れっつ海水浴!
「あははっ!あ~楽し~!」
「俺は水かけられてるだけで楽しくないんだけどな…」
きゃらきゃらと笑うリルムに、全身びしょ濡れになったマッシュがしょぼくれながら言った。
「あら?そういえばシャドウとゴゴは?見てないんだけれど」
ティナが辺りをきょろきょろと見回す。
「う~ん…俺達以外にも沢山人いるから紛れてるのかも」
「確かに…二人の素顔なんて見た事無いから、案外そこら辺にいても気付かないかもね」
「ガウ~…なぁなぁリルム。ストラゴスもいないぞ?」
「えっ!?おじいちゃんどこ行ったんだろ…」
「うぉーいリルム~!ワシャここじゃーい!」
声のする方を見てみれば、そこには意気揚々とサーフィンをするするストラゴスの姿があった。
「ちょっ…ジジイ!?何で波乗りなんかしてんのさ!!?」
「このワシをなめるんじゃないゾイ!これでも昔はよくやってたんじゃ!!」
「かっけぇ~…なぁストラゴス!俺にも教えてくれないか?」
「ふぉっふぉっふぉっ!宜しい!!言っておくがワシのレッスンは厳しいゾイ?」
「もちろんそれは承知の上だぜ!!うーしっ!海の家行ってサーフボード借りてこよっと!」
「あたしは休憩しよ~っと。はしゃぎ過ぎてちょっと疲れちゃったから」
「ガウもガウも!」
「私はちょっとあそこの露店でお土産になりそうなものがあるか見てくるわ」
「じゃあ私は少しあちらの方を泳いでくるから」
「分かった。ティナもセリスもまた後でな」
「ええ」
「マッシュもサーフィン頑張ってね」
そう言うとセリスは海に、ティナは露店に、マッシュと子供達は海の家へとそれぞれ歩いて行った。
「ウ~…冷たくてうまい」
「舌に染み入るクポ~」
海の家にはかき氷を食べるウーマロとモグがいた。
「あ、二人ともここにいたんだね」
「クポ!リルム達も休みにきたクポか?」
「あたしとガウはね。筋肉男はジジイにサーフィン習うみたい」
「ストラゴスがサーフィン…クポ?」
「似合わないよね~」
「似合わないというよりも…あの年で出来る事に驚くクポ」
「あはは…まぁヒドゥン狩りなんてするくらいだし」
リルムは苦笑いした。
「うーん…これでいいかな…ストラゴスー!そんじゃレッスン頼むぜ」
マッシュは一番大きなサーフボードを抱えると、ストラゴスの元へ向かった。
「ではゆくゾイ!」
「へへっ…すぐに上手くなって追い越してやるぜ!」
「ふふん…甘いゾイ。サーファーとしての年期というものをとくと見るが良い!」
こうしてストラゴスによるサーフィン講座が始まった。
そしてその数分後──
「うおりゃぁぁぁーー!!」
そこにはストラゴスよりも遥かに上手く波を乗りこなすマッシュの姿があった。
「ワ…ワシより上手くなるとは…しかもこんな短期間で…」
「こんなんダンカン師匠の厳しい修業に比べたら楽勝楽勝!」
「わー…面目丸つぶれだね。まぁ年寄りと20代後半じゃ体力に差が有り過ぎるし仕方ないか」
「ガウガウ!マッシュすごいすごい!!」
リルムは焼きトウモロコシを、ガウはイカ焼きを頬張りながら言った。
「ふふ…中々サマになってるじゃないかマッシュ…」
エドガーは体に海草がついたままカメラをパシャパシャと押していた。
「おいっ!?それ水ん中入ったんじゃねーのかよ!!?」
「ハッハッハ!残念だったなロック!これは元から防水仕様だ!!」
「何だと!?」
