幸せのかぎしっぽ

「だいたい一般的な願いなら叶いますよ。あとひとつ、どうしますか?」

「あとひとつ……って、さっきのカウントされちゃってるの?」

「はい、言葉に出した時点で」

「まじか……」

 なかなかシビアだ……

「研修で聞いたところ、人間の欲望は大丈夫みたいです」

「研修してきたの?」

「もちろんですよ、一通りは教わってきたのです」

 アルバイトの研修みたいなもんかな……

「猫仙人になるのも大変みたいだな……お疲れ」

 ノドを掻いてやると嬉しそうにゴロゴロ鳴らすもちもちは、生前のままだ。



「んー……じゃあお金が欲しいかな。今月、なんだかんだ使ったし……」

「なるほどですね、ではお金が欲しいという願いを叶えましょう」

 もちもちは「あ! もちもち!」という俺の制止を聞かず、四つ足で軽やかに走り、3階のアパートの窓から空へ飛び出した。

「お、おいっ!」

 姿が見えなくなり、慌てて窓の縁に手をかけて身を乗り出すと、

「ご主人、ここです」

 もちもちは猫かき……(というのか)をしながら浮いていた。

「もう、なんでも有りなんだな……」

 力が抜けて項垂れる俺に、

「猫仙人ですから、普通の猫と『すぺっく』が違うのです」

 と言い一生懸命、空中を飛んでいる。

「うーん……まだうまく飛べないですね……仕方ない」

 では行ってきます! と、もちもちは覚束ない足取り(?)で、浮上していった。

 心配で見ていると、もちもちはなにやら、「へいっ!」「ほいっ!」と四苦八苦している。

「もちもち~、大丈夫かぁ~?」

 思わず声をかけると、

「取れました~!」

 もちもちはなにかを抱えて、降りてきた。

「……雲か? すごいな、もちもち」

「ご主人、これはただの雲じゃございません。猫仙人の眠雲ネムグモの煙なんですよ」

「ねむぐも?」

 話を聞くと、ネムグモは熟練した猫仙人が眠っている間に出している煙らしい。

 新米の猫仙人は、まだこの眠雲を出せない。

 その為に、先輩の猫仙人の眠雲を使って力を補う事で、願いを叶えるのだと言う。

「では、ご主人の頭に……えいっ!」

「ぶはっ!……げほげほ」

 もちもちに眠雲をかけられて、咳込んだ。

「さあ、叶いましたよ」

「ほんとか?」

 まさか本当に願いが……?



 と、突然スマホのメールの着信音が鳴った。慌てて開くと、

「……あ、当たった」

 この前ネットの懸賞で応募したギフト券の当選メールだった。

「すごいな、もちもち。500円のギフト券が当たったよ」

 そう言う俺に、もちもちは

「よかったですね、ご主人」

 一緒に喜んでくれた。

 そのまま一人と一匹、他になにか起こるか待ってみる。

……

…………

 結局、小一時間待っても、なにも起きなかった。

「えっと、もちもち……」

 俺が話しかけると、もちもちは明らかにシュンとしている。


……え、

「いやまさか、これだけって事は……ある、の……か?」

「たぶん……おいらの力だと『これだけ』です……」

 そのまさかだった。

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