野生の勘
──その後、二人が飛空艇に戻って来たのは日がとっぷり暮れてからだった。
「ガウったら傷男とこんな時間までどこほっつき歩いてたのよ!?」
「セッツァー、ガウを変なとこ連れてってくれた。ブラックジャックにあるのと同じやつ、いっぱいのとこ。みんな小さくて丸くて平べったいやつ、いっぱいいっぱい重ねてた」
「それ絶対カジノじゃない!」
「そうだったのか!?でも…」
「もういい!ガウに頼みごとなんてしたあたしが馬鹿だったわ!」
「がう…ごめんな、さい……」
リルムが頭ごなしに叫ぶとガウはしょんぼりと肩を落とし、飛空艇の奥へととぼとぼ歩いて行った。
「それに傷男も何でガウをカジノになんて連れてくのよ!?」
ガウがいなくなると、リルムの怒りの矛先は今度はセッツァーへと向かう。
「あー…ガウの奴、妙なところで勘が良いからよ、それがギャンブルでも通用すんのか試してみたかったんだよ」
「ふーん…ほんっと傷男の頭の中ってそれしかないのね…で?それで負けを取り返そうとこんな時間までやってたって訳かしら?」
「文句言うのはこれを受けとってからにしてくれ」
セッツァーは持っていた道具袋から何かを取り出し、それをリルムに向かって投げる。
綺麗な包装の袋に包まれ、上には可愛らしいピンク色のリボンが着いていた。
「なにこれ?」
「いいから開けてみろ」
リルムが包装を解くと、中には真新しい上質な筆と絵の具が入っていた。
「これ…あたしが欲しかった画材セットじゃない!?どうしてこんな高価な物…」
「ガウがお前にって買ったんだよ」
「ガウが?」
「実はあいつの勘が当たり過ぎてな…一人だったら丸一年は遊んで暮らせるほどの金が手に入った」
「えっ……えええっ!!?嘘でしょ!?」
「いや、マジで百発百中だったんだよ…最も、本人は賭けのルールを知らねぇから自分が何やったか自覚はないけどな」
「そんなに凄かったの?」
「ああ…凄かった。あんな才能あるのに埋もれさすのは勿体ねぇ…出来れば俺の手で一流のギャンブラーに育ててやりたいとこだぜ」
「ちょっと!?ガウをギャンブルの道に引きずり込んだりしたらあたしが許さないんだからね!」
「冗談だよ………………半分は…」
「半分?」
「あ、いや……ゴホンッ!まあそんで、その画材買った経緯だけどな…」
つい漏れた本音を誤魔化すように、セッツァーは数十分前の事を語りだした。
「よーしガウ。よくやってくれたぜ」
大金を手にし、セッツァーは上機嫌でガウの頭を撫でてやる。
「ガウ?ガウガウ!ガウえらいのか?えらいのか?」
「おう偉い偉い」
「ガウ~…もっとなでろ!ガウえらいならもっとなでろ!!」
「へいへい。さ~て、かなりの金が手に入ったし、これでちょいと酒でも買うか」
「ガウッ!?駄目だぞセッツァー!」
「おっと…悪かったなガウ。これはお前の金だったな」
「違うぞ。これガウのお金じゃない」
「なに?」
「これみんなのお金、みんなのために使う!だからみんなでそーだんして使う!」
「あー…分かった分かった。そんじゃま、そろそろ夕方だし戻るとすっか」
「ガウッ!」
そうして二人は飛空艇の方へと戻るべく歩き出した。
「……あ」
その道中、急にガウがある雑貨屋の前で止まる。
「どうした、ガウ?」
「ガウ~」
ガウの見つめるショーウインドーの中には筆と絵の具が置いてあった。
「これって確かリルムが前に欲しがってたやつだよな…買うか?」
「ガウ…でも勝手にお金使っちゃ駄目…でもリルム喜ぶ……う~…」