「それだけじゃないぞ?30倍までなら綺麗にズーム出来る上に夜景モードで暗い場所でも撮影可能!動きの激しい被写体でも完全に写せるブレ完全補修のハイテク機能付きだ!」
「アホかお前は!!どんだけ金と技術使ってんだよ!?」
ロックはまたエドガーから再びカメラを奪い、さっきよりも遠くに投げようとする。
「させるかぁぁーー!!!」
しかし、鬼の形相でエドガーが飛び掛かってきた。
「うおぉぉぉーー!!?」
「カメラ返せこの泥棒がぁぁぁーーー!!!!」
「誰が泥棒だ誰が!?つか返せるか!!お前必死過ぎてこえーんだよーー!!!!!」
こうしてバカップルも驚くような全速力の浜辺の追い掛けっこが始まった。
「おっ!兄貴とロック追い掛けっこしてんのか。楽しそうだな~」
マッシュは波の上からそんな二人の姿を発見し、呑気に呟いたのであった。
一方その頃──
「なぁ姉ちゃん、俺達とどっか行かない?」
「え…あの…」
露店での買い物を済ませたティナは数人の男に囲まれていた。
「な?行こうぜ?俺達が良いところに連れてってやるからよ」
一人の男がティナの腕を掴む。
「きゃっ!?は…離して!」
「怖がらなくてもだーいじょぶだって!」
「そーそ。俺達に付いてくりゃなーんも問題ないない!」
「さ、行こう行こう」
「ちょっと貴方達!ティナに何しているの!?」
「セリス…!」
無理矢理連れていかれそうになったその時、ティナの声を聞き付けたセリスが走って来た。
「お~これまた美人…なぁ、あんたも俺達と遊ば…ブゲッ!!?」
セリスに不用意に近寄り話し掛けようとした男が顎を殴られ、砂の上にドサッと倒れ込む。
「こ…このアマ!」
「何しやがんだ!!」
「…ブリザラ」
「へぶっ!!?」
怒った男達がセリスに向かって行くが、一番先頭にいた男がセリスが作り出した氷の壁に衝突する。
そのまま男が滑り落ちるように地に伏せると、他の男達は途端に竦み上がった。
「な…ななななな…!?」
「こ、こいつぁ…魔法ってやつか……!?」
「‥…お前達…この真夏に凍りつきたいのか?」
セリスは恐怖で固まる男達の方へ視線を移すと、シヴァもびっくりな冷笑を浮かべ、将軍時代の口調で呟いた。
「ひいいいっ!!?」
「ごっ…ごごごご…」
「ごめんなさーーい!!」
男達は倒れた仲間を担いで一目散に逃げて行った。
「大丈夫?ティナ」
「ええ、ありがとうセリス…」
「いいのよ。それよりあっちにゴムボートあったんだけど、二人で一緒に乗らない?」
「わぁ…楽しそう!早速行きましょう」
二人はすっかり気分を入れ替えると、るんるん気分でゴムボートを借りに行った。
──それから10分程経った頃。
「ふ~…いやー楽しかったぜ!」
「お帰り筋肉男」
「おう!ただいま」
「はぁ~…ワシの50年間は一体……」
「ジジイはショックそうだね…まぁこれでも食べて元気出しなよ」
すっかり意気消沈しながら戻ってきたストラゴスに、リルムは食べようとしていた二本目の焼きトウモロコシを渡す。
「うう…有り難い。良い孫を持ってワシャ幸せゾイ…」
ストラゴスはそれを受け取ると、むしゃむしゃと齧った。
「お前らここに揃ってたか…おい、セリスとティナ知らないか?」
「知らないけど…どうしたのさ傷男?」
「ゴムボートに乗ってるらしいんだが…どこ探しても見つからなくてよ…もしかしてこっちに戻ってるんじゃねえかと思ったんだが…」
「えっ!?」
