第2話 肉群切

「はあはあ……はあっ」

 走って帰って来たため、変な人たちに捕まらずに、家まで無事に帰る事が出来た耀。部屋に入り手を洗って、とりあえず水を飲む。

「はあ……」

 水を飲んで一息ついた所で、ピンポーンとチャイムが鳴る。

「はい」

 耀がドアを開けると、そこには切がいた。

「耀先輩」

「切くん」

 シルバーのアクセサリーが沢山ついた手を胸の横で振る切。

「帰り、大丈夫でしたか? 僕心配で……」

「うん、大丈夫。心配してくれてありがとう」

 こうして心配して気にかけてくれる人がいるだけで、心強い。耀は嬉しそうに笑った。

「あの、よかったら今から僕ん家に来ませんか? お話しませんか?」

 にっこりと切が笑って、耀を誘う。

「うん、そうだね。私も切くんとお話したい」

 そうして耀は、切の部屋へと上がる事になった。





「あ、まだダンボールがあるね」

 切の部屋のリビングに案内されて、そのテーブルのイスに座る。部屋の中には引っ越して来たばかりで、ダンボールがまだ隅っこに積まれていた。

「なかなか片付けられなくて。なんとかリビングは人を通せるようにしたんですけど、もう部屋中ダンボールだらけですよ」

 切がため息を吐きながら笑う。

「しょうがないよ。引っ越して来てまだ日が浅いし、ひとりで片付けるから時間かかっちゃうよ」

 切が冷蔵庫からペットボトルのジュースを持ってきて、耀に渡してから自分も席に着いた。

「そういえば切くんはなんでひとり暮らし、始めたの?」

 耀が疑問に思っていた事を聞くと、切は「ずっとひとり暮らししたくて……」と、話し出した。

「僕の実家は肉屋なんですけど、自宅と繋がっていて。それでいつも下の肉屋から『いらっしゃいませ』とか『今日は何にしますか?』とか聞こえるのが恥ずかしくて。友達呼ぶに呼べなかったから、親に言ってひとり暮らしさせてもらったんです」

「へぇー、切くんの家は肉屋さんなんだー」

「はい。結構評判で、『肉のシシムラ』ってとこなんですけど」

「あ、シシムラさん!? 時々コロッケ買いに行くよ。美味しいよね、揚げたてでお肉たっぷり入ってて」

「じゃあ今度、僕が奢ってあげますコロッケ!」

「本当! ありがとう」

 耀はこんな風に楽しく話せる友達はいなかったので、切とのお喋りを心から楽しんだ。

「あ、そうだ! 考えたんですけど僕、今度から耀先輩と一緒に登下校毎日したいんですけど、いいですか? 僕、一応男だし、痴漢やストーカーから守れると思うんです。……その、耀先輩を守りたいんです」

 切は耀を心から心配してくれていて、それが嬉しくて耀は切に「待ち合わせとかしやすいように」と、携帯番号とSNSを交換した。

「これで、耀先輩の痴漢やストーカーから守れますね! 僕、耀先輩を全力で守ります!」

「ありがとう、切くん」

 そうして耀は次の日から、切と一緒に登下校をする事にして、仲良く学校へと向かった。

 その間、鍵鉈騙は耀に近寄ろうとしたが、「警察を呼びますよ」と切に言われて、諦めたようだった。近頃、姿を見せない。変な人たちも防犯ブザーや防犯スプレーで撃退したり、なにより男の子と一緒にいるだけで、被害は減っていた。

 もしかして私、やっと自由になれたのかもしれない……。

 耀は普通の生活というものを手に入れられるかもしれない喜びに、わくわくしていた。


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