9月6日
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「セーラ。どこいくの?」
本を片手にシズクは私を呼び止めた。
眼鏡のレンズの向こう側には少し不安げな瞳が覗いている。
セーラ「少し出かけてくる」
シズク「夜には出発するよ」
セーラ「分かってる」
引き止めるシズクは私から何を感じ取ったのだろう。
マチ「行かせてやりな、シズク」
シズク「マチ…」
マチ「時間までには、戻ってきなよ」
セーラ「分かった」
マチはきっと気付いてる。
私の心の色を。
いつものあの場所へ。
アジトから足を進めた。
きっと誰も分かってくれない。
俺たちの関係は決して許されるものではない。
でも俺たちはまたあの場所へと導かれていく。
夕日が優しく照らす丘。
その場所にあいつはいた。
いつもみたいに膝に顔を埋め、遠くを見つめる彼女は
どこか寂しげで俺は後ろから包み込んでやった。
「先、来てたんだ」
「うん。思ったより早く着いた」
私は幻影旅団の一員。
それに対し、彼は鎖野郎の仲間。
二日前、パクノダが鎖野郎に殺された。
衝撃的な出来事に私はしばらく水さえも満足に喉を通らなかった。
さらに団長の離脱。
頭を失った私たちは激しく動揺した。
「キルア」
「なに?」
パクが死んだこと、彼に伝えるべきか。
パクが死ぬ直前に伝えてくれた銃弾(メッセージ)。
そのメッセージにはキルアや彼の親友に対する
感謝の気持ちが込められていた。
キルアたちの思いやりを踏みにじることが私にはやっぱり出来ない。
「私たち、ホームに戻ることになった」
「え…?」
「だから、さよならね」
俺たちが出会ったのはヨークシンで
オークションが開催されてすぐのこと。
通りで腕相撲で条件競売をしているとき
偶然通りかかった彼女に俺が一目惚れをした。
その時は彼女が蜘蛛の一員だなんて、
思いもしなかったから、俺はセーラと
アポイントメントを取り、数回会うことが出来た。
だけど現実は残酷で、旅団のメンバーを尾行し、
アジトに拉致られた時、俺は衝撃を受けた。
惚れた女がそこにいたから。
まさか、彼女が(彼が)、敵だったなんて…
真実を知ったタイミングはお互い違ったものの
二人の関係は急速に崩れていった。
だけど崩れる程に何故か互いの気持ちは
膨れ上がって、毎日彼のことを考えるようになった。
旅団メンバーとしての私でキルアに遭遇
する度、心が引き裂かれそうだった。
それに加え、パクの死。
団長の失踪。
鎖野郎への憎しみ。
キルアへの愛おしさ。
その全ての要因が私を苦しめた。
でもそれからももう解放されるの。
「団長がいなくなったからか?」
「それもあるよ。
一段落ついたし、故郷で体勢を立て直すつもり。
鎖野郎には言わないでね」
「もちろん」
この関係を俺は誰にも言わない。
バレてしまえば、俺たちは、終わる。
クラピカに対する最も惨い裏切りだ。
現実は残酷だと二人を引き合わせた運命を何度も呪った。
でももう遅い。
俺はもうセーラを死ぬほど愛してしまった。
「今度はいつ会える?」
「だから、さよならだってば。
もう会えない」
「駄目。行かせない」
彼の温かい手が私の腕を掴み、引き寄せる。
彼の腕の中は私を浄化して、素直にさせてしまう。
彼から離れたくないと、思わせてしまう。
「やめて。もう私に関わらないで」
「なんで。セーラは俺と会えなくなってもいいわけ?」
「あなたが鎖野郎の仲間だから…!!」
そう。
私たちの敵だから。
「敵なのよ。私が蜘蛛である以上…
あなたの側には居られない」
セーラの瞳にはうっすら涙が滲んでいる。
分かってるさ。
お前が辛いことなんて。
「旅団、抜けてくれよ」
キルアのバカ。
そんなこと出来るわけないでしょ…。
その反面真剣な彼の目に揺らぐ自分がいる。
知り合ってまだほんの数日、
数える程度しか会えていないのに
なんでこんなにあなたが好きなの…?
本当は旅団を裏切り、彼と、
どこか遠くへ、逃げてしまいたい。
神様。
なんで私たちを引き合わせたの?
「やめて!!」
セーラは俺から離れようとする。
「蜘蛛への裏切りは、自身の死。
それに私の側にいれば、あなたも狙われるのよ!」
「いいよ。お前と一緒に居られるなら」
人の気も知らないで…。
抱き締めないで…離れられなくなっちゃうじゃない…。
彼の力強い腕に抱かれながら
私は少しの間目を閉じた。
キルアとの楽しかった日々。
愛し合った時間。
思い出した純粋な心。
殺めた数だけ私の心は荒んでいったけど、
彼と会う時だけは真っ白な自分でいられた。
ありがとう。キルア。
セーラの方から俺に口付けをくれた。
優しくてしょっぱい唇が語る。
「アリガトウ」と「サヨナラ」。
そして彼女の苦悩や痛みが伝わってくる。
そうなんだ。
この愛が彼女を苦しめてるんだってこと。
今分かったよ。
セーラを愛しているなら、
苦しめるのなら、
もっと早く
解放してやるべきだった。
離れた唇から言葉は出せなかった。
だけど伝わったと思う。
俺の思い。そして愛を。
なぜかお互い笑顔だった。
別れだなんて感じさせないくらい。
「もしまた会えたら…」
「ああ。また会えたら…」
もう一度…。
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