届カヌ想イ
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セーラの部屋を訪ねたが、
あいつの姿はなかった。
こんな朝早くからいないってことは…
行き先は大体分かっていたから
俺はそちらへ足を進める。
海が見渡せる海岸。
砂浜で景色を眺める少女は俺の想い人。
波打ち際に座り、服が濡れているにも関わらず
彼女はそこから離れない。
ただ思いにふけるように波を感じていた。
「ここにいたのか」
「キルア…」
「寒くないか?」
着ていた上着をかけてやると、セーラは
それをギュッと抱き締めた。
「泣いてんの?」
「泣いてない」
満面の笑みでこちらに振り向く彼女の表情に
胸が締め付けられる。
無理に感情を押し殺しているように見えたから。
二年前、セーラの恋人はこの海で死んだ。
溺れている子どもを助けようとして、
巻き込まれたらしい。
海は元に戻ってもそいつはいつまでも
ここには戻ってこない。
「綺麗だね。この景色が好き過ぎてまた来ちゃった」
違うだろ。
あいつと来ていたこの海が忘れられなくて、
ここに来るんだろ?
「セーラ…」
俺は小さくうずくまるセーラの体を
後ろから強く抱き締めた。
水を含んで冷たい体は俺の灰色の服を
みるみる黒に変えていく。
俺の気持ちは彼女に伝えてある。
だけど、返事は、ずっと返ってこない。
セーラ…
いつかお前もこの波に
さらわれていきそうで怖いよ。
過去を忘れられないのは分かる。
昔を思い出して泣いてもいいよ。
俺が支えるから、俺が傍にいるから、
どうか、このまま、
セーラのこと好きでいさせて…。
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