お星さまきらきら

それはある日の飛空艇内でのこと。


「ガウガウ~!みんな聞け聞けー!!」

先程まで甲板でカイエンと話していたはずのガウが元気よく叫びながら船内に飛び込み、みんなを集めた。

「どうしたってんだガウ?」
「あのな、今日はたなばたなんだって!」
「七夕ぁ?何だそりゃ?」
「たんざくってやつにねがい事書くと、ねがいが叶うんだぞ!ござる言ってた!」
「ドマの伝統行事でござるよ。短冊に願い事を書いて笹に吊るすと、その願いが叶うと言われているのでござる」

ガウを追い掛けてきたのか、カイエンもマッシュに説明しながら階段を下りてくる。

「はっ…何だそりゃ。馬鹿馬鹿しい…『世界が平和になりますように』とでも書いたらあっという間に世界平和になるってのかよ。運も努力もへったくれもあったもんじゃねえな」
「まあまあ。夢があって良いじゃないか」
「空のピカピカの川の上にいる、おりひめとひこぼしってやつが叶えてくれるんだぞ!」
「星空の中に人、か…本当に居るのか?そんな奴ら」
「がう…?いないのか?おりひめも…ひこぼしも…いないのか……?」

ガウはしょぼしょぼと顔を伏せる。

「ねえセッツァー。私ね?子供の夢を壊すのは良くないと思うの」
「……あー、分かった分かった。俺が悪かったよ。幻獣や魔法なんてもんがあるくらいだし、案外星空の中に人間が居てもおかしくないかもな」

ティナにいさめられ、セッツァーは面倒臭そうにしながらガウに慰めの言葉をかける。

「がう…本当か?」
「ああ。案外そういうのを信じるのもロマンチックかもな」
「ガウガウ!やっぱりカイエンの言うの正しい!!おりひめとひこぼし、空にいる!」

ガウは元気を取り戻し、ぴょんぴょんと元気に飛び回った。

「そうだわ!折角だし私達もやってみましょうよ?」

セリスが手を叩き、ぱあんっと船内に軽やかな音を響かせる。

「それは面白そうだね。是非ともそうしよう」
「本当にやるのかよエドガー?」
「まぁいいじゃないか、このご時世だ。皆の息抜きもかねてやってみよう。それにお前だってセリスとの仲が進展するように祈ってみたら良いじゃ…」
「バッ…!?バッバッバカ野郎!!何言って…!!」
「はっはっは。冗談のつもりだったんだが」
「お、お前な……ったく…」
「どうしたのロック?」
「い、いや…何でもないさ」

ロックは顔を真っ赤にしつつも、何とかセリスにエドガーとの会話を誤魔化した。


そうして、各々は自らの願い事を短冊に書く事になった。

(え~と…モブリズのみんなが元気で仲良く暮らせますように…カタリーナが元気な赤ちゃんを産めますように)
(ええと…セリスと……って何考えてんだよ俺!?えーっと…珍しい宝が見つかりますようにと)
(フィガロが早く復興しますように…)
(もっと強くなれますように…と)
(おじいちゃんが元気で過ごせますように。魚の食べ過ぎでお腹壊してませんように…)
(ドマの出の者が、少しでも生き延びていてくれるように…よし。これでござるな)
(とりあえず酒とでも書いとくか)
(もっと絵が上手になれますように…あとじじいがいつまでも元気でいれますように)
(リルムに優しい子に育ってもらいたいゾイ…)
(クポ~…モーグリのみんなが天国で幸せでいられますように…そして出来れば世界のどこかにボク以外のモーグリの生き残りがいますように…クポ)
(ビリー…願わくはもう少しだけ、俺への迎えを遅らせてくれ)
(世界中の奴らのものまねが出来るように…)

みんなは思い思いに願いを書き綴る。

そんな中、悩む二人がいた。

「ガウ~…」
「ウ~…」
「あれ?ガウとウーマロどしたの?」
「文字…」
「書けない…」
「えっ!?」
「ああ、そうか…二人とも誰かに文字を習うような環境で暮らして無かったもんな」
「モグはどうして書けるのかしら?」
「ラムウのじいちゃんに文字も教わったクポ」
「あっ、なるほど…」
「ウ~…親分でも、誰でもいい。誰か教えてくれ」
「ガウも!」
「よし、そんじゃあ俺が教えてやるぜ!」
「止めとけロック、お前字下手なんだから」
「一言多いんだよエドガー!!」
「じゃあがあたし教えてあげるよ」
「ほんとか!?リルムありがと!!」
「ウー…助かる」
「えっへへ…それでは、リルム先生の言葉教室の始まり始まり~!」
「ガウ~!」
「ウガ~!」

