第2話 肉群切
自宅のマンションに着いて、耀は騙に背中から下ろしてもらった。
「じゃあな、耀」
チュッとキスをして、去ろうとする騙に耀は、震えた声を出した。
「ま、待って!」
「あ? どーした?」
振り返った騙に、耀は迷いながら話す。
「せ、切くん、部屋が、隣り同士なの……こ、怖くて、ど、どうしたら、いい、私、どうすれば、いい……」
まだ恐怖が残っている。あの大きな包丁を持って笑う切の顔。
「あー、じゃあ俺んち来るかー?」
にやにやと歪みを抱えた笑いをしながら、騙は耀に提案する。
「それ、は、やだ。いや……」
「んだよ、じゃあ帰るからなー」
「だめ、待って!」
歩きだそうとした騙の服の裾を、耀はギュッと掴む。
「お願い、だから、行かないで」
今はストーカーの騙よりも、切の方がずっとずっと怖かった。
「おれはどーすりゃいいの?」
身体を屈めて、耀の頭を撫でながら尋ねる騙に、彼女は目線を合わせて決意した。
「私の、部屋にいて、ほしいの」
「へぇー、いいの? 耀ちゃんちにお泊まりして?」
「うっ……」
私、なにを言ってるんだろう、部屋に上げたらなにをされるか分からないのに……。
「や、やっぱりいい、です。ご、ごめんなさい……」
怖い、でもこの人とずっと同じ部屋にいるのも不安が残る……。
「安心しろよ、なんもしねーよ。守ってやるよ」
耀を抱き締めて、背中をポンポンとされる。
「本当に? なにも、しない?」
「キスはするけどな」
「……うう」
でも、切の怖さに比べたら……。
「わかった、入って」
耀は覚悟を決めて、騙を部屋に入れる事にした。
「お邪魔しまーす」
騙が部屋に入って行く。
「へぇー、ここが耀ちゃんの部屋かぁ。って、入った事あんだけど」
「!? いま、なんて……」
「おれはピッキングは得意だからな」
そう言って、鍵の輪っかをジャラジャラと鳴らす。
「か、帰って下さい!」
やっぱり、やっぱりこんなストーカーを家に入れたら駄目だ。
「安心しろよ、なんもしねーって。キス以外はよ」
「────っ!」
耀は後悔しながらも、自分の部屋に入り、「絶対に入らないで下さい!」と念を押して、鍵を掛けて着替えをした。
やっぱり、警察を頼るべきだったんじゃ……でも、証拠もないし、どう説明をすればいいのか……。
警察の方は証拠がないと動けない。それは仕方がない事だ。例えば切の家の事を話したとして、どうやって証拠を押さえるというのか。例え令状が取れても、家宅捜索される前に証拠を処分されかねないし。
私には、鍵鉈騙しかいないの……?
自分の味方になってくれる人に、やっと出会えたと思った矢先に、裏切られ、耀はまた涙が出てきた。
これから先の事を考えて、耀はどんどん気持ちが暗くなる。
耀は、厄介な隣人と出会い、また新たな狂い人に毎日を悩まされるのだった。
完
「じゃあな、耀」
チュッとキスをして、去ろうとする騙に耀は、震えた声を出した。
「ま、待って!」
「あ? どーした?」
振り返った騙に、耀は迷いながら話す。
「せ、切くん、部屋が、隣り同士なの……こ、怖くて、ど、どうしたら、いい、私、どうすれば、いい……」
まだ恐怖が残っている。あの大きな包丁を持って笑う切の顔。
「あー、じゃあ俺んち来るかー?」
にやにやと歪みを抱えた笑いをしながら、騙は耀に提案する。
「それ、は、やだ。いや……」
「んだよ、じゃあ帰るからなー」
「だめ、待って!」
歩きだそうとした騙の服の裾を、耀はギュッと掴む。
「お願い、だから、行かないで」
今はストーカーの騙よりも、切の方がずっとずっと怖かった。
「おれはどーすりゃいいの?」
身体を屈めて、耀の頭を撫でながら尋ねる騙に、彼女は目線を合わせて決意した。
「私の、部屋にいて、ほしいの」
「へぇー、いいの? 耀ちゃんちにお泊まりして?」
「うっ……」
私、なにを言ってるんだろう、部屋に上げたらなにをされるか分からないのに……。
「や、やっぱりいい、です。ご、ごめんなさい……」
怖い、でもこの人とずっと同じ部屋にいるのも不安が残る……。
「安心しろよ、なんもしねーよ。守ってやるよ」
耀を抱き締めて、背中をポンポンとされる。
「本当に? なにも、しない?」
「キスはするけどな」
「……うう」
でも、切の怖さに比べたら……。
「わかった、入って」
耀は覚悟を決めて、騙を部屋に入れる事にした。
「お邪魔しまーす」
騙が部屋に入って行く。
「へぇー、ここが耀ちゃんの部屋かぁ。って、入った事あんだけど」
「!? いま、なんて……」
「おれはピッキングは得意だからな」
そう言って、鍵の輪っかをジャラジャラと鳴らす。
「か、帰って下さい!」
やっぱり、やっぱりこんなストーカーを家に入れたら駄目だ。
「安心しろよ、なんもしねーって。キス以外はよ」
「────っ!」
耀は後悔しながらも、自分の部屋に入り、「絶対に入らないで下さい!」と念を押して、鍵を掛けて着替えをした。
やっぱり、警察を頼るべきだったんじゃ……でも、証拠もないし、どう説明をすればいいのか……。
警察の方は証拠がないと動けない。それは仕方がない事だ。例えば切の家の事を話したとして、どうやって証拠を押さえるというのか。例え令状が取れても、家宅捜索される前に証拠を処分されかねないし。
私には、鍵鉈騙しかいないの……?
自分の味方になってくれる人に、やっと出会えたと思った矢先に、裏切られ、耀はまた涙が出てきた。
これから先の事を考えて、耀はどんどん気持ちが暗くなる。
耀は、厄介な隣人と出会い、また新たな狂い人に毎日を悩まされるのだった。
完