「ここに居ないなら、もしかして沖まで行った可能性も…」
「そりゃまずいゾイ…早く探し出さんと!」
「あたしも捜す!」
「ガウも!」
「いや、リルムとガウはカイエンを呼んできてくれ」
「はう!」
「分かった!筋肉男達も無事見つけたら早く知らせてね」
「おう!任せとけ!……あ、そうだ。おーい!!兄貴とロックも手伝っ…」
「待てと言っているだろーーー!!!!!」
「いい加減諦めろつってんだよーーー!!!!ヘイスト掛けてまで追い掛けてくるんじゃねぇぇぇーーー!!!!!」
「………駄目そうだなこりゃ」
「あいつらは放っといて俺らだけで捜すぞ」
「ごめんクポ…モグ達も捜せればいいクポが…この暑さじゃ無理クポ…」
「ウ~…」
「なーに気にすんな。二人はちゃんと見つけるさ。それじゃ行ってくるぜ!」
「ウー…頑張れ」
「気を付けてクポ~!」
俯くモグとウーマロに手を振られながら、一同は海の家を後にした。
「ティナー!セリスー!」
「おーい!!」
セッツァーは浜辺を、マッシュは小型のヨットを借りて海を捜索する。
「はぁ…一体どこにいるんだ?」
「セッツァー殿!」
「カイエン!二人は見つかったか?」
「いや…セリス殿がティナ殿に絡んでいた青年を撃退したという位しか…」
「そうか…」
その時だった──
「キャーーー!!?」
「こっちに来ないでー!!」
ティナやセリスと思わしき叫び声が聞こえたのは。
「今の声は…!」
「もしや…」
セッツァーとカイエンが声のした方に目を凝らすと、遥か彼方にゴムボートに乗った二人の姿が見えた。
その近くにうろついていた数匹のサメが、どんどんゴムボートとの距離を縮めてゆく。
「ありゃサメか…!?おーいマッシュー!早く行ってくれ!!」
「言われ無くても分かってるさ!!」
マッシュはすでに救助に向かっていた。だがなにぶん距離がある上に、風があまり安定していないせいでヨットが思うように進まない。
「…っくそ!間に合わねぇ!」
マッシュがそう呟いた次の瞬間。
「待てって言っとるだろがぁぁぁーーー!!!!!」
「いい加減諦めろぉぉぉーーー!!!!」
「うおわっ!!?」
追い掛けっこをしていたエドガーとロックがマッシュの横を超高速で通過し、ティナ達の乗るボートの周りをグルグルと何周か回ると、また砂浜の方へと戻っていった。
「二人とも何で水面歩いてんだよ!?どんだけ高速で走ってんだ!!?」
マッシュのツッコミをよそに、エドガーとロックに踏みつけられたサメが水面にぷかぷかと浮かんできた。
「……」
マッシュは暫くそれをじっと見つめていた。
──それから、数十分後。
「ああ怖かった…」
「ありがとうねエドガー、ロック」
無事救助されたティナとセリスは二人にお礼を言った。
「私はただアイツを追い掛けてただけなんだが…」
「俺もただコイツに追い掛けられてただけなんだが…」
「追い掛けっこで水の上走るなよ」
「いや、その…あまりにも必死でな…」
セッツァーのツッコミにエドガーはばつが悪そうに目をそらす。
「ほれ、返すよ。もう追い掛け回されんのは懲り懲りだしな」
苦々しい表情を浮かべ、ロックはカメラをエドガーに渡した。
「!!…よっし!!ついに取り返した…!」
「兄貴達が走ってた原因はそのカメラか?一体何が写ってるんだ?」
「えっ?いや…その…」
エドガーは口ごもる。
(お前っ…分かってて今返したなっ!?)
