ハンギングツリー

「さあ、また明日探さないと」

 零慈にとって次の獲物を探すのはたわいのないことだった。

 昔から彼には死にたい人間を見分けることが出来たから。

 直感でわかるのだ。

『ああ、この人は死にたがっている』と。

 見つけたら後は簡単だ。

 ただ、相手を見つめればいい。

 零慈の瞳を見た人間はまるで暗示にかかったように安心し言うことを聞いてしまう。

『この男なら安心して任せられる』そうして何もかも考えず思考回路が停止する。



「死体を処分するのは明日にしよう」

 さっきまで女が寝ていた簡易ベッドに横になり零慈は目を瞑った。

 今日もひとり命を『救済したすくった』と満足しながら。




 翌日、深夜0時の繁華街。

 この街は深夜になればネオンが輝き、まるで眠ることを忘れてしまったかのよう。

「ねえ、君」

「え、私ですか?」

 今夜もひとり、彼に捕まる死にたがりな者達。

 深夜の繁華街を彷徨いてはいけません。

 零慈はいつだって待ち伏せているのです。

 美しい闇夜に紛れて死を願う者たちを。

 あなたがまだ死を躊躇するならば彼に声をかけられても見てはいけません。

 零慈の目を見たが最後、決して逃れることは出来ないのだから。


 完


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