朱色を灰色に染めて
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勝手口から誰にもバレぬようこっそり抜け出した。
壁に背中を預け、ポケットに手を伸ばす。
そして忍ばせた煙草に火をつけて、
暗くなりかけた空を仰いだ。
煙を吐くと朱色の空が灰色に滲んで、
なぜだか美しく感じた。
イライラのはけ口を探して、足元の石ころを蹴飛ばした。
残念にも一瞬で吸い尽くしてしまった煙草を
灰皿でもみ消して、更にもう一本と口に咥える。
「あー。またサボってるしー」
勝手口から声がした。
俺はこの声の正体が瞬時で分かってしまう。
「何回一服するのよ。店長に言いつけちゃうんだから」
「分かってるよ。セーラ」
ちらっと目線だけそちらに向け、ライターを弾いた。
「吸いすぎ。体に悪いよ?」
「ちょ…やめろって」
火をつける前にあいつにライターを取り上げられてしまった。
ほんと手厳しい俺の彼女。
セーラはこのバイト先(ファミレス)知り合った。
セーラは接客。俺は厨房。
俺より後に入ってきたくせに
すっげー偉そうなんだよね。
「禁煙するって言った」
「するよ。明日から」
「明日になったらまた次の日って言うから」
「あー、もういいって」
付き合い始めてまだ数ヶ月。
セーラのことを知るほどに愛おしくなる。
どんどんお前を好きになって。
それに伴って独占欲や嫉妬心が強まっていく。
「さっき客と何話してたの?」
「え?どこに住んでるのって。てか、見てたの?」
「答えたのかよ」
「言わないよ。怖いもん」
セーラはモテるから俺、いつも余裕ないんだ。
「彼氏いるのか聞かれた」
「…なんて答えた」
「さぁねーって」
「そこはいるって返すところだろっ」
「だって個人情報だしー」
ライターの火で遊びながら、彼女は笑った。
俺は毎日こんな気持ちなのに、
お前はいつも余裕綽々で。
少し腹が立った。
「ん…っ」
苛立ちをキスでぶつけてみる。
無理矢理あいつの手を引っ張って、体を壁へ押し付けた。
セーラの口の端から漏れたこの声も全部。
取り込んでやりたい。独り占めしたい。
なんてさ。
ははっ…。
かっちょ悪ぃー…。
「煙草臭い」
「勘弁」
「でも…もう1回…」
「いいよ」
首に絡んできた彼女の腕を受け入れて、そして髪に指を絡めた。
分かってるよ。
どんだけ妬いたって髪も瞳もこの唇も、
全て、俺のものだって。
分かってる。
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