オリジナル
彼女がよく歌っていた曲があった。
「さくら」というタイトルの、女性シンガーの歌う綺麗な曲だ。
彼女がその歌を口ずさむたびに、私はとんでもなく彼女の事を好きだと実感する。
彼女の無邪気さと、その曲の美しさの組み合わせが好きだだったのだろう。
でも、ある日彼女はその歌を歌った後に、ふと言ったのだ。
春の歌はさ、なんでこういう歌が多いんだろうね、と。
僕はそれに「綺麗な歌じゃないですか」と言ったが、彼女は「そうだね」と一言だけ呟くように言った。
彼女が歌う曲と同じ、桜の花が咲く季節になり、僕の残る大学から彼女は今日卒業する。
僕は、3年間に及ぶ思いのたけを彼女に伝えた。
「ずっと先輩が好きでした。卒業してからも一緒に居たいです。付き合って下さい」
しかし、彼女の答えは一言だった。
「ごめんね」
全てが終わり、桜の花が全て青々とした葉に変わる頃。
僕は卒業した先輩に聞いてしまった。
「あの子の恋人、お前が入学してくる前に死んだんだ」
その言葉に茫然とした僕は、いつも彼女が歌っていた曲を聞いた。
それは、悲しい悲しい別れの曲だった。
彼女は、僕に背を向け前を歩きながら。
どんな顔でこの歌を歌っていたのだろうか。
-END-
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