この日をいつまでも覚えていよう

「一体何なんだこれ…なんかお祝い事でもあるのか?」

前日から一人でトレジャーハントに出掛けていたロックは、飛空艇に戻るなり飾り付けられた船内を見渡し、呆気に取られたように呟いた。

「今日はガウの誕生日なのよ」

セリスがペーパーフラワーを折る手を止め、答える。

「え?そうなのか。それでガウは?」
「準備が整うまでマッシュがプレゼントを買いがてら外に連れ出してるよ。夕方までには戻ってくるはずさ」
「ふーん…つーかエドガー。お前が抱えてるデカいボックスの中身もプレゼントなのか?」
「まあそんな感じのものだね。ガウは肉が好きだろう?バーベキューでもしようと思って特上の肉を用意したんだ」
「おっ!流石は王様。気前が良いな~」
「ガウのための肉だから少しは自重しろよ…?それとお前も準備を手伝ってくれないか?」
「ああ。勿論良いぜ」

高級食材が食べれる楽しみからか、ロックは機嫌良く二つ返事で承諾する。

「ふぁ~あ…ったく…朝っぱら早い時間から叩き起こされて肉買いに行くのに付き合わされるし、こっちはたまったもんじゃねえぜ……ま、常に気張り続けてたんじゃ参っちまうし、たまにはこういう息抜きも大事だけどな」
「セッツァーもお疲れ様。ありがとうね」

大あくびをするセッツァーの姿を見て、ティナは微笑ましげにくすくすと笑った。

「にしても…今日がガウの誕生日とは…一体誰から聞いたんじゃ?あの親父さんからかゾイ?」
「いいや。ガウ殿本人からでござるが…それがどうかしたのでござるか?」
「いやなに。野生で暮らしてきたガウがどうして自分の誕生日を知ってるんじゃろうかと思っての」
「……確かに…言われてみればそうでござるな」
「じゃろう?」
「ううむ…気になるでござるな」

ストラゴスとカイエンは紙の鎖を作る手を止め、考え込む。

「はいはい、二人ともさっさとやって早く休憩にしましょう?」
「む…かたじけないでござる」
「そうじゃの。早く完成させるとするゾイ」

セリスに急かされ、ふと我に返った二人は慌てて作業を再開した。

「う~~ん…やっぱりこの図鑑じゃ駄目かなぁ」

そんな和やかな雰囲気の中、リルムは植物図鑑とスケッチブックを交互に眺めては納得がいかないとでも言いたげに口を尖らせていた。

「どうしたんだい?小さなレディ」
「うーんとね…ガウにプレゼントするつもりの花の絵なんだけど、この図鑑だと細かい部分がよく分からないから上手く描けなくて…実物があれば良いんだけど」
「そうかい…どこかに同じ花が咲いてるといいのだが」
「昔はサマサでもよく見かけた花なんだけど、あのうひょうひょ野郎のせいで世界がメチャクチャになっちゃったせいであっちじゃ全然咲かなくなっちゃったんだよね…どうしよう。この花じゃなきゃ駄目なのに…」
「……ん?あれ…なぁリルム。その花、俺見かけたぞ?」
「えっ!?本当に!?どこでどこで!!?」
「丁度昨日からトレジャーハントに行ってきた場所の近くに咲いてたんだよ」
「リルムもそこに行きたい!ねぇ連れてって!」
「ええ~…?リルムの足だと距離的にちょっとキツそうな場所なんだがな」
「…なら俺も行こう。いざとなれば背負っていけば問題はないだろう?」

三人のやり取りを眺めていたシャドウがぼそりと呟く。

「わーい!ありがとうシャドウ!!ねっ?良いでしょロック!」
「はいはい、分かったよ…そんじゃあ案内するから二人とも…」
「ワウ!ワンワン!」
「ああ…仲間外れにして悪かったよインターセプター。二人と一匹とも、俺についてきてくれ」
「はーい!!」





