第3話 血池手繰留

「耀ちゃん、おはよー」

 鍵鉈騙が画面越しに、愛前耀に挨拶をする。

「いま、開けます……」

 耀はマンションのエントランスにいる騙に、受話器越しに話をして、ドアを解錠する。

 あれから耀は、隣り同士に住む切が怖くて、騙にマンションの玄関まで来てもらい、学校に通っていた。

 警察に頼る事も出来ず、やはりストーカーである騙に頼らざる得なかった。

 あの日、切に襲われて騙に部屋に泊まってもらった夜、本当に彼はキス以外の事はしてこなかった。ピッキングが得意な鍵鉈騙だが、勝手に耀の部屋を開けてもこなかったし、その日はリビングのソファーで眠ったようだ。

 騙の事を許した訳でもないし、ましてや好きになった訳でもない。ただ、悲しいけれど頼れるのが彼しかいないだけであって、それ以上の理由はない。

 本当に、私は関わる人みんな、頭がおかしい人ばかりなんだ……。

 友達の渚以外、耀と親しくしてくれる人は皆、狂い人ばかり。

 気分が重く沈む中、ピンポーンとチャイムが鳴る。

「もう、出なくちゃ……」

 耀はカバンを持って、玄関へと向かう。

「よぉ、あきら」

 ドアを開ければ、鍵鉈騙の病んだ瞳がにやりと笑い、耀に声をかける。

「昨日は大丈夫だったかぁ? 隣りのくそガキになんもされてねーか?」

「あ、ちょっと……」

 騙が耀を急に抱き締めて、彼女の匂いを嗅ぐ。

「や、やめて!」

「ん、アイツの匂いはしてねーな」

「はなしてっ!」

 なんとか腕の中から逃れるも、すぐに引き寄せられてキスをされる。

「ふあ、あっ、んちゅ、ちゅ、はあっ」

 ねっとりと舌を絡ませてきて、騙の舌ピアスが当たる。

 ガチャリ、と音がして耀は身を竦めた。

「朝からなにしてるんですか、ストーカー。耀先輩に無理やりキスして」

 騙がキスから耀を解放して、声がした方を見る。自然と耀を自分の後ろに隠して。

「くそガキ、てめぇーには関係ねーよ」

「あ、ああ……」

 耀は騙の後ろでブルブルと身体を震わせた。

「耀先輩、すっかり僕の事怖くなっちゃいましたか? あんなに仲良くしてたのに、結構ショックですよ。こんなストーカーに頼るなんて、本末転倒じゃないですか」

 隣人の肉群切が耀に笑いかける。

「切くん……」

「耀先輩のお肉、一欠片でも食べたかったけど……今は我慢してあげますよ、この邪魔なストーカーがいますし」

 それじゃあ、行って来ます! と、元気よく手を振って、切がエレベーターへと向かって行った。

「耀、大丈夫か?」

「……っ」

 怖い、誰も信用出来ない……。

 耀は自分の異常者を惹きつける体質
を呪った。


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