第2話 肉群切

 しかし耀は切と楽しい毎日を過ごして、忘れてしまっていた。自分が狂った人たちを惹きつけてしまう、人間だという事を、その事実を……。




 ある日、切と一緒に彼の家の肉屋に行く事になった耀。

「前に約束していたコロッケ、奢ります!」

 そう切に言われて、彼と連れ立ってコロッケを食べに行く。

「肉のシシムラさん、本当コロッケとかお肉とか美味しいよね。スーパーで買う物と違うもの」

「本当ですか? 耀先輩は味の分かる人ですね! そうなんです、ウチの肉屋は特別なお肉ですからっ!」

 切は実家の肉屋が褒められたからか、とても嬉しそうに笑った。

「あ、着きました。母さーん、ただいまー。コロッケ2個、ちょうだい」

「あら切、おかえり。コロッケね、ちょっと待ってて」

 切に『母さん』と呼ばれた中年女性が切に笑いかけて、店の奥へと消えて行く。

『肉のシシムラ』と書かれた陽射し避けの屋根の下、切と耀はコロッケを待つ。

「ほら、揚げたてのコロッケ。熱いから気をつけてね」

「ありがとう、母さん。はい、耀先輩!」

「わあー、ありがとう!」

 きつね色のこんがり焼けたコロッケは大きく、これでひとつ80円という安さだ。

「いただきます! うん、サクサクして美味しい!」

 お肉がたっぷり入っているから、ジューシーで肉汁が溢れ出ている。

「あら、切。そちらのお嬢さんは?」

「あ、うん。引っ越し先で隣り同士の耀先輩。仲良くしてもらってるんだ」

「あらあら、ありがとうね。ウチの切と仲良くしてくれて」

「いえ、こちらこそ。切くんと仲良くしてもらって、ありがとうございます」

「可愛いお嬢さんねぇー、メンチカツも食べていってちょうだい。美味しいから、ね?」

 そう切の母親に勧められて、メンチカツもごちそうしてもらった耀。

「耀先輩、ちょっとウチに寄って行きましょう! 耀先輩に、ウチのお肉の美味しい秘密、教えてあげますよ」

「え、そんないいの?」

「ね、母さん」

「うふふ、そうねぇ、切が連れてきた彼女だからね、特別ね」

「さ、こっちです、耀先輩。裏口から入りましょう」

「あ、コロッケとメンチカツ、ありがとうございました」

 切の母親がにこにこと笑って、2人を見送る。

「切くんのお母さん、優しそうな人だったね」

「はい、僕の家族はみんな仲良しですから!」

 切くんは反抗期とかなかったのかも。いいな、仲良しな家族。

 耀は微笑ましくなり、ふと自分の家族を思う。

 あの人が現れなければ……あの人と関わらなければ……今でも私の家族は……。

「!!」

 大丈夫、大丈夫……あの人は刑務所の中だから、大丈夫……。

 一瞬、フラッシュバックした映像を、無理やり頭の隅に追いやって、意識をあの事件から引き剥がす。

「耀先輩?」

「あっ」

 切が心配そうな顔で、耀を見ていた。

「大丈夫、ですか? 顔色良くないですけど……」

「あ、うん。大丈夫だよ、ごめんね」

「なら、いいですけど」

 考えなくていい、もう終わったことなんだから……。

 切に心配させまいと笑いかけて、耀は切の案内の元、店の中に入って行った。

 

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