キミヲナカサナイカラ
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「助けて…っキルア!!」
「セーラ!!どうした!?
返事しろ…っ!!」
激しい物音と共に切れた電話。
俺は鍵も閉めずに宿から飛び出した。
向かう先は決まっている。
あいつの家だ。
「セーラ!!」
勢いよく扉を開けるとまず目に飛び込んできたのは
荒れくりかえった部屋の景色。
カーテンやシーツは破かれ、
用意された食事は床に散乱していた。
その向こうで肩を震わせながらうずくまるセーラがいた。
「大丈夫か!?怪我は!?」
「キルアァ…」
弱々しく泣くセーラの服は激しく乱され、
長い髪は無残にも切り刻まれていた。
「あいつか!?またあいつにやられたのか!?」
「……っ」
過呼吸の発作が出ていた。
俺は側にあった袋を彼女の口に当て、背中をさする。
精神的、身体的ダメージが深いのは明らか。
これ以上セーラをこの環境に置いておく気にはなれなかった。
「行こう…セーラ。俺と来いっ」
俺はそれだけ告げて家を出た。
彼女は何も言わずに俺に手を引かれ歩いた。
セーラは長年連れ添った恋人と同棲している。
だがその男が程度の低すぎるクズ野郎で、
働きもせず、日々のストレスを
暴力で吐き散らし、セーラを殴る。
しかも彼女が汗水垂らして稼いだ金を奪い、
毎日酒を飲み歩く始末だ。
最初は俺もその状況を見て見ぬ振りした。
セーラがそいつを好きなら、仕方がないと。
そう言い聞かせていたけど、
もう限界だ。
セーラを俺の泊まる宿に連れて行き、
彼女をなだめた。
「ここなら安全だ。もうお前を殴る奴はいない。
俺がお前を守ってやる。だから泣くな」
「ありがと…キルア…」
なぁ、セーラ。
あいつの為にお前は何回泣いた?
あんな男の為に、流す涙が勿体ないよ。
俺ならお前を絶対泣かさない。
「待ってな…すぐ帰る」
俺はそのまま街のある酒場に向かった。
真昼間の酒場に人気はなく、
カウンターでただ一人飲んでいる客がいた。
「邪魔するよ。
そこのあんた。顔貸してくんない?」
指先に温もりは感じない。
ただ感情のまま、俺の体は動いた。
「ただいま」
部屋に入ると床でうずくまって座るセーラがいた。
涙も枯れて、意気消沈した彼女は呆然と俺を見つめる。
「キルア…怖かった…」
「怖い思いさせたな。もう一人にしないから」
そう言って俺はセーラを抱き締めた。
俺はセーラが好きだ。
出会った頃からずっと。
友達もいなかった寂しい俺に優しく
声をかけてくれた唯一の人間がセーラだった。
セーラのおかげで俺は笑顔も温もりも
生きる希望も持てるようになった。
でもお前があの男に苦しめられている姿を
見るたび心が締め付けられて痛かった。
もうあんなお前を見てられない。
「あれ…キルア。血が付いてる。
怪我してるの…?」
「お前のことを思ったら、こんなのどうってことない…。
大丈夫だから。お前はずっとここにいていいよ」
力いっぱいお前を抱き締める。
彼女の腕は俺を抱き返してはくれないけど、
それでもいい。
お前があいつを忘れられなくても、
お前の側にいれれば、俺は、それで充分だ。
この血は俺のじゃない。
そしてあの男は二度とセーラの前に
現れることはないだろう。
今じゃ、この世界のどこにも存在しない。
過去の人間だ。
願わくば…いつかあいつを忘れてほしい。
そして、俺だけを見て。
キミヲナカサナイカラ…
1/1ページ