(ふっ…本人の前じゃ言うに言えまい……これが俺の仕返しだぜブラコン王め)
「なー兄貴、何が写ってるんだ?」
「み、みんなの遊んでる姿の写真だよ…ほら、旅の思い出にな…」
「流石だぜ兄貴!現像したら絶対俺達にもいくつか焼き増ししてくれよ」
「あ、あぁ…」
(うっわ~…すげぇ苦し紛れな返答だなおい…)
(前半はティナ達の姿も思いっ切り写してあるから、あながち間違いじゃないけどな)
「さーてと、ティナ達も無事だった事だし、夕方までもうちょいみんなで遊ぶか!」
「筋肉男にさんせ~い!」
「ガウもいっぱいメシ食べて腹いっぱい!またいっぱい遊ぶ!」
「私達も今度は砂浜の近くで遊ぶ事にするわ」
「撮影は任せてくれ。レディ達……ごほんっ、みんなの記念写真は私が沢山残しておこう」
「助かるゾイ。リルムの成長の証はなるべく残しておきたいからのう」
「もー!おじいちゃんてば!」
そんなこんなで再び一同は各々騒ぎだし、時間を忘れて楽しむうちに気が付けば夕暮れ時になっていた。
「おーいみんなー!そろそろ切り上げようぜ~」
「今日は冷房完備の部屋を予約してたから涼しいわよ」
「やったクポー!!」
「冷房!冷房!!」
ロックとセリスの言葉にモグとウーマロが大はしゃぎする。
「マッシュ、何を抱えているんだ?」
宿へ行く最中、いつの間にか一行に合流していたシャドウがマッシュが持つ箱を指差した。
「ああこれ?フカヒレ」
「フカヒレ!?」
リルムの顔が途端に明るくなる。
「ガウ…?マッシュ。それ何だ?」
「高級な食材よ」
「ガウッ!?コレ食えるのか!?早くくれ!」
「ちゃんと調理してからな」
「一体どこで貰ったのでござるか?」
「それは秘密」
「ガウガウ~~!マッシュ早く早く!早く宿屋行くー!!」
ガウは待ち切れないといった様子で駆け出す。
「こら、そんな早く走るなよガウ。急がなくてもフカヒレは逃げたりしないんだからな」
「だってガウ、早くフカヒレ食べたい!」
「全く…じゃあちょっと早足で行くとするか」
「ガウ~!!」
ちなみにそのフカヒレが昼間ティナとセリスを襲ったサメのものだとは、誰も気が付かなかったらしい。
「俺は水かけられてるだけで楽しくないんだけどな…」
きゃらきゃらと笑うリルムに、全身びしょ濡れになったマッシュがしょぼくれながら言った。
「あら?そういえばシャドウとゴゴは?見てないんだけれど」
ティナが辺りをきょろきょろと見回す。
「う~ん…俺達以外にも沢山人いるから紛れてるのかも」
「確かに…二人の素顔なんて見た事無いから、案外そこら辺にいても気付かないかもね」
「ガウ~…なぁなぁリルム。ストラゴスもいないぞ?」
「えっ!?おじいちゃんどこ行ったんだろ…」
「うぉーいリルム~!ワシャここじゃーい!」
声のする方を見てみれば、そこには意気揚々とサーフィンをするするストラゴスの姿があった。
「ちょっ…ジジイ!?何で波乗りなんかしてんのさ!!?」
「このワシをなめるんじゃないゾイ!これでも昔はよくやってたんじゃ!!」
「かっけぇ~…なぁストラゴス!俺にも教えてくれないか?」
「ふぉっふぉっふぉっ!宜しい!!言っておくがワシのレッスンは厳しいゾイ?」
「もちろんそれは承知の上だぜ!!うーしっ!海の家行ってサーフボード借りてこよっと!」
「あたしは休憩しよ~っと。はしゃぎ過ぎてちょっと疲れちゃったから」
「ガウもガウも!」
「私はちょっとあそこの露店でお土産になりそうなものがあるか見てくるわ」
「じゃあ私は少しあちらの方を泳いでくるから」
「分かった。ティナもセリスもまた後でな」
「ええ」
「マッシュもサーフィン頑張ってね」