「絵の具買うぐらいの金使っても平気だろうが」
「ウ?そうなのか?」
「そーだよ、むしろこれくらいのものなら手に抱えきれないくらい買えるぜ」
「はう……手で持てないくらい…」
数のあまりの多さにガウは困惑する。
「で、買うのか?買わないのか?どっちだ?」
「買う!」
「よし、決まりだな。これを土産にすれば少しはあいつも機嫌直すだろ」
「ガウ~!リルムよろこぶ!ガウもうれしい!」
「……と、まぁ。そういう感じだ」
セッツァーが話し終わると、リルムはうつむいてしまった。
(どうしよう…ガウはあたしのために買ってくれたのに、あんな酷いこと言っちゃった…なんて言えば許してくれるだろ…)
「……ぐだぐだ悩んでないでさっさと謝れば済む話だろうが。アイツはそう簡単に人を嫌いになる奴じゃないだろ?」
「!……う、うるさいよ傷男!そんな事判ってるもん!」
「そんだけ生意気な口きければ平気だな。心配して損したぜ」
「生意気って何さ!そんな事言ってると似顔絵描くぞ!!」
「おっと、そいつは勘弁」
セッツァーは苦笑いし、降参とばかりに両手を上げた。
「全くもう……それじゃあたし謝ってくるから」
リルムはガウの行った方へと駆け出す。が、すぐに足を止め、振り返る。
「あ、そうそう傷男」
「あ?」
「絵の具と筆と…あと慰めてくれてありがと……それだけ!じゃあね!」
照れ臭そうにそう言うと、リルムはまた走っていった。
「ありがとうね。か…まさかあのガキに言われるとは思っても見なかったぜ。さーてと、そんじゃ俺は手に入れた大金の処遇をどうするか他のやつらに相談しに行くとするか」
くくっと、愉快そうにセッツァーは肩を揺らして笑うと、リルム達とは反対の方へと歩いて行った。
「ガウ~?どこ~?」
リルムは必死にガウを呼ぶ。
「………ウ、ウ…」
「ガウ!そっちに居るの!?」
僅かな声を頼りにエンジンルームに行ってみると、ガウが隅っこの方でうずくまっていた。
「ガウ!」
「!!」
「ガウ!お願いだから待って!」
「ガ…ウウ…」
リルムの声に驚き、ガウは奥へと逃げようとするも、必死に呼び止められ、ためいがちにその場に留まった。
「ウウ…ガウ、リルムとの約束守れなかった。ガウ悪いやつ」
「そうじゃないの…ガウ!本当にごめん!!」
「ガウ…?何でリルム、あやまる?」
いきなり謝られたガウは何の事だか分からず目をぱちくりさせる。
「絵の具…ありがとう。わざわざあたしのために買ってくれたんだよね…それなのに怒鳴ったりして、本当にごめんね…」
「リルム、もう怒ってないのか?」
「怒ってなんかいないよ。むしろあたしが謝らなきゃいけないのに…」
「リルム、ガウにあやまらなくていい!」
「えっ?」
「ガウ、リルムに悲しい顔してほしくない。ガウ、みんなにいつも笑っていてほしい。だからリルムにも笑っていてほしい!」
ガウはにかっと満遍の笑みを浮かべる。
「……へへ、ありがとう…ガウ…」
「ガウガウ~!!リルム笑った!ガウうれしい!」
はにかむリルムの顔を見て、ガウは跳び跳ねて喜んだ。
「そうだ!折角だからこの絵の具でガウ描いてあげるね」
「ガウ~…本物になったりしないか?」
「大丈夫大丈夫」
「そうなのか?じゃあたのむぞ!」
「オッケー!それじゃあこんな薄暗いとこ早く出てみんなのところに行こ!」
「ガウッ!!」
リルムに差し出された手を取り、ガウは立ち上がってエンジンルームを後にする。
その後、二人の笑い声は、共に眠りにつく時間になるまでずっとずっと絶えなかったらしい。