──所変わって、ガウをジドールの町へと連れ出していたマッシュは、ガウの行動に苦笑していた。


「マッシュ!これ買おう!これリルムがこれ欲しがってた!」

ガウが指差す方には、高級そうな絵筆があった。

「うーん…まあそれもそのうちな。他は?」
「ほか……あっ!ござるがこういうの欲しがってたぞ!」

骨董屋と思わしきその店のショーウインドウには、ドマで作られたと思われる根付がいくつか飾られていた。

「なあガウ…今日はお前の誕生日プレゼントを買いに来たんだし、皆が欲しいものじゃなくてお前の欲しいものを言えよ」
「ガウ…でもみんながよろこんでくれるとガウもうれしい」
「まあ気持ちは分かるけどよ、今日のところは好きなの選べよ」
「はう…」
「いや、落ち込まなくても…ほら、お前ピカピカ光るもの好きだろ?そういうの探そうぜ?」
「!…ガウッ!!」

ガウは目を輝かせると、強く頷く。

(やれやれ…やっとどんなプレゼントを買うか決まりそうだな…俺こういうのいまいちわかんないからな~)

マッシュはほっと胸を撫で下ろした。

(…そういや何でガウは自分の誕生日知ってるんだ?あの親父さんにその後会いに行ったような形跡は無かったし)

「なぁガウ」
「ウ?」
「お前はなんで自分の誕生日が分かるんだ?ずっと物心つく前から獣ヶ原でで暮らしてたんだろ?」
「……がう…」

ガウは考えあぐねるかのごとく、目を行ったり来たりさせたり口をもごもごさせる

「教えてくれないか?」
「…マッシュ怒んないか?」
「怒らない怒らない」
「……ガウ、ほんとは誕生日知らない」
「知らないって…どういう事だ?」
「ガウ、今まで生まれた日とか考えた事なかった。毎日生きるのだけでいっぱいだったから」
「……」
「でも、でもマッシュやござる会ってから考えるようになった。だから…だからガウの誕生日はマッシュ達に会った日。忘れないように今日が誕生日!」
「そっか…ガウがそれでいいならそれでもいいと思うぜ」
「…!!」

マッシュのその言葉に、ガウはびっくりしたような表情を浮かべたあと、にかっと尖った歯を見せながら笑った。

「さ、行こうぜ。お前の大好きなピカピカでも買いに」
「ガウー!!行く!」





──そして夕方。
飛空艇の外で行われたバーベキューに、一同は大いにはしゃいだ。

「ガウガウーー!!肉肉ーーー!!!!」
「よかったなガウ」
「マッシュもたくさん食え!うまいぞ!」
「おう!大食いなら負けねぇぞ!」
「どんどん焼くからどんどん食べろよ」

エドガーは自身の開発したコンロで肉を焼きながら、弟とその弟分のやり取りに満足げに笑う。

「あっ!おいセッツァー!それ俺の狙ってた肉!!」
「こういうのは早い者勝ちだぜ!」
「ほら、また別の焼くから落ち着けよロック」
「くっそ~」
「ふふ…ロックったらもう…」
「う…そんな笑うなよセリス…」

ばつが悪そうなロックの表情に、皆は大笑いした。


それから暫く後、ようやく大量に用意された肉が綺麗に平らげられた頃。リルムはガウを飛空艇の中に呼んだ。

「誕生日おめでとう!これあたしからのプレゼントだよ」

そう言って、リルムが一枚の絵見せる。その瞬間、絵から小さな花束が飛び出した。
それは勿忘草の花であった。

「この花の花言葉はね?『私を忘れないで』なの…ガウ。あのさ、いつかはこの旅も終わるだろうけど…いつか離ればなれになっても、絶対にあたしガウの事忘れないよ…これはその印」
「リルム…」
「だからガウも絶対にあたし達の事忘れちゃ駄目だからね?約束だよ!」
「ガウガウ!!ガウ約束守る!この花も大事にする!ありがとうリルム!」
「えへへ…」

ガウの言葉に、リルムははにかむ。

「ガウ。これセリスと私で作ったの。美味そうないちじくが売ってたから入れてみたのよ。みんなで一緒に食べましょう?」

そんな二人のもとに、ティナがケーキを持ってやって来た。

「ガウ~!誕生日、しあわせいっぱい!ガウ嬉しい!」
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