そう言うとセリスは海に、ティナは露店に、マッシュと子供達は海の家へとそれぞれ歩いて行った。
「ウ~…冷たくてうまい」
「舌に染み入るクポ~」
海の家にはかき氷を食べるウーマロとモグがいた。
「あ、二人ともここにいたんだね」
「クポ!リルム達も休みにきたクポか?」
「あたしとガウはね。筋肉男はジジイにサーフィン習うみたい」
「ストラゴスがサーフィン…クポ?」
「似合わないよね~」
「似合わないというよりも…あの年で出来る事に驚くクポ」
「あはは…まぁヒドゥン狩りなんてするくらいだし」
リルムは苦笑いした。
「うーん…これでいいかな…ストラゴスー!そんじゃレッスン頼むぜ」
マッシュは一番大きなサーフボードを抱えると、ストラゴスの元へ向かった。
「ではゆくゾイ!」
「へへっ…すぐに上手くなって追い越してやるぜ!」
「ふふん…甘いゾイ。サーファーとしての年期というものをとくと見るが良い!」
こうしてストラゴスによるサーフィン講座が始まった。
そしてその数分後──
「うおりゃぁぁぁーー!!」
そこにはストラゴスよりも遥かに上手く波を乗りこなすマッシュの姿があった。
「ワ…ワシより上手くなるとは…しかもこんな短期間で…」
「こんなんダンカン師匠の厳しい修業に比べたら楽勝楽勝!」
「わー…面目丸つぶれだね。まぁ年寄りと20代後半じゃ体力に差が有り過ぎるし仕方ないか」
「ガウガウ!マッシュすごいすごい!!」
リルムは焼きトウモロコシを、ガウはイカ焼きを頬張りながら言った。
「ふふ…中々サマになってるじゃないかマッシュ…」
エドガーは体に海草がついたままカメラをパシャパシャと押していた。
「おいっ!?それ水ん中入ったんじゃねーのかよ!!?」
「ハッハッハ!残念だったなロック!これは元から防水仕様だ!!」
「何だと!?」
「それだけじゃないぞ?30倍までなら綺麗にズーム出来る上に夜景モードで暗い場所でも撮影可能!動きの激しい被写体でも完全に写せるブレ完全補修のハイテク機能付きだ!」
「アホかお前は!!どんだけ金と技術使ってんだよ!?」
ロックはまたエドガーから再びカメラを奪い、さっきよりも遠くに投げようとする。
「させるかぁぁーー!!!」
しかし、鬼の形相でエドガーが飛び掛かってきた。
「うおぉぉぉーー!!?」
「カメラ返せこの泥棒がぁぁぁーーー!!!!」
「誰が泥棒だ誰が!?つか返せるか!!お前必死過ぎてこえーんだよーー!!!!!」
こうしてバカップルも驚くような全速力の浜辺の追い掛けっこが始まった。
「おっ!兄貴とロック追い掛けっこしてんのか。楽しそうだな~」
マッシュは波の上からそんな二人の姿を発見し、呑気に呟いたのであった。
一方その頃──
「なぁ姉ちゃん、俺達とどっか行かない?」
「え…あの…」
露店での買い物を済ませたティナは数人の男に囲まれていた。
「な?行こうぜ?俺達が良いところに連れてってやるからよ」
一人の男がティナの腕を掴む。
「きゃっ!?は…離して!」
「怖がらなくてもだーいじょぶだって!」
「そーそ。俺達に付いてくりゃなーんも問題ないない!」
「さ、行こう行こう」
「ちょっと貴方達!ティナに何しているの!?」
「セリス…!」
無理矢理連れていかれそうになったその時、ティナの声を聞き付けたセリスが走って来た。
「お~これまた美人…なぁ、あんたも俺達と遊ば…ブゲッ!!?」
セリスに不用意に近寄り話し掛けようとした男が顎を殴られ、砂の上にドサッと倒れ込む。
「こ…このアマ!」
「何しやがんだ!!」
「…ブリザラ」
「へぶっ!!?」
怒った男達がセリスに向かって行くが、一番先頭にいた男がセリスが作り出した氷の壁に衝突する。
