第1話 鍵鉈騙

 桜ひらひら舞う4月。

 学校帰り、高校1年生の愛前耀あいぜんあきらは、友達と下校する所だった。けれど……

「耀」

 校門の前に待ち伏せていた男が呼んだ。その男は、いたる所にピアスをつけ、病的な瞳で耀に笑いかけ近寄って来る。

「じゃ、じゃあ、耀。またねっ」

「あっ、渚っ!」

 友達はそそくさと帰って行った。

「あーきらっ。今日は逃げなかったな」

 男は耀の髪を触る。

「いい加減にして下さいっ! いつもいつも待ち伏せして……迷惑ですっ!」

「何カリカリしてんだ? あー、もしかして
生理?」

 そう言ってお腹を触られる。

 パシッ。

「やめて下さいっ」

 気持ち悪いっ……

「くくくっ、耀は可愛いな」

 そう言って鍵鉈騙かぎなたかたるは右手でじゃらじゃらと、鍵を振り回した。
 耀が無視して歩き出すと、その後ろを鍵鉈騙がついてくる。

「けどよー、おれがいなかったら、昨日みたいに痴漢に遭うだろ。おれが守ってるから、そーゆー目に遭わずに済んでるんだぜ?」

「つっ……」

 確かにその通りだ。
 昨日は、鍵鉈騙に見つからないように帰った。そしたら、痴漢に遭ってホテルに連れ込まれそうになった時、助けてもらった。

 昔からなぜか私は、変な人に狙われる。鍵鉈騙によれば、

「頭の狂った人が好む匂いがしている」らしい……意味わかんないっ!

 色々と考えていたら、いきなり鍵鉈騙がぐいっと私を振り向かせた。


「いい加減、おれの女になれよ」

 と言い、鍵鉈騙はぐいっと私を振り向かせ、キスをしてきた。

「やっ……んん、ふ……」

 鍵鉈騙の口ピアスがあたる。ねっとりと舌を絡ませてきて、息苦しい。舌までピアスをしてるようで、固い金属は鉄の味がする。

 ちゅっ……くちゅ……ちゅ……

「んんっ……はあっ……ふっ……ん……」

 苦しくなって胸を叩くと、やっと離された。

 はあはあ息を切らしていると、

「くくっ、カオ真っ赤。カワイー。あー、マジ食いてぇー」

 鍵鉈騙は口を歪めて笑った。

「……あなたなんて大っ嫌い!」

 耀は目元に涙を滲ませながら走った。

 鍵鉈騙が、

「あっきらぁー」

「アキラちゃーん」

 なんてふざけながら、私の名前を呼ぶ。

「ひっく……うっ……」

 なんで、なんで私ばっかり……私だって、普通の恋がしたいのに……。

 ドンッ

「おわっ」

 考えて走っていたら、男の人とぶつかった。

「いってぇ」

「ご、ごめんなさい……」

 耀が謝ると、

「ったく、どこ見て……」

 男は耀の顔を見て言葉を切り、そして

「マジいってぇ。腕、折れたかも。どーしてくれんの?」

 と、因縁をつけてきた。

「本当にごめんなさい。許して下さい」

「どーしよっかなー」

 男はニヤニヤ笑いながら、耀を上から下までを視線で舐め回す。

「あ、じゃあさ、今ここで服脱いでよ。スマホで裸、撮るからさ」

 そう言って男は、耀に近づく。

「無理です。や、やめて下さいっ!」

「ほら、今ここで服脱げよっ」

 男は耀の腕をつかみ、スカートに手をかける。

「やだっ、やめて、やめて、いやあああっ!」

 ジャラッ。

「いっ!」

 男の顔に鍵が当たった。

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