌な予感がした。
――行かないで……風の話を聞いて嫌な予感がした私は、そう言いたかったけれど、風を困らせたくなかった。
だから私は、風に心配を掛けさせないで仕事に集中できるように笑顔で返事をすることにした。
「そっか……わかった。気を付けて行って来てね!」
笑顔で返事をした……はずだったのに……
「春蘭……」
「風っ!?」
「そんなに悲しそうな顔をしないで下さい」
「!?」
風に抱きしめられながら言われて私は驚いた。
自分では笑顔のつもりだったのだが、どうやら、実際には笑顔で言えていなかったようだ。
「いつ帰ってくるかわからないことで、あなたを不安にさせてしまってすみません」
「謝らないで……風は何も悪くないんだから……私が勝手に不安になっているだけ……。」
私は申し訳なさそうな声で言った風の言葉を首を横に振って否定すると、彼の顔を見ながら言った。
「例えそうだとしても、あなたを不安にさせてしまったのは私の仕事が原因です。なので、約束します」
「約束……?」
風はいつものように優しく微笑むと、すぐに真剣な顔をして言った。
約束って……一体、何を約束するんだろう……?
風が何を言おうとしているのかわからない私は、ただ頭の上に?マークを浮かべて次の言葉を待った。
「必ず、春蘭の元に無事に帰ってきます。そしたら結婚をすると約束します」
「!?風っ!!」
私は、風のその言葉が嬉しいはずなのに、突然すぎて驚くしかなかった。
私が風と結婚!?そりゃ、いつかはって思ってたけど……急すぎる気が……。
「あ、あのね、風。すごく嬉しいけど、いくらなんでも急すぎる気が……んっ!」
私が戸惑いながらも風に伝えていると、風は私の言葉を遮るようにして自分の唇で私の唇を塞いだ。
「それ以上は言ったらダメですよ。もし、また言ったら、今と同じようにして塞ぎますからね」
「……わかった」
いつになく強引な風は意地悪そうな顔をしながら言い、私はキスをされるのが嫌なわけではないけれど、大人しく頷いた。
「ねぇ、風。小指を出して」
「こうですか?」
風は私に言われるがまま小指を出した。私は風の小指と自分の小指を絡めて言った。
「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本の~ます。指きった!!」
私は、笑顔で楽しそうに歌ってから、風の小指と自分の小指を離した。
「春蘭、今のは一体……?」
「イーピンちゃんに教えてもらったの。どこかの国で約束をする時にはこうするんだって」
私が何をしたのかイマイチわかっていない風に私は笑いながら説明をした。
「そうなんですか……。知りませんでした。」
「でも、今知ったでしょ?だから、約束を忘れてましたとかは無しだよ!嘘をついたら針千本飲まなくちゃいけないんだからね!」
私がいつものように強気に言うと、風は“わかっていますよ。さすがの私も針千本は、嫌ですから。”と笑いながら言った。
本当はそんなことをしなくても、風が約束を忘れることなないってわかってる。
だけど、離れていても風とどこかで繋がっているっていう証拠になるものが欲しいの。
私が風と指きりをした小指を見ながらそう思っていると、身体が宙に浮くのを感じた。
「風!?急にどうしたの!?」
「せっかくなので、春蘭と一緒に寝ようと思いまして」
私をお姫様抱っこをしながら寝室へと連行している風に聞くと、風はサラッと答えた。
「一緒に寝れば、少しは不安や寂しさがなくなると思いますよ。それに春蘭も私と一緒に寝たいでしょう?」
「それは、そうだけど……。」
「大丈夫です。今はまだ何もしませんから」
返事をしながらもどこか納得していない様子の私をベッドに寝かせると、風は私を安心させるように笑顔で言った。
“今はまだ”って、ことはいつかはするってことだよね……よしっ、今の内から心の準備をしておこう!
私は横になりながら秘かにそう決心をしたのだった。
「春蘭」
「なに?」
呼ばれて振り返ると、私と同じように横になった風によって抱きしめられていたため、顔が思っていたよりも間近にあってドキッとした。
そんな私の気持ちに風が気づいているのかはわからないけれど、風は優しい笑顔をしながらこう言った。
「愛しています」
「うん、私も風のことを愛してる」
お互いに気持ちを伝えると、いつかのようにお互いの唇が自然と引き寄せられて重なった。
その夜は、風に抱きしめられたまま眠りについた。
――翌朝
「お師匠様……」
「いいですか、イーピン。あまり春蘭に迷惑を掛けてはいけませんよ。それから、修行は毎日続けてて下さい。帰ってきたらテストをしますから」
「はいっ!」
寂しそうに風の顔を見上げるイーピンちゃんに風は、いつもと同じように言った。
すると、イーピンちゃんは笑顔で返事をした。
「それから春蘭。すぐに帰ってきますから、それまで家のことやイーピンのことをよろしくお願いしますね」
「任せといてっ!だから、風は安心して仕事をしてきてね」
微笑みながら言う風に私は、昨日とは違ってしっかりと笑顔で返事をした。
「はい。それでは行ってきます」
「「行ってらっしゃい」」
私とイーピンちゃんがそう言うと、ドアが閉まり、風が出掛けたという事実を伝えた。
「春蘭さん、寂しくないんですか……?」
「全く寂しくないって言ったら嘘になるけど、平気だよ!」
「どうしてですか?」
質問に笑顔で元気よく答えた私を見たイーピンちゃんは不思議そうな顔をしながら聞いてきた。
「だって、風は絶対に約束を破らない人だし、それに……どんなに離れていても私と風は繋がっているから」
そう笑顔で言いながら私は、昨晩、風と指きりをした小指をイーピンちゃんに見せたのだった。
その後、アルコバレーノの呪いに掛かった風はあなたに連絡はしても、姿を見せることはなく、アルコバレーノの呪いが解けた風とあなたが再開するのは、まだ少し先の物語。
END
→あとがき