Rain
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雷鳴が響く。
冷たい雨は容赦なく俺たちの体を打ち付け、服を濡らした。
俺はセーラを近くにあった店の軒下に引き込んだ。
「わー…ビチョビチョ…」
「急に降ってきたな」
そう言って何気なくセーラの方を向いて驚いた。
雨であいつの服は透けて、下着までくっきり見えていたから。
「バカッ!///」
「なっ、なに!?」
俺は慌てて自分の着ていた上着をセーラに押し付けた。
当然それも濡れていたけど、目隠しにはなるだろう。
「それ…持ってろよ」
「なんでっ?…意味分かんない」
セーラはぶーたれながら渋々俺の上着を抱き締めた。
「通り雨だろ。すぐやむよ」
俺はその場にしゃがみこむ。
少しでも彼女から離れたくて。
濡れた服からはお互いの匂いが漂って、俺の鼻を刺激する。
おまけに鼓動まであいつに伝わってしまいそうで怖かった。
「ごめんね、キルア」
「なにが?」
「私がこんな日に頼み事なんてしたから…」
「いいよ。買った物は濡れてない?」
「うん。平気」
俺はセーラから頼まれた。
ゴンの誕生日プレゼントを一緒に選んでほしいと。
セーラはずっと前からゴンに想いを寄せていて、
これを機にゴンに告白するらしい。
「ゴン…この服気に入ってくれるかな」
「大丈夫。きっと喜ぶよ。
あいつずっと同じ服着てんもんなー」
俺は切ない気持ちを誤魔化すように笑う。
「キルア、ありがとう」
「ん?」
「キルアがいなくちゃ決められなかった。感謝してるのよ?」
「へへっ…」
セーラからの恋愛相談に乗っているうちに
俺は自分の気持ちにまで気付いてしまった。
『俺はセーラが好きだ』と。
彼女を励ます度、何度俺は傷付いただろう。
何度セーラを抱き締めたかっただろう。
「はい!これ、お礼っ」
「これ…」
「洋服だよ。キルアに似合うと思って買ったの。
私のセンスだから気に入るか自信ないんだけど…」
「いや…すっげー…嬉しい」
やめてくれ。
想いが溢れそうだ。
これ以上、俺を…
苦しめんなよ。
「あ……雨がやんだわ…」
雲の隙間から太陽が覗き、辺りを明るく照らし始める。
少しぬかるんだ地面が靴を黒く汚した。
「行くぞ!」
俺はセーラの手を引いてまた歩き出す。
振り返らずに。
彼女の笑い声に耳を傾けながら。
俺は思った。
「この服を笑顔であいつの前で着れるかな」とか。
「ゴンへの告白は成功するかな」とか。
そんなことじゃなく、
ただ、「お前が好きだ」ということを。
もう雨はやんだはずなのに、俺の頬には雫が落ちて。
拭っても拭っても拭いきれないから、
諦めてそのまま前を向いて歩いた。
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