そのまま男が滑り落ちるように地に伏せると、他の男達は途端に竦み上がった。
「な…ななななな…!?」
「こ、こいつぁ…魔法ってやつか……!?」
「‥…お前達…この真夏に凍りつきたいのか?」
セリスは恐怖で固まる男達の方へ視線を移すと、シヴァもびっくりな冷笑を浮かべ、将軍時代の口調で呟いた。
「ひいいいっ!!?」
「ごっ…ごごごご…」
「ごめんなさーーい!!」
男達は倒れた仲間を担いで一目散に逃げて行った。
「大丈夫?ティナ」
「ええ、ありがとうセリス…」
「いいのよ。それよりあっちにゴムボートあったんだけど、二人で一緒に乗らない?」
「わぁ…楽しそう!早速行きましょう」
二人はすっかり気分を入れ替えると、るんるん気分でゴムボートを借りに行った。
──それから10分程経った頃。
「ふ~…いやー楽しかったぜ!」
「お帰り筋肉男」
「おう!ただいま」
「はぁ~…ワシの50年間は一体……」
「ジジイはショックそうだね…まぁこれでも食べて元気出しなよ」
すっかり意気消沈しながら戻ってきたストラゴスに、リルムは食べようとしていた二本目の焼きトウモロコシを渡す。
「うう…有り難い。良い孫を持ってワシャ幸せゾイ…」
ストラゴスはそれを受け取ると、むしゃむしゃと齧った。
「お前らここに揃ってたか…おい、セリスとティナ知らないか?」
「知らないけど…どうしたのさ傷男?」
「ゴムボートに乗ってるらしいんだが…どこ探しても見つからなくてよ…もしかしてこっちに戻ってるんじゃねえかと思ったんだが…」
「えっ!?」
「ここに居ないなら、もしかして沖まで行った可能性も…」
「そりゃまずいゾイ…早く探し出さんと!」
「あたしも捜す!」
「ガウも!」
「いや、リルムとガウはカイエンを呼んできてくれ」
「はう!」
「分かった!筋肉男達も無事見つけたら早く知らせてね」
「おう!任せとけ!……あ、そうだ。おーい!!兄貴とロックも手伝っ…」
「待てと言っているだろーーー!!!!!」
「いい加減諦めろつってんだよーーー!!!!ヘイスト掛けてまで追い掛けてくるんじゃねぇぇぇーーー!!!!!」
「………駄目そうだなこりゃ」
「あいつらは放っといて俺らだけで捜すぞ」
「ごめんクポ…モグ達も捜せればいいクポが…この暑さじゃ無理クポ…」
「ウ~…」
「なーに気にすんな。二人はちゃんと見つけるさ。それじゃ行ってくるぜ!」
「ウー…頑張れ」
「気を付けてクポ~!」
俯くモグとウーマロに手を振られながら、一同は海の家を後にした。
「ティナー!セリスー!」
「おーい!!」
セッツァーは浜辺を、マッシュは小型のヨットを借りて海を捜索する。
「はぁ…一体どこにいるんだ?」
「セッツァー殿!」
「カイエン!二人は見つかったか?」
「いや…セリス殿がティナ殿に絡んでいた青年を撃退したという位しか…」
「そうか…」
その時だった──
「キャーーー!!?」
「こっちに来ないでー!!」
ティナやセリスと思わしき叫び声が聞こえたのは。
「今の声は…!」
「もしや…」
セッツァーとカイエンが声のした方に目を凝らすと、遥か彼方にゴムボートに乗った二人の姿が見えた。
その近くにうろついていた数匹のサメが、どんどんゴムボートとの距離を縮めてゆく。
「ありゃサメか…!?おーいマッシュー!早く行ってくれ!!」
「言われ無くても分かってるさ!!」
マッシュはすでに救助に向かっていた。だがなにぶん距離がある上に、風があまり安定していないせいでヨットが思うように進まない。
「…っくそ!間に合わねぇ!」
マッシュがそう呟いた次の瞬間。
