『リスタート―三度目の正直―』番外編

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『リスタート 番外編』お正月2025年Ver.「空に太陽」①





「おい、いそうろう。おまえ、いったいいつまでクライン家のお世話になるつもりだ? いい加減、新しい家なり、なんなり探したらどうなんだよ」

 機嫌悪そうにマックスが問えば、ゲンナリした表情のイチロウが白い息を吐く。

「なんだよ、何か文句あるのかよ」

「ああ、大ありだ。ギルドとして働いた金をクライン家に入れてるとはいえ、おまえのせいで食事の量は増え、洗濯物は増え、掃除する部屋が増え、風呂に使う水の量やろうそくの数も……」

「おまえだって、ぼくと同じ立場だろ!? 小舅こじゅうとみたいに、えらそうな口をきくなよ!」

 頭をかっかさせたイチロウが人差し指でマックスのことをさした。

 しかしマックスはニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。

「残念だったな。おまえと違ってオレはルキウスの“恋人”なんだよ。おまえはルキウスのなんだ?」

 ギュッと顔に力を込め、しかめっ面のような顔をしてイチロウは口をつぐんだ。

「ノエルとかいうゲームキャラクターの名前を名乗り、偽の神子としてルキウスに敵対していた。おまけに、あいつが愛していたエドワード王子を略奪したような不届き者だ」

「ぼくのおかげで、おまえは今、ルキウスの恋人になれてるんだろ。少しは、ありがたがれよ! ルキウス本人にエドのことを責められるならまだしも、ゲームに名前すら出てこないモブのチートキャラが、口出ししないでくれる?」

「好きに言ってろよ。何を言ってきたところでオレには負け犬の遠えにしか聞こえない。どちらにせよルキウスが奥様に似て、やさしい性格をしているから頭と胴体がくっついている状態だってことを忘れるなよ」

 悔しそうにイチロウが歯噛みをし、マックスは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

「さっさと荷物をまとめて、大工か何かに住めそうな家を作ってもらうんだな。一日も早くルキウスの家から出ていけ」

「おまえ、ギルドのパーティのリーダーだからって横暴すぎる! 好き勝手言いたい放題しやがって……ルキウスがいるときといないときで態度が大違いだ。まったく、あいつにおまえのこの姿を見せてやりたいよ」

「悪魔マルバスや魔王にそそのかされてルキウスの命を狙ったのは、どこのだれだよ? 忘れたとは言わせないぞ。自分の胸に手を当てて、よく考えてみるんだな」

「なんだと!」

「やるか?」

 一触即発の雰囲気になったふたりのことを野菜を選びに来た買い物客たちが、はた迷惑そうにジロジロ見ながら大晦日に食べるスープに使う野菜を手に取る。

「マックスさんも、イチロウも何してくれてんだよ! 営業妨害をするなら、よそに行ってもらえませんか?」

 大みそかということもあり、訓練が休みとなっているピーターは両親が営んでいる直売所の手伝いをしているピーターが野菜の入った箱を軒先に出しながら、大声でふたりに対して怒鳴った。

「「だって、こいつが!」」

 マックスとイチロウはお互いを指さした。

 箱を地面に置いたピーターは頭が痛そうに額を押さえ、エプロン姿のまま、彼らのところへ向かった。

「あんたらが戦い始めたら、うちは一瞬でボロ家と化す。うちで育った新鮮な野菜たちも全部、ダメになる。店を手伝いに来たわけでもなく、品物を買うつもりもないんだったら出ていってもらえますかね。邪魔だから」

 それもそうかとふたりは顔を見合わせる。

「だったら、ひとけのなさそうなところへ行くか」

「賛成だよ、ここは東京と違って広場や公園にカップルや家族連れもいないし。いても広いから巻き添えなんてこともないからな」

「トウキョウ? なんだ、それ。都市の名前か」

「そっ、ぼくの生まれたところ。それより、どこにする」

 まるで「どこのお茶屋に入る?」と話している貴婦人たちのように、ケンカする場所を探しに行かんばかりの会話だ。

 口の端をひくつかせたピーターは、ふたりの服の裾をむんずと引っ掴む。

「年の瀬に殴り合いだと!? そんなの縁起でもない……バカなことを考えるのはよせって!」

「安心しろ、ピーター。すぐに決着はつく。ぼくの圧倒的勝利でな!」

「はあっ!? おまえがオレに勝つだと……?」とマックスが叫んだ。

「あたりまえだろ。ぼくのほうが強いんだから」

 エッヘン! とイチロウは腰に両手を当て、胸を張った。

「その言葉、すぐに後悔させてやるよ」

 こめかにくっきり血管を浮かばせたマックスが背中の大剣を引き抜く。

 同時にイチロウが両手に黒い球を作り始めた。球はバチバチと音を立て火花を散らしている。

 いよいよ買い物客や、年末年始の買い物をしに行き交う人々が「なんだ、なんだ」と騒ぎを聞きつけて、ふたりの様子を見物しに来る。

「いい加減にしてくれよ!」

 羊皮紙を丸めたものを手にしてピーターは、ふたりの顔を叩いた。

「ルキウスの誕生日前日なんだぞ。あいつの誕生日を私闘で流した血で祝うつもりかよ!?」

「なんだと!?」

 かっと目を大きく見開いたマックスがガシッとピーターの両肩を掴んだ。

「ピーター、ルキウスの誕生日がいつだって?」

「い、一月一日です。年始めがルキウスの誕生日……」

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