第3話 血池手繰留

 そうして2週間が過ぎた。

「耀、聞いて! 血池先輩の絵が完成したの!」

 学校に着いて早々、嬉しそうに渚は話す。

「じゃあ、モデルはもう……?」

 ホッとする耀だが、その事を言うと、渚の顔は急に暗くなってしまった。

「うん……血池先輩は、同じモデルは2度と使わないから……」

 渚は血池先輩の絵のモデルに、これからもずっとなりたかったというのだろうか……。あんな、身体を傷つける行為をされて、それでも絵のモデルをしたいだなんて、私にはわからない……。

 それでも大切な友人の渚が、モデルから解放されてホッとした耀だった。

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「あっ……」

 授業が終わり、渚とまた一緒に校門前まで帰る途中、廊下に血池先輩が1人の女子といた。

「ああ、渚君」

「血池先輩……」

「この間はモデル、ありがとう。おかげで最高な絵が描けたよ」

「はい」

 渚は頬を染めて嬉しそうだ。

「渚……」

 耀は心配しつつ事の次第を見守る。

「血池先輩ー! 早く美術室行きましょー!」

 血池先輩の腕を取り頬を寄せて、女子が言う。

「ああ、そうだね」

「あの、先輩次はその子を……」

「ああ。良いインスピレーションが湧いてきているんだ」

「そうですか……」

 渚は悲しそうに顔を俯かせて、それきり黙ってしまった。

「しかし……」

 血池先輩は耀の元に近寄り……



 ちゅっ。


「先輩……っ!」

「な、な、なにをするんですかっ!」

 耀の頬にキスをした血池先輩。
 耀は驚き、3歩後ろに下がる。

「君はもっと刺激をくれる……そんな香りがする……ああ、なんだったらずっと君を描いてもいいかもしれないね……どうだい?」

 優しく微笑む血池先輩に、渚と女子、2人から耀は敵意を向けられて困惑する。

「テメェ……耀に手ェ出してみろ、殺すぞ」

「鍵鉈騙……」

 耀の後ろから現れた鍵鉈騙が、耀を自分の後ろに隠して、血池先輩の目を真正面から睨み据える。

「そうか、君には悪い虫がついているんだね。引き剥がすのは、難しそうだ……」

 ふふふ……と笑い血池先輩は、

「僕の絵のモデルになりたくなったら、いつでもおいで……」

 そう言葉を残して、腕を取る女子と美術室へ消えていった。

「耀、ズルイ……」

「えっ?」

 渚を見れば怒りの色を浮かべていて、耀は戸惑う。

「血池先輩に『ずっとモデルに』なんて乞われた女子はいないのに……私なんて、頼み込んでやっとモデルにしてもらえたのに……!!」

「あ、渚!!」

 渚は走って耀たちの前から去って行った。

「ほっとけよ。ただの嫉妬だ、あれは」

「渚……」


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 後日、完成した渚がモデルの絵を見に行った。

「やっぱり、この絵は嫌だ……」

 渚の腕、胸、お腹……いたるとこに走るナイフの傷……それでも恍惚とこちらを見る絵の中の渚は、幸せそうで……。

 これからも血池先輩の絵のモデルになりたがる女子は、次々と現れるのだろう……。傷つけられながら、血池先輩をうっとりと見つめて、自分を捧げる少女たち……。

 耀は学校も決して安全な場所ではなかった事を知り、怖じ気づく。

「あきら」

 なかなか校門前に来ない耀を心配して、鍵鉈騙が耀の元へ来た。

 私はずっと……鍵鉈騙にこれからも守られていく生活を、していくんだろうか……。

「帰るぞ」

 騙に手を引かれ、歩き出す。
 耀は諦めの表情を浮かべながら、絵の元を去った。


 美術室には、傷だらけの渚の絵が静かに佇んでいた……。




 完

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