「待てって言っとるだろがぁぁぁーーー!!!!!」
「いい加減諦めろぉぉぉーーー!!!!」
「うおわっ!!?」
追い掛けっこをしていたエドガーとロックがマッシュの横を超高速で通過し、ティナ達の乗るボートの周りをグルグルと何周か回ると、また砂浜の方へと戻っていった。
「二人とも何で水面歩いてんだよ!?どんだけ高速で走ってんだ!!?」
マッシュのツッコミをよそに、エドガーとロックに踏みつけられたサメが水面にぷかぷかと浮かんできた。
「……」
マッシュは暫くそれをじっと見つめていた。
──それから、数十分後。
「ああ怖かった…」
「ありがとうねエドガー、ロック」
無事救助されたティナとセリスは二人にお礼を言った。
「私はただアイツを追い掛けてただけなんだが…」
「俺もただコイツに追い掛けられてただけなんだが…」
「追い掛けっこで水の上走るなよ」
「いや、その…あまりにも必死でな…」
セッツァーのツッコミにエドガーはばつが悪そうに目をそらす。
「ほれ、返すよ。もう追い掛け回されんのは懲り懲りだしな」
苦々しい表情を浮かべ、ロックはカメラをエドガーに渡した。
「!!…よっし!!ついに取り返した…!」
「兄貴達が走ってた原因はそのカメラか?一体何が写ってるんだ?」
「えっ?いや…その…」
エドガーは口ごもる。
(お前っ…分かってて今返したなっ!?)
(ふっ…本人の前じゃ言うに言えまい……これが俺の仕返しだぜブラコン王め)
「なー兄貴、何が写ってるんだ?」
「み、みんなの遊んでる姿の写真だよ…ほら、旅の思い出にな…」
「流石だぜ兄貴!現像したら絶対俺達にもいくつか焼き増ししてくれよ」
「あ、あぁ…」
(うっわ~…すげぇ苦し紛れな返答だなおい…)
(前半はティナ達の姿も思いっ切り写してあるから、あながち間違いじゃないけどな)
「さーてと、ティナ達も無事だった事だし、夕方までもうちょいみんなで遊ぶか!」
「筋肉男にさんせ~い!」
「ガウもいっぱいメシ食べて腹いっぱい!またいっぱい遊ぶ!」
「私達も今度は砂浜の近くで遊ぶ事にするわ」
「撮影は任せてくれ。レディ達……ごほんっ、みんなの記念写真は私が沢山残しておこう」
「助かるゾイ。リルムの成長の証はなるべく残しておきたいからのう」
「もー!おじいちゃんてば!」
そんなこんなで再び一同は各々騒ぎだし、時間を忘れて楽しむうちに気が付けば夕暮れ時になっていた。
「おーいみんなー!そろそろ切り上げようぜ~」
「今日は冷房完備の部屋を予約してたから涼しいわよ」
「やったクポー!!」
「冷房!冷房!!」
ロックとセリスの言葉にモグとウーマロが大はしゃぎする。
「マッシュ、何を抱えているんだ?」
宿へ行く最中、いつの間にか一行に合流していたシャドウがマッシュが持つ箱を指差した。
「ああこれ?フカヒレ」
「フカヒレ!?」
リルムの顔が途端に明るくなる。
「ガウ…?マッシュ。それ何だ?」
「高級な食材よ」
「ガウッ!?コレ食えるのか!?早くくれ!」
「ちゃんと調理してからな」
「一体どこで貰ったのでござるか?」
「それは秘密」
「ガウガウ~~!マッシュ早く早く!早く宿屋行くー!!」
ガウは待ち切れないといった様子で駆け出す。
「こら、そんな早く走るなよガウ。急がなくてもフカヒレは逃げたりしないんだからな」
「だってガウ、早くフカヒレ食べたい!」
「全く…じゃあちょっと早足で行くとするか」
「ガウ~!!」
ちなみにそのフカヒレが昼間ティナとセリスを襲ったサメのものだとは、誰も気が付かなかったらしい。
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