「ガウったら傷男とこんな時間までどこほっつき歩いてたのよ!?」
「セッツァー、ガウを変なとこ連れてってくれた。ブラックジャックにあるのと同じやつ、いっぱいのとこ。みんな小さくて丸くて平べったいやつ、いっぱいいっぱい重ねてた」
「それ絶対カジノじゃない!」
「そうだったのか!?でも…」
「もういい!ガウに頼みごとなんてしたあたしが馬鹿だったわ!」
「がう…ごめんな、さい……」
リルムが頭ごなしに叫ぶとガウはしょんぼりと肩を落とし、飛空艇の奥へととぼとぼ歩いて行った。
「それに傷男も何でガウをカジノになんて連れてくのよ!?」
ガウがいなくなると、リルムの怒りの矛先は今度はセッツァーへと向かう。
「あー…ガウの奴、妙なところで勘が良いからよ、それがギャンブルでも通用すんのか試してみたかったんだよ」
「ふーん…ほんっと傷男の頭の中ってそれしかないのね…で?それで負けを取り返そうとこんな時間までやってたって訳かしら?」
「文句言うのはこれを受けとってからにしてくれ」
セッツァーは持っていた道具袋から何かを取り出し、それをリルムに向かって投げる。
綺麗な包装の袋に包まれ、上には可愛らしいピンク色のリボンが着いていた。
「なにこれ?」
「いいから開けてみろ」
リルムが包装を解くと、中には真新しい上質な筆と絵の具が入っていた。
「これ…あたしが欲しかった画材セットじゃない!?どうしてこんな高価な物…」
「ガウがお前にって買ったんだよ」
「ガウが?」
「実はあいつの勘が当たり過ぎてな…一人だったら丸一年は遊んで暮らせるほどの金が手に入った」
「えっ……えええっ!!?嘘でしょ!?」
「いや、マジで百発百中だったんだよ…最も、本人は賭けのルールを知らねぇから自分が何やったか自覚はないけどな」
「そんなに凄かったの?」
「ああ…凄かった。あんな才能あるのに埋もれさすのは勿体ねぇ…出来れば俺の手で一流のギャンブラーに育ててやりたいとこだぜ」
「ちょっと!?ガウをギャンブルの道に引きずり込んだりしたらあたしが許さないんだからね!」
「冗談だよ………………半分は…」
「半分?」
「あ、いや……ゴホンッ!まあそんで、その画材買った経緯だけどな…」
つい漏れた本音を誤魔化すように、セッツァーは数十分前の事を語りだした。
「よーしガウ。よくやってくれたぜ」
大金を手にし、セッツァーは上機嫌でガウの頭を撫でてやる。
「ガウ?ガウガウ!ガウえらいのか?えらいのか?」
「おう偉い偉い」
「ガウ~…もっとなでろ!ガウえらいならもっとなでろ!!」
「へいへい。さ~て、かなりの金が手に入ったし、これでちょいと酒でも買うか」
「ガウッ!?駄目だぞセッツァー!」
「おっと…悪かったなガウ。これはお前の金だったな」
「違うぞ。これガウのお金じゃない」
「なに?」
「これみんなのお金、みんなのために使う!だからみんなでそーだんして使う!」
「あー…分かった分かった。そんじゃま、そろそろ夕方だし戻るとすっか」
「ガウッ!」
そうして二人は飛空艇の方へと戻るべく歩き出した。
「……あ」
その道中、急にガウがある雑貨屋の前で止まる。
「どうした、ガウ?」
「ガウ~」
ガウの見つめるショーウインドーの中には筆と絵の具が置いてあった。
「これって確かリルムが前に欲しがってたやつだよな…買うか?」
「ガウ…でも勝手にお金使っちゃ駄目…でもリルム喜ぶ……う~…」
「絵の具買うぐらいの金使っても平気だろうが」
「ウ?そうなのか?」
「そーだよ、むしろこれくらいのものなら手に抱えきれないくらい買えるぜ」