しかし、文字というものに全く触れてこなかった者に教えるというのは中々難儀なものであり、リルムのレッスンは何時間にも及んだ。

「だ~か~ら~…違うってば!それは『め』だよ!『ぬ』はこれ!」
「ウ……?」
「あ~もう!なんで分かんないかな!?」
「ガウ書けた!」
「……読めません!!やり直し!」
「はうっ…!?でもリルム…」
「先生と呼びなさい!」
「はう…」

「いやー…レディのレッスンはずいぶんスパルタだな…」
「兄貴、暇なら笹探しにでも行こうぜ」
「ん?ああ…というか笹ってどんな植物なんだろな」
「カイエンに聞いてみよう」

リルムにしごかれるガウとウーマロを後に、二人は笹を探しに行った。

そして数時間後──

「やっとガウは書けるようになったみたいだね」
「ガウ!ガウ字覚えた!!」
「ウーマロは…」
「ウ~…」

ウーマロは相変わらずよく分からないヘニャヘニャしたものばかり書いていた。

「……もうモグに代わりに書いてもらいなよ」
「ウー…そうする」
「さて、じゃあ後は笹を探しに行った色男と筋肉男を待つだけだね。皆も船の外に出てるみたいだし、あたしたちも行こっか」
「はう!」

ガウがようやく願い事を書き終えた後も、笹を探しに行った双子はまだ帰ってきていなかった。

「二人共遅いわねぇ…もう日が暮れるわ」
「笹見つからないのかしら?」
「チョコボが途中で逃げて徒歩で帰ってきてるのかもよ」
「大丈夫かしら…」

女性陣がそんな会話をしているうちに、二匹のチョコボが走ってくるのが見えた。

「ただいまー!笹持ってきたぜ!!」

片手をチョコボの手綱から離し、手を振るマッシュの背には、3m近い竹がくくりつけられていた。

「うわっ!!?どこからこんな大きいの採ってきたの?」
「どうせならでかい方がいいだろってマッシュが聞かなくてな…」
「いくら何でも大き過ぎだと思う…」
「というかマッシュ殿…これは笹ではなく竹でござるよ」
「え?そうなのか?ま、良いだろ!似たようなもんだし」

マッシュは豪快に笑う。

「つーかこれ、どうやって支えるんだよ?」
「それは…えっと……こうすればいいんだ!」

そう言うとマッシュは思いっきり地面に笹を突き刺した。
半分以上刺さった竹は、ふらつく事もなくその場に立派に立っている。

「確かにここまで深く刺せば倒れないだろうけど…」
「ちょっと深く刺し過ぎじゃねーか?」
「大丈夫大丈夫!」
「私はむしろこの方が手が届くからいいわ」
「まぁ…ティナがそう言うならいいか」

そうして、みんなは竹に短冊をくくりつけていった。

「ティナは優しいなぁ…」
「マッシュももっと強くなれるといいわね」
「へへ…ありがとうな」

「もう!ロックったら…それしか頭にないのね」
「う…悪かったってセリス……シド元気だといいな」
「ええ…これからも長生きして欲しいわ」

「セッツァー…君、もうちょっとまともに書けないのか?」
「うるせぇな…最初に『レディ達がいつまでも変わらず私を好いてくれますように』とか書こうとした奴に言われたくねぇよ」
「おい!?何で知ってるんだ!!?」
「ゴミ箱に捨ててあったからな…今度から細かく破るとかしておきな」
「くっ…!他の皆には言うなよ…」
「さーて、どうだかなぁ」

「リルム…わしゃ嬉しいゾイ…」
「ついでなんだから気にしないでよ!?」
「ついででも心配してくれているのが嬉しいんじゃゾイ」

「モグ殿…生き残った者同士、拙者たちも頑張るでござるよ」
「そうクポ!頑張るクポ!」

「……ものまね…出来るといいな……」
「お前もビリーとやらが待っててくれると良いな…」
「…………」


「ん…?この字は誰のだ?」
「それガウの!」
「そうなのか…えーとなになに?……『みんなではらいっぱいのにくをくう。みんなしあわせ』…ははっ!単純明確だなぁ」
「でもこれがガウのねがい!」
「そうだな…ガウがよければそれでいいんじゃないか」
「ガウ!」

ガウはにかっと笑う。

「それにしても織姫と彦星って憧れるわよね…私もそんな風に、離れていても心は共にいられるような恋ってしてみたいわ…」
「一年に一度だけだもんね」
「私ならレディと一年も会えないなんて無理だな」
「お前はその間に別の女に気が移りそうだもんな」
「セッツァー…喧嘩売ってるのなら買うぞ?」
「まあまあ、兄貴落ち着けよ…」

その時、空がきらりと光った。

「おっ!流れ星!!」
「え!?どこ?」
「また落ちるんじゃねえか?」
「あ!見えた!」
「あら、あっちにも」
「流星群か…」
「ガウ~…空、ピカピカで出来た川に、動くピカピカ…キレイだな~」
「そうでござるな…こういうのもまたいいものでござる」

そうして皆で流れ星を見つめながら、七夕の夜は更けていくのであった。
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