「はう……手で持てないくらい…」
数のあまりの多さにガウは困惑する。
「で、買うのか?買わないのか?どっちだ?」
「買う!」
「よし、決まりだな。これを土産にすれば少しはあいつも機嫌直すだろ」
「ガウ~!リルムよろこぶ!ガウもうれしい!」
「……と、まぁ。そういう感じだ」
セッツァーが話し終わると、リルムはうつむいてしまった。
(どうしよう…ガウはあたしのために買ってくれたのに、あんな酷いこと言っちゃった…なんて言えば許してくれるだろ…)
「……ぐだぐだ悩んでないでさっさと謝れば済む話だろうが。アイツはそう簡単に人を嫌いになる奴じゃないだろ?」
「!……う、うるさいよ傷男!そんな事判ってるもん!」
「そんだけ生意気な口きければ平気だな。心配して損したぜ」
「生意気って何さ!そんな事言ってると似顔絵描くぞ!!」
「おっと、そいつは勘弁」
セッツァーは苦笑いし、降参とばかりに両手を上げた。
「全くもう……それじゃあたし謝ってくるから」
リルムはガウの行った方へと駆け出す。が、すぐに足を止め、振り返る。
「あ、そうそう傷男」
「あ?」
「絵の具と筆と…あと慰めてくれてありがと……それだけ!じゃあね!」
照れ臭そうにそう言うと、リルムはまた走っていった。
「ありがとうね。か…まさかあのガキに言われるとは思っても見なかったぜ。さーてと、そんじゃ俺は手に入れた大金の処遇をどうするか他のやつらに相談しに行くとするか」
くくっと、愉快そうにセッツァーは肩を揺らして笑うと、リルム達とは反対の方へと歩いて行った。
「ガウ~?どこ~?」
リルムは必死にガウを呼ぶ。
「………ウ、ウ…」
「ガウ!そっちに居るの!?」
僅かな声を頼りにエンジンルームに行ってみると、ガウが隅っこの方でうずくまっていた。
「ガウ!」
「!!」
「ガウ!お願いだから待って!」
「ガ…ウウ…」
リルムの声に驚き、ガウは奥へと逃げようとするも、必死に呼び止められ、ためいがちにその場に留まった。
「ウウ…ガウ、リルムとの約束守れなかった。ガウ悪いやつ」
「そうじゃないの…ガウ!本当にごめん!!」
「ガウ…?何でリルム、あやまる?」
いきなり謝られたガウは何の事だか分からず目をぱちくりさせる。
「絵の具…ありがとう。わざわざあたしのために買ってくれたんだよね…それなのに怒鳴ったりして、本当にごめんね…」
「リルム、もう怒ってないのか?」
「怒ってなんかいないよ。むしろあたしが謝らなきゃいけないのに…」
「リルム、ガウにあやまらなくていい!」
「えっ?」
「ガウ、リルムに悲しい顔してほしくない。ガウ、みんなにいつも笑っていてほしい。だからリルムにも笑っていてほしい!」
ガウはにかっと満遍の笑みを浮かべる。
「……へへ、ありがとう…ガウ…」
「ガウガウ~!!リルム笑った!ガウうれしい!」
はにかむリルムの顔を見て、ガウは跳び跳ねて喜んだ。
「そうだ!折角だからこの絵の具でガウ描いてあげるね」
「ガウ~…本物になったりしないか?」
「大丈夫大丈夫」
「そうなのか?じゃあたのむぞ!」
「オッケー!それじゃあこんな薄暗いとこ早く出てみんなのところに行こ!」
「ガウッ!!」
リルムに差し出された手を取り、ガウは立ち上がってエンジンルームを後にする。
その後、二人の笑い声は、共に眠りにつく時間になるまでずっとずっと絶えなかったらしい。
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